パラサイト・インクマシン   作:アンラッキー・OZ

45 / 47


 お気に入り感想評価誤字報告感謝





レインという名の生贄

 

 

 

 Chapter 128

 

 

 

「なぁ兄上、マリオは知ってるか?」

「何の話だ?」

「いや、ゲームの話だ。私がハマったゲームにはマリオという赤帽子の配管工がいるんだが、そいつには弟がいる。ルイージって奴だ」

「へぇ」

「ルイージってのは、正に永遠の二番手というヤツでな。兄に勝る弟などいない…これを克明に突き付けられたような存在だよ」

「ハッ、それはそうさ。兄より優れた弟はいない。義弟(ロキ)よりも俺様(ソー)の方が優れてるなんて最初から分かりきったことだろう?」

「ああ。だから私は義弟(ルイージ)を辞める。私は、ゲムヲになる」

「……は?」

「知ってるか? ゲムヲの登場は1980年に発売された『Mr.ゲーム&ウォッチ』、マリオの登場は1981年のしかも初登場題名(タイトル)は『ドンキーコング』! 自分の名前ですらない! ゲムヲは唯一、マリオよりも先に登場したキャラクターなんだよ! つまり、つまりだ! マリオより先輩で、強いって、優秀ってことなんだよ!! 少なくとも決定打にすらならないへなちょこ必殺技しか打てないマリオなんかよりはマシさ! 所詮運ゲーなんだ、ジャッジ9で完封してやる…!」

「何を言ってるんだお前は!?」

 

「……ホゥ、私を前に悠長なことだ。ンン?」

 

「ほれ見ろ、真のゲムヲ(ヘラ)が現れたぞ。お前よりも真っ黒だ」

「…ああ、なんてこった」

 

 

 

 

 

 Chapter 129

 

 

 

「さ、て、と…それじゃ次の話に行きたいところだけど……ね、貴女の疑問に答え続けるのもフェアじゃないでしょう? 少しは私の質問にも答えてもらってもいいかしら。ちなみに拒否権はないから」

 

 もう恒例行事となってしまった問答でもしましょうか。

 いつの時代だって対話による解決は必要よね。下手に突いて火傷を負わされては堪らないもの。何事も平和的解決に手を伸ばさなきゃ、損をするのはいつだって私。

 まぁ、火傷程度で死ねないのは、ねぇ?

 それでも私は知っている。火傷を負った過去を持つ人が炎を見て恐れるように、対話を挟まない解決が生む面倒事を知っている。

 

「貴女は、M(マーベル)C(・シネマティック・)U(ユニバース)という単語に聞き覚えはあるかしら?」

 

(…知らない)

 

「ふむ…次の質問。貴女は転生者という存在を知ってる? 若しくは、貴女は転生者?」

 

 『魂の保管器(フラスコ)』の中の魂は否定の色を示した。

 ……これも無い、か。勘違いだったみたいね。あまりにも過去に見た同位体とは違う傾向が強く見えたから、()()()()()と思ったけど。

 そもそも、私は異次元の旅人共とは致命的に相性が悪いから、憑依の(規格)に適していないのよね。その点ではこの仮説が立証された。

 

「最後の質問…というよりこれは数当てに近いのかしらね。『14,000,605』…この数字は何を指しているでしょうか」

 

(せんよんひゃくまん…? ………まさか、)

 

「アラ? やっぱり貴女は今までのよりも鋭いわね?

 正解は、私が見送ってきた同位体の個数よ。同時に私の『不老不死殺し』の実験台になった検体(サンプル)の数、実験の試行に使用された同位体の数でもある」

 

 ああ、魂が震えているのがわかる。

 私は歓喜に。貴女は恐怖に。

 覆しようもない事実に打ち震えて、生きる力さえも撓ませているのがよぉくわかる。

 それでも──霧散しないのは、魂の強度が高いからでしょうね。今までの同位体の半数以上は、この事実を聞いて自壊してしまったから。

 この同位体は、とても()()がいい。

 

(……うそだ)

 

「嘘じゃない。言ったわよね? ()()()()()()()()()()()()()。悪魔に肉体を奪われ、ユカリ・アマツとなった私は抜き身のアストラル体。3つのストーンの呪縛で現世へ過干渉できるに足る不老不死に成り下がったわけだけど…それでもアストラル体の基本原則は変わらない。同様に私も嘘をつけない。

 残念ね、私の言ってることはすべてが真実よ。これまでの話も、そしてこれから私が言うことも」

 

──まぁ、半分嘘なんだけど。

 あくまでもアストラル体に成り立ての魂が嘘をつけないというだけで、アストラル体という状態に慣れれば如何様にも虚偽の皮を被れる。私がこの状態になって年換算だと…××××年くらい?

 流石に鋭い洞察力を持った変異体であっても、私が以前嘘をついてたことは思い出せないみたいね。ドリアン・グレーの絵画、偽りの不死の秘術。その場で考えた思い付きだし、アレ。

 でも、研究者としての矜持にかけて、虚偽の研究結果の報告をするつもりはないわ。

 

(…さっき)

 

「ん?」

 

(さっき、言ってた、持ち込んではいけないもの、って…)

 

 ああ、それ。

 

「彼らはあろうことか、前世の記憶を持ち込んでたのよ」

 

(……そんなの、いいじゃない。あなただってエニシの脳を移植されてるんだから、同じ穴の狢でしょうに)

 

 ええ。

 そうね、そうなんでしょうね。貴女にはそう聞こえるしそう思えるんでしょうね。

 でも違うのよ連中は。

 

「そうね、その記憶が『マーベル』という次元由来のものであれば私も頓着しなかったわ。歯牙にもかけなかった。

 でも連中はあろうことか、『マーベル』という次元が創作物として存在している()()()()からやってきた。そして、この次元の過去と未来を正に神の視点と言わんばかりに客観視し、その次元に降り立っては正史(原作知識)を思うがままに活用して己が欲望を満たす箱庭に仕立て上げた。

 言うなれば『マーベル』という次元そのものを貶めたのよ、連中は。いま生きる人間を『登場人物(キャラクター)』に、思い出や出来事を『記録(イベント)』にすり替えて」

 

(…なん、で)

 

 なんで?

 ああ、お決まりの常套句ね。同位体の中でも一際誰かに優しい貴女は、彼らへの慈悲の心を持ち合わせているのね。行動には必ず信念と、それに付随する理由があると、そう信じてる。善人だろうが悪人だろうが英雄だろうが悪党だろうが、影響の大きさに比例して想いも大きいはずだって、心の底から信じてる。

──吐き気がするわ。

 

「だってそうした方が気持ちいいから。自分が気持ちよくなれるから。

 子どもって幼少期は砂を集めてお城を作るわよね? それと同じよ。

 大人って欲求を満たすために他者と交わるわよね? それと同じよ。

 正義感を肯定したい。息をするのに適した環境にしたい。

 振るった力で蹂躙される様を見たい。世界が思い通りになる様を見たい。

 そういうエゴを孕んで生まれ堕ちた連中は、(カミ)から知識を、力を賜るのよ。そして子どもの癇癪のように突き崩し、或いは勝手気ままに世界を揺り動かして理想の世界に仕立て上げる。そこに良心の呵責も無い」

 

(…どう、して、そこまで、)

 

「だって自分は一度死んだのだから。

 死という生物最大の不幸と遭遇してしまったのだから、見返りとして好きにさせろと、世界を寄越せと。あろうことか訪れる旅人は皆口々にそう言うのよ。だから私は言い返してやった。

 そんなことを言うなら、生まれ変わってくるべきじゃなかった。新生するべきではなかった。蘇るべきではなかった。不老不死になるんじゃなかった。(カミ)に選ばれるべきじゃなかった。

 死者(敗者)死者(敗者)らしく、地獄に這い蹲って未来永劫苦しんでいればよかったのに」

 

 本当に。

 本当に、何故(カミ)は、愚かな魂を黄泉から掬い上げて。救済と称して異次元に送り込むのでしょうね。一度死んだ人間の魂なんて、歪んで捻じれて狂ってるに決まってるでしょうに。(不老不死)を生み出しておいて、まだわからないのかしら。

 

「一方私の方はというと、幸いにも次に渡った次元でも同位体(レイン)は見つかった。条件は同じ。

 それでまず手始めにやったことは──母親(エニシ)の殺害よ」

 

(……なるほど、脳の継承をしなければ、そもそも不老不死(ユカリ)は生まれないという)

 

「ぴんぽーん大正解」

 

 それが、『マーベル』という次元でたった一人エニシの脳を継承したという証明でもある。

 私が言えた義理じゃないけど、エニシの脳が生み出す無限の探求力は加速度的に世界を滅ぼしかねない。私一人でさえ世界を滅ぼす事故に遭遇したんだから、いくら無限に膨張を続ける宇宙であっても、多分その増殖スピードを上回る勢いで枯らす。

 

「でも殺したところで私という存在は消えなかった──まぁ、物は試しだからね? とりあえず次元を渡ったら(エニシ)を殺すことは日課にしてるの。100万回殺して変化がなくても、100万1回目に変化があるかもしれないから。きっとゲームみたいに称号を習得できるかもしれないし?

\パッパパー/って

 それに……わざわざ私が不老不死になるところまで過保護に見守って、最初の次元のルートを守らなくてもよくなったのよね」

 

(……なんで? 『不老不死殺し』が研究であるなら、『不老不死』の存在は必須なんじゃないの?)

 

「簡単な話よ、必要なくなったの。不老不死の存在は()()()から来てくれた」

 

 異次元の旅人が不老不死というケースもあったけど、それはかなり稀だった。でも異次元から旅人が来るということは、死者を蘇らせて次元と次元に梯子を掛けた超常存在がいるということでもある。

 

「実験の前提として同一の検体(サンプル)がなければならない。だから初期の私も同位体(レイニー)が不老不死に至るまで見守ろうとはしてた。肉体を蹂躙されて悪魔に取り憑かれて、地球を滅ぼして銀河に遍く星々を喰らう化け物になって。

 でもね、別次元から来た異端分子が率先して同位体を排除するようになったのよ。世界を終末に導く者を排除するのは、いつだって転生者(せいぎのみかた)だから」

 

(それが…転生者。

 でも、わからない。エンシェント・ワンですら予見できなかった地球滅亡の災厄。それを、転生者とやらは容易く見抜き、災禍が芽を出し萌芽するよりも先に始末したと?)

 

「別に滅亡の未来を予知しなくたっていいのよ。連中は、連中の知る正史(原作)とやらに存在しない同位体を疑い、始末にかかったの。だって、()()()()()()()()がいたら、おかしいでしょう? 真っ白なシーツに汚れ(インク)が付いてたら、洗って綺麗にしたくなるのが人間の潔癖症じゃない。

 ま、確かにそれは正しい。同位体が存在している以上悪魔(ベンディ)との接触は避けられない。終末は避けられない。同位体も含めて、私はそう宿命付けられた、星の元に生まれた運命の奴隷だから」

 

(……でも、彼らが異次元から来たという証拠は? そもそも転生者だってどうやって見分けるの? この銀河に数多の種族がいるならその内の一人だって思うじゃない。前の次元にいなかったからと言って、いままで注目していなかったかもしれないじゃない。貴女だって全能ではないのだから。

 なんで、なんで貴女は彼らを見つけられるの…?)

 

 おっと、割と鋭い点突いてくるわね。

 なるほど、認識の空白領域(デッドスペース)なら私にもある。私は万能でも全能でもなくただの天才に過ぎないから。でなければ実験で悉く失敗しないし。

 でも、その発想に至るということは、ある程度予想もついてるってことよね? マインド・ストーンの力を吸収し、人の精神が見えるようになった貴女なら。

 

「異次元から来た連中にはいくつか共通点がある。

  ①親の存在がない、若しくは不自然な出生歴がある

  ②真っ当な人間が付けたとは思えない奇妙な名前

  ③肉体と魂の()()

 

(……ズレ?)

 

「根本的に、異次元の魂とこちらの次元の肉体は規格が噛み合ってないのよ。そのあたりは(カミ)の仕事がズボラなのかマヌケなのか、それともそれが限界なのかわからないけど。でも、次元由来の魂でないからこそ次元に張る根は他よりも短い。だから間引けば簡単に引っこ抜ける。

 (カミ)曰く、転生者の魂と魂、それらに付随して与えられる『特典』とやらはなんであれ自然な形には成れないらしいの。そして私は──いや、私たちはそれを『色』として見分けられる。

 

 まず、本来こちらの次元にいる連中は『』。

 グリーンカラー、グローバリズム、自然色。つまり次元由来のクリーンな色。

 

 対して異次元、あちらの世界からやってきた連中は『』。

 デンジャラスカラー、警戒色(シグナルレッド)、白地赤枠劇薬注意、異物混入、添加物1000%の粗悪品。醜悪なエゴから生み出され劣悪な(カミ)の悪戯で放り込まれた、赤よりも紅い悪夢」

 

 緑と赤。あら、まるで3D眼鏡みたい。

 

「でも連中って気付かないのよねぇ…それとも人間だからこそなのかしら? 不都合なことには目を背ける。自分だってその正史とやらの世界には存在しない異物であることには変わりないのに、同じ穴の狢であるにも関わらず同位体を排除する……ねぇ、これって矛盾してるわよね? 正史(原作)とやらを取り戻すなら……

 まず自分(お前たち)が死ね! 首にナイフを突き立てろ! 脳天に銃弾ブチ込め! 心臓を抉れ、脳蓋を砕け!

 

 この世界に新生した己を呪い、速やかに自害しろ!

 

 私だったら嫌よ。二度目の人生を歩もうだなんて思わない。

 幼少期の恥ずべき記憶も、学童期の色褪せた青春も、成人期の退廃した研究生活も、抱えた過去のなにもかも忘れて、まっさらな人生を歩みたい。明日を掴みたい。

 連中は…『強くてニューゲーム』って言ってたかしら? 一度目の人生の経験を引き継いだまま二度目の人生を迎える……ああ、ああ!

 

 なんて()()()()! なんて不真面目!

 

 同位体(レイン)も言ってたけど、未知の経験をしてこそ人生だというのに自らその未知を投げ捨てるとはなんと度し難いことか! なるほど、確かに過去の経験無くして到達できない高みもあるでしょう、それこそ人類史を塗り替えてしまうような偉業を成すために…しかし、しかし!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それこそ詭弁。それこそ戯言。

 当たり前を楽に済ませるのが上策? 嘘を言え、羞恥心を隠しているだけだろう。当たり前であろうと四苦八苦して乗り越えて経験を積むことが『人』が『生』きるということだと、理解できないのか。一回人生を謳歌したくせに。

 私は不老不死だが、それでも不真面目に生きたことは一度として無いぞ。気が狂いそうになるほどの永劫であったとして、『不老不死殺し』という研究を完遂するための、失敗を繰り返してもめげずに真面目に取り組んでいるぞ。

 

 

 だから私は赦さない。不真面目を赦さない。転生者を、異次元からの旅人を赦さない。

 

 

一 切 鏖 殺

 

一 切 滅 殺

 

 転生者死すべし、慈悲はない。

 

 

「──連中は、意気揚々と幼い同位体を手に掛け、喰らって殺し、犯しては殺し、或いは謀略で殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺し続けた。まるで自分が行うことが正義であると微塵も疑わず、その行為こそが世界を救うために為す偽善であることを信じて。

 不思議ね…何千回と生と死を体感し生き続けてる私でさえ早々殺人なんていう非行には走らないわ、命の大切さを理解してるから。連中には、生命冒涜の特権でも与えられたのかしら?」

 

 ある転生者は、何十回と転生し続けて生死の価値観がおかしくなったとか嘯いてたけど、流石にそれはおかしい。

 元からその転生者には生命を軽んじる傾向があった、というのが私の仮説だ。現にそういう連中を虱潰しに捕えて記憶を覗くと、現代社会に馴染めず他者を害することを願望に抱いていた。或いは()()()()傾向の人間ほど向こうの世界では死に易く、転生という加護を受け取りやすい社会構造なのかね。『あなたの望む世界へ飛び立てます! さぁ車に轢かれましょう!』とか。集団社会に馴染みにくい人間であればあるほど独善的で自己中心的な考えに陥りやすいとか。

 上下関係が厳格だったり犯罪抑制を掲げた管理社会における民衆の間では処理できない不満を解消するための施策としてはアリ、か? 統治する立場になったことがないから何とも言えないが、反旗を翻す民衆の母数削減としては上等か。クソね。

 

「嗚呼、いい見世物(ショー)だったよ。同位体にもこんなに弱くて愚かで淫らではしたない、ありふれた脆弱性を有していたなんて。

 何せ娼婦としては最高級の器であったし、性処理道具としても申し分のない肉体だった。強い牡を見れば浅ましく腰を振って子種を強請る淫売はまさしく大淫婦(バビロン)に他ならない。

 愛玩動物として首輪をつけて飼い慣らすに足る毛並みもあったし、憂さ晴らしとして嬲り甲斐のある心も兼ね備えてた。いたぶられても何度だって立ち上がって見せる生贄はまさしく贖罪(スケープ)の山羊(ゴート)に他ならない。

 でも哀しいかな、その程度では『不老不死殺し』はできなかった。私には届かなかった。何千、何万とあらゆる手段を試しても、それが(ユカリ)を殺す手段に成り得なかった。だから悟った。『異次元の旅人程度では私を殺すには役不足だ』」

 

 とある次元の同位体は全宇宙を元締める娼館のオーナーに成り上がってたわね。タイム・ストーンによる自己の年齢操作であらゆる年代にも対応、インクの肉体を利用してどんな異種族だろうと満足させられる肢体にも変化可能。インクによる自己増殖で同時に100人を相手にしてたっけ。両刀(バイ)気質があったから異性も同性も顧客にしてた。

 性欲と言う切っても切り離せない生物の欲求を満たし、宇宙を支配する在り様は正に大淫婦(バビロン)と呼ぶに相応しかった。元よりそういう淫蕩の素養があったってワケだけど、特定の分野を特化して突き抜けると()()なると分かった、実に意義のある実験だった。

 

「だから、ポップコーン片手に連中の羽虫が如き足掻きを見るのは辞めたのさ。どうせこの続きを見たところで私の思い描く不老不死殺し(エンディング)は見れないんだろうなって。マナー違反上等で、スタッフロールが流れるよりも早く席を立ち、映画館(連中の箱庭)から出た。で、何をしたんだと思う?」

 

 そもそも、私が眺めてるのは連中の自慰(オナニー)でしかないからね。延々と性器を慰めて自慰に耽る様子を眺めるのは流石に飽きた。

 

「ちょっと寄り道をした。研究を進める上でそれが必要か否かを確かめるために。そのために『魂の保管器(フラスコ)』なんて大層なものを拵えて──異次元の旅人共を捕まえて解体し、分析を始めた。異なる次元、『マーベル』と冠されるこの次元を俯瞰することができる明らかに上位の次元からの旅人…興味がないといえば嘘になるでしょう? だから調べた。ホラ、だってよく言うでしょう? ()()()()()()()()()()()

 

 初期は何度も返り討ちにあって殺されてたけどね。10回殺しても死なないとか、一方的に攻撃が通される鎧とか、未来視に似た攻撃回避とか、死の線を見通す眼とか。

 でも、攻略法はあった。その方法がねぇ。

 

「ただ、いい意味でも悪い意味でも誤算があった──この世界で(カミ)を殺すことは不可能じゃなかった」

 

(えっ…神って、全知全能なんじゃないの? そもそも、神っているの…?)

 

「いるわ。そしてこの次元の神は殺せる──それはアスガルドの歴史を見ても明らかよ。

 連中が『マーベル』と呼称するこの次元では、神は絶対の存在じゃないの。いくら魂を黄泉から引き摺り上げて、恩寵を授けられる絶大な存在であっても、不老不死であったとしても、(カミ)は殺せる。この次元に関わった以上その法則から抜け出せなくなった。捕まったのよ、『マーベル』という次元の法則に。

 だから殺せた。だから殺した。そうしてこの次元に旅人共を送り出す不遜なる(カミ)を皆殺しにすれば、力の源流であり供給源でもある(カミ)の恩寵は止まる。

 結果、異次元の旅人はその魂にはあまりにも不釣り合いな力を宝の持ち腐れの如く抱えた卑しい盗人に成り下がった。そういう連中を鹵獲し、尋問し、時には実験の貴重な検体(サンプル)にして有効活用させてもらったの。彼らの言う原作、とやらにも興味あったし」

 

 まぁ、中には手を掛けるのも躊躇う(カミ)がいたことは事実。

 

 酒豪で宴会芸しかできなくて胸だけはご立派な駄女神とか。

 PAD仕込みの胸だけど性格は善くて品のある女神とか。

 同族を救う為に自らを対価に宇宙法則を書き換えた女神とか。

 円環の理を奪って堕天し世界改変を行った女神とか。

 

 そういう(カミ)とは対話をもって解決することもあった。やっぱ平和的解決最高! 今後は控えてねってお願いしてくれたら納得してくれたし。代わりに来る(カミ)はロクでもない連中ばかりだったけど。

 (カミ)の多様性と言えばいいのかね。一神教を掲げる連中なら卒倒間違いなし。まるで特定の信仰を持たない多宗教国家の考え方をなぞる様な(カミ)…そこに意図を感じないと言えば嘘だけど、まだ結論付けるためのデータが足りない。

 

 …やっぱり、()()調()()したいわ。向こう側の次元、『マーベル』を創作物として俯瞰できる上位世界。

 向こう側から何千何万と侵入してきてるのだから、さぞ通りやすい(次元路)ができてることでしょう。まさか散々旅人を送り出しておいて、逆に来るのは困ります、なーんて都合のいい言い訳が通じると思ってるのかしらね?

 よし、決めた。次の(カミ)は素材にしないで捕虜にしよう。そして上位世界の視察に行こう。

 

「ここからの話だけど──聞きたくないなら、拒否していいわよ? 口にしてほしくないならそう言えばいい。だって貴女にはそう意見するだけの最低限の資格があるのだから。その意見が叶えられるかどうかは別として、だけど」

 

(……ぇ)

 

「見たくないなら目を瞑ればいい。聞きたくないなら耳を塞げばいい。目立ちたくないなら口を噤めばいい。そうして受け入れ難い現実から逃げて、逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて──ひたすら己という硬い殻に籠って微動だにしなければいい。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 別に私は人間のそういう弱い部分が嫌いじゃないわ。むしろ愛しいとすら思えてくる。人間にはそういう弱い側面もあるからこそ結束できる、強くなれる。弱さは生物由来の生存本能みたいなものだし、その弱さが今日の人類の繁栄に繋がった。

 共依存と言う形に溺れることもあれば、共生という形で恋や愛や友情を育むこともできる。ああ、()()というお情けや寵愛を受けることもできるしね? 憐憫の庇護対象にされるのは病み付きだもの、人間という生物は」

 

 正しいことは激痛を伴う。だって、苦しみを我慢するということだから。

 正しいことは激痛を伴う。だから、人は最も痛みの少ない楽な選択肢を選ぶ。

 

 世の中には優しい逃げ道を用意してくれる。目を閉じれば正しい現実は見えない。耳を塞げば正論は聞こえない。口を噤めば反論は帰ってこない。

 何事にも、限度(リミット)というものはある。そしてその限度(リミット)には個人差がある。あらゆる痛みを享受して突き進む英雄や聖者もいれば、痛みを恐れてすべてから逃げ出す悪党や愚者もいる。

 

 逃げることは悪いことではない。逃げたければ逃げればいい。誰もその背を追いはしない。

 だって、そんな敗者に大した価値は無いのだから。

 

 言うべきことは言った。最低限の警告はした。でもこの同位体は。

 

(……ッ)

 

 何も、言わない。

 拒絶しなければ拒否もない。如何なる真実だろうと受け止める、そういう覚悟が決まった眼を見せてる。溶液の中で動けず、それでもガラス越しに、真実を受け入れようとしてる。

 

 だから、おかしいのよねぇ。

 

 この同位体は、私が今まで見てきた同位体とは頭一つ抜きんでて()()。エニシのような狂気も、(カミ)のような無責任さも、異次元の旅人のような悪性とも、一線を画している。

 何より、己が世界の主人公であると言い張らない。自律性の欠如か? 単なる達観か? それとも諦観か? いや違う。

 ……私という同位体の総体から溢れ出た欠陥品(エラー)とでも言えばいいのか。それとも変異体(バグ)か? でも、それはそれで使()()()はある。

 

「ああそう──なら、これから貴女に行う実験を教えてあげるわね。少し前に思いついた『不老不死殺し』の手段なんだけど、貴女で()()()()しようと思うの。それが私という不老不死を殺すに足る毒になるかを試すために、ね」

 

(試し、書き…?)

 

「なんで貴女をわざわざ『魂の保管器(フラスコ)』なんてVIP待遇で迎え入れたと思ってるの? もちろん実験の検体(サンプル)にするためよ。そして実験の下準備でもある。貴重な同位体の魂に刺激を与えてしまっては、正しいデータが取れないから」

 

 過度な情報(ぜつぼう)は与えない。それでも適度な刺激なしにはできない。

 まるで酸塩基平衡の実験で試薬を垂らす瞬間のように、ギリギリの分水嶺を見極めていく。

 ああ、同位体を甚振る連中の嗜好がよぉくわかる。確かにこれは病み付きになりそうだ。

 

 

「実験名『Bad Apple』──別名『星隷計画』」

 

 

(腐った…イヤ、『Bad(黒い) Apple(林檎)』…? 『代替計画(план суррогат)』にあった…)

 

 あ──なるほど、そういうことか。

 どういう経緯か、この同位体は(エニシ)の頃の資料を入手したらしい。なるほど、確かに()()()()到達できた同位体は初めてだ。だから、か。

 

「『The(たった) Bad(一個の) Apple(腐った林檎が) injures(周りの) its(林檎を) neighbor(腐らせる)』──これは(ユカリ)ではなく、(エニシ)の頃に考えていたものではあるのだけどね。不老不死の研究の際に行った実験の副産物よ。元々『半恒久的な人類の継続』の実現における外敵…つまり、地球外からの侵略による人類滅亡を想定した対応策として用意された計画でね。

 この実験にはいくつかの条件が存在する。前提条件としてだけど、この星がたった一つの存在によって滅びるという未来が確定していなければならない」

 

(……え、星の、滅亡? 地球が?)

 

 ああ、そういえばまだそのことは話してなかったっけ。

 

「いままで漂流してきた次元では、インフィニティ・ストーンを集めきったサノスが全宇宙の生命体の半数の消滅、という野望を成し遂げたわ。名付けて『指パッチン事件』。でも、8回ほど前だったかしら…なんとも興味深いデータが取れたのよ。

 何がきっかけだったかは知らないけど、遠くない未来で宇宙の救済者として崇め称えられるサノスは、宇宙の中でも地球だけは()()()()させた。5年後の反撃の芽を摘むために、過去未来に渡って起こりうる復讐(アベンジ)を防ぐために。で、サノスが地球を破壊する未来が確定した瞬間『星隷計画』が自発的に発動し──同位体が、砕け散る地球の身代わりとして召し上げられた」

 

 アレはちょっとした奇跡だった。

 まさに救世主らしい手技には関心するところもあったけど、結局は騙して殺しただけだから、あまり見ていて気持ちいいものじゃない。『G.I.ジョー』みたいな後味の悪い末路(エンディング)だった。

 

「やったのは私じゃないんだけどね。そこそこの友情を結んだ転生者に騙される形で体のいい生贄にされてたわ。地球という星を守る上で、同位体を排除する上で都合のいい絶好のシチュエーションだった。結果としてサノスによる星の破壊を、存在丸ごと捧げて防いだおかげで、地球という星は守られた。

 何が言いたいかっていうとね、一つの存在によって世界を滅ぼすことができたなら、『逆説的に』一人の人間によって世界を救うことも、何ら矛盾してはいないのよ。

 確かにたった一個の腐った果実は周囲の果実までも腐らせるでしょう。でもそれなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだって──あるとは思わない?」

 

 抑止力(カウンター)…若しくは、人理の守り手とでも言えばいいのか。つまり、一人の人間の手で地球が滅亡するという未来がタイムスタンプとして残ることで、逆説的に一人の人間が地球の滅亡を阻止する理論も成立する。よく言う1-1互換、というヤツね。

 

「この場合、同位体(レイン)という魂を星に捧げることによって全能抗体(マクロファージ)となり、星の命が尽き果てるまで永遠に同種族を守り続ける奴隷…つまり、星隷になることで防げたらしいの。言わば、星が命の危機を感じ取り引き起こした自己防衛措置ね。

 そもそも、一番最初に一人でも地球を消滅させることができたのだからそこに気付けよって話なのだけれど…でも、その頃の私という要素には悪魔(ベンディ)という付属品(アタッチメント)もあったから、考え付かなかった。思い至らなかった。

 でも諦めなかったから気付けた。考えられた。嗚呼、やっぱり人間って素晴らしいわね。不条理の塊よ。勇気と気力と夢さえあれば、諦めなければ可能性は切り拓ける」

 

 本当に。正しく。

 信念と努力と日々の弛まぬ研鑽は、如何なる不可能を可能にしてくれる。

 努力は限界を乗り越え、あらゆる偉業を成し遂げる。それは、人間が歩んできた歴史で証明されてる。

 

 でもその正道を突き進む人は()()()()()()()()()いない。何故って? ()()()()()()()

 正道を突き進む聖者であればあるほど、己が身を削ってガリガリに痩せ細りながら苦しみの内に死んでいく。

 いつだって肥え太るのは邪道を選ぶ狡猾な連中。利権を、旨味だけを蛇蝎の如く貪り喰らう恥知らず。彼らは手にする物に見合うだけの、それこそ()()()()()()()()()()()を厭う。だってそうでしょう? ほら───

 

 転生者(彼ら)だって、そういう連中じゃないか。

 

 『あらゆる武器を創造する能力』

 『あらゆる技能を模倣する能力』

 『あらゆる科学を超越する能力』

 『あらゆる魔法を行使する能力』

 『あらゆる想像を実現する能力』

 『あらゆ『あら『力『を現実『清め『■『簒奪す『あ『不変『時を『らゆる『神秘『ベクト『■■■『る能力』

 

 ──いずれも、一生涯を生贄に捧げなくては手に入らないような能力(しろもの)だと分かる。だから真の担い手であるならば、その能力をみだりに使うものではないことは明白だ。だって生涯を捧げて生み出されたものは、決して見世物市(フリークショー)に出るような能力(しろもの)ではないから。

 

 でも連中は躊躇なく使う。葛藤も、良心も、責任も考えず。

 

 その能力に込められ想いも汲み取らず、まるで暴力の象徴とばかりに振り回す。後に残るのは『自分がそれを成した』という充足感と、影響を考えなかった馬鹿の杜撰な後処理だ。

 『あればあるほどいい』のは、私の持論だ。故に『考えれば考えるほどいい』に行き着くのは自然の流れとも言える。だから──行き過ぎた能力が世界に与える影響を鑑みれば、そこでは『使わない』という選択肢を選ぶべきだ。

 人命救助の為に? 止む無く? そういう状況(シチュエーション)もあるでしょうね。

 

 なら質問するが。()()()()()()()()()()()()

 考えて考えて、考えて考えて考えて考えて考えていれば──そういう状況にはならなかった。だって未来を知ってるなら、『マーベル』という正史(原作)を知ってるなら──()()()()()()()、考えられない方が悪い。

 

 だから私は言う。『考えれば考えるほどいい』。

 

 あって損することは、なくて損することよりも圧倒的に少ない。実験の回数が多ければ多いほど法則性や規則を見出す指標になるし、手段が多ければ多いほど解決への糸口が見つかる。

 

 宝の持ち腐れは、なんとも看過し難い。

 

 スタートラインが周りよりも突き抜けてる。50m走で一人だけゴール1m手前でスタートできるようなアドバンテージを持っていて、それを活かせないようでは話にならない。

 分不相応なものを背負うべきじゃない。受け取るべきじゃない。強請るべきじゃない。だって、目の前にいる(カミ)は残酷なまでにそれを実現してしまうから。

 価値の知らない赤子であっても、慈悲深き万能の(カミ)はそれをお与えになる。赦す。叶える。だって(カミ)だから。転生と言う名の(カミ)の不条理は、いとも容易く世界を壊す。

──哀しいね、嘘だけど。

 

(…で、私を材料に地球の代わりの生贄にして実験を成功させるわけね)

 

「いいえ? 逆よ逆。むしろこの実験は()()()()()()が肝要なの」

 

(………は?)

 

(エニシ)は不老不死の研究で魂を人から別のものへ移し替える実験を行ってたでしょう? 元の魂を如何に崩すことなく、最適な触媒に移植させることで自己の連続性を保つことを目的として。

 じゃあその逆は? 魂では適合することもできない、人間という魂では到底耐えられないような強大な(規格)に移植させてしまえば、(規格)は愚か魂さえ木っ端微塵に砕け散るのは道理だと思わない?」

 

 着想は、数多の不出来な転生者を見て思い当たったものだ。

 無数の転生者の中には、その身に宛がわれた神の恩寵で自滅する連中もいた。与えられた能力の推察をすれば、本来の持ち主であれば自滅することはない仕様になってる。なのに自滅──この場合、()()って言ったらいいか。内側から\パーン/と破裂する様は、ケツに爆竹詰めた蛙のような有り様で見てて滑稽だったけど、考えれば考えるほど興味深い。

 

 つまり、その魂と不等価な物を融合させてしまえば存在崩壊を引き起こす──自発的に『不老不死殺し』が成立するんじゃないか?

 

「そこで考えたの。私という自己を砕くに値する(規格)を。

 異性()? いいえTS(性転換)程度では自己の連続性は保たれるでしょう。

 動物()? そうね、脳の規格もごちゃ混ぜになって、人としての理性を失って、それでもみせかけの高潔な意志だけは残るでしょうね。

 鉱物()? 物言わぬ物質を容れ物にしてしまえば──意思の喪失、人間性の欠如、精神は纏まらずに事実上の死を迎えそう。

 じゃあ、特大級の規模にしてみてはどうかしら? 例えば『地球(ほし)』、とか」

 

 壊すなら相応の一撃を。

 開幕ぶっぱ、想定しうる限りの最大限(マスト)を検証してしまえば、実験の成否がはっきりする。

 だから『星隷計画』を採用した。不老不死における研究のノウハウが活かせる。こういう未来があるからこそ、過去の経験は大事ね。

 

「人間って、急に身体が犬や猫にでもなれば戸惑うわよね。それでも常識の範疇だから、そこそこの大きさだからなんとか耐えられる。でも昨日まで人間だった器が、急に全長30mの鯨にでも変貌したらどうなると思う? ()()()()()()()()()、魂も肉体もあっけないほどに死を迎えたわ」

 

 件の異次元の旅人の魂を使ってだけどね。

 別次元から別次元へ転移しても無事な強度の魂は貴重なものだから()()()()耐えられると見積もってたんだけど…あまりにも期待外れだったわ。

 

()()()()()()()のよ──同位体は地球(ほし)と合一する直前で結局サノスに殺されただけだから今までとあまり変わらなかったのだけれど…でも、地球(ほし)に触れた瞬間、未知の感覚を感じた。もしかしてこれが死というものなのかもねって」

 

 ああ、今思い出すだけでもゾクゾクする!

 あの圧倒的な存在に呑まれる瞬間! 地球という一個体の巨大な存在と同一化する感覚! 同位体(レイン)を通して流れ込んできた星の息吹が、まるで風船を破裂させるまで膨らませるように入ってきて!

 きっとアレが、魂の死という感覚なのかもしれない…!

 

「安心して頂戴? 直接的であろうと間接的であろうと、(ユカリ)同位体(レイン)を殺せないのよ。じゃなきゃ、わざわざ『魂の保管器(フラスコ)』に容れておいたりしないでしょうに。

 257回目と、361回目と、1121~1128回目だったかしら…似たようなシチュエーションで同位体(レイン)を殺そうとしてみたらあらま吃驚! 世紀の英雄(ヒーロー)キャプテン・アメリカが白馬に乗った王子様の如く同位体(レイン)を助けに来たのよね。どういう運命が働いてるのやら。

 ああ、長官(フューリー)幼馴染(スパイダーマン)が助けに来るパターンもあったわよ。他にもいろいろ試してはみたけど、どうあがいても同位体(レイン)(ユカリ)の手で殺すことはできないのよね。だから『別次元の同位体を始末することはできない』っていう世界の法則は読み解けた」

 

 これに関しては、最早()()()()法則で成り立っているとしか言い様がない。試行回数だけであれば2000は下らないけど、それでも殺害には至らなかった。別次元の自分殺しは依然不可能だってことなのかね。

 でも『逆説的に』考えれば、殺害しようとしなければ誰かが同位体(レイン)を助けるというフラグは立たない。

 

「だから貴女を殺すのは私じゃない。今まで身を粉にして守り続けてきた地球が、世界が貴女を殺すのよ。いい皮肉ね、いい未来ね、いい絶望ね。でも……これくらいの絶望では『レイン・Y(ユカリ)・コールソン』という存在を殺すことは、不老不死を殺すことは叶わないでしょうね。

 そうそう、ある人は『恐怖というものには鮮度がある』と言ってたらしいけど…なら、絶望には何があるんでしょうね?

 私はこう考えるわ。『絶望というものには質量がある』。だって、絶望は人が背負うものだから。軽い絶望(モノ)なら背負って歩き出せるでしょうし、重い絶望(モノ)なら圧し潰されて死ぬでしょう。

 さて、貴女はこの絶望さえも背負える変異体(バグ)かしら? それとも絶望の重さに耐えきれず潰れる同位体(レイン)かしら? さぁ、実験を始めましょうか」

 

 絶望に力は要らない。

 ただ淡々と、粛々と。

 いままで誰もが見て見ぬふりをしてきた世界の真実を、水面に一滴一滴インクを垂らすように伝えればいいだけ。

 軽いのであれば、水面で浮かび上がり。

 重いのであれば、水底に沈殿して積もる。

 インクが水にとって重いか軽いかは、水の素質が左右してくれる。

 

「その信念を貫いてもいいわよ

それでも宇宙は貴女を救わない

 その人生に胸を張ってもいいわよ

それでも世界は貴女を救わない

 その優しさを大事にしてもいいわよ

それでも英雄は貴女を救わない

 その生き様を誇りに思ってもいいわよ

それでも悪党は貴女を救わない

 その矜持を立派だと自負してもいいわよ

それでも運命は貴女を救わない

 でも、貴女は()を救ってくれる。英雄(ぎせい)になってくれる。

 嗚呼忘れるものか、()()()()()()()。今まで英雄(ぎせい)になった人を、たった一人さえ忘れはしない。私の背中に、この胸に、一つとなって生き続ける。多くの英雄(ぎせい)を悼み、それでも私は前へ歩み続けよう」

 

 今まで死んでいった連中を正真正銘の無意味な存在にさせないためにも、私は止まらない。止まることなどありはしない。

 『不老不死殺し』──『自己の殺害』という到達点に達するまで。私は、止まらない。

 もし私を止めてくれる人がいるのなら──それは、私にとっての運命(不老不死)の殺戮者だ。

 

 

 待ち遠しい。恋焦がれる。

 私の運命()は、いつ訪れるのだろうか?

 

 

「それじゃ私野暮用あるから抜けるわね。ああ大丈夫、ちょっと遠くの娯楽星(サカール)でライブに呼ばれててね。私この次元じゃ宇宙でも人気の売れっ子歌手だから。なんとRedboneの『Come and get your love』をカバーするのよ。チョット前に遭ったアウトロー(スター・ロード)に聞かせて貰ってピーンと来てね、歌ってたら路上スカウトされてそのまま即採用!

 イヤーこういうのもいいわね、人生なのがあるかわかったもんじゃないわ。マルコム博士っぽいグランドマスター(恐竜に追われる人)とお近づきになったけど、意外と馬の合う人だった。きっとご兄弟のコレクターさんもいい性格してそう、次の次元ではもっと積極的に関わるのもアリかしら」

 

(……最後に、聞かせて)

 

 ん?

 

(……あなたは、この、『マーベル』に住まう人々を(グリーン)と。異次元から来た彼らを(レッド)と称した。

 じゃあ…私は? 私たちは、なんなの?)

 

 ああ、そうね。

 (グリーン)(レッド)。信号機なら本来危険信号(シグナルイエロー)が在るべきだけど、残念なことに私たちにその色は合わない。強いて言うなら、

 

「強いて言うなら…そうね、『黒』かしら。

 マイナスカラー、敗色(黒星)、混色の末路、(世界)の対極、現世に落とす幻影、遍く光を貪欲に喰らい塗り潰す罪。不可避の死、(クレプス)悪性(マリグナント)腫瘍(チューマー)、物語に蔓延る自滅因子(アポトーシス)

 連中が『マーベル』だのなんだのと名付けるこの次元(ユニバース)は、この物語は、既に『(インク)』という病が巣食っていた。寄生したインク──いいや、この場合はインクマシンか。

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 私たちの人生を物語のように名付けるには、お似合いの題名(呪い)ね」

 

 

 

 

 






 彼女は祭壇に焚べられた


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。