パラサイト・インクマシン 作:アンラッキー・OZ
※タグにもありますが残酷な描写(流血描写)ありますので苦手な人はブラウザバック推奨です
Chapter 02
人々にとっての幸運は、
最初はただのカートゥーンアニメーションのキャラクターでしかなかった彼らは、創造主に裏切られ、経営者の手で破綻し、狂信者によって邪悪な存在に堕落した。
何百万もの思いと何千万もの苦しみ。
あの古く閉ざされたスタジオの中で、書き殴りゴミ箱の奥底に捨てられた下書きのように永遠に葬り去られる筈だった。
一つの事故が産んだ悲劇が、そのゴミ箱を開けて掬い上げたことは奇跡に等しい。
その悲劇は世界から忘れ去られた彼らに一つのチャンスを与えた。置いて行った奴等への復讐というチャンスを。
彼らはそのチャンスをモノにするために動き出す。
アリスはドクター、ボリスはナース、ベンディはドナー。
あああ──
内臓を抉り、
あああああああああああ───
血液を掻き出し、
あaaAああaああAあaああ──! あッあああAAあああaあaあ──!!!!
機械を埋め込み、真っ黒なインクを流し込む。
声なき悲鳴が耳を打つ。
鎖に縛られたぼろぼろの体が肉体を蹂躙される痛みでびくんびくんと跳ね上がる。
まるで蝶々のように拡げられたあばら骨が美しい。
胸にぽっかりと空いた
美しくなるために新生を繰り返した
慎重な
それは、二次元を三次元に創り変えるような凶行。
それは、憎しみを復讐に作り変えるような陵辱。
自分たちを新世界へアップデートするための第一歩。
転がり込んだ小さな存在を、自分たちを押し込み拘束するための
清廉で完全。環境に優しく効率的。安全性は保証済み、技術・デザイン共に最高級。まさにベンディ〝お墨付き〟のインクマシンが、世界進出を果たす傀儡として生まれようとしていた。
「そこで、何をしているのですか」
彼女が、現れなければ。
【… Who ? 】
(…誰?)
「あなたたちを誅する者です」
【 Don't disturb us !】
(私たちの邪魔をするな!)
「ならば実力行使します」
インクの暗闇を、二つの魔法陣が照らし出す。
その中央で、不気味な烙印が輝いた。
悪役が悪にならなかったこと。それには必ず、理由がつきものだ。
Chapter 7
チタウリの軍勢にとっての不運は、
【 Leeeeeeet’s eeeeeeeeeeeaat ! 】
(イ───タダ───キマァ───ス!)
ビルの壁面を真っ黒いインクの化け物が、ものすごいスピードで一直線に駆け上がる。壁面に取り付いていた兵士たちは焦って逃げようとするが、左右に大きく広がった両腕に捉えられると抗う暇もなくズブズブとそのインクの中へ沈んでいく。
「───!!?」
「──! ──!!」
インクに囚われた兵士たちが断末魔の大合唱を歌う。インクの化け物の背には取り込まれた兵士たちの頭だけが飛び出ては声を上げ、沈んではもがく姿があった。
彼らはもう死ぬ。助からない。
誇り高く戦いを好むチタウリの兵士にとって戦死は最大の名誉だ。故にここは見逃し、インクの化け物を殺すことに集中すべきなのだろうが。
「────! 〜〜〜ッ──!?」
まだ生きてる。助けられるかもしれない。
希望的観測と同時に、助けたいという感情と、兵力温存という建前が浮かび上がる。
インクの化け物は屋上近くまでいけば、止まる筈だ。
その考察は正しく、インクの化け物は屋上に上がると疲れたのか動きを止め、ゆっくり周りを見回していた。
正面上空にいる別動隊が意図を察して威嚇射撃しつつ、兵士たちが化け物の背後に回る。銃撃に対してまるで応える様子はないが、注意は引けたはず。化け物はまだ気付いていない。
助けに来たとわかったのか、取り込まれつつある兵士たちが呻き声を上げながら必死になって手を伸ばす。
まるでインクの化け物の背が伸びてるようにも、繋がれた背中から逃れてるようにも見えて───その手を掴み、背の根元に銃を突き付ける。撃ちまくればきっと引き剥がせる、助けられるはずだと確信して。
引き金を引く瞬間、インク塗れの兵士の顔が嗤った。
【 Caught ♪ 】
(ツカマエタ♪)
インク塗れの兵士が銃身を乱暴に掴んで銃口を逸らす。それに反応できず引き金を引いてしまい、化け物の脇にいた味方の頭を吹き飛ばしてしまった。
唖然とする兵士たち。だが彼らは既にその手を握ってしまった。べっとり付着したインクは剥がれない。
ああ、初めから仲間たちは死んでいたのだ。仲間たちを演じたインクの化け物が、誘き寄せて喰らうために一芝居うったのだ。そう理解した時には既にインクに呑まれていた。
そのままズブズブとインクが身体を侵食し、全身を引き裂かれる痛みが脳を掻き毟り、
【【【 Never leave forever 】】】
((( ズット 一緒ダヨ )))
ぶちぶちと身体を破壊される感覚を最後にぶつりと意識が黒に染まった。
そして、彼らはインクの素材となり、同胞を抹殺する原動力として、またはインクの化け物の糧として浪費される。
【 Every one of them kill 】
(一匹残ラズ ぶっ殺し)
インクの化け物は雄叫びをあげると、ビルの壁面に沈んで消える。
今度は少し離れたビルの玄関に現れて、筋骨隆々な体躯にしてアスリートも真っ青スピードで大通りを疾走し、哀れにも銃を向ける兵士たちを軒並み喰らい尽くす。
【 Weeeeee areeeeeeee Bendyyyyyyyyyy ! 】
(私タチハ ベンディ!)
ベンディは行き止まりに差し掛かってもスピードを緩めず激突する。だが決して壁に衝突して跳ね返ったりはせず幽霊のように壁の奥に消えてしまうのだ。そして次の瞬間にはまったく別の場所から現れて、激突した際の最高スピードのまま、また走り出し兵士たちを喰らっていく。見た目も相俟って、子どもたちが見たら卒倒しそうだった。実際ホラー映画にも出てきそうな見た目だ。
その様子を、チタウリの兵士たちと白兵戦を繰り広げていたロマノフとロジャースが感心する。
「大活躍ね」
「あれはワープしているのか?」
レイニー/ベンディたちは即戦力だった。評価を大幅修正せざるを得ない。
殺生への忌避はヘリキャリアでの活躍からあまり少ないと分かっていた。それはそれで問題だが。
防御不可の突進攻撃も驚異的だが、インクで作られたその腕を斧や鎗、モーニングスターへ形態変化させて兵士たちを圧倒している。トミーガンに変形して撃ち出された弾は当たればインクに飲み込まれ、外れれば小さなベンディになって好き勝手に暴れ出す。どれもこれも悪質な攻撃、敵でなかったことに思わず安堵するほどだ。
だが、ここまで活躍するとは思わなかった。市民の避難も順調で犠牲も抑えられ、徐々に人々や街への被害も減りつつある。少々、派手に暴れたところにインクが飛び散るのが気になるが、半壊状態の街で多少汚したところで問題ないだろう。
『 Capt , cleaned the north street 』
(キャップ、北の通りは粗方片付けたよ)
「よし、俺は西の通りに向かう。ところでレイニー、キミは空を飛べるか?」
『 How ? …… Huh ? 』
(どう? ……え?)
「どうした?」
『 He just do it 』
(やってみる、って)
濁流が発生したような聞こえた。
ロジャースは慌てて通信機から音を聞くよりも周囲を見渡すと、ニューヨークの街に垂直に立ち上る二筋のインクの滝が見えた。その頂上でベンディ/レイニーが空駆るチタウリの兵士たちを襲っては、飛び乗って別の兵士たちを蹂躙していた。
おそらく、インクを噴出した推進力で飛んだのだろう。飛び乗る際に、時折インクをジェット噴射することで落下を防ぎ滞空時間を伸ばしている。
『 Did it 』
(できた)
ザバァ! と真上からインクの滝が降ってきた。ロジャースは慌てて飛び退くと道路に血液の如くインクが飛び散り、近くにいた兵士の目を塗り潰していく。
(ロジャースにとっても)突然の奇襲に悲鳴を上げるチタウリの兵士たちを盾で殴ると、息荒く通信機に向かって怒声を叫ぶ。
「頼むから、あまり汚さないでくれよ!」
『 I can't accept that ! 』
(承服しかねる!)
「汚れたらあとでクリーニング代請求するぞ…!」
敵を倒しつつ上空の味方への警戒も怠らないロジャースだった。
途中、唐突に空中戦を勃発したベンディの被害にあった
『今度靴磨きさせてやるからな!! 覚悟しとけよ!』
なお、へばりついたインクは爆撃で吹っ飛んだ模様。火が点かない辺り、普通のインクより防火性があるらしい。
Chapter 8
そのあと? そのあとどうしたかって?
えーっと、兵士とクジラ喰って、道中避難中の市民に爆弾っぽいもの投げやがったから食べたら爆発四散して、インクボディだから復活したら今度は核ミサイルが…ってブルータスおまえもか、何でもかんでも核で吹き飛ばそうとする人間は短絡的過ぎるのよ! 結局それで昔市街地吹っ飛ばしてプレデリアン滅ぼし損ねたでしょ!
え? 食べなかったのかって? 核は喰えない。ゴジラとかメルヘンとかファンタジーじゃあないんですから。
ということでアイアンマンが掴んで穴に飛び込んで敵の
さて、穴も塞がって敵も消えて、あとは親玉ただ一人。つまりフルボッコタイムだ、異論は認めない。
「酒でも、ぶはっ───」
【 Dad's share 】
(お父さんの分)
ロキ殴って。
「ぐっ!? おい、もう降さ──」
【 This is my frustration 】
(これ私のイライラの分)
「あばっばばばばばばばばばばばばばば」
往復ビンタして、倒れた
「おい! 降参する! 降参するからぼーっと突っ立ってないで抑えろお前たち! やめろ、貴様この私に何する気だ…!」
【 Doodle 】
(落書き)
額に『》ネ申《』とか、瞼に目ん玉とか、両方のほっぺたに『*』とか渦まきとか、鼻下にボーボーの鼻毛とか、口と顎の周りにヒゲとか書いてやったよ。
あ───スッキリした!! イケメンの顔を穢すのってゾクゾクするね!!
「……私は、どうなった?」
「手鏡どうぞ」
「うわ何だこれは!? クッソ、全然落ちないぞ! よくも私の顔に汚い泥を…!」
「いい気味だ。あとそれインクな」
「ご愁傷様ね」
『一回吹っ飛べば落ちるぞ。手伝ってやろうか』
「なかなか似合ってるじゃないか。いいぞそのヒゲ、親父に見せてやりたいな!」
「◼︎◼︎◼︎◼︎───!!」
こうして、始まりの戦いは終わったのだった。
そう、戦いは終わった。そして。
S.H.I.E.L.D.が用意したある一室。部屋の中は暗く、唯一テレビとそれを視聴する者にだけ、まるで演劇の舞台のようなスポットライトが当てられている。
ベーコンスープを掻き込みながら、ベンディはご機嫌な様子でテレビのチャンネルを操作していた。
『見ました見ました! ええっと、ベンディですよね! ちいさくてかわいい~!』
『めっちゃマッチョで、歯がずらーって並んでて化け物みたいでした…』
『ベンディがいなかったら、今頃私は助かってなかったと思います…本当に助かりました』
『あのベンディに手握ってもらったんですよ! いやナニコレ、インクびっちゃびちゃですね!』
『えっとね、ちいさいあくまさんがね、たすけてくれたの』
『黒い化け物がよぉ! 大通りやらビルやらをダダダダーって走ってったんだよ! そしたら連中がどんどん吸い込まれてってさ、ありゃ掃除機の新機種だったね!』
『今度ウチの店来いよ、半額で奢ってやるぜ特濃インク! まぁ店直したらな!』
『せーのっ『『『
【 All according to my plan 】
(全テ 僕ラノ 計画通リ)
テレビでは連日、アベンジャーズとともに愛らしいベンディを讃える市民たちの姿が報道されていた。写真となり映像となりあらゆる媒体を経由してその雄姿は全世界に広がり続ける。ベンディのグッズ化や商品化もそう遠くはない。
Mission.1
『ベンディを世界中に知らしめよう』