今は6月、ハッちゃんの足のギブスも松葉杖も取れ、体育の「二人組組んでー」で一人余る状況になってしまった事以外はとりあえず問題はない。ちなみにその一人はハッちゃんと俺と材木座の3人の熾烈なる勝負(じゃんけん)によって決まる事が通例となっている。
もっとも、どこかで欠員が出たら俺がヘルプに行くというのは決まっているのだが。だってあいつら買収してくるんだもん。MAXコーヒーのペットボトルを箱で買う自分としては、出費は抑えられるなら抑えたいのだ。
だが、問題になっていない事が問題な事もある。
俺は普通にクラスメイトとも話したりするのだが、ハッちゃんは未だに「ああ」とか「うん」とかをどもりながら言う程度なのだ。自己主張って大事だと思うんだよなお兄さん。
「なぁハッちゃん、お前そろそろクラスに馴染まね?」
「いや、馴染んでるから。空気として必要不可欠な存在なまであるから」
「流石に空気はあかんだろ。今のお前はクラスでは刺身のツマくらいの価値しかないぞ」
「...それは流石に言い過ぎじゃね?結構傷つくんだが」
「まぁ好きでも嫌いでもないって位置は楽だから気持ちはわかるんだけどな」
かたやスマホゲームの周回をしながら、かたやSwitchでゲームをしながらでの会話である。どっちが悪いといえば、どっちも悪い。お前ら学校に何しにきているのだ。とは某現国教師の談である。
「んで、お前今何やってんの?」
「カリギュラOD。Switch版で出るとは思わなかったからつい買っちまったよ。PS4版持ってんのに」
「ブルジョワめ」
「医者の家系なめんなよ、ハッちゃん。まぁ、金はバイトからだけどな」
「何、お前働いてんの?引くわー」
「引かれるのかよ。漫画喫茶はいいぞ?やる事なくて金だけ貰えるんだから」
「マジか」
「マジマジ。住人の人との挨拶さえしてれば問題はない。むしろ住人の人仕事自主的に手伝ってくれたりするから」
「すげーな住人の人」
「本当に頭上がらないわ。まぁ、社会の底辺だから見習いたくはないけど」
「お前...」
「ハッちゃんもウチ来てみる?社会見学的な感じで」
「いや、遠慮しとくわ」
「来といて損はないと思うぞ?いつか小町ちゃんが結婚したとき、家から追い出されるのは誰かを考えたらさぁ」
「いや、小町を嫁に出す訳ないだろ。常識的に考えろ」
「あ、シスコンスイッチ入った」
などと言いつつ予鈴がなったのでセーブポイントでセーブをしてSwitchをしまう。メビウスにはコンビニよりもセーブポイントが多いのだ。まさにコンビニエンス。
「んで、ハッちゃんよ。貸したゲームはやってみたか?」
「...ああ、やったよ。正直甘く見てたわ。エロ展開になった時はクソビビったけど、すっげえ面白かった。でも作者以外FGOと関係なくね?」
「いずれ分かるさ、いずれな」
「お前それ言いたかっただけだろ」
「使い所意外とないんだよなー」
「まぁいいや、とりあえず言えるのはアルクェイドが最高だって事だな」
「は?琥珀さんが最高に決まってんだろ」
「は?」
その言葉がきっかけとなり睨み合いが始まるが、現国の平塚先生がやってきた事でそこから先に進展することはなかった。
「続きは後でな」
「ああ」
どうでもいい決闘が始まる!
事はなく、次の休み時間である昼休みになるとどちらも口を閉ざした。
だがそれは、刃を完全に収めた訳ではない。居合斬りのように、敵を一撃で言い負かす一刀を探しているだけなのだ!
「それはともかく、スマブラやる人手ー上げて」
「あ、やるやるー」
「氷川またSwitch持ってきたのかよ懲りないな」
「じゃあ、ステージランダムアイテム全ありの3スト制なー」
わらわらと集まってくる男子たち。やっぱみんなスマブラ好きなのね。
とりあえずいつも通り俺とハッちゃんと佐伯と春日が最初になる。
だが、所有者でありこの中で最強である俺は皆に集中狙いを受けてすぐに落とされた。いや、スネークのリモミサはピットじゃ無理やねん。
それからはいつも通りのハッちゃんの独壇場、3人乱闘では真ん中にいる奴が死ぬという事をわかっているので、ひたすらに端に逃げ回りながらブラスターを決めていた。横槍を入れるタイミングの悪辣さにおいて比企谷八幡は最強。さすがの卑劣さである。
そして、二対1になりやられるまでがテンプレ。厨キャラのウルフ使ってそれってどんな気持ち?と煽ってみたらボディにいいのを食らった。おのれハッちゃんめ。
「じゃあ、交代なー。一位以外ローテで」
「あの!」
「どした?目黒」
「ぼ、僕もSwitch持ってきたんだけど、良いかな?」
「...よっしゃ野朗ども!追加じゃ!目黒大先生を敬いながら引きずり下ろすのだ!」
「まぁ俺らは次見てるだけだけどな」
「あ、ちょっと待って。いまローカル通信オンにするから。ついでにフレ登録よろしくなー」
「あ、うん!」
そうして、ウチのクラスの昼休みの名物となったスマブラは、8人対戦をできるまでの規模となった。
尚、これが一年続いてもハッちゃんのコミュ力改善には役に立たなかったというのは、俺の少ない人生経験の中でも衝撃の真実の一つである。
まぁ、害悪ブラスターウルフが好まれるかといえばそうでないのは当たり前といえば当たり前なのだが。
ちなみに目黒の持ちキャラはヨッシーであった。空中戦の鬼がおる。1on1では厄介そうだ。負けるつもりはないが。
なんて事を考えながら見ていると、目黒は見事一位を取ってみせた。流石に新参を集中放火するのはリモミサの鬼佐伯でも躊躇われたのだろうか?いや、そんな甘い奴ならさっき一位を取れる訳はない。
つまり、目黒の実力という事だろう。これは楽しみだ。
尚、最終戦でアイテムなし終点をやってみたが、俺と目黒はだいたい互角くらいだった。つまり人柄で一位を取ったのか、策士だな目黒。
本日の放課後。帰宅ラッシュに巻き込まれないようにちょっと駄弁ってから帰るのが俺とハッちゃんのいつもの流れとなっていた。
「んでハッちゃんよ。クラスの連中とそこそこ仲良くなれたかい?」
「...多分な。まぁ、ゲーム仲間って感じだろ」
「そこから一歩進むのが難しいんだよなー。この件じゃ俺も人の事言えないんだけど」
「お前でも、そうなのか?」
「なんかねー、普通に仲良くするのも出来るのよ。一緒に遊んだりするのも楽しいって思う。けど、そこで止まっちまうんだよ、俺は。正直、こんな波長の合う奴とかハッちゃんが始めてなんだぜ?」
「...そうは見えないがな」
「ハッちゃんにはどう見えてんだよ」
「このクラスのリーダー格」
その言葉に思わず吹き出す。どれだけ俺を高く、自分を低くみているのやら。
「そしたらハッちゃんは取り巻き一号か?似合わねー」
「...だな」
「うん、ねぇな。なんでスクールカーストとか面倒なのに関わらなきゃなんないんだよ。番外で十分十分」
「出た、番外とかいう厨二ワード」
「カッコいいと思う心を失わない事は、大事だと思うんだ俺」
「いや、それ病気が解けた後で死ぬほど後悔する奴だから」
「ハッちゃん的に経験があったり」
「は?ねーし何言ってんの?」
「よし、小町ちゃんにLINEで聞いてみよう」
「やめろ下さい。...ていうかいつ小町と連絡先交換しやがったお前」
「あ、シスコンスイッチ入った」
グダグダな会話をしつつ、そろそろ良い時間なので下校を始める。
「さて、じゃあ琥珀さんが最高である事を教えてやろう」
「は?アルクェイドが最高にきまってんだろ」
噛み合わないが、噛み合う二人。その姿を友人と言わないのは、当人たちだけだった。
病院生活に少し慣れたころ、親に持ってきてもらったラノベも読み尽くした頃、来客があった。
「失礼しまーす」
入ってきたのは、総武高校の制服を着た、どこかで見た事のある少年だった。
「こんにちわ、比企谷八幡くん。俺は氷川誠二、1-Cのクラスメイトだ」
「ど、ども」
「プリントとかノートのコピーとか持ってきた。病院って暇だろ?勉強でもしてるといいかなーって」
「はぁ」
そうして渡されたノートとプリントと一冊の本。
紛う事なき、エロ本だった。
「は?」
「なぁに、そいつはサービスよ」
「馬鹿かお前?」
「ありゃ?気に入らなかった?二次元にしか興奮しない人?」
「人を勝手に異常者の括りに入れてんじゃねぇよ」
「まぁ、どんなのが好きか聞かないで渡した俺も悪い。仕方ない、持ち帰ろう」
「.,.ちょっとだけ中見てもいいか?」
「どーぞどーぞ。でも見すぎるのはダメだぜ?未知のページの方がエロく感じるもんだから。古事記にもそう書いてある」
「忍殺かよ」
「わかる人増えたよなー、アニメ効果って凄い」
「あのアニメは衝撃だったよな、いろんな意味で」
「お兄ちゃん、見舞いに来たよー!」
瞬間、アイコンタクトが飛んでくる。
俺が壁になる、その隙に布団の中に隠せ!
行動は、一瞬だった。
「こんにちわ、君は比企谷くんの妹さん?俺は氷川誠二、クラスメイトだよ」
「あ、どうも!比企谷小町です。お兄ちゃんのお見舞いですか?」
「ああ、比企谷とは席が近くてね。ノートとかプリントとか持ってきた感じよ。それに、比企谷も学校復帰した時に知り合いが居たら多少楽かなーなんて老婆心もあったり」
「わざわざありがとうございます!」
「いえいえ」
チラッとこっちを見る氷川、ありがとう、お前のおかげでなんとか小町にゴミを見るような目で見られる事は避けられた。
って元凶もこいつじゃねぇかと思考をリセットする。プラマイゼロ、むしろマイナスだ。
「それにしても、比企谷と似てないねー。すっごく可愛い。将来が楽しみだ」
「ありがとうございます。けど、今ここには比企谷が二人居ますし、小町で良いですよ?」
「ちょっと小町ちゃん?何、この中途半端イケメンに絆されちゃった感じ?」
ガバッと近づいて耳打ちしてくる小町。
「お兄ちゃん、これはチャンスなんだよ!わざわざお見舞いに来てくれるクラスメイトなんて居ないんだから、この機会に友達になってぼっち卒業しちゃいなよ!」
「ばっか、そんな簡単にぼっちが卒業できるわけないだろ。不治の病だから」
「そんなんだからゴミいちゃんなんだよ」
「協議の結果、名前呼びでオーケーになりました!」
「そうなの?じゃあよろしく小町ちゃん、八幡...言いにくいな、ハッちゃんで良い?」
「...もうなんでも良いわ」
その後は、氷川主催の簡単なノートの範囲の講義があった後、面会時間が終了し、二人は帰っていった。
「どうすんだコレ」
一冊のエロ本を残して。
ちなみに、氷川がこの日からずっと小町の事を家まで送っていたという事実が発覚して、怪我を押しての乱闘に発展しかけるまであと2週間だった。
評価してくださった方々、ありがとうございます!
いや、短編ランキング3位とかに上がったのを見てビビりました、やっぱ俺ガイル効果凄いですねー。