極限迄鍛えた四肢は鋼を貫き、人体を絶命足らしめる武器へと成る。
其の名は━━━━『
「いっでぇえええええええ!!!?」
沖縄での生活が始まって、既に三ヶ月に近付きつつある。連日の暑さも此の所は特に酷く、屋外での修行は危険だと、黒木さんに止められてしまった。
なので、屋敷内でも出来るの鍛練が、最近の俺達の風潮になりつつある。
そして今日は、以前から彼がやっている修行の一つ…砂を入れた瓶を両手の五指だけで持ち、出来る限り体勢を維持する訓練をやらせてもらっている。
━━━だが、やり始めるとこれが相当難しく、そして厄介な物だと思い知った。
先ず瓶の縁が思った以上に狭く、指先で引っ掻けないといけない上に、中の砂はかなり乾燥しているので、水よりも多く入っている為に見た目以上に重量がある。
更に体勢を維持しようとして、体幹を僅かでも崩せば、砂も同時に動いてしまう。慌てて体幹を戻すならば、砂は荒ぶり、瓶の中で振り子のように揺れるので、最後には自分が頭が畳に着くか、涼君のように瓶を落として足指を挟んで悶絶するという運命が待っているだけだ。
「フゥー……フゥー……フゥー……」
筋肉を硬化、硬直させ、形を維持。
歯を食い縛り、体勢を固定。
絶対に指から瓶を離さず、絶対に落とさず、絶対に其の場から動かない。
目を閉じ、意識を外界から切り離し、聴覚視覚嗅覚を閉じる。
感じるのは、爪先と空気の震えを感じる触覚だけ。
呼吸…呼吸…呼吸…━━━━━━━━
其の時、照の身体は岩石の彫像の如く、時を止めた。
一寸の狂いも無く、完全に静止したのである。
「て、照…?」
「……喋り掛けるな、涼。照は今、完全に入っている。邪魔をせず、お前も鍛練に戻れ」
「あ、……はい……」
叱喝を受け、涼君も瓶を両手に持ち直し、形を作り直して鍛練を再会してゆく。
結局、俺が意識を現実に呼び戻し、再度覚醒したのは其れから半日が過ぎた後の事。そして暫くの間、腕が凝り固まったみたいに全く動かせなかった。
* * * * * * * * * * * * * * *
瓶を両手指先で持ち上げ、静止した修行から数日の時間が過ぎた、ある日の夜。
蒸せ返り、茹だるような暑さで目が覚めた俺は、厠で用を足そうと屋敷を歩いていた。
ガッ…ガッ…と、遠くで何かが打ち付ける音が、夜の世界に響いてくる。まさか…そう思い、音の鳴る方へと向かうと、黒木さんがいた。
月明かりの中、無言で静かに巌を貫手で貫く姿を、美しいと思ってしまったのは、今でも思い返せど理由はハッキリとしていない。
「照、どうした」
此方の気配に気付いた黒木さんが声を掛けてくる。
「暑くて目が覚めてしまって…厠を探してたら、黒木さんが何をしてるのか気になって、見ていたんです」
正直な事実を述べて、彼が向き合っていた巌を見たとき目を丸くした。岩肌に小さな孔が『四つ』や『五つ』開いていた。其れも一つや二つだけでなく、数十個は下らない。
まるで其れは蜂の巣のように、沢山開いていたのだ。
「あの、黒木さん。これは…?」
「…見ていろ」
重心を置き、左手を貫手の形に変えた彼は、呼吸を調え、目を閉じた。数秒の沈黙…しかし照から見た其れは、数十時間以上の重厚で重圧の沈黙。
次の瞬間。カッと稲妻が空を駆けるが如く、巌に叩き付けられた。
「…………………ッッッッ~~~~~!!」
言葉が出なかった。巌に五つの穴が刻まれ、『其の周辺』には『一切の皹割れが無い』。
真に凝縮された破壊の衝撃は、周りに其の痕を遺す事は決してないと言われてはいるが、今まさに黒木さんがやった事がこれだった。
理論だけでなく、其れを実際にやってのけてみせる。
卓越した技術に、揺らぐことの無い確かな実力。
俺は、黒木さんの持つ『
「
頑強な巌を撲り、吊した鋼鉄を蹴り、太き大木を撃ち、其れを続けた先に得られる物。━━━━其れが、この『
息を飲むしか出来ない。改めて思い知らされる、この人との圧倒的なまでの『距離』、そしてかけ離れた『実力差』。今の自分では、まるで相手にもならない…ましてや、彼の本気を出させる事さえ『不可能』。
「……一朝一夜で実力差は埋まらん。だが一年後や二年後。どうなっているかは、お前次第だ。鬼灯 照」
心中を見透かされたのか、其れとも辛気臭い顔色だったのか…彼にそう言われてしまった。
だが事実、彼の言葉は其の通りでしかない。
『最強への道、一日にして成らず』…最強へと至ると決めた前世、掛軸にそう記した事を思い出す。
忘れていた事。忘れてはいけない事。
最強への道程。最強へと至る夢。
「……そうですね。…よしっ!もっと頑張って、もっともっと強くなるぞ!」
高らかに拳を掲げ、決意を新たにした照。
同時にある事を思い出して、黒木にこう問い掛けた。
「あ、黒木さん。一つ質問して良いですか?」
「何だ」
「………『