パラサイト・インクマシン 作:アンラッキー・OZ
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〝個性〟がなくても、ヒーローは出来ますか!?
〝個性〟のない人間でも、あなたみたいになれますか?
Chapter EX 01
日本 首都 中央合同庁舎 警察庁長官官房長 執務室
「人探し、ですか?」
「うむ、米国からの要請だ。1週間後、依頼主が来日する手筈になっている。その際に情報の受け渡しが望ましい、とのことだ。最優先で頼む。どれだけ人を割いても構わんが、最小限でな」
「……急な話ですね」
執務室で辞令を受ける女性は訝し気に目を細めた。眼鏡のレンズ越しに覗く瞳には猜疑心が映っていた。対して、辞令を下す髭面の男は困ったように眉根を寄せる。
「何分、本国でも扱いに困る人物でな。人的情報はデータベースにあるのだが…既に
髭面の男は黒手袋で覆われた手で書類の一つを掴み、女性に差し出す。受け取った女性は受け取った資料を捲る度に、眉間の皺が加速度的に増えていく。この案件の厄介さと深刻さを理解したのだ。
「戦時中に日本の情報機関の機密を持ち出し、ソ連に亡命…何度も違法実験を主導し、国際犯罪組織『HYDRA』の創設者として名を連ねる…十数年前に子どもを出産後死亡……これは、ICPOの案件ですね。Red Noticeですか」
「
Red Noticeとは、
しかし、死亡が確認された時点で手配書は破棄される。従って本案件における対象への法措置は自動的に消滅する形になる筈であった。
「生存が確認された場合は正規の手続きに基づいて再発行されることとなる…今回の調査は、その前段階だそうだ。資料の通り、
「はい、腕に自信のある者にのみ協力を仰ぎます」
「うむ。最低、生存の有無と国内逃亡の痕跡がないか調べるだけで構わん。あとはS.H.I.E.L.D.が引き継ぐらしい、こちらへの迷惑を考慮してのことだろう」
「S.H.I.E.L.D.…2年前に解散したはずでは?」
女性の脳裏にはリアルタイムでニュースに映し出された、まるで映画のような光景が蘇った。三機のヘリキャリアが互いに攻撃を繰り返し、世界一堅牢な要塞と言わしめたトリスケリオンを巻き込んで墜落。幸い周囲の市民への被害は免れたらしいが、S.H.I.E.L.D.のエージェントの数十人は巻き込まれて死亡した、との報告も届いている。
──ニュースでは取り沙汰されることはなかったが、女性は墜落するヘリキャリアの滑走路に小さく映った、黒い塊のようなものが印象に残っていた。
「組織そのものは瓦解してしまったが、本国では再建中だそうだ。そのリーダーの、ご息女からのご依頼だ」
「リーダーのご息女…1週間後…まさか」
1週間後といえば、米国から話題沸騰中のアニメーション会社の社長が来日することで、今や連日ニュースで持ちきりになっている。公式発表されていないにも関わらずリークする日本の情報機関は侮れない。
近々日本への公式発表と共に関連機関への協力要請が掛かると予想されており、その中には警察による空港と会場の警備と移送も含まれていた。
「ま、そういうことだ…頼んだぞ、霧原警視」
「了解です」
Chapter EX 02
起きたときから、何かがおかしいという確信はあった。
「おいレイニー、ご希望通りジェット用意してきたぞ。さっさと行ってこい」
「用意したのペッパーさんでしょ。なんでトニーが、さも自分が用意したみたいに言ってるの」
「なんだよ、機長はボクの親友のハッピーだしこの機体はボクが買ったものなんだから97%はボクのおかげだろ! もっと大人を労って、感謝したらどうだ?」
「でも所有権はトニー個人じゃなくてスターク・インダストリーズにあるんでしょ? ハッピーさんから聞いたよ。トニー案件での出動要請はハッピーさんの善意100%でやってるみたいだし?」
「ハッピー!? おま、そんなこと言ったのか! 拾ってやった恩義を仇で返すなよ!」
「やばば、お口にチャック! ほらほらさっさと乗って乗って。さぁ~快適な空の旅だ、ぞ!」
「早く乗りましょ義姉さん」
「向こうは湿気多いらしいので、お気をつけて。お母様、ワンダ」
「もう帰って来なくていいぞ…イテッ」
「縁起でもないこと言うな。二人とも、無事を祈ってる」
「お土産期待してるわ。カタナとかスリケン、だっけ?」
ワンダ、ヴィジョン、トニー、スティーブ、ナターシャさん。うん、いつも通りだ…いつも通り。そうなんだけど…なんか、違和感あるっていうか…具体的には些か顔の造形が漫画チックっていうか…元々こういう顔だったっけ? ま、いっか。
「じゃ、行ってきます」
これから日本なんだし、少しハメ外していこう!
──ことの発端は、博士を
博士行方不明についてはロス長官にお叱り受けて、S.H.I.E.L.D.に残っていた解読済みの機密情報の一部提供と
それで、新アベンジャーズ基地でワンダやヴィジョン、ローズ中佐、サムさんらとのチームワーク演習に参加してた矢先。会社から電話が来て、大まかに内容をまとめると「日米同時上映予定を希望する日本人が多くて大人気、宣伝も兼ねて来日オナシャス」とのことだった。ベンディアニメーションが日本でも人気ってことに驚きだってばよ私。
その一報を受けて1週間後に日本への来日が決まったわけだけど、問題は一人で行くかどうか。
流石に一人は危険だろうと提言したのがスティーブ、全員その発言には同意。ボディガードと観光も視野に入れて、誰を同伴させるかが次の議論となった。
スティーブとナターシャは第一線として活躍中なので、基地から離れるのはよろしくない。
ローズ中佐やサムさんは一応米国の軍人所属ということもあり(サムさんは退役軍人だけど)、軍への正式な休暇申請が間に合わない。
トニーはアイアンマンが日本で大人気過ぎて、ベンディの広告がサブ扱いにされるから却下。特に
となると、ワンダやヴィジョンになる。しかし、
「……ニホンって、すごい人が密集してるんですよね?」
「あっ」
ヴィジョンは事前にネットワークを介して日本の情報をリサーチしていたのだが、通勤ラッシュ時の電車や歩行者天国を往来する群衆、狭い店に寿司詰めで押し入る客など、いずれも人間の密集率が高いものばかりが検索された。
ヴィジョンのマインド・ストーンは人間の心の声を聞く力がある。勿論ヴィジョンはその力をある程度コントロールできるから声を聞く力を制限できるけど、アレは危機察知も含まれてる。徒にシャットアウトしてしまうと間近の危機に対応するのが遅れてしまうかも、という危惧があるらしい。
「でも、日本って狭い割に治安はしっかりしてるでしょ?」
「ええ。他国と比べて個性犯罪率は6%と、他国と比べて約14%も低いですね」
……ん?
「……個性って、なんだっけ…?」
「なんだオイ、レイニーが急に詩的なこと語りだしたぞどうした?」
「え? サムさんそれどういうこと?」
「なんだよ言ったまんま…あぁごめんよちょっと揶揄った。まるで自分の存在を考える思想家、みたいな台詞だったからさ」
んんん?
とりあえず人選については、ヴィジョンは基地防衛という名目でお留守番してもらい、オールマイティなワンダに同行してもらうこととなった。すごくうれしそうだった。
それで、『個性』というものについてあとで調べてみたところ、なんと世界総人口の約8割が『個性』を持った超人社会、ということらしい。
なんじゃこりゃ、と思った。
どことなーく、またいつぞやの世界線を跨いだというか、次元を2、3個ほど飛び越えたかと思うほど。ひょっとして私がボケてるだけなのか、それともネット含めた大規模ドッキリ大作戦なのかと思ったら、そうでもないらしい。
スティーブは個性黎明期に人体実験の末、後天的に身に付いた『超パワー』。
トニーは現代の「飽くなき探求心」と「尽きることのない独創性」に由来する、未開の方程式を見つけそれを実現する個性『
博士は異形型個性に該当する『
ナターシャさんは自分から発する物音を消す『サイレンサー』。
サムさんは大気の流れ読み、バックパック『EXO-7 FALCON』を駆使して大空を自由に舞う『エアロ・ダイナミクス』。
ローズ中佐は触れた兵器の最適操作ができる『マニピュレート』。
マリアさんはモニタリングの並行処理能力『マルチタスク』。
ワンダは『
ヴィジョンは史上初の『個性』持ちAIで『体密度操作』『飛行』『ネットワーク干渉』『エネルギー操作』などてんこもり。
そして私は『
なんじゃ、こりゃ。
そして、数年前まで米国には『オールマイト』というヒーローもいたらしい。元々日本人で、S.H.I.E.L.D.の調査資料にも密かにエージェントとして迎え入れようかという計画が上がってたみたい。現在はUA…雄英高校という学校で教師をしてる、
いや、これ読むの初なんですけど!?
しかもこの報告書も私が解読した機密文書の一部ってあるし!? あっれぇおかしいなぁこんな特徴的な書類そう忘れたくても忘れられないような内容なのになぁ!? というかさっきから
これはもしや、前の世界の『私』の意識だけが、この世界の『私』の中に入っちゃったとか、そういうのか? それともみんなおかしくなったとか? なんだっけ…そう、集団心理! 『傍観者効果』だっけ!? 前に著名な
なぜなら! もうおわかりだろう!!!
私以外!! 全く
誰も!!
おかしい…これは何かがおかしいぞ…いやおかしいのは私だけだろうか……これは、絶対におかしい…何かが、あったに…違いない………! あっ。
「
私は、考えるのをやめた。
見方を変えれば、見える人全員が超能力持ちって社会なだけだし。慣れっこ慣れっこ。
ただ、このままだとどこぞの阿呆に「個性社会をご存じでない!?www」と馬鹿にされそうなので、ちゃんと
前の世界では入手できない情報も、この世界で得られる可能性があるなら試みるべき。
Chapter EX 03
「この暑さ、帰ってきたって感じがするねー!」
「わかる。楽しかったなぁ《I・アイランド》。学生バイトって新鮮だったけど楽しかったぜ」
「ヴィランが殴り込んできて大変だったけどなぁ…しんどかったし」
日本の夏は、暑い。
湿気で蒸すし気温は高い。南国の熱帯雨林は天然由来の暑さだからこそというのもあるが、日本の場合は敷き詰められたアスファルトが伝える熱、高層ビルが反射する太陽光が不快指数を指数関数レベルで跳ね上げている。
そんな中、巨大人工移動都市《I・アイランド》から帰還した雄英高校1年A組ヒーロー科の生徒たちは、到着した羽田空港の到着ロビーにて待機していた。生徒全員が同じ便で帰国することになったのは、単に今回のヴィラン襲撃が原因であった。
個性技術博覧会《I・エキスポ》も、ウォルフラム率いるヴィランチームによって多大なダメージを受け開催を見合わせることとなった。中央管制塔とその周囲以外被害がなかった代わりに、世界有数のセキュリティを誇る警備システムがハッキング、加えて研究者の中に侵入を手引きしたとあっては上層部も黙ってはいられない。直ちにメンテナンスとセキュリティの強化も見合わせて観光客を一斉退去することに。
他の生徒とは異なりオールマイトの招待で訪れることになった緑谷出久も、幼馴染の
なお、オールマイトは
「オールマイト先生…大丈夫かなぁ…」
「大丈夫だろ。確か《I・アイランド》はアメリカ近くに位置してたからあっちに運ばれたんだろうけど」
「それに、ちらっと見えたけど飛行機に乗ってた人精鋭って感じだったし…でも英語じゃなかったな、どっちかっつーと韓国語? イヤホンから聞こえた声そんな感じだったし」
「アレじゃない? この前ニュースでやってたソウルの最先端医療チームとか」
「聞いたことありますわ。『ソコヴィア事件』で被災地へ継続的に医療支援していると…たしか、ヘレン・チョ氏でしたか」
八百万の発言で思い出すは、数か月前に起こった『ソコヴィア事件』。テレビ越しであったが、広大な大地がたった一人のヴィランの手で宙に浮く光景はもはや絶望でしかなかった。それを救ったのは世界的にも有名な組織『アベンジャーズ』。
キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソー、ハルクなど…日本にもその勇名が轟く大人気ヒーローで結成された国際ヒーロー。かく言うヒーローオタクの緑谷も、アベンジャーズの動向はドが付くほど調べ、ノートに纏めている。一番大好きなヒーローはオールマイトだが、そのオールマイトが一度スカウトされたという話も以前本人の口から聞いたことがあり、その時の興奮は忘れられなかった。
(オールマイトがアベンジャーズに入ったら…もう敵なしなんじゃないか。ああ、でもそうだと学校で先生なんかやってる暇ないだろうし、外国は個性犯罪多いから引っ張りだこだろうなぁ…)
是非是非! とアベンジャーズ加入を望む声と、頼むから入らないでほしい…! という二つの葛藤がせめぎ合い、緑谷の頭に知恵熱が生まれそうなほどの湯気が立つ。
故に。
「Hey」
「へっ?」
「
「」
超が付くほどの美女が近付いてることに、声を掛けられるまで気付けなかった。
首が動くたびになびくブロンドヘアー。日本人ではそう見ないぱっちりとした瞳。ハリと滑らかさがある肌、括れた腰とは対極に豊満に成熟した胸や臀部、女性の理想形を描いた様なスーパーモデルの如きプロポーション。美術展に飾られ陶器のように滑らかな美脚は1-Aでも高身長の障子の腰の高さほどあり、上にも下にも目が向いてしまいそうなほどだ。
日本であってもまずお目にかかれない谷間を目の前にして、この場の誰であっても刺激の強すぎる美貌を持つ女性はその端正な唇からクセのない教本のような英語を紡ぐ。
「
「エッッッッッ」
「オッッッッッ」
「峰田ァー! それ以上はヤバい!」
「我が雄英高校の名誉棄損になりかねんぞ!」
肘からセロテープを生やした瀬呂と、急いで眼鏡をかけ直した飯田が鼻血噴き出す上鳴と欲望丸出しの峰田を女性から引き離す。女性は目の前の少年たちの挙動に首を傾げたが、何かに気付いたのか小さく苦笑いした。
会話のコミュニケーションができずに少々困り顔になった女性を助けねばと、期末試験1位を勝ち取った才女の八百万は勇気を出して、自信を奮い立たせて女性に話しかける。
「
「おお、流石ヤオモモ。英語ペラッペラだ」
「うぉ~英語話せてれば美女とお近づきになれるって確固たる証拠だぜ」
「英語!!! 勉強しような!!!」
「動機が不純すぎる…」
上鳴と峰田が女性の胸を凝視しつつ英語への学習意欲を燃やす中、女性と会話を終えた八百万が生徒たちへ話の内容を伝える。
「ワンダさん、というそうです。それで妹さん、写真の子を探してるらしいのですが…」
ワンダと名乗る女性が端末を操作し生徒たちに見せる。端末にはワンダに抱えられてはにかむ黒髪の少女の画像が映し出されていた。髪や目の色が違うことには気付いたが、少年少女はあまり深く考えたり勘繰ったりはせず、率直に妹を探しているのだと察した。
流石にここまで仲のよさそうなツーショットを見て、人攫いや拉致監禁ということもないだろう。人は見た目に拠らない、とは言うが、とても目の前の
「I lost sight here …」
「この辺りで見失ってしまったそうです!」
「黒髪の子ー! おねーちゃんが探してるぞー!」
「どこだどこだ」
「障子! 個性で見えねぇか?」
「今やってる」
「俺らが協力する必要ねーだろ、職員に任せろよ」
「まぁまぁいーじゃねぇかよ。ここら辺にいるんだろ? すぐ見つかるって」
「あれ、そういえば常闇くんは?」
「さっきトイレにって…あ、戻ってきたよ…うん?」
個性『透明化』で身に付けている衣服しか映らない葉隠透が人込みを指差すと、頭部が烏のような造形をした
その手に繋がれた子どもが、ワンダが探してる子どもであると気付くのにそう時間はかからなかった。
黒髪の子どもはワンダに気付くといかにも「見つけた!」と顔を綻ばせて──かといって常闇の手を離したりはせず、見た目以上の力を発揮し常闇を強引に
「
「ワンダ!」
「おお、感動の再会だな! よかった!」
「羨まァ…俺も妹になりてぇ…」
そのまま常闇からワンダの豊満な胸に飛び込む姿は感動ものであるが、若干名の羨望の眼差しがいろいろ台無しにしていた。その台無し要因には耳郎響香の自慢の個性『イヤホンジャック』のよるささやかな折檻が加えられた。
少女はワンダのハグを解いて着地すると、迷子探しに協力してくれたと察したのか畏まったように頭を下げた。
「
「イ、イエイエトンデモナイ! …あれ、日本語お上手なんですね…? というか、日本人?」
「あぁ、やっぱり見た目日本人っぽいよね? 私ハーフなの」
「な、なるほど…」
てっきり英会話が再開されると身構えていた瀬呂範太は胸を撫で下ろした。期末試験ではドベ五人の内に入る上に、英語は比較的苦手な方だからだ。
すると、新たな疑問としてここで何故常闇が迷子の少女と一緒にいたか、という話題に移る。率直に聞いたのは砂糖力道だった。
「常闇、なんであの子と一緒にいたんだ?」
「…トイレから出たところ、ぶつかってしまってな。そしたら妹とはぐれたと…」
「ふーん……妹?」
「「「え?」」」
「ん? ああ、私がワンダの姉よ」
「「「…えぇ!?」」」
本日一番の驚きだった。クラス内でも表情筋が固い方に分類される轟焦凍でさえ目を丸くするほどに。まだ逆の方が納得する身長差だ。
するとここで、何人かがちぐはぐな二人組が見覚えあることに気付く。タレント…芸能人…歌手…脳内カテゴリに該当するものはなく、やがて国内から国外ヒーローに検索範囲は伸びるが、それよりも先にテレビで見た
宇宙人が侵略するニューヨーク、高層ビルと三機の巨大空母が崩れ落ちるワシントン、大地が天高く舞いロボットが跋扈するソコヴィア。
「………う、ウソ…本人…?」
「三奈ちゃん?」
「お二方! 探しましたよ!」
「
芦戸三奈があわあわと口を震わせてることに気付いた麗日が声を掛けた矢先、緑谷には聞き覚えのある青年の声が響いた。どこか冴えないイメージがつきまとう彼は、オールマイトの真実を知る数少ない同志の一人、塚内直正だった。
「エー…My name is Naomasa Tsukauchi」
「ミスター・ナオマサ…あぁ、じゃああなたが連絡にあった塚内警部ね?」
「日本語オッケーなのか! そうか、キミは例の…ああ。ともかく合流できてよかった。時間がない、会場まで送ろう」
「それじゃステージ行かなきゃ、遅れちゃう。優しい日本人の子たちありがとうねー!」
「いえいえ! お元気でー!」
「Thank You !」
年齢としては10~12歳程度であろうか、自分たちより二回りほど小さい黒髪の少女は塚内に案内され、空港の人ごみに消えていった。ワンダの滑らかな別れ言葉は雑踏の中でもするりと耳に入り、爆豪も悪態つきつつ小さく手を振った。
「さっきの人たち美人だったねぇ!」
「あんな可愛い妹ほしいなぁ…って、姉なんだっけ?」
「いやいやあのナリで姉はないでしょ。多分アレだよ、おねーちゃんムーブかましたくて演じてるだけだって」
「異母姉妹、という線もありそうだけどねあのマドムアゼルたち。腹違いであっても仲の良い姉妹を見ると目の保養、尊みあるね」
「まさかの青山名推理!?」
「それにしてもどっかで見たような…名前聞いてなかったし…」
若干名は今しがた出会った人物の正体に気付いたが、あまりにも常識外過ぎてフリーズ中だったりする。そんな珍事もあったが、航空会社が手配した観光バスの到着アナウンスが聞こえて雄英高校ヒーロー科の生徒たちはバスに乗り、帰路についた。
Chapter EX 04
「お初御目にかかりますCS-137。警視庁公安部外事四課課長、霧原未咲です」
「
「…私としても、このような名であまり呼びたくはありません。何せ、負の遺産の名を冠されている訳ですから」
「それだけ日本に警戒されているってことは分かったわ…まぁ、そう硬く身構えなくてもいいよいいよ。気楽に…と言いたいけど、前置きは抜きにして円滑に〝仕事〟の話をしましょうか」
「はい、調査結果はこちらに」
「……これ、二重国籍? 日本と米国に籍を持ってることになるわよね? それに…」
「ええ、母:
「親と同じ字って日本の戸籍法違反では。確か…50条辺り?」
「同一戸籍の中に同じ名前があれば判別の困難さ故に同じ漢字の使用は制限されてますが…読みが違いますし、出生届が提出される直前に母親の死亡届が提出されています。実際のところ、戸籍法上ではあまり問題はありません」
「そう…そうですか…まさか、日本語だと同じ字なんてね…それにしても、二重国籍かぁ」
「はい、22歳には国籍を選択しなければなりません。ですが…あと8年余ありますからそこまで緊急でもないかと」
「まぁアメリカ国籍一択だからいいんですけどね。それで…ありましたか? 痕跡」
「いえ、関連施設を調査しましたが、廃墟同然でした。自宅に関しては数年前に放火があったらしく撤去されていて更地でした。写真はこちらに」
「……ふむ、地下とかは?」
「調査済みですが、何も出ませんでした」
「つまり日本には立ち寄ってない、と…なるほど、ありがとうございます」
「これも、仕事ですので」
「日本の警察は優秀だなぁ」
「ただ……ヴィラン連合という、いま日本を騒がせる組織がいます。彼ら本人ではなく、彼らの上層部…トップの人物との繋がりがある、という情報もあります。こちらはとある施設で隔離されている囚人から得た情報なので、確実性はありませんが」
「……あー…マジか…そうですか…うーん………ちょっと、帰国タイミング変更しようかな…」
「それでしたら…実は貴女に面会したいという方がいるのですが」
「?」
「私が! 車道から来た!!」
「え、なんですかアレ。車と並走してる黄金のウサミミ筋肉が…」
「……その、貴女にお会いしたいと連絡があった方です…」
「」
Chapter EX 05
「オイ見たかよ緑谷! 昨日の特番!」
「えっ? 旅行疲れで爆睡してて…」
「空港で会った美女と美少女! テレビにスゲー出てたぞ!」
「しかも二人ともアベンジャーズで! デカパイの方は『スカーレット・ウィッチ』でペチャパイの方はあの『ベンディ』だってよ!? 『ソコヴィア事件』のスーパーヒーローじゃねぇか! ヤベーよヤベーよオイラ二人でヌいちゃったわ! ヌキヌキポンヌキヌキポン!」
「お前最悪だよ。俺でもちょっと引くわ…」
「アアン!? 何お高くとまってんだよ上鳴ィ!? お前も俺の仲間ダロォ!? 別にいいじゃねーかよアイドルだってウンコするんだぜ俺らがヒーローでヌいたっていいじゃねぇか! さぁさぁどういうシチュでヌいたか教えろよ──!」
「……!? 峰田後ろォ───!!!」
「へぇ……節度を弁えない猿がいるようで。指導レベルはEXTREME通り越してMANIACでもよさそうね」