世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

14 / 41
新たな舞台。新たな出逢い。


第壱章 琉球篇
第十四話 怪腕(かいわん)


照が本物のニ虎と名乗る男と戦い、一ヶ月の時が過ぎた。

 

あの戦いで負った傷が粗方治り、医者からも激しい運動禁止の令が解けたので、ニ虎は氷室(ひむろ) (りょう)鬼灯(ほおづき) (てる)を連れて、退院翌日に無法地帯『(なか)』を出た。

 

三人は港で船に乗り、ニ虎の知人が居るという目的地、沖縄を目指して、船に揺られる事に。初めて見た海に氷室は歓喜の声を上げて大いに(はしゃ)ぎ、照は泳げないかなぁと海を見つめ。

 

そんな二人を見ながらニ虎は、彼等へ操流の修行と組手をやるように指示。不安定かつ不規則な波に揺れる船上での操流ノ型の修行、今まで以上に難解に変わった組手に二人は苦戦しながらも、何とか環境に適応していった。

 

船旅は三日程続き、四日目の昼下がり………

 

 

 

 

彼等は沖縄に上陸した。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

青い空と海、白い砂浜と雲。

 

照り付ける灼熱の日射し、赤土で創られた屋根瓦。

 

自分達があの頃に見た沖縄は、まるで楽園のようだったと、照と氷室は後にそう語った。

 

ニ虎に導かれ、二人は沖縄を歩く。

 

歩いて、歩いて、歩き続け。

 

日が水平線へ沈み、入れ替わりに三日月が顔を海から出した頃。

 

「━━━━━此処だ」

 

三人は目的地に到着。辿り着いた場所は、港町から離れた所に在る、他と比べれば一際大きな一軒家。照は此の家が、高い階級の武家屋敷にも見えていた。

 

そして玄関と思われる曇硝子と木材交差の扉の横には『怪腕流(かいわんりゅう)』とだけ書かれた、達筆な墨汁文字と、木彫りで出来た不動明王の木像が置かれている。

 

「照。涼。二人とも、粗相な行動はするなよ?」

 

ゴクリと喉を鳴らす少年達。ニ虎が扉を横に開き「失礼する」…そう言い、玄関へと足を踏み入れた。

 

部屋は和室で、蝋燭の明かりが四方にのみ灯り、薄暗さも相まって少し不気味な雰囲気を醸し出す。彼の後に続き、玄関へ入る照と氷室。

 

『ニ虎か』

 

たった一言。

何気なく、素っ気なく。

只々放った一声。

 

ビクリと身体が跳ね、ニ虎の後ろに隠れた二人。

 

あの時(・・・)は世話になった」

 

部屋が突然、白く明るくなり思わず目を細めるが、其れも一瞬。恐る恐る目を開くと、ニ虎の視線の先━━━━部屋の奥に、一人の男が上半身裸で片手に巨大な(かめ)を、何事も無いかのように軽々と持ち上げていた。其れも『指先の力』だけで。

 

彼と目が合った瞬間、二人には解った。

否…『解ってしまった』。

 

此の男の持つ、圧倒的で絶対的なまでの実力を。

ニ虎が言っていた『ダントツに強い』という意味を。

 

「照。涼。彼は黒木(くろき) 玄斎(げんさい)、俺の古くからの知り合いだ」

 

巌を打ち砕く事など、朝飯前とも云わんばかりの剛腕。

 

どっしり地に根を張り、構える大樹の如き太い足。

 

あらゆる衝撃に曝されようとも、決して崩れないだろう頑強な体幹。

 

平静の状態ですら、格下を全く寄せ付けない巨大な闘気。

 

見た目の年齢はニ虎と同じ位━━もしくは何歳か上だろう。

 

達人(たつじん)…俗世から離れ、自らの目指す境地の為に全ての時間・労力を捧げ、求道を進み続ける。かつて、前世でそう呼ばれる者達が居たのを、照は朧気ながらに思い出していた。

 

そして同時に照は、ある考えに至る。其れはある種の、照自身の『悪癖』とも言えるモノ。

拳を握り締め、決意を秘めた眼差しと共に、彼はニ虎と氷室よりも前へと歩み出たのである。

 

「て、照…?」

 

氷室は疑問を投げ掛け。

 

「……はぁ」

 

ニ虎は彼が何をしようとしているのか、その意図を見破り。

 

「小僧…何か言いたげだな」

 

黒木は只、目の前へ出て来た少年を見る。

 

「━━━黒木さん。一手、俺と組手をしていただけますか」

 

照はそう言い切ったのである。組手に置いて今日まで、ニ虎から一度も勝利していない彼が、黒木と闘えば待っているのは確実な『敗北』のみ。

だが、そんな事は当の本人(鬼灯 照)が一番理解している。

 

彼を駆り立てた物━━━『圧倒的で絶対的な強者』に今の自分は何処迄食らい付けるか、求道者達が共通して持ち合わせている『挑戦心』による物。

 

「この黒木、生憎『弱者』に撃つ拳は持っていない。そして、お前自身が分かってい「それでも━━━」

 

黒木の言葉を遮り。照の言葉が響いた。

 

「━━━━それでも構いません。俺は、ニ虎さんが認めた貴方の『強さ』が知りたいんです」

 

単純。だがしかし、この上ない程に。

鬼灯 照という人間の本質を示した答えだった。

 

強き者と戦い、自らの強さを証明する。

例え其の相手との差が、圧倒的な迄に離れていようとも。

 

「黒木、俺の弟子が━━」

 

謝罪しようと頭を下げ掛けるが、掌を翳して黒木は制止させつつ言う。

 

「いや、良い。それよりもだ…ニ虎。時間を計れるな」

 

「!」

 

「小僧。名を名乗れ」

 

瓶を置き、闘気を解放した黒木。其の圧は先程の物とは比にすらならないほどに大きく、覚悟なき者が対峙したならば、まず確実に萎縮してしまうだろう。

 

「鬼灯 照。ニ虎さんの弟子の一人です」

 

「━━━鬼灯 照。お前の気概に免じて、其の我が儘に三分間だけ付き合ってやる」

 

来いと、其れだけ言い。瓶を同じように指先の力だけで持ち上げると、先導して三人を案内していった。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

黒木邸兼道場。屋敷内でも特に大きな間取りを持つ其の場所は、現在異様な空気に支配されている。

 

「黒木さん、ありがとうございます。我が儘に付き合って貰って」

 

「三分だけだ。現状のお前の持てる、全力を見せてみろ。後悔しないためにもな」

 

「ッ…はい!」

 

両者、奇しくも左手左構えの体勢。

 

夜の静けさに、柱時計のからくり音が不気味に響く。

 

「準備は良いか?」

 

「大丈夫ですニ虎さん。何時でもどうぞ」

 

「━━━━━無論」

 

緊迫した空気の中、ニ虎の左手が静かに上がる。

 

氷室が息を呑み、今より起きる戦いを待つ。

 

そして…。

 

「………………始め」

 

濃密で、凝縮され、あまりにも一瞬。

 

それほどまでに、凄まじい組手が始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。