紗夜のBはBitchのB!   作:本醸醤油味の黒豆

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Fとの日常/一段と変わっていく

 美鈴の件は一旦保留になった。

 と言っても連絡は時折来るからそれに答える形になった。紗夜はそれに対してカンベさんのことはそれなりに信じてますからと言ってくれていた。それなりってところがちょっと気になるけど、まぁいいや。恋人からの信頼には応えたいよね。

 

「そんなことが……あったん、ですね」

「うん、まぁまだ続いてますけど」

 

 今日は練習の帰りに羽沢珈琲店に寄ったら偶々白金燐子さんに出くわした。今日も手作りらしいゴシックで露出が抑えめなのに、なんていうかこう、童貞には厳しいところのあるよね。そんなこと言ったら引かれるから言わないけど。

 

「……そんなに、見られたら……その」

「あ、つい、ごめん」

「……興奮、しちゃいますから、ね?」

「うんさっきの謝罪取り消させて」

 

 引かれなかったけど惹かれてくれたらしい。相変わらず燐子さんはなんというか物凄く花音さんといい勝負で童貞を殺してくるよね。ただ残念ながら本人がエロに振り切れてるのとなんだか一年ですっかり慣れを発動し始めたせいでこのくらいの返しはできるようになった。人間は成長するんだよね、ふふん。

 

「カンベ……さん?」

「ん? ってなにしてんの!?」

「なに? って今日は……タイツに遊び心を入れたので、見て欲しくて」

 

 そうですね。黒のタイツかと思いきや太腿の辺りで色が変わっていて境目に猫の耳が見えてるかわいらしいタイツですね? 

 だ、だからってスカートそんなに捲らなくても見えるからね? 焦る俺に向かって燐子さんはくすくすと笑ってきた。

 ──成長してないですね、はいはいわかってたよこんちくしょう。

 

「えっちですね……ふふ、カンベさんはいつも……」

「そっちが見せてきたんでしょう」

「黒色を、ですか?」

「いや今日は──」

 

 確かに黒レースとリボンだったけど白だった、と言いかけて燐子さんはまたくすくすと微笑みを浮かべた。騙された、ハメられた。

 見ちゃいましたよええ。見せてきたんでしょう、そっちもわざと。そうやって文句を言うと、燐子さんはどこかで聞いた発言を振りかざしてきた。

 

「ハメるなら……移動しないと」

「ホテルにはいきませんよ」

「わたしの家でもいいですよ……」

 

 防音バッチリですからね。知ってますよピアノある部屋だもんね。そこは予想済みですとも。俺は断固として拒否させてもらうからね。

 けれど燐子さんは俺の言葉なんてわかっているとばかりに微笑みを崩さない。相変わらず俺が不利なことに変わりはないんだよね。

 

「……そういえば、まだ、童貞なんですか?」

「やめて、聞かないで」

「童貞……なんですね」

 

 連呼しないで心にずっしりくる。童貞は卒業なのに処女は喪失だから云々、みたいな意見を目にすることがあるけど、どのみち童貞は童貞でなんだか喪失感があると思うんだよ。俺はその喪失感をあっさり終わらせたくないんだよね、なんかぱっぱと捨ててひゃっはー、みたいになりたくないし? 

 

「……ふふ、カンベさんは、変わらずにカンベさん、ですね」

「それは褒めてる?」

「もちろん」

 

 わーいやった褒められた。燐子さんはかわいいなぁと案外チョロいという称号を恋人の紗夜様から賜っている俺はぬか喜びをしていた。何がぬか喜びって後で紗夜に指摘されたんだけど変わらずにカンベさんってそれいつまでたってもクソ童貞根性が抜けないんですねって貶されてるわよと言われたのだった。燐子さんまで毒吐くなんて! 

 

「はい……わたしはカンベさんのために、もっとかわいくなって……みせますね……」

 

 だけど、こうして心境が変わった燐子さんの成長は凄まじいもので、胸囲……は全然変わってないというかそれ以上の成長はあるのかと……じゃなくて話それた。脅威の成長を遂げていた。まず自己肯定感が強くなった。俺限定だけど。

 そしてあんまりおどおどした態度をとらなくなった。俺限定だけど。

 更に素の、白金燐子の状態のままなんだか大胆になった。俺限定だけど。

 ──と俺にしか伝わらない成長の目白押しです。それを少しでも外に向けてくれればいいんだけど。

 

「わたしは……全部見せられなくて、怖がりで……だから、氷川さんには勝てない……二番ですから……本気で、変わりたかったんです……」

「俺ってそこまでするほど?」

「はい……もちろんです」

 

 すごいね。自己評価だと燃えないゴミもいいところのクソ野郎って認識なんだけど、どうやら燐子さんから見るとそこまでして手に入れたかったものらしい。悔しくて、変わりたくて、変えてしまえるくらいに燐子さんは、ちゃんと俺を想ってくれてたんだ。

 そんなことを感じていると、燐子さんは今まで聞けなくて、勇気がでなかったんですけどと前置きをして、少しだけ期待したように俺に問いかけてきた。

 

「……もし」

「ん?」

「……もし、カンベさんが、フられた日に……わたしが待っていたら……」

「待ってても……俺は紗夜の恋人になってたと思う、ごめん」

「です……よね……」

 

 しゅん、と燐子さんは肩を落とした。

 ごめんね、あの時はどっちも好きだと思ってたけど、というか今も燐子さんに抱いてる感謝とずっと一緒にいれたら、なんていう想いは変わってない。けど、同時に思うことがあるんだ。

 ──俺は最初から紗夜を待ってたんだって。いつも弱ってた時に来てくれたのは紗夜だから。ストーカーまがいに行く先々に現れて、俺を笑わせてくれたのは、他の誰でもなかったから。

 

「ごめん……」

「謝らないで……ください。会えないわけでは、ないんですから……」

「燐子さん……」

「……それに、二番でも、変わったことで……カンベさんの二番に、なれましたから」

 

 本当に、燐子さんはかつてベルさんって名前でオフパコを繰り返してきたビッチさんとは思えないほど、キラキラと熱のある恋愛感情を俺に向けてくる。熱すぎて困る時もあるけど、炎タイプも効果抜群だよ、俺なんて。

 

「……それに」

「ん?」

「大学も一緒ですから……チャンスはあります、よね?」

「え?」

「え……?」

 

 なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた。え? なんて? 大学も一緒だからチャンスが……チャンス? 大学が、一緒? 

 なにそれ聞いてないんだけど? 俺、てっきり紗夜と俺くらいだと思ったのに燐子さんも同じところ通うの? 

 

「はい……よろしくお願いしますね……これからは、同じ大学の、同期として……ね?」

 

 ね、じゃなくて……ああもうかわいいなぁちくしょう! 燐子さんと紗夜は向き合ってるだけで顔面偏差値の攻撃力が尋常じゃない。美しい系の理想形が紗夜でかわいい系の理想が燐子さんなんだよね。向き合うと下ネタがガンガン飛んでくるからそっちの攻撃力も尋常じゃないけど。

 

「実は……わたし、通う大学について、もっと知りたくて……カンベさんにとっても、有意義な情報を……仕入れてきたんですよ……」

「なになに?」

 

 例えばとりやすい単位とか? 大学は音楽活動に専念したいところもあるからなるべく楽ができるならそれでハッピーだと思うしね。

 そんな期待を、燐子さんはにっこりと俺が惚れてしまうほどの満面の笑みでスマホを見せてきた。

 

「……この、ハートマークは、一体?」

「校内でセックスができる場所です」

「……は?」

「校内でセックスをしてもバレない場所です」

 

 燐子さんとは思えない流暢で淀みもない早口が聞こえた。何言ってるのかわかんないんですけど。

 そして違うんですよと燐子さんは俺に弁明してくれた。曰くこれから一緒に通っていく上で紗夜、もしくは燐子さんがどうしても襲いたくなった場合、バレない場所は知っておいて損はない……ってアホですかあなたは? 襲いたくなってもフツーに我慢してね? 

 

「ちなみに……氷川さんにも、協力、していただきました……」

「手遅れだなこの二人……」

 

 どうやら大学には余計に俺の安息はないらしい。このマッピングデータ貰っておこう。この近くで紗夜か燐子さんに呼び出された場合は断固拒否する姿勢で臨ませていただく所存であります。俺はまだ清い身体でいたいんだ。

 

「……楽しみです、わたし……こんなに、新しい生活が、楽しみだと思うの……生まれて初めてです……♪」

 

 そんな燐子さんとは裏腹に、俺は早速ピンチの予感がした。俺、つまりこの美女二人に挟まれて登校するの? バカなの死ぬの? いやいや両手に花も限度がある。バカみたいにいい匂いのするバカみたいに大輪のキレイな花束両手で俺って潰れて死にますって。

 ひとまず俺は、その贅沢な悩みをなんとかするために友人たちを頼ることにさせてもらった。頼むぞ三バカの残り二人!

 連絡したところ二人から快い了承がいただけた。対応とノリがイケメンのタイクーンと黙って立ってればイケメンのトーマ、腐れ縁のお前たちがいてくれればビッチたちの誘惑なんかにも負けるわけないしね。余裕で勝ち申したな、ガハハ! 

 


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