世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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其の者の名は、十鬼蛇 ニ虎

*ろうざの三の文字がスマフォで見付からなかったため、此処では參としています


第十ニ話 本物(ほんもの)

「へ?涼君って『狼參(ろうざ)』出身だったの?」

 

一日の修行を終え、食事を取っていた時の事。ニ虎が二人に出身地を聞いてきた為、氷室が答えたところ、照は驚かされた。

 

「食べ物を探してて。狼參は食料が全然無いから、大体他の奴から奪ったり盗んだりするしかなかった。五熊(ごゆう)に来たのも食べ物を探しに遠出してた。

 

まさかニコさんに弟子入りするなんて思わなかったけど」

 

そう言って氷室は串焼きにした魚へと豪快にがっつき、魚肉を頬張る。三ヶ月半が過ぎた了君の身体付きは、以前よりも筋肉の隆起がくっきりとし始めていた。

修行と組手の日々が、彼を着実に成長させているのが伺える。

 

「因みに俺は十鬼蛇(ときた)の出身だ。ニ虎に来たのは修行の一環。ま、お陰で良い拾い物が出来た訳だしな」

 

話を終える間に、もう三匹焼き魚を食べ終えていたニ虎。

 

「まぁ…暫くしたら、お前等を修行の為に十鬼蛇区へ連れていこうと思ってる。強い奴等と死闘して、少しでも実戦経験を積みたいだろ?」

 

《自分勝手なところもあるけど、なんやかんや言って、俺達の事を良く見てるんだよね、ニ虎さん。まるで父親みたい》

 

そんな事を抱きつつ、照も負けじと焼き魚に噛り付いた。

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

ニ虎から十鬼蛇区へと向かう話をされてから、五日が過ぎた日の事。今日の照は一足早く起床し、自分の流派である覇堺流(はかいりゅう)の新たな技の開発に着手していた。

 

数日前、氷室との組手で掴んだ釘擊の感覚(アレ)を完成へ近付けようとしたのである。

 

「血流と筋肉流動…脱力から緊張へ…」

 

一撃、一撃、一撃。

 

一手の度に修正を見つけて、また一手繰り出す。

一手放って、修正。一手放って、修正。

 

何度も、何回も。繰り返し、繰り返し、繰り返す。

 

「むぅ。足の重心…違う。…じゃあ手首や拳の位置かな?そうなると膝の力み…そうじゃないか。…うむむ…」

 

━━━ほぉ。随分と変わった擊を撃ってるな

 

「!?」

 

刹那、反射的とも呼べる反応で照は身構えていた。

 

其の者が放った声は、底知れぬ力が宿り。

 

其の者が纏う気迫は、一言では表現等出来ず。

 

其の者が宿す力は、ニ虎と同等か其れ以上の力が在った。

 

「アンタ…『誰だ』?」

 

照の視線の先━━其の者、男は立っていた。

 

男は黄金に輝く短髪を後ろに整え、瞳孔は猫のように細く鋭利であり、袖の無い黒の胴着を着付けている。

 

「誰か、か。というか、まさか半年で『奥義継承』まで漕ぎ着けるとは、正直予想外だった。

 

━━━━ホント、末恐ろしい野郎だ」

 

奥義継承━━其れが鬼鏖(きおう)の事を言っている事が、照には分かった。

 

「何でアンタが鬼鏖の事を知っている?」

 

「そりゃ知っているさ。俺は『アイツ』と同門だしな」

 

何を言っているのか、照には分からない。だが、ハッキリとしている事がたった一つだけある。

 

此の男は、自分の『敵』だと言うこと。

 

全身の毛が逆立ち、神経を研ぎ澄まして、相手の身体から発する流れを観る。

此の男を相手に、自分は一瞬たりとも、絶対に油断してはいけない。

 

「ありゃりゃ、もう臨戦態勢に入りやがった。切り替えが早ぇ」

 

「…一つだけ、問います。アンタは『何者』だ?」

 

照は問う。これまでの時間は僅か二十秒弱。

 

男は、照に対し。獰猛に、其の答えを言った。

 

「…俺は『本物のニ虎』d━━━━」

 

 

ズドン!!!!!

 

 

「ッとぉ…オイオイ、いきなり仕掛けるたぁ随分せっかちだなぁ、よぉ?」

 

言い終わる前に、男の左足の筋肉が一瞬『力んだ』事を力の矢印を見て察知した照。

 

覇堺流(はかいりゅう) 蝗跳(いなごとび)ニ虎流(にこりゅう)火天ノ型(かてんのかた) 烈火(れっか)

 

今の自分に出来る『最高速の移動』と、ぶっつけ本番だった瞬鉄(しゅんてつ)(さい)縦拳(たてけん)の複合攻撃を行ったが、攻撃を『外された』。

 

それも、ニ虎との組手で飽きるほど、やったり、やられたりしてきた『(やなぎ)』に酷似した技によって。

 

「アンタはニ虎さんと同門とか言いましたけど、俺にとっての『十鬼蛇 ニ虎』は彼だけです。

 

二度とニ虎を名乗らないでください」

 

「そりゃ乗れない話になる。十鬼蛇 ニ虎は『俺の名前』だ」

 

そう言った本物のニ虎を名乗る男は、高速で照との間合いを潰す。照は火天ノ型(かてんのかた) 幽歩(ゆうほ)で距離を保とうと動く。

 

しかし男も幽歩で距離を取らせない。照の脚を柳で崩し、片腕を掴み取り、鉄砕(てっさい)穿(うがち)を彼の鳩尾へ放ちに掛かる。だが…

 

「ん!?」

 

柳で崩した筈の自分が逆に崩された。同時に照が御返しとばかりに柳を使って男を投げ飛ばす。しかし着地され、瞬鉄・爆で再び接近されてしまう。

 

《距離を取らせてはくれないか…!厄介だ…くそったれめ!》

 

「今のは『ニ虎流には無い技』だったな。崩し技の柳を崩し返すたぁ、中々やるじゃねぇの。益々気に入った!」

 

「アンタと話すつもりはない!」

 

「連れないねぇ~!」

 

右腕で鉄砕・穿。照は脱力し、男の腕を絡め取り、脇で押さえ込み、反撃の釘擊を入れる。

 

この技の名はニ虎流(にこりゅう)水天ノ型(すいてんのかた) 水草取(みなくさと)りと呼ばれ、槍や突きを見切りつつ押さえ、敵を逃がさない為の技だ。

 

《アイツにしちゃ、随分と良い弟子を育ててやがる。技のキレ、運足もさる事だが、力みと脱力が10にも満たないで『一流』の域に居やがるときた。

 

こいつは油断してると、逆に食われるかもしれねぇ》

 

男はそう思いつつ、水草取りで取られた右手の鉄砕・穿を解くと、直ぐ様鉄指(てっし)に切り替え、指先で照の肋骨を圧す。

 

骨を押され、痛みで拘束を解き離れる照。しかし男も逃がさない。操流(そうりゅう)水天ノ型(すいてんのかた) 水燕(すいえん)でラッシュを掛け、地力の差を見せ付ける。

 

《速い!けど、涼君が本気で繰り出す縦拳程じゃない!》

 

回避に集中し、覇堺流(はかいりゅう) 蛇縫(へびぬい)を使いつつ、男の懐に飛び込んだ。

 

 

 

 

━━━━━━男の『予想通り』に。

 

 

 

照が男にダメージを与える為には、自ら射程距離に入るか、相手が入りに来るのを待つかの『どちら』かしかない。ミドルレンジでの戦いにおいて、手足のリーチで劣る事を繰り広げられる攻防で知っている。

積極的に攻撃の隙を窺った照なら、確実にラッシュを狙って攻め入ると予測を立てた。

 

カウンター気味に瞬鉄・穿を放つ。それで終わりだ。

 

3cm…2cm…1cm…照の身体が、瞬鉄の最も威力を発揮する間合いへ入る。左手で繰り出す貫手の一撃。

 

回避は間に合わない。まさに一撃必殺である。

 

 

 

 

━━━━━この瞬間までは。

 

 

 

「!」

 

飛び込んだ筈の照の姿が其処には無かった。

 

「シャァッ!!」

 

キレの有る一声、男は直感で空いた右腕で頭上をガード。直後、ズシン!と重い一発が右腕に乗し掛かり、地面に皹が入る。

 

「ちぃ、防がれた!!」

 

奇襲の一手を防がれ、照は悔しそうに吐き捨てると、再度距離を取った。

 

彼が放ったのは、蝗跳の跳躍時に生まれるエネルギーを推進力として跳び、水天の脱力と金剛の筋肉硬化を付与し、空中で回転・落下することによって、威力を高めた変則踵落とし。

 

新たなる『蹴り技』の体系。

其れが、覇堺流(はかいりゅう) 斧車(おのぐるま)である。

 

「戦いの中で『自らの可能性を広げる』…厄介な才能だ。だが、其れでこそ『器』に相応しいとも言える」

 

「……………」

 

「しかも右腕が痛みやがる。さっきの『打撃』…衝撃が時間差で襲い掛かるったぁ、面白い技だ。

 

お前、名前はあるか?個人的に名を覚えておきたい」

 

姿勢を崩さず、鋭利な目は変わらないが、其の言葉からは『知りたい』という気持ちが在るのが分かる。

 

「…………鬼灯 照」

 

「照、か。良い名前だ。じゃあ照よぉ。俺は此処から先、滅茶苦茶『強くなる』。其れを凌げたら、さっきの打撃を『より強く出来る』、ヒントを教えてやる」

 

「ヒント?何ですかそ━━━」

 

一瞬。空気と地面が、轟音と共に爆ぜる。

砂埃が空間の急激な変化に巻き上げられ、空気中に散り行き。

 

そして━━━━━━━━━『響いてくる』。

 

ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!と、まるで地響きと銅鑼の音を混ぜ合わせたような、けたたましく。それでいて聞くと『嫌な感情』と『不快感』に襲われるよう。

 

風が吹きすさび、視界が晴れた時、照はギョッと目を見開いた。

男の身体は全身の太い血管が浮かび上がり、髪は逆立っている。目は真っ赤に純血、熱を帯びた白煙が体に纏うようだった。

 

 

「サァ…いくぞ、照!!!!!」

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