パラサイト・インクマシン 作:アンラッキー・OZ
お気に入り感想評価誤字報告感謝
あーあ、
ついに選んじゃったね
Chapter 107
「何処から撃ってきた…? 人影一つ見えないけど、こっちが見えてるとでもいうの?」
「えっ今の援護射撃とかじゃないの? メチャクチャ怖いんだけど!?」
『……シュリ、先程の狙撃の解析頼めるか。ヤツの座標を炙り出してくれ』
トニーもスティーブ達と同様に、
そも、エニシ・アマツは元々HYDRAサイドの人間。協力体制をかこつけておいて裏切るなんて日常茶飯事だ。故に誤射という名の暗殺の可能性も視野に入れなければならない。
トニーは狙撃後即座にアイアンマンのフェイスカバーを下ろし、いつ銃弾が襲ってきてもいいように全身のスラスターを稼働状態にさせていた。ウォーマシンのフェイスカバー越しにもわかるローズの心配そうな所作に溜息を漏らしつつ、エニシと繋がっているであろう通信に呼び掛けた。
『オイ、お前どこにいるんだ。僕たちを狙うんじゃないぞ』
『んん~? 勝利の女神様の塔~』
『ふざけるな』
『ふざけてないわよ~金色の
『オイオイ嘘だろ…』
該当件数1。
戦勝記念塔ジーゲスゾイレ。
デンマーク、オーストリア、フランスとの戦争の勝利を記念して建てられた石造の塔。
ベルリン中心部、ミッテ区ティーアガルテン地区に位置する公園の中央。
空港から、
『…F.R.I.D.A.Y.この映像は偽物じゃあないよな?』
『私が偽の映像に加工して提出するとお思いですか?』
『あぁそうだった、そんなことしないよな。現実を受け止めないと』
アイアンマンスーツのフェイスカバー裏では、背の丈ほどある巨大な銃──否、銃と呼ぶには巨大過ぎる、大砲にも似たものを構えた
かつて
『問題は、ベンディが
「もう遅いわよ」
『ハッ、そうだな。普通に考えればバーンズだが、一番最悪なのはキャプテンと組んでてギリギリ出てきてないってことだ。でもキャプテンにはさっきの小さくなるやつといた、3人揃って矢面に出るとは考えにくい。クリントとマキシモフはボクが止める、他の連中を頼む』
Chapter 108
「今の狙撃何処からだ…!? 銃声すらしなかったぞ!」
「ヤバいな、窓から離れた方がいい」
スティーブの手にあったレコードを撃ち砕いた銃撃は、スティーブたちにも動揺の波紋が広がった。
どこから狙撃されるかわからない恐怖。
いつ撃たれるかわからない危機。
方向としては現在交渉しているトニー達方向からスティーブへ向けて放たれた一撃と推察できる。が、それだけ。サイレンサー付きの狙撃銃でも作り出して空港内に潜み狙撃したのかもしれないし、もしかしたら銃声が届かないほど遠方から狙撃したかもしれない。
「クインジェット発見、第五格納庫…あっクソ、レッドウィングがやられた! 気を付けろ、向こう敏腕の狙撃手がいるぞ何者だ!?」
銃声はなかった。サムが手繰るレッドウィングがクインジェットの在処の特定という最大の戦果と引き換えに、通信の途絶という儚い機械の寿命を散らした。
スパイダーマンからスティーブの盾を奪い返したスコットも、普段鈍い彼でもわかる『狙われている状況』に声を震わせた。
『エッ俺たち今狙われてんの!? 誰に! どっから!? すげー怖いんだけど! 死なないよね!?』
『落ち着いて』
だが、通信機から届いたレイニーの一言がスティーブたちの動揺を鎮める。
『…そうだ、オレたちも落ち着こう。正直向こうの狙撃手の位置はオレでもわからん。だがヤツは恐らくだが必中であったとしても連射はできない、インターバルが存在するはずだ。常に全方向の遮蔽物に気を配れ、必ず銃弾が到達するよりの先に身の回りの物がブッ壊れるハズだ』
『…一応、狙撃対策プラン
今回の作戦は対象の撃破じゃなくて、あくまでもクインジェットの奪取と逃走。〝なるほどシベリア送りだ〟作戦よ、スターリンを見習っていきましょ』
『『『了解』』』
「……この作戦名、他に案なかったのか?」
「俺に聞くな。っうわ、何だあのコスプレ野郎!」
第五格納庫へ走るサム達の前に──いや
空港の窓ガラスを蜘蛛の如く這う全身赤タイツの少年が、窓ガラスを蹴り破ってサムに飛び掛かった。
糸を用いた振り子の原理で生まれた運動エネルギーは空港の窓ガラスという障害と衝突してもなお減退することはなく、防御態勢を取ったサムの腕に蹴りとして炸裂し空軍で鍛え上げた屈強な身体を簡単に吹き飛ばす。
ワシントンで、そしてベルリンでサムの身体能力を目の当たりにしたバッキーだからこそ、そのサムを蹴り飛ばした
声から、子どもだとわかってても。
自分より長く生きていない若輩だとわかってても。
決して油断していい相手ではないと。
「オオッ!」
ぶおんと、金属の腕が大気を裂く。それは強烈な衝撃で以ってスパイダーマンの側頭部を直撃し空港の床に叩き落すに足る一撃であったがしかし、
「うっわあっぶな! え、ナニコレ金属製!? カッコいいね!」
バッキーの渾身の一撃は、それ以上の膂力によって受け止められた。
テンションや口調こそ軽いものではあれど、バッキーの金属腕を受け止めた力は反比例して重く、そして硬いものだった。難なく受け止めたスパイダーマンはただ受け止めただけではなく『掴み』『固定して』バッキーの次の挙動を封じた。
バッキーの主な武器は見てわかる通り金属の左腕。だからこそ、腕を抑えてしまえばあとはただのストリートのケンカみたく殴って蹴って、それだけだと
思い込んだのが、いけなかった。この場にはもう1人敵がいたということを、完全に忘れて。
「っラァ!」
「うわぁっ」
ピーターを襲ったのは、真横から上方へ救い上げる上昇気流のような何かだった。実際には気流ではなく実体を持ち、それはタカのような翼を左右に広げて二本の腕でピーターを捕え、ターミナルの中を床から天井付近へ追い込んだ。
「貴方を逮捕する! このっ」
ストリートの不良に絡まれたときのいなし方その1、顔を抑える。
人間の感覚野は目や鼻、口、耳など頭部に集中している。オマケに事故や怪我で強く打ってしまえば喪失する可能性だってある。だから人は他人に顔を触れられることを嫌う。
ピーターの体験談は正にその通りで、滑空中のサムはピーターの挙動に体勢を崩してしまった。
空中は
「、え?」
サムの影から飛び出した黒い
タカは蜘蛛の糸に絡められはしない。何故ならば、タカには心強い
突然の非現実的な光景にぽかんとしたスパイダーマンの胴体に、インクの拳による強烈な一撃が突き刺さった。
「うわ、腕!? ぐはぁっ」
『
通信からは呻き声しか聞こえなかったが、トニーには確かに「腕」という身体の一部分の単語が聞こえた。
腕。
腕
『まさか…』
ワンダとクリントがいる駐車場へ飛びつつ、トニーは振り返って空港にいる5人を見た。
ブラック・ウィドウと取っ組み合うアントマン。
ブラック・パンサー、ウォーマシンと鍔迫り合うキャプテン・アメリカ。
「ったッ!」
『ぐぅっ!』
彼らの身体の影から、黒いインクの腕や足が、まるで援護するように攻撃を弾き、ある時は追撃を仕掛けた。
流石に面食らった2人ではあったが2人とも歴戦の戦士、即座に距離を取りつつ間合いを把握し、尚且つ自分でも追撃を仕掛けられるよう、足止め可能なギリギリの距離まで後退した。
その光景を見たトニーは察した。
『あ~悪いニュースだ。何人かはもうわかってるかもしれんが、ベンディは連中全員に憑いてるって前提で動いた方がよさそうだ。うん』
『遅いわよ!『分かってる!『聞いてないぞそんなの!『ええっ、どう対処すればいいの!?』
通信から帰ってきた罵倒にトニーは若干傷付いた。唯一の心の拠り所はまだ常識人的反応のローズと素人臭さが残るピーターだけである。
(だが、レイニーが断片的にインクを全員に配ったとはいえ、核たるインクマシンを抱えた『本体』がいるはずだ。問題は誰に本体が…ああくそ、結局振り出しに戻っただけか! 全員インクマシンを隠し持てる容疑者だ! クソ、敵に回るとホント厄介なヤツだな…!)
トニーは幸先の悪さに頭を抱えつつ、駐車場から出て滑走路を駆け抜けるワンダたちに追いつく。
だがそのとき、
『なんだありゃ…風船?』
Chapter 109
(ふゥんなるほど、そうきたか)
人払いを済ませた人気のないティーアガルデンの中央、戦勝記念塔の頂上で銃を構えるエニシは、スコープから覗く光景に若干の感嘆を漏らした。
巨大な飛行機が見える空港。その周囲に、複数の黒い球体がぷかぷかと浮かんでいたのである。
(……確か『封神演義』において、千里眼への対策は周囲に旗を振って対象物を隠し、銅鑼を打ち鳴らして盗聴を防ぐこと、だったかしら? だいぶ昔読んだ内容だったからうろ覚えだけど。でもなるほど、確かに理にかなってるわね)
遠方からの狙撃から逃れる方法は射線を見極めそれを避けることだが、現状レイニーたちにそれは叶わない。エニシの現在地を知らないからだ。
従って取れる最善の方法は、煙や物などによる目眩ましで直撃を避けること、である。
狙撃手にとってのアドバンテージは一方的に相手を狙撃できる位置にあること。だがそれは視界の確保が絶対条件だ、つまり対象を観測できなければ無意味。
銃のスコープは望遠鏡の役割を果たしているがそれと引き換えに視野は恐ろしく狭まる。その上、空港をぐるりと囲むように風船という障害物が浮かび上がっている以上、狙撃率は
普通で、あれば。
(アナタは知らない。なにもかも。ぜんぶすべて。ワタシを知らない。ワタシの手の内を何一つとして知らない。それがアナタの敗因)
──150km先の対象を狙撃するという
狙撃には障害物や風、弾道計算、銃を撃つ際の衝撃などありとあらゆる要素が敵である。エニシ自ら拵えた愛用の銃であっても銃は銃、エニシとは別離した機械である以上、引き金を引かれたら銃弾を吐き出すという働き以外はすべてエニシが下準備しなければ『狙撃』は成功し得ない。
つまり、エニシが如何にして150km先の自分たちを観測しているのか、その謎が解けないレイニーには、
(はい、イチ、ニ、サン)
パン、パンと。
スティーブやバッキーたちの身体から飛び出たインクの手足が弾けて消える姿がエニシのスコープに映る。
スコープの視界は明らかに、戦勝記念塔からの方向とは別角度からの視界であった。そこにからくりがあった。きゅるりと銃身を支える手首をひねると、また別角度の視野が映し出される。
原理は不明だが、トニーがF.R.I.D.A.Y.に頼んだ監視衛星と類似した、自分の視野とは別のものを利用して対象を観測し続けているのである。故に、レイニーの作戦は成功しない。
が、
(……チッ、あのバルーンのせいで若干狙いがズレるわね。忌々しい)
視野の障害という当初の役割は果たせないまでも、
風船はミリにも満たない極薄のインクで形成されたハリボテの障害物だ。中身は空気であり、ヘリウムガスで浮いた風船よりも浮かび上がることはない、紐の形を模しているインクが高さを調節し支えているからだ。
そも、スコープが銃口に同じ向きですぐ近くに備え付けられているのは、そうでなければ狙いが定まらないからである。いくら視野を無限に切り替えられるとはいえ、その銃弾を対象に当てるのはそれこそ本人の技量の高さに左右される。
(裏技、つかっちゃおっかな~)
エニシは手首に巻かれた時計を揺らす。
時計の盤が螺旋を描いて外枠へ引っ込むと、中から赤、青、緑の宝石が輝く。それさえ使ってしまえば、距離は愚か
その石の輝きは万人を魅了し虜にする麻薬。
エニシはもう見飽きた輝きであるが、その輝きが放つ力と実現させる結果には
(……アホらし、使うまでもないわ。これは遊び、ゲーム。無聊の慰め。
あの旅人共がよく囀ってた『強くてニューゲーム』なんて糞みたいな概念を、このワタシが実現させてどうするよ。一発勝負だからこそ肝が据わるってのに、自分から損する阿呆に成り下がってたまるか)
勃起!
エニシは時計の盤を元に戻し、再び狙撃を開始する。
複数の視界切り替えはそのままに。時計の中に秘める石の力は、使わずに。
(………ま、ワタシは
エニシの視界に一瞬、暗闇に明滅した光景が浮かび上がる。
ぎゅ、と瞼をつよく瞑ればその光景は消え、スコープの先で空港直上に浮かぶヴィジョンの姿が映る。視覚が正常な機能を取り戻した。幻の、いつか見たような悪夢はもう
(さて、そろそろ大詰め……あン? なんだありゃ。あんなの、あんなの
少し離れた道路に、空港へ接近する車輛の一団が見えた。
その一団は、エニシが見たこともないような真っ白の防護服を全身に身に纏っていた。
Chapter 110
「キャプテン・ロジャース。貴方は自分の行いが正しいと信じているのでしょう。ですが、それはより大勢の正義ではありません。投降を勧めます、いまなら…まだ、間に合う。
そして我が母…聡明な貴女も、気付いているでしょう。この事態を打開するための最善手を」
新アベンジャーズ基地から飛んできたヴィジョンが、トニーたちの背後に降り立つ。こちらが正しいと、あなたたちは間違っていると、言うように。
実際にそうかもしれない。この場では誰が間違っていて、誰が正しいのか。
真と偽。
善と悪。
では、正義の反対とは何か。
「あなたは迷っていないのね? 私と敵対するということを。自分が正しいという確固たる正義に従っていると」
「ッ…それは……」
スティーブたちの背後、インクの波間から
ヴィジョンの主張する結論とはあくまでも統計的なデータに基づく広義の結論の一つに過ぎない。数多あるデータの中で、過半数を占めた正しさである。
しかしそれは、ヴィジョンの中の正しさとイコールではない。ヴィジョンが考えた末に導き出した、正しさではない。
「まだ、迷っているんだったら…」
レイニーはベンディのいつものにやけたマスクを被り、ヴィジョンに、そして自分たちに立ちはだかる
【 Don't stand in my way! Vision! 】
(私の前に立つな! バカ息子!)
ベンディの咆哮と同時にスティーブが走り出す。全身に夥しい突起を生やし、誰もが畏怖する様相へと変貌したベンディと、肩を並べて。
バッキー、サム、ワンダ、クリント、スコットも2人に続く。
正義と正義。
2つの〝正しさ〟がぶつかった。
Chapter 111
まさか、ナターシャさんがトニーたちを裏切るとは思わなかった。ホントだよマジマジ。全部が全部まるっと私の思い通りとか、全部が全部私の計算通りとか策略とか、そういうのじゃないから。
ガチで真面目な戦闘中に何ふざけてんだって罵声飛び交いそうだけど仕方ないでしょ、思ったことは思ったことなんだから偶然の産物が私にとって面白い光景として映っちゃったんだから、しょうがないじゃない。
でなきゃ、現実逃避なんかしないって。え? 何に現実逃避したいかって? そりゃあれだよ。
『やばい、スラスターがやられたっ!!』
『ローディ!』
ヴィジョンの持つマインドストーンから放たれたビームが、ローズ中佐の『ウォーマシン』に被弾してしまった件について。
被弾した『ウォーマシン』のシステムがダウンしてしまって、現在進行形で高高度から落下してしまっている件について。
ああ、もう。
なんでこういうことになっちゃうのかなぁ。そりゃ誰も彼もが正しいと思うことを信じて、突き進んで、貫いてくんだから。どこかしら衝突はあるよね。平行線に交わらない正義もあれば、衝突しちゃう正義だってある。
その過程には
私は約束した。
世界を守ると。
インクの虜囚の魂を救うと。
でもこれじゃ、なんだかフワッとしてるよね。対象が多すぎてどれがどれだかわかんない。どこに私の〝正しさ〟の焦点を当てればいいか、わかんない。
じゃあ、世界の定義をもっと自己解釈しよう。
私の想う、セカイを守る。
それが、私が考えて、私が選んだ答えだ。
「スティーブ!」
『っなんだ!?』
「……あなたの
ああ、そうか。彼女は、こんな気分だったんだ。
納得だ。そりゃ、託したくなる、言いたくなる。
でも、悔しくなるよ。だって、彼にはもっと、自分の幸せを生きてほしい。そう、願いたいから。
咽頭マイクを潰し、スティーブとの通信手段を絶つ。
これでいい。今は、これでいいんだ。なぜって? そりゃあ、
「これが、私の選んだ道だ」
私が、初めて選んだ
クインジェットと接続していた足裏のインク接続を解除。急上昇してくクインジェットと対称に、私の身体が落下が始まる。つい伸ばしかけた手を引いて、まっすぐ真下を睨む。
(仮に、神への祈りが届いた様な奇跡が起きたとしても)
それを見逃す
どんなに策を弄しても避けられない絶対必中の魔弾。
避けられないと分かっていて飛び込むのが馬鹿なら、私は
《リアリティ・ストーン》現実侵度加算、現界強度補正。
《タイム・ストーン》時間干渉、自陣加速、予測時間軸計測。
《スペース・ストーン》空気抵抗操作、空間跳躍。
《マインド・ストーン》並行演算速度補強、可能性次元計算開始。
落下時最適フォームに変形。重力加速度倍化。空気断層形成、踏み込み、跳躍、落下速度倍加算。
過程省略自己経過時間圧──インクマシン
時空間曲率干渉開始、前方10m間隔エルゴ面発生確認。接触前消失、前方に再配置。工程ループ設定、再計算。誤差確認。コマンド実行。
あたまが、いたい。
意味不明の方程式が私の殻を喰い破ろうと、あばれてる。
感覚をなくせ。
雑音をすてろ。
目の前の手をとることに、ぜんしんぜんれいをかけろ。
「レイニー!?」
「て、お」
いんくのてが、ろーずちゅうさのてにふれた。
接触確認。自己加速停止、通常時間軸へ回帰。自陣時間再調整、誤差-0.8。時間調律成功。
インクマシン再稼働。インク
かお、が。
ひだりのしかい、が、きえた。
ひゅうひゅう、あなが。
かぜ、とおりぬけて。
──生、非常事態発生。インクマシン破損。インクマシン破損。狙撃確認。メインフレーム大破、インク供給システムダウン。本体稼働率29%。インク量不足。
メモリフレーム破損。コマンドが機能しません。コマンドが機能しません。インク殻形態維持不可能。
あきらめ、ない。
わた、しは、あきら、めない。
ぜったiに、Tasけ
──予備インク使用申請許可受諾。レイニー・コールソン形成インク崩壊、インク殻欠損部分補強開始。開始。作業進行...成功。
標高8..7..6..5....着地確認。ショック吸収機能89%発生確認。対象A損害率72%→19%に減少。可能性未来実現成功。左脛骨及び右腓骨骨折、半月板損傷、腸骨・坐骨罅確認。全行程コマンド終了。
インクマシン機能停止。
インクマシン機能停止。
インクマシン機能停止。
インクマシン再起動まで391秒───外部気温急速低下観測。インクマシン起動不可。ヴィブラニウム遷移温度に到達、更に下降確認。インクマシン及び余剰インク凍結。稼働可能インク量──ゼロ。
あ、a。きて、くれた、k──
Chapter 112
「……おいスティーブ、どうかしたか?」
「いや、さっきのレイニーの言葉。あれは……」
「貴方の信じる道を…っ…!」
「ペギーが最後に言った言葉と、同じだと思って」
「……みんな、お前が危なっかしくて見てられないんだろ。
お前は、後悔してないのか」
「…レイニーが、言ってくれたんだ。もし僕が道を踏み外したなら止めてくれるって。その彼女が背中を押してくれたなら、僕はもう迷わない。
どんな結末になろうとも、最後までとことんやる。そうだろう?」
「お前…そんな昔のことよく覚えてるな」
2人を乗せたクインジェットはシベリアへ辿り着く。
すべての真相が隠された、終焉の地へ。
そしてスティーブは知らない。
すべてを託したレイニーの、末路を。