ある朝、日課のランニングをしているとき一つの事故を目撃した。
それは、散歩中の犬が黒い高そうな車の前に飛び出してしまうと言うもの。
それを見ていたのは二人、俺と、総武高校の制服を着た男。
距離は同じくらい。
俺は、先の恐怖を考えてしまって走り出すのが一歩遅れた。
その間に、男は飛び出して犬を救い出してみせた。
それが、俺が比企谷八幡という男を知るきっかけだった。
「ハッちゃん、お勤めご苦労さん」
「収監はされてねぇよ」
「似たようなもんじゃね?ああ、バッグ持つわ」
「...サンキュ」
「ハッちゃんは同士であり不倶戴天の敵だからな。あ、席は俺の後ろな」
松葉杖をつきながらなんとか席に辿り着くハッちゃん。見舞いに行った時に知ったのだが、彼はなんとMAXコーヒーを缶で飲む派なのである。
ペットボトル派の自分とは相容れないのだ。
しっかりと味わって飲むハッちゃんと、量を飲んでエネルギーにする自分とでは割と噛み合わない。
が、この総武高校では少数派のMAXコーヒー愛好家なので邪険にもできない。難しい話である。
「そういや、由比ヶ浜とは会ったか?あいつも総武の一年なんだけど」
「...誰だっけ、そいつ」
「ハッちゃんの事故の元その1ガールよ。犬の方。あれは磨けば美人になると見た」
「あー、そんな名前だったっけな」
「自分の人生棒に振りかけた事件を半分忘れてやがる。すげーや」
「いや、身体が勝手に動いただけだから。あれは黒歴史だから引っ張るな」
などと言いつつカバンから教科書を取り出すハッちゃん。初登校の際に教科書を忘れるなんて事はなかったようだ。少し安心。
そんな会話をぐだぐだしていると、人がそろそろ集まり始めて来た。
自分をぼっちぼっち言うハッちゃんのポテンシャルはどんなものか割と興味はあるのだが、まぁ孤立をさせない程度にはフォローする事にしよう。
「終わった...」
「ハッちゃん、お前アレ過ぎない?」
とりあえず、授業については問題はなかった。入院中にもちょくちょくノートのコピーを持っていったのと、授業内容がまだ中学のおさらいが終わった所程度の進み具合だった事からだ。
だが、問題は休み時間。
グループはある程度できているとはいえ、クラスの男子にはハッちゃんがどうして怪我をしたのかや、その根が善良な人柄は話している。なのでさほど苦もなくクラスに溶け込めるかと思っていたが。
この野郎、質問責めに合うやいなや「ちょっとトイレ」とエスケープをかましたのである。マジかお前。
それからは、アンタッチャブルな雰囲気が醸し出されてしまった。「あいつは一人が好きなんだよ」とは誰かの言葉。やめてくれ、その言葉は俺にも効く。
「スタートダッシュで出遅れて、どこまで行っても離されるーを実演してんじゃねぇよ。だからお前は八幡なんだよ」
「おい、お前も小町もだけど八幡を悪口みたいに使うなや。あと、マキバオーとか誰が知ってんだよ」
「むしろハッちゃんが知ってる事にビビってんだが」
なんて言葉を交わしつつ、バッグを二つ持って行く。
「ハッちゃん、バッグが重い。置き勉しとけよ」
「ばっかお前、それやったら盗まれたり落書きされたりするだろうが」
「初日からのリスクヘッジが常人のレベルじゃねぇ。でも言わせてくれ。馬鹿じゃねえの?」
「...でも良いのか?お前、俺に付き合って貰って」
「ハッちゃんよ、一つ教えてやる」
「どっかのグループに入れてたら、そもそもハッちゃんの世話係とか立候補しないから」
「...お前もぼっちの道を行く奴だったのか」
「フッ、趣味は一人TRPGだ」
「アレ一緒にやる友達が付属してないって欠陥品だよな」
「まぁ、いつも通りハッちゃんに布教するとするよ。CoCなら一対一でやれなくないし」
「お前作るシナリオエグいんだよ」
「App17の子がいっぱい出てくるハーレムシナリオでもか?」
「それ全員神話生物だった奴じゃねぇか」
「ハッハッハ」
「うぜぇ」
「酷ッ」
ハッちゃんの歩く速度に合わせてのんびりと駅に向かう。
「ハッちゃん目の付け所が斜め下過ぎてシナリオの本線に乗ってくれないんだよなー。いや、それはそれで楽しいんだけど」
「お前何でも楽しむな」
「あれよ多分」
「お前といるってだけで、それなりに楽しいんだよ」
「...おう」
そんな会話をしつつ、ハッちゃんの登校初日は過ぎていった。
俺は、俺のクラスメイトである氷川誠二を少し不気味に思っている。
それはきっと、氷川からの善意に見返りが見えないからだ。ぼっちといっても俺と氷川は違う。俺は友達を作れないのに対して、氷川は親しい友達を作っていないだけだからだ。コミュニケーション能力も、中の上の容姿もあり、その気になればクラスのトップカーストに食い込めるだろうに。
それを放り投げて、俺の手助けをしてくれている。それは、とても歪に思えてならない。
裏切る為の演技かと思ったことは何度となくある。だが、疑えば疑うほど、こいつの行動には善意と敬意をがあるのだとわかってしまう。
俺に敬意を抱くなど、そんな無意味な事をする奴には見えないのだが。
「なぁ氷川」
「ん?」
「なんで、俺に構うんだ?」
「...んー、きっかけはお前が凄い奴だって思ったからだよ。あの日の事故、俺は飛び出せる位置にいた。けど、足がすくんで立ち止まっちまった。だから、その勇気を俺は知りたかった」
「...んなもんねぇよ」
「いや、ある。考える前に体が動いていたんだろ?それは、お前の心の深い所にある勇気が体を動かした、俺にはそうとしか見えなかった」
「要するに、カッコいいって思ったんだよ。お前の事を」
その言葉に、返す言葉がある。
「それを言うなら、お前だってカッコ良かっただろうが」
「...あ、やっぱ覚えてた?恥ずかしいから忘れて欲しいんだけど」
「無理だ、あんなの忘れられるかよ」
それは、事故にあってすぐの事。
車に轢かれて足は妙な方向に曲がり、頭も打ってしまった。
激痛と目に入る血から、死んだかなぁと思ったその時。
声が聞こえた。
「飼い主さん!救急車呼んで!110番で!」
「う、うん!わかったし!」
「運転手さん、手を貸して下さい!彼の応急手当てをします!」
そんな声と共に、俺の体は仰向けにされ、足は正しい方向に直された。ネクタイを外され胸元を開けられたが、苦しみは減らなかった。
「運転手さんは止血を!ハンカチを当てて圧迫するだけでも変わります!...気道確保オーケー、意識あり、呼吸なし」
不意に、閉じる視界、息を吹き込まれると共に、詰まっていた呼吸が戻ってきたのを感じた。
「良し、戻ってきた!呼吸をしっかり!大丈夫、お前は助かる!だから、生きる事を諦めるな!」
霞んだ目で見たその顔は、命を助けるヒーローの顔だった。
「や、小町ちゃん。お兄ちゃん連行してきたよ」
「ありがとーございます!氷川さん!」
「うん、やっぱいつ見てもハッちゃんと小町ちゃんが兄弟には見えないわ。浮気疑ったほうがいいんじゃない?」
「ウチを家庭版案件のネタにするんじゃねぇよ」
家までついてきた氷川。いや、松葉杖の身では駅からの移動は辛かったのでありがたいが、やはり善意が慣れない。
こいつにはもう過剰なまでに貰ってしまっている、なら何かで返さないと帳尻が合わない。
「じゃ、今度MAXコーヒー奢ってくれや。ペットボトルで」
「邪教徒め」
「いいだろ別に、量飲むタイプだって悪くないだろ、健康以外には」
「いいじゃんお兄ちゃん、せっかくできた友達なんだし。あ、今の小町的にポイント高くない?」
「「...友達?」」
「あれ、氷川さんまでお兄ちゃんっぽくなってる」
酷くない?
「ま、いいや。また明日な、ハッちゃん」
「おー...ってバッグ持ってくんじゃねぇよ」
「すまん、忘れてた」
「うっかりさんなんですねー、氷川さんって」
そんな言葉と共に氷川は去っていく。
「うん、氷川さんがいるなら、お兄ちゃんの高校生活も安心だね!」
「...まぁな」
本日いきなり逃亡をかましてしまったのは黙っておこう。ぼっちに質問責めの対処とか無理なんだ、うん。
そんな、1日があった。
オリヒロインがいるのなら、オリ友達(未満)がいても良いはず!という妄想から生まれた話です。
ちなみに、オリ主こと氷川誠二くんは医者の次男坊。親からいざって時の対処法は仕込まれていたという設定。ただ、ヒッキーとは逆に文系(特に古文)が壊滅的で特進クラスに入れなかった経歴を持っている。
あ、続くかどうかは未定です。俺ガイルはアニメ派なので(にわか宣言)