世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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其の者、黒木 玄斎の友にして暗殺家業。


第十九話 厳山(げんざん)

「黒木さん。平良(たいら) 厳山(げんざん)という方を知りませんか?」

 

俺の発した其の名を聞いた黒木さんは、落ち着いていた。だが、表情に現さずとも空気が少し変わった事を、照は静かに感じ取る。何か関わってはならない事に触ったか…そんな心配をした。

 

「平良 厳山…奴は俺の古くからの同業者であり、そして友でもある。二虎から、事の顛末は聞いた。

 

今度、奴と久方ぶりに会うことにしている」

 

「じゃあ…其の時、付いていっても良いですか?」

 

何を思っているのか全然分からないのだが、これは好機…駄目元で同行の許可を貰おうと、頼んでみた。

黒木さんは数秒間を置いた後で「……勝手にしろ」とだけ呟いた。今思えば、顔に断ろうとも絶対に付いて行くと言っていたのだと、そう考えずにはいられない。

 

何せ、顔は口ほどに物を言う…そんな諺が在るのだから。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

そんなこんなで、約束を取り付けてから五日が過ぎた日の逢魔が時。夕方と夜の丁度中間とも言える時間帯、俺と涼君は黒木さんの後に付いて行き、一軒の建物の入口に立った。

 

「いらっしゃい、黒木さん」

 

扉を開けた先の景色…まるで隠された宝物庫の内側(なか)を見たような、幻想的な空間に俺達は開いた口が塞がらなかった。

 

薄暗く。だが…とても煌美やかな光と、凝縮され、熟成された年代物の地酒の様な、淡く漂う高級な香り。まるで祝福の政の時に流れ、場を演出し盛り上げる音色が、子守唄の如く、奏者達が部屋の中心で奏でている。

 

「久しいな、黒木」

 

椅子に腰掛け、黒木さんを呼ぶ声が一つ。所々に白髪が混じる黒髪に、着物を纏う軽装の男性。しかし、其の出で立ちは強者特有の気質を纏い、其処に在る。涼君も彼の強さを感じ取ったのか、ゴクリと唾を飲み込む。

 

この人が黒木さんの友人、平良(たいら) 厳山(げんざん)で間違いない。

 

「む…其処の(わらべ)達は」

 

氷室(ひむろ) (りょう)鬼灯(ほおずき) (てる)。成り行きで、知人の弟子を預かることになってな。実力に関しては、まだまだ未熟の域だが、自ら考え、日々成長を続けている」

 

黒木さんの隣の椅子に涼君が、俺は平良さんの隣の椅子に各々よじ登って、二人の会話に耳を傾ける。

其の時の話を簡潔に纏めると、仕事の話をしていたようだった。…何でか、複数人の名前や場所を確認していたようだけど何だったのだろう?

 

まぁ、そんな事はこの際置いておき…「平良さん」と俺は声を掛けた。無論、俺が彼の隣に座った事も計算の内。其の狙いは唯一つ。

 

「照か…何か言ったか?」

 

「はい。…俺と、『組手』をしていただけませんか?貴方の『強さ』を俺は知りたい。知った上で、貴方に『弟子入り』して、其の強さを学びたいのです」

 

「お願いします!」と正面に向き直って、頭を深く下げた。俺の言動に、平良さんは少し驚いた表情で、涼君は「マジかよ」と言った具合に口を開け、黒木さんは表情に出さずとも、呆れているのが眼に見える。

 

「黒木よ、この少年…鬼灯 照とは、こうゆう人間なのか?」

 

「あぁ。俺も初対面で組手を頼まれ、三分だけ相手をしてやった。こいつは、俺との実力差を承知し、怖じ気付く事無く、最後まで戦った。

 

…『悪くない』時間だった」

 

そう言い、黒木さんは硝子の器に注がれた酒を静かに口に含み、喉へと送った。

…あれ?これって、黒木さんに『褒められた』のか?

 

「…『あの』黒木に、こうも言わせるか。…照と言ったな。明日の朝、黒木の屋敷から近い浜辺に来なさい。其処で力を見極める」

 

交渉は成立。約束を取り付け、弟子入りの為の段取りは付いた。後は自分の持てる力を、平良さんに対して示しきるだけだ。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

翌日。未だ日も海から顔を出さない時間帯、俺は待ち合わせ場所の浜辺に立ち、平良さんの到着を待ちながら準備運動をしていた。

 

体を暖め、怪我を防止し、力を存分に奮う。

強くなるためにも、必ず彼に弟子入りして、其の強さを学び取り、自身の糧にする。

 

「来ていたか」

 

声が聞こえた。振り向くと平良さんが歩いてきており、俺は「はい」と答えつつ、深く頭を下げる。

 

「分かっているとは思うが、組手をする以上、此方は手を抜くつもりはない。もし辛いと思ったのなら、直ぐに言う事。無茶をしてまで、戦う事は無いからな」

 

首と手首を回しながら、戦うに当たり、平良さんは俺にそう言って警告した。ありがたいことだと、素直に頷き賛同の意を示す。

 

「どちらかの降参、もしくは戦闘不能。組手と弟子入りの試験を同時に行う。照…覚悟はいいな?」

 

ビリリ!と全身を駆けた、絶大な殺気。

分かっている、この人は只者じゃない。

だからこそ魂が滾り、身体中が熱く燃える。

 

自分自身の力を、この人に全てぶつけられるように。

最初から全力全開でいく。

 

「きなさい」

 

彼の言葉を受けて、俺は即座に仕掛けた。

 

繰り出したのは覇堺流(はかいりゅう) 蛇縫(へびぬい)…砂浜や湿地帯では足を取られてしまい、十分な威力を発揮出来ない蝗跳(いなごとび)とは違い、摺り足を利用した歩法。

 

蛇が獲物に狙いを定め、音もなく近付く様に、平良さんとの間合を一気に潰す。次に繋げる為、拳を手刀に変えた其の時、平良さんが左足で砂浜の砂を蹴り上げ、砂塵を此方に飛ばしてきたのだ。

 

「くッ!」

 

反射的に目を守る為に腕を差し込む。其の直後、全身に悪寒が走り、俺は不壊(ふえ)凱甲(がいこう)を同時に使用した瞬間、これまでとはまるで違う『未知の衝撃』が自分の左脇腹を襲う。

 

空気が肺から漏れ、防御の為に硬化した体が『解かされる』。俺は砂浜を一尺程吹っ飛ばされ、背中から地面に落ちた。

 

「くそ、やら…!な…なんだ、これ…!?」

 

即座に立ち上がった時、自分の左脇腹を見た俺は衝撃を受けた。其れは、自分の皮膚が『捻れて』小さな渦を描いた事。そして其の中心は赤く腫れ、出血を起こしていた事。

 

《何だこの傷は!…今の打撃か?!》

 

自慢では無いが、不壊と凱甲の硬化には自信がある。だが、平良さんは其の防御を難なく突破し、自分に手傷を負わせてきた。

 

《………あぁ。良いね、そうこなくちゃ》

 

世界にはまだまだ、沢山の強者が居る。黒木さんも、そして平良さんも、其の『格上の強者』の領域(なか)に居る。

 

《俺は負けるだろう。けれど、負けるなら最後までやりきってやる!》

 

瞳は闘志を失わず、更に強く、真っ直ぐに彼を捉えている。構えも何時も以上に力が満ち、それでいてとてつもなく落ち着いていた。

 

《黒木が言っていた意味が分かった。負けると分かっていても、自身よりも格上の相手との戦いを望む、生粋の『挑戦心』。そして貪欲なまでに強さを求め、唯ひたすらに武を極めんとする『求道者』。

 

これが…鬼灯 照という男か》

 

平良 厳山も微笑し、柔術家特有の両手を前に出した形の構えを取った。

 

勝負は此処から、更なる熱を帯びる。

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