日記風に話をお届け
俺が目覚めた時、ニ虎さんは既に道場には居なかった。
黒木 玄斎曰く、他用が有り危険を伴う為に涼君共々、二年間預かる事になったとか。食べ物なんかは自分達で取ってくる代わりに、寝場所は此方で用意するとか…あの人、飄々してるのに良く観てるんだよな。
そんな訳で、俺達二人は彼の元で御世話になることになった。取り敢えずは食料確保が最優先になる。
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沖縄生活、一日目。
俺達は黒木さんから千円札を一枚ずつ貰った。何かあった時の為に持っておけと、彼は渡した。
自分が生きていた時代とは変わり、今は金も金属では無く紙が主流…涼君は初めて奪う以外の方法で手にしたお金に興奮して、まるで兎のように跳ねている。
まずは、食べ物を確保する為に道具を買うことにする。そうなると釣りが良いだろう、涼君でも簡単に出来ると思う。
お金を渡した後、黒木さんは鍛練に戻っていった。思ったけれど、あの人って一体何時休んでるのかな?
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道具屋で手頃な棒と針、丈夫な糸を買い、簡易的な釣竿を造り上げた。前世の記憶を頼りに作った為に、若干粗末だが、釣りをするなら何とかなる…と思いたい。
早速やりたいと涼君は、子供らしくはしゃぐが、海や川が穏やかな場所を探してからと制止させ、目星を付けることにする。
先ずは近場で良いだろう。黒木さんの屋敷から歩いて少し掛かる、海に突きだした道の先に在る、変な形の岩達がある場所。今回は此処にしてみよう。
━━━━━それから数時間。
全く食い付かない事に怒った涼君は、文句を垂れて釣るのをやめてしまった。今日の飯は此の釣りに懸かっていると言うのに…。
そんな俺達に声を掛けたのは、少し小太りなおじさん。大きな箱をぶら下げて、手には釣りの道具と空いた缶を持っている。…そして何だか酒臭い。
話を聞くと餌が無いから食い付かないと、気付けば当たり前の事を言われてしまった。
釣用の餌を少し分けて貰い、直後に竿が撓り、俺は全身の筋肉を使って、一匹の魚を豪快に釣り上げた。川で釣った魚よりも大きく太り、そして綺麗な赤い鱗を纏った魚。大興奮する氷室、釣った魚を見たおじいさんは驚いた顔をしていた。
彼が言うには、俺が釣ったのはハタと呼ばれる沖縄では一番高価な魚で、刺身も良いが煮魚にすると、とんでもなく旨いのだとか。
刹那、俺達二人の腹の虫が元気に鳴き、彼から「魚屋に持っていて捌いて貰いな」と言われた。
この日、俺達は沖縄で初めて魚を釣り、そして旨い食事に有り付いたのだった。其れから夕方まで釣りに挑み、俺は十匹で涼君は七匹釣り上げた。因みに酒臭いおじさんは十四匹と、かなり釣っていた。
最後に彼は
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沖縄生活、八日目。
釣りに行こうとしたが、天気は生憎の雨。何をしようかと考えた時、黒木さんが瓶を両手に指先の力で持ち上げていたのを見た。
何れ越えなければならない相手…其の強さの根源を知れば、自分自身も今以上に強くなれるかもしれない。武とは観て学ぶ…そんな言葉がある。
涼君と共に物陰から様子を伺っていたら、視線が此方に向けられた。特にどうする訳でも無く、ただ見ているだけと彼に伝える。
「照の打撃は、足りない『要素』が二つある。
『正しい重擊』と『全身の連動』。其れが出来ねば、格上は倒せん」
そう、黒木さんに言われてしまった。正しい重擊…つまり型だろうか?そして全身の連動…新しい課題を前に俺は唸ったが、悩んでも仕方無いと涼君と共に黒木さんを『観察』し、修行の型を真似る事にした。
二時間近く観察した後、涼君と共に組手を行う。課題の正しい重擊と全身連動を達成するために。
この日の組手は五回行って、二勝三敗と涼君に初めて勝ち越されてしまった。
どうも、俺は『速攻型の相手』は苦手みたい。
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沖縄生活、十五日目。
照り付ける快晴の陽射しの中、黒木さんが朝から巖を屠っている。彼曰く、怪腕流の部位鍛練は昼夜問わず行われ、肉が裂けたり、骨が折れる事は日常茶飯事だそう。
其処で正しい重擊を放つためのヒントを貰うべく、隣で彼の正拳突きの型を、涼君と共に観て真似て、練習する。
「照。型は成っても、下半身が動いていない。
涼。足は出来ても、踏み込めていない」
何十発、何百発放った所でそう言われた。言われた通り下半身に重きを置いて、また黒木さんの正拳突きを観察する。涼君も同じく、目を凝らして見ていた。
「先ずは観よ。強くなりたければな」
彼の言葉は、後々まで大きな教えとして俺達の心に深く刻まれた。一日一日を生きるために魚を釣り、合間を縫って彼の修行を観て、欠かすこと無く組手で得たものを生かす。
そんな毎日が続いていた━━━━━━
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沖縄生活、二十四日目。
今日の組手は場所を変えて、真っ白な砂浜でやることに。黒木さんに教わった事を自己流に解釈した涼君の縦拳は今まで以上に速くなった。
力の流れが見えていても、相変わらず其れを上回る速度…過信してはいけないという事だろう。
柔らかく形を変える上に、不安定で熱い砂上の戦い。蝗跳で思うように跳べず、着地にも失敗。其処には飛んできた縦拳を、何発も受ける羽目になる。
嫌な感じだ…
「型は成っても、下半身が動いていない」
「正しい重擊と全身連動」
其の言葉を思い出しながら、涼君の打撃を観察した。
彼の打撃は『腰と足首を捻り』つつ、『腰を座らせ』ながら撃っている。
「下半身が動いていない」
下半身…腰の動き…捻り…連動━━━━━━
全てが一直線に繋がった時、身体は勝手に動いていた。涼君の右昇拳を腕の甲で横に弾く。
腰を据え、左足を後ろに下げ、重心と拳の位置を調節し直し。左足首から腰へ捻りを加え、連接・連動した力の流れを背筋に伝達。
脱力によって伝えられた力を透過させ、
ドン!!!!と荒馬に撥ね飛ばされたかのような音の後に、バシャァン!!の水音が響く。ハッと我に返った時、涼君は撲られた勢いで吹き飛び、海に落ちて沈んでいた。
「う、う…うわあああああああああ!?大丈夫かぁあ涼君ごめぇえええええええん!!!」
烈火で走りだし、落海した涼君を直ぐに助けに向かい、案の定其の後、滅茶苦茶怒られる事になったが仕方無し。
課題解決の糸口は掴めたが、まだまだモノに出来てはいない。俺達の修行はこれからも続く。最強へ至るために。