人ってのは何かを失った後はその空白に新しいものが入ってくるのだろう。それを繰り返していきことが人生となるのだろうか。だとすれば一人の人間が抱えきれるその重さは思った以上に少ないのかもしれない。
1年生 春休み 自宅マンション
(誰なんだコイツは・・・)
俺は鏡の向こうにいる女にそう思う。朝起きて、顔を洗うために洗面所に行き顔を洗い鏡を見たところでの感想である。鏡の女は俺と同じ動きをしている。さっきから震えが止まらない。
この女は目はぱっちりしていて少しツリ目気味、ムスッとした口はハリも色も健康的でそれらが調和した整った顔立ちに合わせた可愛らしいとも言える小さい顔。そして少しくすんだ色の金の髪は腰まで伸びている。身体の線は少し細めだが身長はさほど低いわけではなく自己主張の激しい胸は存在感を放っている。個人的にかなりイイと思うそれぐらいに美少女だった。
問題は服装だ。何故ならその服は普段から俺が寝間着として使っている黒のTシャツに黒のハーフパンツだからだ。そこから理解したことは二つだった。
一つはかなりの美少女だということ。もう一つがこいつは俺かもしれないということ、である。
何故ならこのマンションには俺だけしか住んでいないし、彼女なんてのもいない。あ、ちょっと涙が・・・
そしてそこまでに行き着くと、心は否定し続けても、考えは止まらない。認めたくはないがそもそも鏡は真実を映す。たった一つの真実を認めるしかないのだ。
(う、嘘だろ!?)
そう心の中で叫ぶが効果はない。何かの間違いであることを願いながら、下を見る。
そこには胸の谷間がある。そこには胸の谷間がある。
ふむ・・・・大きい!
「じゃねえだろ!?」
思わず大声でツッコミを入れてしまった。朝からやっちまった。しかし、結構きれいな可愛い声してるなって思う、てか大切なところはそこじゃねえ!
まだ諦めるわけにはいかない。ここで終わるわけには!そう考えながら最後の希望、胸があるよりもあっちの方が重大である。そう、男なら誰でも持っている一本の刀!震える手を落ち着かせながらそこに手を伸ばす。顔を上に向け、目を閉じる。感覚を手のひらに集中する。しかし、真実は残酷だった。
な い。ああ、終わった。
もう納得するしかない。冷や汗が止まらない。納得するしかない真実を前に呼吸が定まらない。そして俺は認めたくない一心で布団の中へ潜り込んだ。猛ダッシュで・・・音も気にせず。朝なのに。
「嘘だ!嘘だ嘘だ、嘘だーー!!」
聞きなれない声が俺の口からでてくる。布団の中で目を閉じる、そして起きて鏡を見るそして潜る。それを何度も繰り返し続けた。でも真実は変わらず夢でもなく俺は男を失った。
そして女になった。