世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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ニ虎と照。二人との組手が、氷室に新たな可能性を宿す


第十一話 流星(りゅうせい)

中の地域の一つ、ニ虎。

 

「フッ!ハッ!」

 

一晩の思考の後に弟子入りを決めた氷室は、ニ虎との組手に望んでいた。

 

「おーおー、速ぇなぁ~。氷室君の縦拳はぁ。

 

━━━━だが、動きがまだ単調だねぇ」

 

自分の縦拳の連打を、昨日の照と同じような技で弾かれる。しかし其の動きは、照以上のキレと精密性を誇り、まるでそれは━━━━

 

《何て言うんだっけ…あの、ひらひらした生き物》

 

まるで、空を優美に舞う。一羽の白い蝶々の様に美しかった。

 

刹那、氷室の身体は宙を舞った。

同時に意識を一瞬で、脳が認識するよりも早く、体から刈り取られたのである。

 

「ニ虎流・操流ノ型 天地(てんち)…っと」

 

地面に叩き付けられる前に、照が氷室を受け止める。

 

「ニ虎さん!あんまり強くやらないでくださいよ!涼君、まだ怪我治って無いんですからね!」

 

「ばかたりぃ。元々怪我させたんはお前じゃろがい。

 

此方はこれでも、かなり手加減してやったんだ。これ以上の加減、俺にゃあ出来ねぇ。めーんどくさいし~♪」

 

《本当にこの人は~!》

 

「ッ…ハ!」

 

「あ、涼君目が覚めた」

 

「……………負けた、のか……」

 

しょんぼりと落ち込み、暗い表情になった氷室。

それを見たニ虎は、彼にこう助言を投げた。

 

「…それでも、縦拳の速度はかなり良かった。次に繰り出すなら、肩と背筋の脱力を意識しながらやってみると良い。

 

後、連打の最中に下段蹴りや膝を使って、相手の体勢を崩したり出来るようになれば、御得意の連打が通りやすくなる。それと真っ直ぐだけじゃ読まれやすいから、時々上下からも攻撃してみろ」

 

んじゃ休憩っと、ニ虎は丸太に腰掛け無ノ型 空で呼吸を調えつつ、目を閉じて集中し始めた。

 

「脱力…」

 

氷室はそう言い、疲労で重くなった身体を地面に投げ、静かな寝息を立て眠る。

 

《脱力か…これは俺が、一肌脱ぐべきだろうか?》

 

ニ虎からの反省点を整理しつつ、照はそう考えた。

最強に至るには、より強い相手と戦い、打ち勝たねばならない。自分がやろうとしている事は、其の野望を叶える道を険しくする行為。

 

しかし、照はこうも思う。そんな困難で進み難い道を越えた時こそ、武道家という生き物はより強く、より高みへと進む事が出来るようになるのだと。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

「涼君、少し良いか?」

 

翌日、ニ虎からの助言を元に縦拳の鍛練をしていた氷室へ、照は未開封の缶詰と長い板を抱えて声を掛けた。

 

「何だ?今、鍛練してるんだけど」

 

「分かってる。けど、昨日の涼君の戦いを見て、これはやるべきだと確信した。絶対にやった方が良い」

 

缶詰を置き、板を乗せ、照は其の上へと乗った。

 

「昔、曲芸師が丸い物体の上に乗りつつ、速い御手玉をしていたのを見た。初めは何だあれと馬鹿にはしたが、実際はとてつもなく難しいの分かってね。

 

彼等は身体の『重心と力の入り抜き』を駆使する事で、不安定な場所でも軸がずれる事なく、演技を可能にしていた。其れを知り、鍛練を積み重ね続けた。お陰で、俺は身体の力みと脱力を使いこなせるようになった訳だ。

 

涼君は蹴りの鋭さや脚の瞬発力、縦拳の速さが武器。其の武器が、身体の無駄な力みのせいで活かしきれていない。先ずはこれで身体から余分な力を抜いて、より速い動作が出来るようにしよう」

 

「お、おう…」

 

氷室も照に続く形で乗り、バランス感覚を掴もうとする。だが…

 

「うぅおおおおお!?ふげっ!!!!!」

 

コロコロと不規則に転がり、バランスを取らせない缶詰。身体を立て直そうと重心をずらした際に、氷室は勢い余って地面に叩きつけられた。

 

「俺も最初はよく転んだよ。何度もやって、何回も失敗して、そして成功した時の嬉しさが何倍にも膨れ上がる。諦めないこと…これが大事」

 

前世で学んだ事。どんなに長い道のりだろうと、進み続ける事、歩み続ける事にこそ『意味』がある。途方のない道の果てを目指し続け、いつか辿り着けるように。

 

「照…お前━━━━━オッサン臭いな」

 

「涼君。俺、君と同い年位なんだけど?地味に俺、言った事を気にしてるんだけど?」

 

「オッサン臭いっつって何が悪いんだ、思った事を言っただけだ」

 

「縦拳みたいに真っ直ぐってか…って上手くねぇよ!?」

 

ワーワーギャーギャーと口喧嘩を始めたと思えば、何時の間にやら組手に発展し、互いに殴り合いで血を流し合う少年二人。

 

《仲良いなぁ、アイツ等》

 

そんな様子を片腕腕立て伏せをしながら見たニ虎は、心中でそう呟いた。

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

雨が降る日も━━━━

 

「こうか!?」

 

「違う、膝と足首が硬い!左足が離れてる!外向きに出てるのは、了君の癖みたいな所があるから注意して!」

 

雪が降る日も━━━━

 

「肩に余計な力が入ってるから、重心取る前に必ず深呼吸!」

 

「がぁぁぁぁぁ!!わっかんねぇええええええ!!」

 

二人の特訓は休む事なく行われる。

 

氷室は照から学び、照は氷室から学ばされた。

教える事の難しさ、感覚と理論は背反している事。

 

だからこそ。何度も、何回も。

 

特訓と組手を繰り返し、二人は互いに何をするべきかを汲み取り、自分の物にしてゆく。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

月が昇っては沈み、太陽が其れを追い掛ける。

そんな日々が過ぎ、アキラがニ虎の弟子となって九ヶ月、氷室は三ヶ月が経った、ある日の組手…………

 

「フー…!フー…!」

 

「ゼェ…ゼェ…!!」

 

その日は風も凪ぐ、雲一つない、中では珍しい快晴日和。

照と氷室は、互いに身体に内出血と打撲傷が目立つ。

 

《くっそ…!相変わらず縦拳が速い…!》

 

《釘擊…ホントに厄介過ぎる…!》

 

喧嘩と組手を繰り返す度に、両者は相手の武を思う。

 

氷室にとって、照の繰り出す打撃は、相手の防御を通り越したガード不能の貫通する打撃。

 

照にとって、氷室の放つ打撃は、動体視力の認知を上回る速度を持ち、対処する事が困難な打撃。

 

互いにダメージを負い、消耗した体力を加味。繰り出せるのは、おそらく一発限りだろう。

 

故に二人は最後の一撃を放つために構える。

 

《━━━━━━━何だ?》

 

其の感覚を、二人はほぼ同時に感じ疑問とした。

 

照は奥義を継承した時と同じ、感覚が研ぎ澄まされ。

更に全身の力が『心臓』の中心から溢れ出す感覚を。

 

氷室は膨らませた風船から空気が抜かれ、萎んでゆくように。

全身から『力』が抜け、あらゆる『力み』が失くなる感覚を覚えた。

 

《今なら…撃てるかもしれない!最高の擊をッ…!》

 

《今なら出来る…!最速の縦拳が!》

 

同時に、二人は動いていた。

 

《分かる…感覚が━━━━━!!!!!》

 

全身を絶え間無く流れ続ける血流。

其の流れを、鬼鏖の原理と同じように操り、背筋→肩→腕の順に連鎖的に伝導、加速させて行く。

其の打撃は至って単純(シンプル)。しかし単純(シンプル)故に最高の打撃となる。

 

放つは血流の加速+筋肉流動。

直線の擊で敵を貫き、破壊する。

 

後に照は、此の擊に『釘擊(くぎうち)(じん)』と『槍擊(そうげき)(じん)』いう名を与えた。

 

 

《脱力から緊張へ!全身をバネに…たった一撃に全部乗せる!》

 

深く、深く、深く。息を吸い込み、其れを一気に吐き出す。吸い込みに連動し、氷室は身体を低く、低く下に構え━━━息を吐いた瞬間に地を蹴る。

 

彼が行った一連の動作は、武士の放つ居合に酷似していた。だがしかし、其の拳速は居合の比に非ず。

まるで夜空を駆ける、一閃の星光の様に煌めき。

拳の風圧を、拳の擊音を、彼の後ろへと置き去りにしていた。

 

後に氷室は、光速へと到達した此の必殺の縦拳に『流星(りゅうせい)』と名付けた。

 

 

カッ!!!!!と、拳は一瞬でぶつかり合い、爆弾が弾けた様な轟音が、ニ虎に響く。

 

 

「おい━━!!!!!しっかりし━━━━━━お━━!!!」

 

 

この日、二人の少年が薄れ行く意識の中で最後に見た景色は、血相を変えて二人へと走り寄る、十鬼蛇 ニ虎の姿だった。

 

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