世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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鬼灯(ほおづき) (てる)黒木(くろき) 玄斎(げんさい)

そして少年達は、現実を知る


第十五話 圧倒(あっとう)

「始め」

 

ニ虎の合図が響くと同時に、即座に仕掛けたのは照だった。自身の流派:覇堺流(はかいりゅう)にして、長距離移動にも転用可能な跳躍歩法 蝗跳(いなごとび)

 

不規則かつ緩急を加えた其れは、まさに水田を自由自在に跳ね回る蝗の様…更にニ虎流(にこりゅう)の歩法:火天ノ型(かてんのかた) 火走(ひばしり)を同時に使用する。

 

これにより、照の幻影達が四方八方に現れているかのように彼等には見えた。

 

《此処だ━━━》

 

狙うは死角、音を立てぬように爪先で着地。火天ノ型 烈火(れっか)で高速接近。そして撃つは、覇堺流の基礎たる技。

 

相手の体に衝撃を徹し、筋肉や骨へと浸透、中芯に到達させ時間差を以て破壊する、釘擊(くぎうち)

通常の打撃と遜色が無いがために、擊の本質を見抜く事は不可能に近い。

 

ニ虎や氷室に、初見殺しと謂わしめた此の技ならば。

当てる事は可能な『ガッ!』━━━━『はずだった』。

 

「え━━━」

 

黒木の身体が、攻撃してきた照の『真正面』に向き直り、釘擊を繰り出した腕を、別方向へ弾いていた。

 

《嘘だろ…!?見えてたのか、照の動きが…!?》

 

氷室は驚愕する。彼が黒木の死角を狙って釘擊を放ったのは分かった。黒木は其れを『分かった』上で、数瞬『早く動いた』のだ。

 

「…すげぇ」

 

本来ならば、距離を取らねばならない。

相手の出方を、確実に警戒しなければならない。

初擊を防がれた事の原因を、頭の中で思考しなければならない。

 

其の何れをも、照はしなかった。否、『したくなかった』。…答えは最早其れ以外に無い。

 

今は。

 

此の一分一秒さえ惜しい!

 

「ハァアアアアアア!!!!!!」

 

釘擊と水燕(すいえん)、奥義継承の戦いでニ虎が使った合体技(コンビネーション)

 

不規則な軌道に加え、判別が難しい釘擊の擊。

滅多打ちとも、暴風雨とも言うべき連打の嵐が、黒木へと襲い掛かる。

 

《何だよアレは…!?》

 

《マジか…ッ!!》

 

照、そして氷室は心で同時に声を上げた。

 

『撃墜』されている。連打に継ぐ連打、攻撃を一切途切れさせぬように放っている。━━━にも関わらず、全て弾かれ、叩き落とされ、黒木には『一撃』も当たらない。

 

その時、照が連打を止め、打撃を肘撃ちに切り替えた。しかし、これさえも止められる。

直後に下段蹴りを放ったが、軸足を払われ地面に背中から落ちる。

 

黒木の正拳が照の顔面に襲い掛かり、何とか紙一重で躱わして、今度は瞬鉄(しゅんてつ)(さい)

だが下に崩され、左の掌底が鳩尾当たる。

 

身体の悲鳴が呼吸として上がるよりも早く、続け様に裏拳が顔面を直撃。

 

《ッッッッッ~~……………!!!『重い』ッッッッ!!!!》

 

ニ擊喰らった事で、照は黒木の打撃の『質』を知った。照が思うに、打撃には『三つの質』がある。

 

『速』と『強』と『重』。

 

氷室の繰り出す『速』の打撃、ニ虎繰り出す『強』の打撃。其の何れとも黒木の打撃は違う。

 

自分と同じ『重』を持った擊。此程までに重圧を乗せた打撃は初めてだった。

 

━━━━こうゆうのが良い。

 

「!!」

 

黒木の表情が一瞬…ほんの一瞬だが、驚きの色を見せる。

 

「…小僧、笑っているか」

 

「そう、でしょうか…?…分かりません」

 

けれど!と、照が再び攻める。次に蛇縫(へびぬい)で懐へ入らんとしたが、其処に左膝が『置かれていた』。直感でヤバいと、止まった迄は良かった。

だが其の直後に、左鎖骨からバッサリと。胴体を斜めに袈裟斬りで切り裂かれたかのような痛みが襲う。

 

右手刀、完全に『誘い込まれていた』。

 

《やっぱりだ…!この人、『先読み』が使えるッ!!そうじゃなきゃ、俺が殴りに行った時に反応出来たのも、水燕の連打を撃ち落とせた事にも説明が付かない!!》

 

先読み…武の(ことわり)に、強さの深みに近付くと其の領域に至るとされる、一種の極致。

 

相手の呼吸、筋肉の動き、癖、重心…様々な要素から『相手の次の一手』を読み切り、『先んじて行動する』という其れは、人により様々な解釈が出来るものの、共通の認識として『究極の力』と位置付けられている。

 

《空手の練度、先読み、冷静沈着に正確無比な迎撃…規格外の達人ってのは、こうゆうのを言うのかな》

 

釘擊(くぎうち)(じん)に水燕、現時点の最速の連打さえも防がれる。そして連打の中、両腕を掴まれ、膝蹴りを腹に貰い、頭に黒木の頭突きが迫り来る。

 

《だけど!》

 

「一発くらい入れられなきゃ…自分が納得出来ない!!」

 

ゴッ!と一際大きな音が屋敷に響く。

 

「…ほう。この黒木に、一撃見舞うとはな」

 

確かに頭突きは決まっていた。しかし、照の額からは細い血の線が引かれ、軸足にした右足の周りに大きなクレーターが出来上がる。そして照の左足は黒木の右腕を蹴り抜いていた。

 

頭突き直撃の瞬間、照は操流・水天ノ型 導水(どうすい)で衝撃の八割を体外へと流しつつ、残り二割を攻撃速度に転用。

渾身の釘擊・迅と鉄砕(てっさい)(けり)で黒木の右腕に一撃を叩き込んだのである。

 

「あ、当たった!!照の攻撃が!!」

 

「ハァ!ハァ…!どうだ!」

 

「だが……」

 

まだまだ、だ。

 

瞬間、照の身体を連続で撃ち抜く、六連の正拳突き。

咄嗟に操流で一発を流し、不壞で一発を凌ぐが、残りは諸に攻撃を貰い、道場の壁まで軽々と吹き飛ばされて、めり込むように少年の身体は叩き付けられた。

 

「て、照!!」

 

「…………三分経過。組手終了だ」

 

終わりを告げたニ虎の声。同時に駆け出す氷室。

 

《…強い、な…本当に…。いつか……俺も、其の『領域』に……━━━━━━━》

 

最後まで不敵な、それでいて何処か嬉し気な笑みを浮かべながら、この日の照の意識はプッツリと途切れたのであった。

 

「…………」

 

「すまん。俺の弟子が━━」

 

謝罪の意を示そうとしたニ虎に対し、黒木は言葉で遮った。

 

「ニ虎よ。…良い弟子を持ったな」

 

「黒木…」

 

「右腕が『軋んで、響いている』…衝撃が身体の内側で爆ぜる打撃。一朝一夜、ましてや並大抵の鍛練では決して身に付かぬ。

 

この俺に、戦いで爪痕を付けたのは『お前以来』だ」

 

ズグン…ズグン…と、響き続けている右腕を見つめながら、黒木は氷室に肩を貸され、壁から立ち上がらせられる照に視線を移し、言い切った。

 

「黒木…頼みがある。二人を、俺の弟子達を二年間。預かって欲しい」

 

「何か、理由が在るようだな」

 

「あぁ」

 

ニ虎は黒木に此迄の経緯を話してゆく。

 

「…俺は弟子は取らん。其れは分かっているな?」

 

「承知してる。アイツ等はあれでも『中』の過酷な環境を生き残ってきた。修行や食料くらいは自分達で考え、行動して、何とかするさ」

 

「…良いだろう。お前は必ず戻ってこい」

 

黒木の言葉に、ニ虎は静かに頷き返した。

 

照と氷室、そしてニ虎。運命が再び交わるまで、彼等は暫しの別れとなるのであった…。

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