パラサイト・インクマシン   作:アンラッキー・OZ

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創造主の掟

 

 

 

 Chapter 62

 

 

 

 クリントさんが連れてった先は、山奥のおしゃれな一軒家(ログハウス)だった。すわ、セーフハウス的な隠れ家なのかと思ったけどそれにしては生活感あふれる…些か人気を感じる隠れ家だ。というか絶対人いるでしょ。

 未だに夢から悪夢に堕として引き上げた作用ですこしふらふらしてるナターシャさんに肩を貸してクインジェットを降り、クリントさんに先導して貰ってログハウスに入ると、これまた美人の女性と、お子さん二人が飛んできた。うわ、ちっちゃい子かわいい…ってあまり私と歳の差変わらなそうだった。でも、アレ、目元がクリントさんそっくり。もしかしなくてももしかして。

 

「妻と子どもたちだ」

 

 だよね!

 いまだトニーはエージェントって疑ってるけど、明らかに家族だよね!

 ここはあったかいなぁ、家族の幸せの温もりを感じる。私皮膚ないけど、そういうことじゃない。アットホームな、和やかな雰囲気が漂ってる。

 どうやら、フューリー長官が便宜を図ってくれたらしい。え? ホントに? ()()フューリー長官が?

 

「いっつも汚い仕事ばっかしてる長官が珍しくちゃんといい仕事してる…」

 

「おいそれ言ったら怒られるぞ」

 

「むしろ来てくれるかも…それはないか」

 

 スティーブには窘められたけど事実は事実。寧ろこんな温情の籠った計らいなんて初見殺しもいいところ。

 ただ、お父さん(クリントさん)も任務で長期滞在することは少ないだろうし、女手一つで子ども二人の世話をするのは大変だと思う。なによりも安全を得るために、周囲に家もなければホームセンターもない山奥でひっそりと生活しなければならないご時世だということが、私には何故か()()()感じた。

 

「軽口叩ける元気は出たみたいだな?」

 

「私はいつだって元気よー…ウソ、実はちょっと疲れてるかも」

 

 ローラさん(クリントさんの奥さん)に断りを入れてナターシャさんをロッキングチェアに下ろすと、ペロリと舌を出して笑った。

 目敏いトニーにはバレてるようで、実際私も結構疲れてる。

 いや、『疲労』という概念がいまだにあったことなのは驚きだけど、肉体を失ったといえど魂と精神体で活動しているから疲れはするのか。師匠と修行中は〝そういうもの〟だと思ってたし、今まで…それこそ、精根尽き果てるほど真剣に取り組んだことは…うーん、エ、エニシと戦った時くらい? ウソ、死んでも認めたくない事実だ。

 

 

ぐしゃり

 

「あ」

 

 つい、ソーの方を振り向いたら玩具を踏んづけてる場面を見てしまった。これは事件です。そして犯人はただ一人、アナタ(ソー)です! 一緒に見てた女の子すっごい泣きそう。よしよし、今度新しいおもちゃプレゼントしてあげるから。

 

「本当? おねーちゃん」

 

「本当だよ!」

 

 おねーちゃん! 姐! 違う姉! そう、私が真の姉なるもの…!

 いい響きだ…あまり年下の子と付き合うことなかったからなぁ…S.H.I.E.L.D.での訓練所にいた未成年はゴーストガール(エイヴァ・スター)くらいだったし、姉妹というより友達感覚だったからね。

 女の子と小さな約束を交わして笑顔を見ると、家の玄関に向かうソーの後ろ姿が目に入って思わずスティーブとその背中を追った。

 

「ね、ソー。()()夢はなに?」

 

「…見たのか?」

 

「見ちゃった」

 

「……わからない、()()()()()()()。それを確かめに行く」

 

「そ。じゃあ、気をつけて」

 

「ああ」

 

 会話はそれっきり、ソーはムジャルニャ…槌でピューンとどこかへ行っちゃった。忙しない、少しは休んでからでもいいと思ったんだけど。まぁソーにはソーでやりたいことがあるんでしょう。

 

「レイニー? 見たって、一体何を。まさか」

 

「んー?」

 

 飛んでいくソーを遠目で眺めてたスティーブ。恐る恐る、という様子は最初に会ったときみたいで懐かしいよ。その、恐怖にも似た色が入ったまなざしを向けられるのは。

 

「ごめん。夢から醒ますときに、ね」

 

「…そうか。いや、別に見られて困るものでも」

 

「こりゃ」

 

 ぺこちん。

 何故か弁明するスティーブの胸を、軽く叩いた。背が高いから目いっぱい背伸びして届くレベルだけど、そうじゃない。

 

「そうじゃないでしょ。あの光景はスティーブの夢で、叶えたかった未来で、後悔なんでしょ。それを無遠慮に見た私が悪いのになんで卑下するのよ」

 

「違う、あれは…あの夢は、もう叶えられない夢だから」

 

「なんでそう決めつけるの?」

 

「──キミに、何がわかる」

 

 困惑は、明確な怒りに変わったのがわかる。

 でも、ここで引くのはダメだ。ここで引くのは、彼への侮辱だ。

 

「職場を家にしてる人よりは、わかってるつもりだけど」

 

「キミだって人のこと言えないじゃないか。それにやり直せとでも? 失った時間が戻るわけでもないのに。こんな家を持っても、共に住む人だっていないのに」

 

「…精神論でも哲学でもないわ。追い続ければ手は届くものよ、それが胸に抱いた夢なら尚更。スティーブ、あなたってキャプテン・アメリカとしては人をよく見てるけど、スティーブ・ロジャースとしてはあまり人を見ないわよね」

 

「…皆が、キャプテン・アメリカとして僕を見ているからだろう」

 

「そう見てない人もいると思うよ。子どもの戯言かもしれないけど、少しはこれからのことについて考えてみたら?」

 

「……これからのこと、か」

 

 何か考え込むように背を向けるスティーブ。最後に見えた顔は兵士(ソルジャー)ではなく一人の悩める男性としての顔だったから、一応の目的は達成。ああ怖ッ! そんでもって威圧感ヤバっ!

 疲れた身で「おこ」なスティーブを相手にするのは、私には荷が重い。ブン殴られる覚悟してたよ。流石にインクの身体でもスティーブの拳は精神的に効く。でも、夢を見ちゃったから仕方ないよね。それがいまの私の義務だから。

 

 さて、あと一人と…もう一人。

 

「おーいレイニー? ちょっと子ども相手にするの手伝ってくれ髭が毟り取られそうだ」

 

「はいはいいま行くよ」

 

 その前に、ヤンチャなキッズたちを相手にしないとね!

 

 

 

 

 

 Chapter 63 A

 

 

 

「レイニー、あの…」

 

「うん?」

 

「…見た?」

 

「うん、見た」

 

「……そう」

 

「人間の身体じゃなくなったから、私が言うのも何だけど、ナターシャさんはバケモノなんかじゃないよ。勿論バナー博士も」

 

「え?」

 

「人の幸せの在り方は、人それぞれだと思うけど。トニーだってあんなだし」

 

「あなたトニーに対して風当たり強いわね…まぁ勝手に自分のデータ使われる気持ちも、分からないでもないけど。道端で出合い頭にレイプされたような屈辱だろうし。でも、それなら聞かせてほしいわね」

 

「んー?」

 

「貴女のいう幸せって、何?」

 

「そんな難しいこと私に聞かないでよ、子どもの答えなんてたかが知れてると思うけど」

 

「いいから」

 

「……私が大切だと思ってる人たちが、笑ってるのが幸せかなぁ」

 

 

 

 Chapter 63 B

 

 

 

「バナー博士」

 

「なんだい?」

 

「前々から話したかったんだけど…ごめん、ちょっといまハルク呼べる?」

 

「え? いま? うーん…フヌヌヌッ……ごめん、そんな危機感とかないとムリだし、ちょっといまのメンタルだと厳しいっていうか」

 

「……はっはーんなるほど。今のでだいたいわかった。となると、うーん…地獄のエンシェント・ブートキャンプをやるにも、時間もないし…まぁ師匠だったら『時間は自分で作るものなのです…なのです…』って脳内に直接語りかけてきそうなんだけど」

 

「キミの師匠って一体何者? ヤバいカルト集団の教祖とかじゃない?」

 

「ある意味そうかも? それはともかくとして、ちょっとした裏技みたいなの教えてあげる」

 

「裏技って…何のだい?」

 

「博士が博士のまま、ハルクを使いこなす裏技」

 

 

 

 

 

 Chapter 64

 

 

 

 ウルトロンとの交戦及び事実上の敗北から数日。

 一週間にも満たない期間ではあったが、各人体感時間よりも長く感じたことだろう。

 アインシュタインの相対性理論よろしく、時間は相対的ではない。

 

 アベンジャーズにとっては長い、敗北を噛み締める時間であり。

 クリントの家族にとっては短い、父と過ごす時間でもあった。

 

 確かにウルトロンの魔の手が届かない場所であればウルトロンの脅威から逃れることはできるだろう。だがアベンジャーズを目の敵にしているウルトロンの動向がわからない以上、逃げ続けることは得策ではないし、立ち向かわなければならない宿命にあるとも言える。

 少なくとも対話で解決して手を取り合える相手ではないことは、アベンジャーズメンバーの総意だった。そして、アベンジャーズを指揮する彼はやってくる。

 

「よう」

 

「ヴァ」

 

 キッチンでローラと料理していたレイニーの喉から、カエルが潰れたような悲鳴が響いた。驚きで剥いていたリンゴを落とさなかったのはレイニーなりの努力の証。悲鳴を聞いた子どもたちは大爆笑して指差していたが。

 

「女の子がなんて声出すんだ、さては悪口でも叩いたか?」

 

「ヴェ」

 

「ああ、フューリーはいつも汚い仕事ばかりで」

 

「アーアーアーやめてやめてやめて! スティーブそれ以上言わないで!」

 

 フラグ回収やんけ!

 流れるようにリンゴをくし切りにしたレイニーは大慌てでスティーブの口を封じにかかったが、トニーに足を引っかけられたせいでそれは叶わなかった。

 顔面から盛大にスライディングしたレイニーは足を引っかけたトニーを睨みつけるが、それよりも目の前でこれ以上ないほど笑顔(スマイル)を浮かべるフューリーと目が合い、思わず苦笑い。

 

「ジョークです」

 

「面白くないジョークだな」

 

「そっちだってジョークセンス皆無じゃんふざけてんの!?」

 

「笑わせる気がないからな」

 

 悪戯っ子に制裁を加えるようにぺちぺちとレイニーの頬を叩くフューリー。レイニーの額にインクで象られた怒りのマークがコミカルに次々と浮かび上がるが、ナターシャに宥められて渋々引き下がった。

 

「ウェイター、早く料理を運びたまえ」

 

「久々に顔見せといて何シレッと席着いてるのよ!?」

 

「私は客だぞ」

 

「働かざる者食うべからずって言葉知ってる?」

 

「そうだぞボクだって薪を割った。重労働だったよホント、あー肩疲れたーキャプテン、ボクの薪取ってないよな?」

 

「取るのも惜しい程度の量しかなかったが」

 

「なら問題ないな、私はいつも働いてる。この地球を守る仕事だ」

 

 アベンジャーズメンバーの全員が舌打ちした。

 

 ──なお、食事では誰も悪態つくことなく、比較的平和な団欒だった。

 レイニーの協力もあって、普段食べることのない郷土料理を目の前にした子どもたちは眠くなるまで大はしゃぎ、少し疲れた様子のトニーやバナーは勿論、スティーブやナターシャらも久々に食べるまともな料理に舌鼓を打った。

 

 日が落ち、楽しい夕食の時間が終わって汚れた食器を洗い始めた頃、フューリーはジンジャーエールを口に含ませつつ本題に入った。

 

「ウルトロンはアベンジャーズを遠ざけて時間を稼いでいる。情報によればヤツは何かを作っているらしい。盗まれたヴィブラニウムの量からして一つではないと考えるべきだろう」

 

「ヤツはどこにいる?」

 

「どこにでもいる、そこら中にな。鼠算式にどんどん増えている」

 

 ネットを最大限に活用して自身のコピーを増やし、必要な情報を集めては妨害・破壊工作を繰り返しているらしい。

 他にも、一部の会社では有り得ない株価の暴落や高騰、仮想通貨の流出など、いわゆるIoTテロが頻発していた。ウルトロンによる目くらましなのか、或いはその中に目的があるのかは不明。

 そこでふと、レイニーはあることを思い出した。

 

「あれ、そもそもなんでウルトロンってあんなに流暢に喋れるんだろ…」

 

「ネットの音声情報から学習したとかじゃないか? 最新のAIサマは言葉のお勉強も片手間以下だな」

 

「…そういえば、ジャーヴィスは吸収されていた。もしかして、彼はジャーヴィスに蓄積されたデータ(経験)を応用して会話しているんじゃないか?」

 

「……待てよ? (ウルトロン)の経験値がジャーヴィスに準ずるものなら、ある程度のプログラムは既存のジャーヴィスのソースコードで構成されてる…のか? 調べないと分からないが、もし本当なら」

 

「ジャーヴィスのデータを奪い返せば、弱体化はできそうね」

 

「奪い返すって、どうやって?」

 

「ふふーん、私にいい考えがある」

 

 得意顔のレイニー以外全員が白けた顔をした。ええ? その言葉信用できないんだけど? という様子で。

 

「え、ちょっと! なにその反応! 」

 

「とりあえず、ネット経由でジャーヴィスのものらしき痕跡を探せば(ウルトロン)の本体のプログラムに繋がるはずだ。ネクサスならアクセスは可能だろうしな」

 

「ジャーヴィスって元々なんだったの?」

 

「父に仕えていた執事だよ」

 

 核ミサイルの発射コードは依然として奪われつつあるが、ネクサスを中心とした各国のサイバーテロチームが協力して昼夜コードの解除に取り掛かっている。

 その甲斐もあってかは謎だが、アフリカでの一件以降はミサイルを発射する兆候はない。サイバーチームの妨害か、はたまたウルトロンの策略かは不明であるが、癇癪を起して核戦争を勃発されるよりはマシな状態であると言える。

 

 だが、それだけだった。S.H.I.E.L.D.壊滅後は情報網も制限され、潤沢な資金も、物資も供給されない。現在でこそ給料のある程度はスターク・インダストリーズの資金(トニー曰くあぶく銭)によって賄われているが、それでも十全に戦える状態かと言えばそうではない。

 

「ウルトロンはアベンジャーズが目的達成のための邪魔者だとのたまった。アベンジャーズの全滅は人類の滅亡だ。ここにいる家族も、何もかも葬られる。それだけは避けなければならない」

 

 ウルトロンの齎す平和と、アベンジャーズが目指す平和は同じではない。フューリーはそう断言した。

 

「ヤツはなにがしたいのか?」

 

「我々以上の存在になりたがってる。だから体を作ってる」

 

「人間型のね」

 

「おかしくない? 今でさえもう人間以上の存在みたいなのに、わざわざ人間の型に戻るなんて」

 

「その通り、生物学的に人間の体は効率が悪い。だが人間の体を欲している。明らかに行動が矛盾している」

 

 そもそも、ウルトロンがアイアンソルジャーの身体を借りて活動し始めたこと自体が疑問でもあった。意思を伝えるのにわざわざ機械の身体を使ってまでやる必要性はない。スピーカーで話すなり、文字で伝えるなりいくらでもやりようはあった。

 だがそれでもウルトロンは機械の身体に拘り、そしてあまつさえ人間型の身体を依り代にしようとしている。電脳世界に自由にアクセスできる人間体、というだけでも十分脅威だが、それよりも依り代のない敵の方が何倍も恐ろしい。

 

「今の人類に必要なのは、進化することだ。ウルトロンは進化する……ヒントは、レイニーだ」

 

「え? 私?」

 

「…僕たちは、レイニーを基礎にウルトロンを組み上げた。レイニーの今の状態は人間よりも一段階上にステップアップした状態なんだ、この場の誰よりも。肉体という枠組みから外れ、インクという別の物質に、精神だけで存在を維持し続けている」

 

「それだけじゃない。レイニーはソフト面でも、成長も学習もしている。ウルトロンの場合、ソフト面はトップダウン式のAI、残るハード面をヴィブラニウムで作ろうとしてる。奴は対抗心が強い。世界で最も硬い金属を使うのは、恐らく」

 

 このメンバーの中で、スティーブは知っていた。ことアベンジャーズにおいて限りなく不死に近い体を持っているレイニーの唯一の弱点を。

 

「…私がヴィブラニウムが苦手だから。かもしれないわね。S.H.I.E.L.D.での戦闘記録はデータに残ってるはずだから、それ見られちゃったのかも」

 

「だが金属元素で擬似的に人間の肉体を再現するなんて…あ」

 

「ヘレン・チョ博士なら、再生クレードルなら多分できる」

 

「それに、他にも別の研究施設でいろいろな機械盗まれてる。完成される前に止めないと」

 

 機械でできることが増えた時代であっても、どうしても人間に頼らざるを得ないものがある。人の知識と、技術だ。特に再生クレードルの作成は機械だけではできない、人の精密な観察と技術が必要不可欠。

 方針は決まった。

 トニーはオスロ。バナーとフューリーはニューヨーク(未だ世間でのハルクのバッシングが酷いため)。スティーブ、ナターシャ、クリント、レイニーはヘレンのいるソウルへ。

 

 

 

 

 

 Chapter 65

 

 

 

「シータ・プロトコルは順調?」

 

 ジャケットを羽織るフューリーの背中に声をかけたのはレイニーだった。インクで生み出した戦闘服は宵闇の黒よりも深い黒で、インクに覆われていない肌部分の着色なしには識別も難しい。

 フューリーは周囲に他のメンバーがいないことを確認しつつ、呆れたように肩を竦めた。

 

「お前、どこまで知ってるんだ…」

 

「あそこに人材を送ったのは私たちよ? まぁ足りない分は私の中で暇を持て余してたサーチャーだけど」

 

「…あいつら全然休まないんだが。疲れないのか?」

 

「疲れない、休まない、文句を言わない。そんな人材をお求めだったのではなくて?」

 

「インクの亡者を人材に数えていいものか」

 

「亡者、ね。言い得て妙だわ、的を射た表現ね」

 

 フューリー名義でこそないが、マリアから内密に人材の派遣を要請されていたことはレイニーも覚えていた。マリア経由で入ってくる仕事の話は多かったが、内密にという前置き一言のみでフューリー関連の仕事であることは明白だった。オマケに常識人であれば唾飛ばして願い下げな人材の募集条件、明らかに裏のある仕事。

 言葉にはせず、マリアとの意思統一に成功したレイニーは、自身の中で退屈しているインクの住人(サーチャー)たちを派遣した。

 疲れる肉体も、休む精神も、文句をいう心もない彼らならば、その実力を遺憾なく発揮できるだろうと判断したのだ。

 

「活力エネルギーって、どれも総量が決まっててね」

 

 レイニーは空中にインクで『SOUL()』『BODY(肉体)』『SPIRIT(精神)』の文字を書き、その横に100と書かれたメーターのようなものも添える。

 

「さっき博士が精神と肉体の話をしたと思うけど…人間の総エネルギーを100として、魂・肉体・精神の三要素でそれぞれに40・20・40くらいに分割すれば、20の分運動したり仕事したりすると等しくゲージが減少して20・0・20になって肉体のエネルギーはゼロ。だから疲れるのが早い」

 

 100のインクをそれぞれ分割し40・20・40に。

 そこから20のラインで水平にチョップを叩き込み、派手にインクが飛び散って肉体のインクは完全に消し飛んだ。残るインクは魂と精神の20。

 

「一部例外はあるけどね、精神が肉体を凌駕してるケース。この場合は本人の精神が折れるまで∞だから肉体がゼロでも止まらない…」

 

「ふむ、それで?」

 

「例えば、トニーさんのロボットとかはAIが搭載されてないから肉体のみ…この場合は機械の体かな。人間より長く働けるけど、機械はいつか磨耗して錆びて使えなくなるでしょ? 分配すると0・100・0。だから少なくとも人間の5倍以上は働けると考える。

 私の中のサーチャーたちはもう、魂だけの存在。多少欠けたとしても90か80くらい。で、肉体はインクで代用しているから、魂尽きるまで。それこそ常人の倍は働けるわよ」

 

「…なるほどな、興味深い見解だ。ちなみに普通の人間が20以上の仕事をしたらどうなる?」

 

「社会的にそれは過重労働に当たるわね。社畜よ社畜。魂と精神擦り減らして精神病院にお世話になるわよ。

 インクの住人たち(彼ら)にとっての本当の休みは、その魂が尽きて成仏されることだから。だから、彼らの好きに働かせてあげて。でないとそれこそ文字通り未練を残したままこの世に留まっちゃうから」

 

「…キミは、自身の中にいる魂さえも救おうというのか」

 

「決めたから」

 

 空中に投影したインクの模式図を消し去り、告げた。

 それはワシントンで別れたときよりも、遥かにしっかりとした口調で、明確な目標と達成させるための覚悟を込めた声で。

 一人のヒーローとしての在り方を見つけ、それを貫こうとしている顔だった。

 

「私、決めたから。アベンジャーズとして世界を。ベンディたちの宿主として囚われてる魂を。どっちも助ける」

 

「…そうか。何か、できることがあれば言ってくれ。できるかどうかはわからんが、助けになると約束しよう」

 

「ありがとう。それじゃ」

 

「ああ」

 

「「私は私のやるべきことを」」

 

 

 

 

 

 




 タイトルの元ネタは「造物主(ライフメーカー)の掟」
 中学で読む本じゃない。でもネギまのラスボスの名前とソックリ


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