そして、新たな舞台へ。
「むにゃむにゃ…へへ……」
五熊・某所。薄手の布団に抱かれ、少年が一人眠っていた。名前を
「てるぅ…すげぇだろ~…俺のりゅーせーは~…」
「もーいっかーい…もーいっかーい…えへへ…」
ドンッ!!!!!!!!!!!!!!!
「うぉあぁあ!?!?!?!?!?」
そんな氷室を叩き起こすかのような、謎の爆発音。跳ね起きた少年は即座に臨戦態勢で構えを取り、周囲を警戒する。
「起きてるか!?」
一人の男が、氷室の様子を見に来た。彼は十鬼蛇 ニ虎、氷室ともう一人の少年の師にして、ニ虎流の使い手。其の顔はいつもなら在る筈の『余裕』が一切無い。
「ニコさん!!今の爆発は何!?」
「今話してる暇はねぇ!照は何処行った!?」
「分かんない!起きた時には居なかったよ!!」
《………嫌な予感がする、照。無事で居ろよ…!》
* * * * * * * * * * * * * * *
ニ虎区域・某所…
ドッ!ドッ!ドッ!と聴覚を害し、真剣を逆撫でするかのような嫌な音を響かせ、豹変した男は照へと言う。
「サァ…止めてみろ、照!」
《こいつ…本当に何なんだよ…!?これだけの殺意を、人が持てるのか!?》
目に見えるような、濃厚で絶大、そして比較出来ない殺意の大きさに、照の警戒心はMAXまで跳ね上がる。
極度の緊張で、口の中が異様なまでに乾いてゆく。
殺意に当てられたのか、呼吸も乱れ始める。
まさに照に起きた変化の隙を見逃さず、男は静寂を破り仕掛けた。
そして其の姿が、照の前から忽然と消える。
「え━━━━━━━」
直後、頭部右側を抉る鋭い。
否。『鋭過ぎる』打撃が、照の顔面を撃ち抜いた。
「!?!?!?!?」
殴られた事は分かる。ならば男は何処に行った?
思考の最中に再び打撃が襲い掛かる。
右足をローキックが一閃し、左腕を
「ゴホッ…!!」
肝臓、肺、鼻、太腿、大胸骨…一撃一撃が重い。
蓄積して行くダメージ。口や鼻から血が流れ、意識が朦朧となってゆく。
《本当に…死ぬ━━━━━》
打たれる度に走馬灯のように思い出す、僅かな転生からのニ度目の人生。
《ニ虎、さん。俺は━━━━……………》
血で赤にぼやけ、霞む視界。
既に四肢は内出血で腫れ上がり、肋は十程折れただろう。
傀儡を使い、やっと動かせるかどうかまで消耗しきった身体。
全てが終わる…そんな思考が頭を過った時。
『照、お前は何で
ニ虎の言葉が、照の失われかけた意識と力を呼び戻した。
「━━━━そんな事…決まっているッ!!」
男の左前蹴りを、膝に僅かな力を入れ、縮地を併用して紙一重のラインで回避する。
《今のを躱わすか…!やはり『器』に見込まれただけの才覚はあるッ!》
「俺が最強になるのはッ…!
『俺』の『
『
此の世界に
足を捕まえ、懐へ滑り込む。
飛んで来る鉄砕が、おでこに当たる。
《痛い?そんな事は分かっている。『此の瞬間』しか勝機は無いんだろ!!
だったら、行け!行くしか無いんだ!!》
額から血が放たれ、眼球に掛かり、視界を赤く染める。
外したら負ける。此の一撃に、今の自分の
《覚悟を決めた目だ…良いだろう、お前に『神』を宿してやる。鬼灯 照!》
男の右手が貫手に変わって放たれた。狙いは心臓━━━自分と同じ『力』を、少年に宿す。そうすれば『器』は出来上がる。
ドンッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
「ハァッ…ハァッ!…ハァッ、ハァッ…ハァッ!…ハァッ…!!」
「━━━━━『畏れ入ったぜ』、照」
けたたましい音が男から鳴り続ける戦場。呼吸を荒く、片膝を付いたまま動けない照。
一方の男は左腕から『大量の血を流していた』。だらりと垂れた其の腕からスプリンクラーのように、止めどなく流れ続けている。
傷口を見た後、男の身体は元の肌色へ、赤く充血した目も戻っていた。
照は男が、彼に力を宿すべく放った貫手を鳩尾に受けた瞬間、
「アイツの奥義…糞だと嘗めたが、どうやら認識を改めにゃイカンらしいな」
腰帯を取り、傷口付近に固く強く縛り付け止血すると、不敵な笑みを浮かべつつ、照に対して言った。
「俺を退けた褒美だ…さっきのヒントを教えてやる。
『
くるりと、何事も無かったように男は歩き去っていった。
《勝てた…のか、な━━━いや、勝て、た…訳じゃ、無い……………『負けた』…これが、正し━い━━━か……|》
振子投げ。釘擊。斧車。鬼鏖…男を驚かせ。手傷を与えられた技は、四つしかなかった。
《━━━━………遠い、なぁ。…最強へ、至る道程…っての━━━━━━━》
誰かの声が聴こえる。全身の倦怠感と
「照!照!!」
「ッ━━━重傷じゃねぇか…!医者ん所に急ぐぞ!!!!!」
ニ虎に抱えられ、照は運ばれて行く。氷室は血塗れの照を見、此の場で起きた出来事を想像しながら、ニ虎の背中を追い掛けたのだった。
* * * * * * * * * * * * * * *
ニ虎某所…闇病院一室。
「━━━━━…ッ、んぁ…?」
照が目を覚ました時、白のペンキに塗り染まったコンクリートの天井が視界に映る。次に気付いたのは、自分の身体中に包帯が巻かれ、身体には柔らかな布団が掛かっていた事だ。
「………此処、何処だ━━━━」
「あ!照!!………良かった、目が覚めたんだな」
聞き馴れた声。横に首を向けると、氷室が自分の顔を覗き込んでいる。其の表情は安堵の色があり、照の手を握っていたのだが、ハッとなって彼の手を放した。何故だ。
「起きたか、照」
壁に寄り掛かっていたニ虎が、氷室の隣に置かれた椅子に座り、照と視線を合わせた。
「回りくどいのは無しにしょう。照━━━━━━」
お前は誰と、戦っていた?
ニ虎の問い。
照は彼に対し、正直に。
そして━━━━素直に答えたのだった。
「其の人は………『本物のニ虎』、そう名乗っていました」
ニ虎の目が、驚愕と共に丸くなる。氷室は何の事だと疑問を浮かべたが、照は次々と自身が感じた疑問を投げ掛けた。
「ニ虎さん。…『ニ虎流』って一体何なんですか?彼は貴方と同門だとそう言っていました。それに、俺を『器』に相応しい男とも。
教えて下さい。…彼は」
「照」と、ニ虎の貫手が自分の首筋に触れていた。今までの殺意が生温い物だと思える程、本気で込められた其れに、照は息を飲むことも、言葉を発する事も出来なくなってしまう。
「━━━━そいつは『まだ』教えられねぇんだ。いずれ其の事は話す、だから…な?」
優しい言葉に関わらず、顔は一切笑っていない。氷室は腰を抜かしているし、照は微動だに出来ずにいた。
「照。氷室。数日前、十鬼蛇区に連れていく約束をしたが、予定を変えざるを得なくなった。
…これから『ニ年』、お前ら二人を『知人』に預けようと思う」
「えっ!じゃあ組手は!!組手出来なくなるじゃんか!」
組手で一度も良いところを見せられていない氷室が反発するも、ニ虎は頭を軽くポンッと叩き、こう言った。
「落ち着けぇぃ。其の知人は俺が今まで見てきた中でも『ダントツに強い』。正直言って、俺の師匠と『同格』のレベルに居るかもしんねぇ。
其の人の元で暫く修行して、自分の視界を少しでも広げておけ」
「…それで、何処に向かうんですか?」
「………『
ニ虎が言った知人。俺と氷室、そして後に二人の弟弟子が世話になり。
後に、俺こと━━鬼灯 照の最強にして、最大の壁として立ちはだかる、ある人物との出逢いが待ち受けていた。