パラサイト・インクマシン 作:アンラッキー・OZ
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心理的ペラモルフォーシス
Chapter 15
某日
別宇宙 神々の国アスガルド 地下牢
「……お前は何者だ? どこから入ってきた?」
【 You have many questions . You can't get along with a woman very well . First of all , Tell your name from yourself ? 】
(お前は質問が多いな、レディへの扱いがなってない。まずは自分から名乗ったらどうだ?)
「私は、オーディンの息子ロキだぞ! そんなことも知らないとはとんだ田舎者だな!」
【 You're polite .My name is Alison Conner …… I’m fine with Alice 】
(ご丁寧にどうも。俺はアリソン・コナー……アリスでいい)
「アリス…? フン、その見た目、大方ベンディとやらの仲間か何かだろう…そうか、あの時私に取り憑かせていた訳か」
【 Exactly . Whatever I will follow you for a while , Because it is said that you should be free 】
(その通り。ま、自由にしていいと言われているからしばらくはお前に着いていく)
「は? おいおいおいお前は馬鹿か? 私たちは、破れない、牢屋に、収監されてるんだぞ! それにお前なんぞが着いてたら私の迷惑だ! とっとと失せろ!」
【 It's impossible because it is in a prison that can not go out . Let's play game to kill time 】
(失せたくても出られない牢屋にブチ込まれてるようじゃ無理だ。暇つぶしにゲームでもするか)
「…ゲームだと? ハッ、狡知の神であるこの私にゲームを挑むとは! 愚かさも極まったものだな! 所詮は下等な知的生命体か!」
【 I have a playing card , Do you play poker safely ? Speed is not bad either . Anyway I can get out of prison 】
(トランプもあることだし、無難にポーカーにするか? スピードも悪くないな。牢屋から出る〝時〟も、そう遠くはないだろう)
「…なぜそう言い切れる?」
【 There is that plague god Thor , Do you think that nothing will happen in Asgard ? 】
(あのソーとかいう疫病神がいて、このアスガルドで何も起こらないと思うか?)
「……同感だな。それじゃあ、何からやる? おっと賭けの清算は、牢屋を出てからにしようか。私の記憶力をナメない方がいい。
やるからには、本気で遊ぶ」
【 …You're nobody's fool 】
(…抜け目のない男だ)
Chapter 16
「…私の司令室で何をしている」
トリスケリオン上階に位置する司令室に戻った私は、若干の苛立ちを抑えてそう口にした。
例えばの話だ、
だが、私は寛容だ。執行猶予付きで弁明の余地くらいはくれてやる。勿論話は聞くだけだ、許す気は微塵もないが。
「──んー? あ、長官どうも。見て見て!」
入り口に背を向けてた子ども───レイニー・コールソンは、私の顔を見るなりおもちゃを買ってもらった子どものようにはしゃいで──空間投影された3Dモデルの銃を
そして銃も一目でわかる。M249 Para、米国で国産化されたミニミ軽機関銃。民間でもそこそこ出回ってる。それなりの資金を持つ組織でも調達可能なありふれた銃だ。
「いっくよー…」
レイニーは投影された原寸大ミニミを手に取り、いきなり銃の右側面を叩くとがぱっとアッパーを持ち上げて、中に入っていた弾帯を外して見せた。そのままあれよあれよとスプリングガイド、スプリング、シリンダー、ピストンをポンポンと分解していく。子ども由来の小さな手だからこそできるのかもしれないが、その素早い手技は流石の私でも目を見張った。
「おわりっ! ……っし、自己ベストタイム更新だやたー! フゥー!」
「はっはっはそうかおめでとう。とでも言われたいのか?」
「え? ううん、そういうわけじゃないけど」
時間を測ってたのか、分解が終わったと同時に鳴り響いたファンファーレを聞いて舞い上がるレイニーを睨む。
貴重な時間を無駄にさせたな、温厚な私でも怒る時は相応の痛みが伴うとこの場で教えてやってもいいんだぞ。
「私の部屋を遊び場にするな。子どもは出ていけ」
「遊び場じゃなくて勉強場。それに、ここにいれば命令が来ればすぐ行けるでしょ。ナターシャさん風に言うと、女の勘ってやつ?」
「下衆の勘繰りとも言うがな」
生意気そうに口をへの時にしてデスクを指差すと、とてもじゃないが大の大人ですら手に取ることも躊躇われるような分厚い洋書がいくつも開いた状態で置かれていた。
遊び場でも勉強場でもどっちでもいいが、そういうのは他所でやれ。
兎に角片付けろ今すぐにだ、と若干息を荒らげて脅すとへーいと気の抜けた返事が返ってくる。ここから出禁にしてもいいんだぞ。
「でも、
「個人の利便性の為に別の人間が不自由を強いられる現実を直視しても、まだやるか?」
「私、留守電の点滅ライトを見るの嫌なんですよ。下らない徴収とか宗教の勧誘とかじゃなくて、ちゃんと用があったのに電話に出れるタイミングじゃなかった申し訳なさ感が。配達のお兄さんごめんなさい…すっぴんでも出るから…」
「だったらその罪悪感を私に向けたらどうだ」
「……え? 長官に?」
「どうやらハードなおしおきが必要なようだな」
ひゃー、と白々しい悲鳴が上がる。たとえ外見がかわいらしい子どもであっても容赦しないのが私だ。以前はそれで痛い目を見たからな。
レイニーも反省したようで、私が腕を組んでじっと睨んでいると端正な顔をぶすっと歪ませて渋々私物を片付け始めた。しばらくして、ようやくデスク周りが片付いたところで窓際の椅子に腰掛けると足に何かがぶつかった。おい、まだデスクの下に本が落ちてるぞ。
「一体、なんの勉強してるんだ」
「え? あ、あぁ。さっきのは銃の分解。ただ飲み込むだけならベンディでできるけど、容量オーバーとか来ると吐いちゃうこともありそうだし、いざってときに分解しちゃえばすぐには誰も使えない。トニーさん以外はね」
「そもそも、スタークに銃なんぞ要らんだろう。彼にはアイアンマンがある」
「わからないですよ? スーツ使えない時とか、ああいう人は、なりふり構ってられない時とかはなんだって使うって覚悟してきてる人ですし」
…そういえば、彼はそんな男だった。去年、彼の秘書が誘拐されて誰にも相談せず一人で敵の本拠地に潜り込んだときは銃を使用したと話していた。
デスク下に落ちていた分厚い洋書を眺めるが、明らかにワシントンで入手が難しいものだった。ベンゼン環のようなものとその名称が何百ページに渡って綴られている。
「…この本はなんだ?」
「んん? それ、おくすり帳。毒とか見分けるやつ。作用副作用禁忌と…あと、飲み合わせ? 右手がロボットのイケメン先生に勧められた」
それはスタークの親戚か何かか?
…いや、アイアンマンなのはトニー彼一人だった。スタークをアイアンマンの家系のように話すのは語弊があったな。
「…その手に持ってる、黒い背表紙の本は」
「スパイの秘訣。家にあった本だけど勉強になる。手記だけどよくまとめられてるから、少しずつ解読して読んでる」
家にあったということは、コールソンの私物か? いやそんなものを持っていた記憶はないし彼がそんなものを残すとも考えにくい。
となると、前の所持者は…
だがそんなこともお構いなしに、レイニーはじゃじゃん、と言いつつとあるページを突き出す。読めって言いたいのか…と思ったが、複数のマスが縦横に不規則に並べられているだけだった。まるで、雑誌に掲載されたクロスワードパズルだな。切り抜きか?
「それは、私に見せてもいい内容なのか」
「うん、まぁ…変わった書き方してるから、まずは読み解くことから始めないといけないし。長官もぱっと見じゃわからないでしょ?」
そもそもクロスワードを読めという方が無理な話だ。だがレイニーにはそうでもないらしい、子ども故の世間知らずなのか馬鹿なのか…。
いや、彼女は決して頭が悪いわけではない。つまり、
「最近はどうだ?」
「少し前にピアースさんから映画観せてもらった」
……話題が斜め上過ぎて困る。
贅沢な女だ、私を私用で困らせる人間はそうそういないぞ。
「内容? うーん…動く赤いオニのお面被った感じのヤツだった。多分…『
「…そうか、そのタイトル全然知らないんだが最近の映画か? ピアースは、どんなタイトルの映画を勧めたんだ?」
「え? うーん…白いディスクに『B・W』って書かれたテープが貼ってあったけどあれがタイトルだったのかな…ブラックホワイト? ……どっかのC級映画でしょ。有名映画のタイトルをもじったなんちゃって低予算映画とか、洋ポルノエロ映画とかそういう
「やめろ、わかった。わかったからもうその話題はいい二度と口にするな」
本能がそれ以上レイニーに語らせてはいけないと囁いていた。決して、恐ろしくて遮った訳ではない。というか、キミはまだ未成年の筈だが? いかん、
レイニーの映画ネタもピアースの映画チョイスももう二度と話すべきではないな、これだけははっきりと言える。
…久々に、嫌な汗をかいた。冷房が効いているのにじっとりとシャツが蒸れていて、酷く不快だ。
上着を一枚脱ごうとしたその時、内ポケットから端末の震えを感じ取りすぐにメッセージを確認した。
ああ、そうなったか。
私も大概だが、
「レイニー」
「ん?」
「任務だ、荷物はいいからすぐS.T.R.I.K.E.チームと合流しろ」
「了解」
───レイニーには裏表というものがないが、任務となると素の状態のままスイッチを切り替えるタイプだ。私生活とエージェントとしての振る舞いを分けられず苦悩する人間も少なくはないが、レイニーは無意識かつ意識的に切り替えられるらしい。実際、先ほどのレイニーと今のレイニーが纏う空気…雰囲気に、差異は見られない。今も、少し片付いた本をまとめてデスクの端に置いて、屈んだときに床に突いていた膝を叩いて汚れを取る姿はストリートにいる子どもと遜色ない姿だ。
私が言えた義理ではないが、とても任務に行く前の姿には見えない。
いや、そもそもまだ10歳前後の少女が戦場へ赴くこと自体が異常とも言えるか。見た目に騙されて油断してくれれば御の字だが、昨今のテロリストは女子どもにも容赦ないからな。ただの少女であれば、声を上げるよりも先に銃弾が脳天を貫くだろう。
だが、彼女には力がある。
そして我々は世界を守るために、その力が必要だ。
これでもまだマシな方だ。アベンジャーズ計画発足当初、世界安全保障委員会の連中は脅威と危険性を危惧して拘束・監禁、もしくは駆除・殺害も視野に入れていたからな。ここ2年の働きもあってそういう声は減ってきてるとピアースから聞いているから問題ないとは思うが…
刺客を差し向けて任務中の暗殺、という可能性も無視できない。
「帰ってきてちゃんと私物を片付けろ、いいな」
「えぇー、いいじゃないですかどうせ私以外にその背の低い綺麗な長机使わないでしょ。こんな高いところまで、滅多にお客さんが来ることも無いでしょうし」
「景観の問題だ。それと、私の気分だな」
「帰ってきたら片付けますよっと」
「必ず、帰ってこい」
ぱたぱたとはためかせた袖で扉を開けたまま、首だけ回したレイニーの丸い黒瞳がこちらを向く。鳩が豆鉄砲を食らったような顔とでも言って笑ってやろうか? おいおいそんな珍獣を見るような目で私を見るな。
驚いているのか、意外と思っているのかもしれないが、キミは部下の忘れ形見でもある。やむを得ない状況であれば切り捨てることもあるだろうが、そんな状況にならないように私だって尽力している。
壁掛けの時計の秒針が動く音が聞こえるくらい静かな時間がほんの少しだけ流れて、耐えられなくなったのかレイニーは相貌を崩すと口角を釣り上げて笑っていた。私らしくないとでも思ってるんだろう、察せるだけの情緒はあるんだろうが、そういうところはまだまだ子どもだな。
「長官は心配性ですねぇ」
「まだまだ他人に心配されるほど未熟だということを自覚すべきだな。約束をすっぽかされては、私の仕事が増える」
「ハイハイ、そういうことにしておきますよ」
さっさと任務に行けと目で伝えると、レイニーは肩を竦めて私の部屋から出て行った。
…S.T.R.I.K.E.チームだけではない、スティーブも付いてる。別件でナターシャもいる。レイニーもベンディとしてこの2年間、S.H.I.E.L.D.として極秘任務に携わり失敗することなく帰って来た。2年前と比べて体も大きくなり、スティーブやチームメンバー達と同じ訓練もこなし体力も技術も大幅に伸びた。先の銃の分解だってその内の一つに入るんだろう。
愛着が湧かないといえば、嘘になる。
子と親というよりは、ペットと飼い主のようなものだろうが。それでも、身近で成長を目の当たりにすれば、不要と切り捨てるべき〝情〟が湧いてしまうのは、私がまだ冷酷になれないからだろうか。
「…もう2年か」
チタウリの連中がニューヨークに襲来してから、2年。
レイニーがベンディとして活躍してから2年。
成長期の子どもは大人も驚く勢いで、葦のようにすくすく育つ。それはレイニーも同様、依然として体は貧相だがな。おっとそんなこと言ったらまたマリアに叱られるか。
まぁ、
「…捨てるのは、待ってやるか」
部下と上官という立場としての約束でないことは、私にもわかってる。決してこの荷物を片付けるのが面倒だからとか、ものぐさな訳ではない。自分で散らかしたものは自分で片付けるという習慣を教えてやらねばならんからな。
そう思いデスクに備え付けの引き出しを引くと、この部屋で一度たりとも聞いたことのないプラスチックを擦り合わせたような音が響いた。
「………」
…車、バイク、船、戦車のプラモデル。ヘリキャリアにクインジェットもあるな。最近は小さくて細かい部品でできたものも多いんだな。任務ばかりで暇人の道楽を嗜む暇もないからな。ありがとうレイニー、大変勉強になった。誰も教えてくれと頼んでないし、教わるつもりもなかったがな!
「ほぅ、よくできたアイアンマンのプラモデルだな」
数あるプラモデルの中で一際目立つ。まるで本人の目立ちたがりな気質が乗り移ってるようだ、決して比喩でも誇張でもない。
赤と金のメタリックカラーなアイアンマンのプラモデル。最早怒りを通り越して呆れる始末だが、関節は指先まで一本一本曲げられることに感心した。最近の玩具も侮れないな。精緻な造形のアイアンマンのプラモデルを裏返すと、トニーの筆跡のメモが貼られていた。
『このアイアンマンはマークいくつでしょう? 当てたらご褒美をあげよう by
こめかみの血管がブチ切れる音がした。
「そんなもの知るか!! どれも同じだろうが!!」
Chapter 17
インド洋上空を、S.T.R.I.K.E.チームのメンバーらを乗せたクインジェットが猛スピードで飛んでいた。スターク・インダストリーの技術の粋を結集した最新式次世代型戦闘機はどの戦闘機よりも高い性能を誇り、ワシントンからインド洋まで1時間半でひとっ飛びできるほどだ。
快晴だったワシントンと比べて海上の天候は荒れやすく、インド洋も雨に見舞われた。霧が立ち込め視界が悪いにも関わらず、目的地に辿り着けることも、機体性能の評価として高い。
どれだけスピードを出しても悪天候のなかを飛ぼうとも、ちょっとやそっとの衝撃では決して揺れることのないクインジェットの中で、S.T.R.I.K.E.チーム、スティーブ・ロジャース、ナターシャ・ロマノフ、レイニー・コールソンは作戦内容を確認していた。
「敵は何人?」
「25人。リーダーは
「…よし、バトロックは僕が探す。ナターシャは船を。ラムロウは船尾から、レイニーは侵入したら協力して人質の救出を頼む。人命最優先でだ、できるか?」
「問題ないよ。敵の所属は?」
「主犯のバトロックはフランスの元工作員だ」
「じゃあー
レイニーは目を瞑りながら銃の種類を思い出して脳裏に思い描く。弾丸を暴発させることなく巧みに指先を動かし、時に細く伸ばしたインクを染み込ませて銃を分解するイメージをしていた。今言った銃の分解工程を反復しているとわかったナターシャは驚いて思わずレイニーに問う。
「…今の、もしかして銃の分解? 覚えてるの?」
「現行軍で配備されてる銃はなんとか。改造版とかヴィンテージとか宇宙人製の銃はさっぱり」
「むしろそれもわかってたら末恐ろしいな」
「心強いじゃないか我らのお姫様は。だがこれから行く戦場ではあまり役に立たんかもな。どんな相手でも躊躇はいらない、容赦はするなよ」
「了解」
衛星打ち上げ船レムリア・スター号を視認できる距離まで近付くと、クインジェットのエンジンが止まり両翼のプロペラが起動して垂直飛行に移行した。
中にいたチームメンバーらが高高度落下に備えて準備を進める中、スティーブとレイニーは柔軟体操をしていた。
「レイニーは勉強熱心なのね。でもそんなこと覚えてどうするの?」
「私の器用さはそのままインクに直結するから、腕を磨けば磨くほどできることが増えてってるのです。えっへん」
「ふーん…他にどんなことしてるの?」
「んー? えっとね、サクランボ口に入れてベロで輪っか結んだりしてる」
レイニーは、この前輪っか二つ作れたーと舌をべ、と出して自慢げに話す。ナターシャは直感した、それが示す意味はわかってないと。
まだ13歳の少女なのにやけに舌の動きが艶めかしく見えるのは、気のせいではない。
「…わぁすごい。これは相当のテクニシャンね、将来いいスパイになれそう。…男ども、何見てるの」
「っ……オイ、何見てるんだ。パラシュートの用意まだ済んでないだろ任務に集中しろ」
「えぇ!? 隊長こそ見てたじゃないですか!」
「…? ナターシャ、どういう意味だ?」
「これだから生きた化石は…」
この場に意味がわかってない人物が2人いた。
「そういえばレイニー、アナタはパラシュート着けなくていいの?」
「大丈夫大丈夫。私が誰か知ってるでしょ」
「そうね、テロリストも震え上がるこわいこわーいベンディさま」
【 Bull's-eye 】
(大正解)
「先に失礼」
ベンディの姿になったレイニーの脇を、盾を携えマスクを被ったスティーブが通り過ぎる。歩くスピードを緩めることなくクインジェットのハッチに足をかけ、まるでコンビニに行く時のような歩みのまま宙に身を躍らせた。
【 Fly away 】
(すぐ行くよ)
レイニーも高所を怖がることなくハッチから身を乗り出すと、右腕の形を解いて細いインクの雫を垂らす。雫がやがて水量を増して一本の線になると、
【 I'm off 】
(お先に失礼)
しゅぽん、と音を立てて笑顔を浮かべるベンディの姿が消え、インクが垂れた地点───レムリア・スター号の甲板に、誰にも気付かれることなく静かに屹立していた。
周囲が暗かったこともあり、インクの黒が目に映ることは殆どない。時間と環境も相俟って、天然の光学迷彩を着ているようなものだ。音も無く着地を果たしたレイニーをハッチから見ていたナターシャは、顔を引きつらせて空笑いしていた。
「……あんな悪魔が、こんな静かに空から降ってくるなんて私はゴメンね」
「同感だ。キャプテン同様、つくづく敵じゃなくて安心するよ」
「それ言えてる」
様々な思惑を乗せた箱舟に、役者たちが集う。
「これがマークⅢ」
「マークⅣ」
「マークⅥ」
「マークⅦ」
「マークⅨ」
「全部同じだろ」
「ちがいますよーっ」
「これだからしろうとはダメだ! もっとよく見ろ!」