後ろの席の八幡くん   作:気力♪

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隣のクラスのガハマさん

「やっはろー!」

「うん、その挨拶にだけは慣れんわ。高校デビュー暴走してない?」

「そ、そうかな...」

「いや、見た目はすっごく可愛くなったんだけど、ちょっとチャラい感じがねー。多分ハッちゃんとか「苦手なタイプの女子だ...」ってなると思うぞ」

「それはちょっと...でも、これは優美子とか姫菜とかに手伝って貰って、変われた!って私だから、この私でいたいんだ」

「...うん、それなら良いんじゃない?じゃ、頑張ってハッちゃん口説いてねー」

 

そう言って逃げようとするも、その手を掴まれる。意外と力強いぞガハマさんッ⁉︎

 

「そこはホラ!協力してくれたりとかじゃないの!」

「いや、なんでハッちゃんがリア充になるのを応援しないといけないんだよ。むしろ積極的に妨害するぞ俺は」

「りあ、じゅう?」

「あ、そこ通じないかー。最近の若者言葉に混ざってると思ったんだがなー、ネットスラング。ああ、今はリアルが充実してる人の事。つまり俺の敵だ」

「いや、なんで敵対するの?」

「だって自分より幸せなやつとかムカつくじゃん」

「割と最悪な理由ッ⁉︎」

 

「というわけで、俺はガハマさんの恋の応援はしないよ」

「こ、恋じゃないし!」

「そう?前見た時は恋する乙女って感じだったけど」

 

それは、ハッちゃんが入院して初めての金曜日の事だった。

 


 

「すー、はー、すー、はー...よし!...でもなぁ...」

「すまん、通って良いか?」

「あ、うん大丈夫です」

「所で、見覚えがあるんだけど、君ってあの時の飼い主さん?」

「なんでそれを...ってあの時のお医者さん!」

「ども、氷川誠二です。医者は志望してるけどまだ学生よ。ハッちゃんに用事?」

「ハッちゃん?」

「比企谷八幡、ここの病室の主の事。1人部屋って豪勢な金の使い方してるよなー、払いは車の人らしいけど」

「そっか、これひきがやはちまんって読むんだ」

「なんだと思ってた?

「えっと、ヒキタニヤハタかな?」

「八幡製鉄所は有名だもんなー、というわけで扉オープン」

「ちょ、ちょっとタンマ!」

 

「何やってんだお前」

「や、ハッちゃん。お客を連れてきたよ」

「ど、どーも」

「ド、ドーモ」

「ニンジャの挨拶かお前ら」

 

とりあえず、目線で「こいつ誰だよ!」と必死に伝えてくるハッちゃんの目線がうっとおしいので自己紹介をさせるとしよう。ハッちゃんも好意的な感情を向けられて悪い気はしないだろう。

 

「こちらはいつぞやの犬の飼い主さん。覚えてる?」

「いや、まったく」

 

「え⁉︎」と固まる由比ヶ浜さん。まぁ、ぼっちってこういう生態なのよ。

 

「じゃあ、自己紹介からだな。改めて、俺は氷川誠二。忘れてないよな?ハッちゃん」

「あ、当たり前だろ」

 

死んだ目が泳いでる、コイツ忘れてやがったな。

 

「じゃあ次、コイツは比企谷八幡。あの日のヒーローな」

「茶化すんじゃねぇよ」

「事実じゃね?」

「あんなんをヒーローだとか認めてたまるか。今日日のヒーローは誰かを助けつつ自分も助かるもんなんだよ」

 

などとヒーローの持論を語るハッちゃん。やはり貴様もニチアサの徒か!

 

「じゃあ最後、どうぞ!」

「え、えっと、私は由比ヶ浜結衣です。比企谷さん、あの日サブレを助けてくれて本当にありがとうございました!お陰で、サブレは今も元気です!...あ、えっとサブレってのはあの日助けて貰った犬の事で...」

「あー、そういう事か」

 

ハッちゃんが何かを察したのか、空気が冷え込むのを感じる。

 

「俺は、俺の勝手で動いただけだ。というか、思わず体が動いてたってだけなんだよ。だからあんたが責任を負う必要はない」

「いや、違くて!」

「しかも入院費用はあちらさんが全部持ってくれてる。お陰で俺は学校に行かないでのんびりできてるって訳だ。だから、あんたが気にする必要とかは全くないんだよ」

 

などと、突き放す言葉で伸ばされた手を払いのけようとするハッちゃん。

全く、なんで俺がと思わなくはないが、それでも今泣きそうな彼女をそのままにしてはおけない。

 

だって、後味が悪いだろう。

 

「ハッちゃんよ、このまま喋らせておけば「私、なんでもします!」とか言質取れたかも知れないのに勿体無いな」

「オイ」

「それから由比ヶ浜さん、言葉を曲解することに定評のあるハッちゃんだ。伝えたい事があるのなら、ど真ん中ストレートで思いっきりだよ。もう終わった事なのに君がここまで来たのは、それだけ想いが強かったって事だろ?なら、言葉に出さないと」

「...ありがと」

 

そうして、一つ深呼吸をしてから、少女は言った。

 

「ありがとうございました、本当に。私馬鹿だから、それしか言えないです。けど、この気持ちは責任とかそんなものじゃなくて!」

 

「あなたに、サブレの命を救ってもらった家族の、権利なんです。多分」

 

「権利なら侵害はできないな、ハッちゃん」

「氷川、お前...」

「だから、黙って受け取ってやりなよ」

 

言外に、キツイ言い方をした事を咎めつつ先を促す。

 

「わかった、受け取っとく」

「うん!」

 


 

「まぁ、そんな青春イベントを頭の中から放り出してるのがハッちゃんクオリティなんだけど」

「ま...マジ?」

「うん、前にさらっと聞いてみたらガハマさんの名前すら覚えてなかったよ。イメチェンした今じゃ、顔も一致しないんじゃないかな?」

「うー...なら、もっかい仲良くなれば良いだけだし!」

「頑張ってねー、俺は手伝わないけど」

 

「そろそろ予鈴が鳴る、次の授業の準備しなきゃな」

「うー...じゃ、また今度ね!絶対ヒッキーと仲良くなりたいんだから!」

 

元気にタタッと隣の教室に戻っていくガハマさん。

 

「ハッちゃん爆発しねーかなー」

 

おっと本音が漏れた、気をつけねば。

 

その後、席に戻ると「何今のビッチ、お前彼女いたの?」とかほざきやがった奴がいた。てめーの客だよ畜生。

 


 

「それでさー、ガチに覚えてない訳?ガハマさんの事」

「いや、ぼっちの対人スキル舐めんなよ。一度会っただけの奴とか覚えてられるか」

「ぼっちにも色々いると思うぞ」

 

放課後の教室、帰宅ラッシュから逃れるためのちょっとした駄弁り。

何だかんだと続いている奇妙な習慣である。

 

「それで、そのガハマさんとやらがどうしたんだよ」

「今日来たお前がビッチとか言ったチャラい子にジョグレス進化してた。ありゃ男子どもがほっとかんよ」

「へー」

「興味なさげなハッちゃんに耳より情報。実はもう言い寄られた事があるらしいけど、その時に好きな人がいる!で乗り切ったそうだよ」

「そいつはなんとも、リア充が好きそうな話だな」

「その人は、颯爽と駆けつけて、我が身を顧みずに車から家族を助けてくれた人なんだってさ」

「...オイ、お前」

「つまるところそういう事。俺、ハッちゃんへの繋ぎの為だけに脈のない美少女に利用されてんだぜ?MAXコーヒー奢ってくれや、ペットボトルで」

「...まぁ、時間が経てば頭冷えるだろ。恋なんて衝動みたいなもんだ」

「ちなみに、俺はガハマさんをハッちゃんと合わせるつもりはないんだけど」

「一応聞くが、なんでだ?」

「ハッちゃんがリア充とか殺したくなるじゃん」

「真顔でしれっと言うな、怖いだろうが」

 

そんな事を言いつつも、いい時間なので自然と席を立つ。もう少しで吹奏楽部が教室を使いにくるのだ。初めてそれに遭遇した時のハッちゃんの顔は割と見ものだった。どうして写真撮っておかなかったのかッ!

 

「じゃ、また明日なー」

「おー」

 

ハッちゃんは自転車でせかせかと、俺は徒歩でのんびりと帰る。

 

今日はバイトも無いので、帰ったらハッちゃんを陥れる次のCoCのシナリオでも書くとしよう。

 

「あ、でも何処でやろ?...ハッちゃん家押しかけてみるか」

 

TRPGは割と時間がかかるので、学校でさらっととかはできないのだ。ゴリラTRPGみたいなのを除いてだが。

 

いや、学校でゴリラTRPGをやる勇気は俺にはない。アレは深夜テンションでやるものだ。うん。

 

そんな日の事だった。




ガハマさん回でした。ちなみに、主人公の応急手当てのお陰で意識を取り戻すのが早まり、結果遭遇できたという設定です。
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