私は失敗した。
いや、優君がせっかく拾った命なのだ。ご両親以上に甘やかそう。そう誓った私は…
「流転さん、プール行こう!」
優が何やらチケットを片手に詰め寄ってきた。コイツ何勝手に人の家に上がってるのか。お母さんですね家にあげたの。如月姉弟は顔パスでウチに上がってくるのだ。ダイニングでバケツアイスを食べながら寛いでやがった。
「せめてお皿によそいなさい。そんなだからデブになるのよ。」
もっとも丸っこくて可愛いが、それは身内びいきだろうか。与えた分だけ食べるので面白がって食べさせたらコレ…。幸せの証だよね?
「お姉ちゃん、オレはマッチョだよ。」
「都合の悪い時だけお姉ちゃんとか呼ぶな。それにあなたのはマッチョって言うよりガチムチでしょ。」
「そういう言葉使いやめた方がいいよ。なんていうか、女捨ててるっていうか。」
この子は何を期待しているのか。
「捨てるも何も拾ってないんだよ私は!」
「ふーん。ま、いいや。で?プール行く?」
「1年で10cmは伸びたからな。新しい水着買わないと。ギターの弦買ったから小遣いが…。前借りして千早と買いに行くか。」
めんどくさいなあ。男なら多少大きくなっても海パン使い回せるのに。
「オレが買ってあげるよ!お小遣い貯めてるんだ!似合うの選んであげるよ!」
テーブルから身を乗り出して、食い気味に答える優。
「大胆だなぁ。女の水着選ぶって。私でもあのファンシー空間に入るのは躊躇うんだぜ?」
「そ、それは。オレも恥ずかしいけど!(千早お姉ちゃん抜きで行きたいんだ)」
ボソボソと喋るが聞こえているぞ。コイツ、12にもなって大人になったら結婚するを本気にしてるのか?ごめんだぜ。誰か適当な子とくっ付けるか。それにはコイツの腹をどうにかしないとなあ。
「聞こえてるよ。2人で行きたいんだろ?全く!夏ランドのチケットに私の水着。一体いつからお金貯めてたんだ?」
「1年くらい」
「っ!」
ちょっとクラっときた。確かに金遣いの荒い優君がここ1年買い食いしないでウチでお菓子を食べていた。コイツが女だったら堕ちてたぜ。ふうっ。
「だからウチでオヤツ食べてるんだな。ていうか如月家で間食禁止令が出てるだろ!なんで優君に餌付けしてるんだ、バッお母さん…」
ババアって呼ぼうとしたら包丁を持ってる右手を振り上げやがった。怖えよ!
「だって優君可愛いじゃない。おデブで許されるのは子供のウチよ。それに息子とは仲良くしておきたいじゃない?」
「だっ、(私は女色だって言ってるだろ、お母さん。)」
「ああ、千早ちゃん?姉も弟も両方もらっちゃいなさいよ。どっちにもモテそうな顔してるし、ちょうどいいでしょ。」
せっかく耳打ちしたのに声がデケエよババア。
「?まあいいや。お母さんチョコ味のバケツください!」
「あら、今回はバナナ味、期間限定なんだけど、新しいのもあるわよ。どっちにする?」
「両方で!」
「このデブ!!アイスはな!脂肪の塊なんだ!!そんなんだからブクブク太るんだよ!お前は魔人ブウか?ハート様か?私と結婚したいならその汚ねえ腹を引っこめろ!デブゥッ!」
ヤバッ!マジで頭きて訳が分からんくなった。すごい暴言を吐いた気がする。優君もお母さん、ババアも目が点になっている。
「「やったー!」」
「?」
「言質取ったわよ!痩せたら結婚してくれるって!」
「オレ!頑張って細マッチョになります!」
「「それは無理!」」
ババアとハモったが、それどころではない。
「ていうか結婚はしねえって!私は女の子が好きなの! あっ」
言っちまった〜。終わった。終わった。
「お姉ちゃんが好きなの?」
ババアが頭抱えてるザマ見ろ。言ってやった言ってやった。あはははは。
「でもお姉ちゃんもそのうち結婚しちゃうよ?家族になるには俺と結婚するしかないけど?」
このガキめちゃくちゃ頭いいぞ。2秒でこの切り返し。バラエティ番組向きだな。
「別にっ!千早のことじゃないし!」
本当に違うのにこれじゃ図星みたいだなぁ。ああ、もう終わってくれ。あんまり老人を虐めるんじゃないよ。
「ふーん。まあ今はいいや。必ず痩せて迎えに来るから!」
「優君…。まあ、痩せてくれたら嬉しいし、そんなんじゃ30で死んじゃうよ?」
「じゃあ食い納めって事で、この2個のバケツアイスは食ってくよ!」
「「ダメそう」」
12分で800gのアイス2個を平らげて優君は帰っていった。
マジで765に早く入ろう。30までは結婚を伸ばせるだろう。なんだかんだで可哀想で結婚してしまいそうだ。夜のアレはできないだろうが、それでも良いと言われてしまえば、断ることは難しいだろう。
ヨシ!思い立ったが吉日だ。あの曲を765に送ろう。ちょうど律子がデビューしたところだ。プロダクションとしての下地もできつつある。時期としては悪くない。
私は自室に篭ると、仮歌のCDをいそいそと準備し始めた。