パラサイト・インクマシン   作:アンラッキー・OZ

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黒は無慈悲な夢の女王

 

 

 Chapter 58

 

 

 

 二人の覚悟は決まっていた。

 空を引き裂くミサイルの轟音。それが全方位から二人がいる船へ向かって迫ってくることを、肌で感じていた。音が伝える恐怖。視覚から伝わる濃厚な死の足音。数々の修羅場を潜り抜けてきた二人だからこそ、慌てふためくような真似はせず、互いの使命を全うするために落ち着いていた。

 

There is no need

 (それには及ばない)

 

 その覚悟が、裏切られることになろうとは露とも知らず。

 

HELLO , You look great

 (ハロゥ、元気そうだな)

 

 即座に臨戦態勢を取り、二人は声のする方向を振り向く。

 たった今まで微塵の気配も感じなかったはずの空間。だが突如として表れた人影に二人は警戒を深めたが、レイニーは聞き覚えのある声音を、クリントは既視感のある気配に疑問を抱いた。

 廃船の暗がりの中で、青く輝く光と暗闇の影のような姿が浮かび上がる。

 

 比較的人間の女性に近いデザイン。

 右目の下の泣き黒子。

 黒のワンピースドレスとブーツ。

 黒のブロンドにかかったカチューシャ、首に伸びるポニーテール。

 腰の後ろには工具を入れたポシェットとマチェーテ。

 片手に、青く光り輝く立方体。

 

 ()()()()()()()()()()()、頭上に浮かぶ天使の輪。

 

 アリス・エンジェルその人である。

 正確には、二代目の声優アリソン・コナーの人格を宿すインクの住人だが。

 

「アリス? どうやってここに」

 

「四次元キューブ!? なんでここにそれが」

 

「確かソーがアスガルドに…あ、そっか。それ(キューブ)で来たのね。でも何でこんなピンポイントに」

 

You haven't forgotten your contract , have you ? That's what you decided . You connected with my sight yesterday

 (権利の等価交換契約を忘れたのか? お前が決めたものだろう。昨日俺の視界と繋げただろ)

 

「……あっ」

 

 ソコヴィアから帰還途中、レイニーはソーとの会話の途中でアリスとの視界共通を行った。アリスはそのことについて言及をしていたのだ。

 

 ──レイニーは、自身の中から外出して独自に活動する住人に対していくつか約束事を取り決めた。

 『できる限り宿主(レイニー)の指示は守る』『人にはそこそこ迷惑かけない』『ヤバそうだったら連絡』『あとは自己判断』等々。その中に、『宿主が感覚共有を要請した場合はこれに従う。代わりに同様の権限を行使していいよ』という約束事も含まれていた。

 レイニーなりの、インクの住人に対する人権尊重の約束だ。

 いくら宿主といえど出歯亀(覗き見)は許されざるれよ(誤字に非ず)案件であり、レイニーも興味本位で感覚共有しているのではなくあくまでも宿主としての監督責任として権利を行使しているため、不平等にならない程度の取り決めをしたのだった。

 現在レイニーから離れて活動している住人は複数人いるが、記憶を失っているとはいえ他の住人よりも自我が強いアリスを除いて特に積極的なアクセスを取ることは少ない。よって半ば忘れられていた約束事でもあった。

 言い換えれば、宿主が絶体絶命のピンチであるにも関わらず他の連中は素知らぬフリをしているわけだが──どだいインクの住人一人に核ミサイルレベルの災害をどうにかできる案もなければ力もないわけで、彼らに救いを求めるのはあまりに酷だと言えた。

 

 そも、レイニーやベンディにどうにかできない案件が、彼らから派生した住人に対応できる筈もなく。

 

 しかし、アスガルドに派遣されていたアリスだけは例外だったのである。

 アスガルドの宝物庫に保管されている四次元キューブを持ち出せる、アリスだけは。

 これはネット配線が通っていない隔絶された星、アスガルドの情報を知り得ないウルトロンには予想できないことだった。

 

We don't have the time . Help me because I'll be disposing of nuclear missile . Focus on what’s in front of you

 (時間はない。核ミサイルは俺がコイツ(キューブ)で飛ばしてやるから手伝え。お前はせいぜいそいつらを叩き起こすのに集中しろ)

 

「…ありがとう。助かったわ」

 

Huh . I'm not that bad , I can't just watch you die . I will go home when this job is finished , I came out of the game

 (フン。宿主がくたばるのを黙って見てるほど、このインクの身体も腐っちゃいない。終わったらすぐ帰るからな、ゲームを一時停止して来てやったんだ)

 

「それはどうも、お楽しみを邪魔しちゃったみたいね」

 

 不満げに鼻を鳴らしたアリスは深く溜息をつき、立方体のキューブをまるでPCのキーボードの如く表面を指で叩く。周囲が青い閃光に満たされて、クリントは臍の下がグイ、と引っ張られるような感覚に襲われた。閉じた瞼を貫くような眩しい光が収まると、気絶している三人を含めたレイニー、クリント、アリスらは廃船の外で待機していたクインジェットの前に転移していた。四次元キューブの力によるものだった。

 

「ヒュー、そんなこともできんのか」

 

「みたいね。助かった、流石に気絶した大の男二人も担いで避難するのは時間が掛かっちゃうし」

 

All you have to do is just follow me . I need your help

 (お前は俺と一緒に来い。手がいる)

 

「はいよ」

 

 さしものクリントも、窮地を救ってくれる救いの主の不遜な態度に文句を言うつもりは微塵もなかった。クリント個人としては一番付き合いたくない&仕事したくない女№1な性格なようだが、過去キューブが人類に与えてきた驚異的な力の一端を知るクリントとしては、これ以上ない助けでもあった。

 

「アリス、クリントさん。頼んだ。私は三人を()()起こす」

 

「任せろ…ハハッ、核をどうにかしちまうなんて笑えるな」

 

 クインジェットに夢見る三人を運ぶと、レイニーは再びキューブの力で転移し消えていく二人を見送った。

 ──いまだ、キューブの青い光が目に焼き付いているような感覚が離れないが、レイニーはそれ以上に気になることがあった。

 

(…あれ、アリス、あんなに赤黒かったっけ? 赤ペンインクでも飲んだかな?)

 

 廃船の中では暗がりでよく見えなかったが、クインジェットの前に転移した際にいつもよりも黒インクの色調にやや赤みが掛かっているように見えたのだ。羞恥──いわゆる〝恥じらい〟の感情があったとしても、血色のいい死人だって赤くなることはない。インク製の人間であれば尚更感情の変動で体色が変化することはないはず、とレイニーは思考していたが。

 

(おっといけない、私は私の仕事をしないと)

 

 思考を切り替え、目の前の問題に戻る。

 他人の夢を醒ます──悪夢の権化たるベンディを宿すレイニーだからこそできる手段がある。

 

 それが、悪夢の上書きによる夢からの引き上げである。

 

 夢のメカニズムは所説ある。体が眠っているときに脳が活動的なレム睡眠状態では脳内の記憶の整理が行われ、中には過去の記憶がランダムに結びつき一貫性のある物語として見せることもあるという。

 今回の場合はワンダの能力により、本人たちのトラウマに近い記憶を掘り起こされている状態に近い。恐らく、ワンダの能力なしにこの状態を解除するには時間がかかることだろう。

 

 核ミサイルも迫っている。別にアリスたちを信じていない訳ではないが、それはそれとして逃げたウルトロンたちを捕まえるためにも早期の戦線復帰が望ましい。よって数ある選択肢から取った手段が、夢からの引き上げだった。

 記憶にはない、第三者による強烈な悪夢のイメージを送り込むことによる夢からの強制なシャットダウン。そのショックによりレム睡眠状態を解除する。夢から引き上げるという表現よりも、どちらかと言えば夢から悪夢に叩き落とすという表現の方が正しいかもしれない。

 このような試みは一度たりともやったことはない。人間の脳は繊細だ、下手したら脳へのダメージや記憶の障害が生まれる可能性も、ないわけではない。特に今回は依り代たる(インクマシン)から分離し、レイニー自身の精神のみを他者の夢に潜入させるのだ。下手すれば他人の夢から戻ってこられないというリスクだってある。

 従って、細心の注意を払い、夢に潜り(ダイブし)悪夢に引きずり込まなければならない。

 

 レイニーは人間がするように大きく息を吸い、吐くような真似事をして集中する。手の指を細く伸ばし、目の前に横たわる三人の額の上に配置。ゆっくりと目を閉じ、三又に別たれた指先に意識を集め、心の中でベンディとコンタクトを取る。

 

Are You Ready ?

 (準備ハイイカイ?)

 

(OK)

 

 インクの雫。それが三つ。

 指先から垂れた水滴が三人の額に接触し、夢の浸食が始まった。

 

 

 

 

 

 Chapter 59

 

 

 

 何か、異物が侵入した(入り込む)感覚がした。

 

 辺りを見回すが、夢が見せる世界に何ら変化はなく。

 

 ある人(ナターシャ)はかつての記憶の原風景を、ある人(スティーブ)は胸に抱いた後悔と夢に見た願いを、ある人(ソー)は朋友が不吉な予言を告げる様を、それぞれ見ていた。

 

 夢の中では有り得ない、薄ら寒い冷や汗が背筋を伝う。

 否、汗などかいてはいない。夢の中で汗を流すことなどあるだろうか。

 

 ぽたり。ぽたりと。雫が垂れる。そこでようやく気付く。汗を流しているのではない、上から何かが垂れているのだと。

 べとりと肌を撫でるそれを拭う。手のひらが真っ黒に染まる。触れた傍から流れる異物感。静脈の血が逆流するような違和感。手を伝い、指先から手首へ、腕へ、肘へ。(あくむ)の浸食が心臓を犯し、引き裂くような痛みで天を仰いでようやく気付いた。

 

 インクを垂らして獲物を見つめるインクの悪魔(ベンディ)が、天井に張り付き虎視眈々と狙っていることに。

 

 もはや疎ましささえも感じる生理的な嫌悪感。ギザギザの乱杭歯が砂を噛むような不協和音を鳴らし、鋭利な四指を生やす二振りの腕が伸びる。

 悪夢の魔手から逃れようと、足が動かない。地面から顔のない無数のインクの亡霊が纏わりつき、しがみ付いて離さない。

 鋭利な指が指揮棒のように振れる。夢の住人たちは、苦しみ、藻掻きながら、一人、また一人と無残なインクの姿に成り果てる。ぐずぐずに溶けたインクは、辛うじて輪郭だけがヒトの形を象り、誰かもわからない呻き声の不協和音が合唱となって、外耳道を通り、鼓膜を突き破って、脳を狂わせる。

 これは悪夢の協奏曲だ。

 魔手に捉えられ体が軋む。化け物の顎がぐんぐん迫り、やがて。

 

 

 悪夢(ベンディ)呑まれた(喰われた)

 

 

 握り潰し(ぐちゅぐちゅ)咀嚼し(ぐちゅぐちゅ)飲み込まれ(ごっくん)──

 

 

いい加減(カンカン)起きなさーい(カンカン)寝坊助(カンカンカン)共ォオオオオ(カンカンカン)───!!!」

 

 

 ──何故か、フライパンとおたまが打ち鳴らす警鐘が世界(あくむ)に響き、目が醒めた。

 

 

 

 

 

 Chapter 60

 

 

 

Stone power is strong . I can't control it alone

 (何分、キューブの力は強力でな。俺一人では制御が難しい)

 

「それで俺がいるってか。そんなん俺もできる保証はないぞ」

 

Don't worry , You just make a chance

 (安心しろ、あくまでも起点を作るだけだ)

 

「起点?」

 

It's difficult to catch a flying missile . Because there isn't stopped . But , If you can use your arrow

 (高速で飛行するミサイルを捉えることは難しい。絶えず移動しているからだ。だが、あんたの矢を起点にすればできないことはない)

 

「…なるほど、核ミサイルを撃ち落とせって言いたい訳か」

 

I'm going to trigger touching arrow, to be precise . Can you do it ?

 (正確には矢との接触面を起点にするつもりだ。できるか?)

 

「安心しろ、これでも狙撃の名手でね。狙った獲物を外したことはない。それで、何処に飛ばすつもりだ?」

 

Huh ? I don't think about that . Why don’t you send it to Chitauri . I have seen them three years ago , Stone remember the coordinates

 (は? そんなもん考えてない。またあのチタウリとかいう連中にぶち込んでやればいいだろ。3年前に宿主の中で見てたぞ、座標ならキューブに記録されてるからな)

 

「…いい性格してるよアンタ」

 

 ──この日、地球から遠く離れた宇宙で核の光が花開いた。

 

 それはまるで、夜空に咲くスターマイン(速射連発花火)のように鮮やかで。

 

 決して少なくない()灰色(残骸)歓喜(悲鳴)が彩ったという。

 

 

 

 

 

 Chapter 61

 

 

 

 おはようの合図は、打楽器(フライパンとおたま)の音色だ。

 

 ……誰がそんな古典的なおはようを考えた!? バンジョーだ、違う違う違う何かが混線してるるるるるLuLuLuLuLu…いかん、(インクマシン)から数分離れただけで、こんなに精神的なズレが生まれてしまうとは、なんて情けない。

 ベンディの悪夢の堕とし方がちょっとエグかった気がするけど、全然そんなことなかったのだぜ! なかったよね? ね? 語尾がゴビ砂漠ってバグってる、ゴビゴビ。

 ちなみに朝食の時はゴムベラ片手に「お残しは許しまへんでー!」からの「いただきます」だ。これぞTHE・王道ならぬジャパニーズ・ワビサビ。

 

「……ゥゥ、耳が痛い…気がする…」

 

 ホラ、ナターシャさんも日曜日に夜更かしして仕事に行きたくないOLみたいな呻き声上げてる。これは健全、極めてKENZEN。

 くぅくぅおなかが鳴ったベンディにバリバリムッシャアされるヴィジョンなんてなかった。いいね? よい子はマネしちゃあダメだぞ。

 

「…無事か、キャプテン…もの凄い夢見せられてた気がするんだが…」

 

「…あ、あぁ…奇遇だな…僕もだ…」

 

「……なんだ、この死屍累々な有様は」

 

「さぁ──夢見心地が悪かった、とか?」

 

「起こし方がヘタクソなんじゃないか」

 

 それは失礼だよトニー、頑張った私の身にもなって。

 そりゃあ、今時の若い子は朝チュンで全裸の痴女がベッドに一緒に入ってたりとか、オニーチャンオトートクン言って甘える姉妹が騎乗してたりだとか、合鍵持った幼馴染が「うふふ☆」って言いながら起こしに来て、ついでにムスコも起こしにかかったりするらしいけど、敢えて流行に乗らないのが(オレ)流なのよ。

 

 起こし方の変わらないただ一つの冴えないやり方、伝家の宝刀(フライパンとおたま)

 

 これは完璧だわ、きっと世界中の親が実行したくなるわね。その驚きの効果に目からウロコ(SCALES)がナイアガラの滝の如く流れ落ちる(FALL)こと間違いなし。

 ちなみに流行りの情報源は若手新入社員のスタッフの一人。自称『夢見るノンフィクション作家』だとか。ノンフィクションってことは現実(リアル)ってことだよね?

 

「ところで、核ミサイルはどうしたんだ? まさか…飲み込んだ、とか?」

 

「それならアリスに任せたけど…クリントさんアリスは?」

 

「あいつなら仕事終わらせてさっさと帰ったよ、ポーズ状態のゲーム放置したくないってさ」

 

「なんだそりゃ、世界の危機よりゲーム優先なんて世も末だな?」

 

 圧倒的おまいう(お前が言う?)ブーメランだよそれは。

 

 どうにか、アフリカの大地が核の炎に包まれることは防げたらしい。大惨事(第三次)世界大戦の勃発はどうにかなったみたい。アフリカもとばっちりで世界中の核が飛んできていきなり戦争なんかになったらシャレどころじゃすまないものね。

 

 精神を三人から戻して、しばらく動けない状態で気が付いた時には、アリスはいなかった。全身のインク総量が減ってる感覚があるから、多分報酬代わりにインクの補給をしたんだと思う。

 ただ、気のせいかアリスと結合した際にアリスが飲んだらしい赤いインクが混入しちゃったみたいで、体の一部に赤い部分が残ってる。どうも消すのに時間がかかりそうなんだけど…もしかして不純物(赤インク)押し付けられた? インクが足りなくなってヘンなところで拾い食いでもしちゃったのかな。少なくとも別れる(ロキに憑かせる)際に数年分は活動できるくらいの量をあげたハズなんだけど…まぁ、予期せぬ戦闘でインク使うことあるし、ソーが言ってたダークエルフとやらの戦闘で減っちゃったのかもね。

 

「アイツ面白いこと言ってたぞ。地球とはオフラインだからアスガルドにゲーム機大量に持ち込んでプレイヤーの数増やしてるって」

 

「ホント? キューブを使い放題ならそれくらいできないこともないか…だから使い慣れてたのかも」

 

「いや、物資の運搬はスカージってやつがビフレ…ビーフステーキ…じゃない、なんて言ったか…虹の橋、とやらでやってるらしい。随分と好き勝手やってるみたいで笑えたよ、キライなタイプの女だけど振ってくる話題はサイコーだな」

 

「笑うのもいいが、一体どこに向かってるんだ?」

 

「安全な場所だ」

 

 安全な場所、ねぇ。

 ウルトロンは大量のヴィブラニウムを盗んで本体は行方不明、潜伏先も判明せず。核の処理とメンバーの復帰に時間取られたからね、まんまと出し抜かれてしまったわけだ。

 ネットワークの全てを掌握し、今や世界中の核を打ち放題のウルトロン。2056桁の暗号を定期的に書き換えているせいで各国のサイバーテロチームも対応に追われてるらしい、まさか自国の兵器のセキュリティを自ら解くのに苦戦するなんて笑えない。

 

 『サマーウォーズ』のラブマシーンかお前(ウルトロン)は!

 

 いや、私の過去のデータを元に生み出された存在であるならいくつかの映画の影響を受けててもおかしくないな…おかしくない? それホントォ?

 マリアさん曰く、いまはステルスモードに入っているお陰でどの衛星からもクインジェットの反応は捉えられないらしく、ウルトロン側もこちらを見つけられてないようだ。

 

 ……或いは、見つける必要もないのかもしれない。

 

 彼は、大量のヴィブラニウムを用いて何かを作ろうとしてる。その準備期間が必要なはず。だからあえて探さない。もしウルトロンが私たちを本気で探すならば、世界中の核兵器を一斉にバラバラに起動させてるハズ。

 世界の危機の引き金に待ったをかけるのは、私たち(アベンジャーズ)だ。後手に回らざるを得ないのが、辛い。でも状況としては多少猶予があるという状況は私たちにとってはありがたい。

 (インクマシン)との一時的分離で本調子が出せない私。マインドコントロールされたスティーブ、ソー、ナターシャさん、バナー博士。ハルク鎮圧において軽傷かつ装備のいくつかが損壊してしまったトニー。

 唯一五体満足で動けるのがクリントさんだけ。多少の休息は必要。

 

 それに世間はアベンジャーズのアンチが沸いて酷いからね、主にハルク中心だけど。

 目の前で意気消沈してるバナー博士、ニュースにはハルク大暴走の騒動が取り沙汰されてて大変。

 トニーもよくハルク止められたね、私には無理。多分無理。精神に侵入したら余計暴れちゃうだろうし、インクで拘束も無理、第三形態(マッスルフォーム)で対抗しても力じゃ勝てない押し負ける。

 純粋に科学の英知で打ち勝ったトニーすごい。いや、今回の騒動の元凶とも言えるから、手放しには喜べないんだけど。

 でも、本人も少なからず罪悪感の一欠片は抱いてるようだから…まぁ、仕方ないかな。

 

「トニー」

 

「ん?」

 

「バナー博士を止めてくれてありがとう」

 

「…ハッ、本当だよ全く。もっとボクを褒め称えてくれてもいいのに、みんな二日酔いの朝のゾンビみたいな様子で出迎えてさ? 鍛え方が足りないんじゃあないか? もっと野菜ジュース飲め野菜ジュース。ボクも一時期飲んでたが美味いぞ? 今は飲んでないけどな。ほらキャプテンも、その筋肉が見せかけじゃないならいい加減起きてくれよ代わりにボクが指揮を取っちゃうぞーっと。ソーもホラ、雷に魘されて駄々捏ねる子どもみたいに寝込んでないで…おっとキミが雷神サマだったな、ヘソを取ったりしないでくれよ?」

 

 前言撤回、褒めるんじゃなかった。

 あと寝ぼけ眼のスティーブに往復ビンタはやめなさい! ほっぺがプルンプルン言ってるけどそれ地味に脳揺れるから!

 

 

 

 

 

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