パラサイト・インクマシン 作:アンラッキー・OZ
Chapter 01
【 Well, well, well !
Surprised . There was a lost child in such a place . Moreover dying girl ! 】
(ほう、ほう、ほう!
驚いた。こんなところに迷子とはね。しかも死にかけのレディーじゃないか!)
「あれ、なにこの空間。真っ暗だけど悪趣味。息苦しくないけどそれじゃあなたの身体ほとんど見えないわよ。その吊り上がった口ぐらい。あと…ネクタイ? 手?」
【 It's what you call Surprise , Exceptional .
Much trouble You became my audience .
If you come to the front row and die rigth awayleft me
with a bad taste in my mouth ! 】
(そこはサプライズってやつさ、とびっきりのね。
せっかくボクの最初の観客になってくれるんだからさ、
最前列にきてすぐ死なれちゃ後味が悪い!)
「…そういえば、私死にかけてるんだった。どうしよ…」
【 I have a proposal …… Can you help me ?
If you do so , maybe you will save 】
(それについて提案なんだけど……キミ、ボクを助けてくれないか?
そうすれば多分キミも助かるぜ)
「だが断る」
【 Why !? 】
(なんでさ!?)
「決まってるのよ。私は諦めてる。んで、あなたは私を利用してどうにか助かりたい。具体的な方法は…わからないけど。でもどうせろくでもない方法よね」
【 …… Well , You're very perceptive ! 】
(……フゥム、なかなか察しがいいじゃないか!)
「だから私は」
「だから私は助けない。私はあなたのことを責任持てないし、誰かの言葉を借りるなら、
【 …… HA HA HA HA HA !
You got me ! Yeah … 】
(……アッハッハッハ!
こいつは一本とられたね! でもそうだな…)
【 OK .
It's better than he can be hopelessly thrown away irresponsibly 】
(合格だ
ヘンリーみたいに悪戯に希望を持たせて無責任に捨てられるよりよっぽどね)
「……ところでヘンリーってだれ?」
【 He is my creator 】
(ボクらの創造主さ)
Chapter 2
パパンが死んだ。このひとでなし。
いや、まだ死んでない。でも死にかけてる。ロキに貫かれた胸から滴る血が既に致死量だ。
そもそもロキはヒトと言うには種族が違う気がするからヒトではないのかもしれない。じゃあロキでなしで。ちなみに私は西洋なしが大好きだ。ラ・フランスというシャレオツなネーミングがついてるのが実にクール。私じゃなけりゃ、惚れちゃうね。
「…そこに、いるのは、ベンディ、か…?」
【 ……… 】
失血量が多すぎると、視界がぼやけるというのは私も体験済みだった。
だからパパンも、目の前に立つ
私は答えない。
答えず、壁に背もたれるパパンの傷口にインクの手を押し付ける。
黒いインクが止血するよりも先に、インクの合間からずぶずぶと赤い血が滴る。止血はしてるが困難極まる。
「むだだ、私はもう、助からない…」
「コールソン! ベンディ!」
「ああ、長官」
ヒーローでもないのに遅れてやってきた。私の言葉をちゃんと聞いてか、衛生兵も率いているからプラマイゼロで勘定するとしよう。
「死ぬな、コールソン。まだお前にはやってもらうことがある」
「…あなたと、ともに歩めなくなるのが残念です…」
【 Don't die 】
(死ぬな)
死ぬな。死んではダメだ。
そう、脅迫のように強く言い聞かせて、インクの手を伸ばしてパパンの体をゆっくりと担架に乗せる。
「…ベンディ、なんでお前がここにいるかは、わからない…でも、お前に看取られるのも…」
「ふざけないで」
ぼたぼたと。
インクの一部が力を失ったかのように担架に剥がれ落ちる。
全身インク真っ黒で。でも、一部分だけ、顔の部分のインクがはがれて〝わたし〟の顔が久々に外気に触れる。パパンは私を見るなり目をまんまるにした。
「キャップからサイン貰うんでしょ。夢叶える前に、私の前で勝手に死なないでよ」
「…え………れ…レイ、ニー…!?」
「急いで」
「「ハッ!」」
私と長官以外、呆気に取られていた衛生兵もきびきびと動き出す。
少しでも生存確率を増やすために、早急に応急処置してもらって設備の整ったICUに行って治療してもらわないと
しかしイカンイカン、
【 Was it extra ? 】
(余計ダッタ?)
「そうね」
「いや、効果覿面だろう」
振り向くと長官がやたら生温かい眼差しを向けていた。ポンポンと肩たたいてるけど絶対意味曲解してるだろう、これ。
急いでインクを纏う。
「おやおや照れ屋さんかな。数年来の感動の再会だというのに」
【 Plan T.A.H.I.T.I 】
(タヒチ計画)
「…なぜ、それを知っている」
【 Do save . If not You will die 】
(必ず助けろ。でなければあなたが死ぬ)
「死にたくはないな、善処はしよう」
【 That's an excuse like old days 】
(昔の人みたいな言い逃れだな)
会話は終わりだ。
私はパパンを串刺しにした下郎を始末しに行かねば気が済まない。
「どこへ行く?」
【 I kill LOKI 】
(あいつをぶっコロス)
「その前にチームに会ってこい」
【 Team ? 】
(チーム?)
「ああ。〝アベンジャーズ〟、お前のチームメイトだ。長い付き合いになる」
【 I have not signed yet 】
(私はサインなんかしていない)
「残念だったな、これは本人の同意ではなく会議で決まったことなんだ」
【 You are selfish 】
(勝手な人)
Chapter 3
「……」
「……」
【 ~ ~ ~ ♪ 】
墜落を免れたヘリキャリアの一室では混沌を極めていた。
ナターシャ・ロマノフはクリント・バートンの洗脳を解くため席を外している。ブルース・バナーは暴走、ソーはロキの策略によってヘリキャリアから落下し、両者とも行方不明。
兵士撃退に大なり小なり怪我を負ったトニー・スターク、スティーブ・ロジャース、ニック・フューリー。そして、鼻歌を歌いながらスマイル決めて椅子と一緒にぐるぐる回る黒インクのマスコット。
ここでスタークとロジャースの心中が珍しく一致する。なんだこいつは、と。
「俺は世代的には近いんだろうが、こういうのには詳しくないんだが…」
「長官、こいつ何なんだ? まるでカートゥーンのアニメから出てきたような奴だな」
【 MY name is BENDY ! 】
(ボクノ 名前ハ ベンディ!)
「この適当に書いたようなデザイン、頭の悪い馬鹿が考えたような見た目だろう? ボクならもっとスマートに決めるね。名前は勿論〝アイアンキッド〟」
「初対面でいきなり悪口言うな…いや、俺もさっき初対面だったが」
「おいベンディ、
「はいはいわかったわよ」
マスコットキャラクターのようなインクの塊が、徐々に伸びて人間大の──ざっと十代半ばといったところだろうか。多少の起伏のある体に膨れ上がり(依然として細いままだが)、黒いインクがゴシックドレスのような形状に、スカートが伸びて足先がハイヒールの靴に変化すると、少年のような愛らしい無邪気な顔が
「レイニーよ。よろしく」
「おっと温度差のある冷たい顔の女が出てきたぞ物理法則はついに仕事をやめたのかそのスーツどうなってるんだ?」
「彼女の表情は関係ないだろう……子ども、だったのか?」
「子どもで悪かったわねキャップ」
「おやおや彼のファンかい? だめだぞーこんな氷から出てきた男に憧れちゃあ。そもそもキミは誰だ迷子なのか?」
「さっきレイニーと言っただろう」「そうじゃない所属の問題だ」
「そのカードの所有者の子って言ったら?」
そのカード、と聞いて二人の視線がテーブルの血濡れたカードに移る。
ついさっき亡くなった、コールソンという男の所有物だ。
最後まで、〝アベンジャーズ〟の結束を信じ、支えていた男のもの。
「……彼に、娘がいたとは驚きだ」
「…すまない、我々のせいで」
「
ベンディの身体から一部剥がれ出た
「父さんは、仕事をした。それだけ。私たちは私たちの仕事をするべき。でしょ?」
「……強いな」
「ああ、そうだな」
(まぁまだ死んだとは限らないんだけどね)
ポン、と手のひらから持ち手をインクで固めてできたペンを取り出してカードと一緒にロジャースに手渡す。「これは?」と戸惑いつつも受け取るロジャースに「書いてあげて。きっと喜ぶから」とレイニーが押し付ける。
その脇でスタークがごそごそと携帯端末を取り出して起動させた。
「ジャーヴィス?」
【LEVEL7に
「…おい、さっそく偽物疑惑が出たぞ」
「ジャーヴィス…ミス? ミスタ? どっち? 死体は出た?」
【どちらでもミス・レイン。死体は出ていますが、偽装ですね。虫歯の治療跡をコピーした焼死体に置き換えた記録があります。実際は行方不明者としてリストに載ってます】
「今は?」
【目の前にいらっしゃるレディが本人でよろしいかと。非常に現実味がない事実ですが】
「だよな非科学だよなこんなの」
「目の前にいるんだから認めるしかないだろう?」
「そこにいる誰だかわからないガールに特別講義してやるいいか? 科学は万能だ。そしてキミはその科学では証明できない存在だ!」
「でも、科学が万人に優しく在るとは限らないでしょう? ミスター・スターク」
「それは…」
スタークが思わず口ごもる。常にだれよりも最先端の科学を突き詰めてきた彼だからこそ、科学を突き詰めるという過程において今日の自分は昨日の自分より未知であったのだから。
そして、かつて己が科学を突き詰めた果てにあったのは〝死の武器商人〟という肩書だった。
レイニーは顎に親指をかけてぺろりと上唇を舐める。
「別に私がいることが科学の否定とは限らないでしょう。それに、科学って説明することではなくて、ありのままを認知・理解して創意工夫する文化性みたいなものでしょう? 私があなたの言う科学に当てはまらない存在であるならば、否定するよりも観察し、研究し、解明すればいい。まぁそんなにジロジロと視姦されるのは趣味じゃないから、できればご遠慮願いたいところだけど」
「…それは、そうだな」
キミみたいな貧…スレンダーな女性は趣味じゃないしな、とスタークは呟く。素面でこの調子だ。
いままで研究を断っていたのはそれが理由か、とフューリーは一人ごちた。
その様子を見てロジャースは感心したように頷き、スタークは難しい顔をしていた。
「ところでえらく含蓄ある言葉を使ってたケドそれキミのパパの言葉?」
「持論ヨ】
少し呆れ顔をしたレイニーは再びインクのマスクを被って元のマスコットに戻った。
スタークと気の合うメンバーはそう多くない。言葉の最後を言い切るより先にマスクが顔を覆ったのは気分を害した証拠なのだろうが、それでもちゃんとスタークの発言に対し頭ごなしに否定はせずに、ちゃんと自分の意見や主観を述べる辺り、協調性はありそうだとロジャースは思った。
同時に、その態度は彼女の姿には年齢的に不相応な気がした。些か背伸びをしているようにも、見えなくはない。
だから、ロジャースは問わなければならない。
「キミを前線に出すことには反対だ」
【 Because child ? 】
(子どもだから?)
「それもあるが」
【 Weak ? 】
(弱い?)
「それは単なる腕っぷしか? それとも心の、信念のことを言っているのか」
【 … You want to say that I wreak revenge on Loki 】
(…あなたは私が復讐に走ってると言いたいのね)
「それは……ああ、そうだ。これだけは聞かなければならない」
一息入れて、
「俺たちは〝アベンジャーズ〟だ。でもキミがもしお父さんを殺されたという個人の復讐で動くというのなら、前線に出すわけにはいかない」
これが俗にいう圧迫面接かな、と口にするのはレイニーには憚られた。
確かにリベンジは個人的理由に拠る報復だから悪にもなりうる(と思いつつ自分が思っていることが悪とは認めていないが)。対してアベンジは正義・大義に拠る制裁だから、いわば正義の味方だ。
つまるところ、ヒーローである。
レイニーには正義というものがわからない。ただ、あの時のようにだれかを助けることが悪ではないだろうという確信はあった。これから行うことは、ロキへの復讐という動機ではなく、目の前の困っている大勢を助けることが動機でなければならないということだ。
【 … Oh . Then I have no problem , I haven't sorted out my feelings 】
(…ああ、それなら私は問題ないわ。心の整理には時間がかかるけど)
「……? 私〝は〟?」
【 Don't revenge ?
That's asking too much ! 】
(復讐スルナダッテ?
ソイツハ無理ナ相談ダネ!)
レイニーとしての面影を残していたマスクは消え、無邪気な──悪い意味で、無邪気な笑顔を浮かべたベンディは、悪戯を思い出した子どものような、どんないじめをしようか考えているときのような、悪い表情を浮かべて嗤う。
まるで悪魔。その豹変ぶりは、思わずロジャースが身構えるほどだった。スタークもフューリーも目を丸くしてベンディを見た。
【 We revived for revenge ,
We can't be denied the meaning of existence !
Because ── 】
(ボクラハ復讐スルタメニ蘇ッタンダゼ、
存在意義ヲ否定サレチャ堪ラナイナ!
ナゼナラバ──)
【 MY name is BENDY !
A devil who never stops until I kill creator ! 】
(ボクノ 名前ハ ベンディ!
創造主ヲ殺スマデ止マルコトノナイ悪魔ナノサ!)