世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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主人公の名前と、使用武術の技が明らかに


第二話 釘擊(くぎうち)

俺の名は、鬼灯(ほおずき) (てる)

 

今は子供だが、前世は武術家として最強に至るために研鑽を続ける身だった。一つの物を極める…そんな果てしなく、終わり無い道を歩いていたのだが、道半ばで流行り病に倒れ、悔しい思いを味わった。

 

…とは言っても、齢九十九まで生きたのだから、ある意味で大往生とも呼べるが。

 

しかし…無念を抱えて死んだ俺をどう思ったのか、神様は、前世の記憶を引き継がせたまま、赤子に生まれ変わらせたのである。

 

《さて、どうするか…》

 

心の中を整理して、ふかふかした腰掛けから立ち上がる。

今居るのは、前回ボコボコにした組織が使っていた建物の一室。既に敵方の大将は逃げており、裳抜けの空になった此の場所。

 

幸運な事に塗り薬や包帯、綺麗な水が備蓄されていた。

戦いで受けた傷を癒し、何か食べられる物は無いのかと探してみる。

 

「…何だこれは?」

 

台所らしき空間に、複数の銀の筒が山で積まれているのを見つける。手に取り、軽く叩いてみるとコンコンと良い音を鳴らし返す其れに、俺は興味を示した。

 

しかし…

 

「…………解せぬ」

 

食糧であるのは分かる。だが、此の筒の開け方が全く分からない。

反音から鉄のような硬度を持つのも明らか。そして生半可な攻撃では、傷すら入らないのは必然。

 

『普通ならば』、諦めるだろう。

 

「ふっ…残念だったな。俺に『硬度』は、意味を成さない」

 

手頃な台を押してきて、銀筒を一つ乗せる。

 

距離を作り、身体重心と左構えの拳、呼吸を調整。

 

こうゆう単純に『硬い』物には、最も最適な『技』が我が流派(俺の武)にはある。

 

「参る」

 

一拍の呼吸。

 

爪先で地面を弾く要領で運足。

 

肩と腕の筋肉を弛緩から一気に緊張へ。

 

そして。

 

 

覇堺流(はかいりゅう) 釘擊(くぎうち)

 

 

技を放った。

 

銀の筒は、渾身を擊を受けたにも関わらず、一切の『変形』をしていない。自分が子供だというのもあるだろうが、其れを差し引いても十分な硬度である。

 

「…『響いたな』銀筒よ。お前の『内側』に」

 

刹那。大砲が放たれたが如く銀の筒は『()ぜた』。辺りには筒の中身であろう物が、ぐちゃぐちゃに散開し大惨事と成り果てる。

 

無論、自分の顔や拳、服にもそれは盛大にぶちまけられた訳で。

 

「うん…やりすぎたな、これは」

 

床に落ちた物を拾い、食う。食感は焼き魚のようだが、その実、甘露煮の味を感じる。何とも不思議な食感だ。

 

「味は悪くない…中々活けるじゃないか」

 

そうして、他の銀筒にも釘擊を叩き込んでは盛大に破裂させ、その度に汚れる嵌めになった。味は旨かったので、差し引いても文句はない。

 

「開け方…習わなきゃなぁ」

 

部屋の掃除と着替えをしつつ、明日からは前世でやって来た修行を行いながら、銀筒の開け方を探しにいくことを決めた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

鬼灯 照の朝は早い。

 

起床後は先ず身体を洗い、身を清める事から始まる。身なりは常に調える事で、武の神への感謝をうんぬん…と彼は心中で決めていた。

 

今日の朝飯は戸棚の中にあった、ふわりとしつつも四角く柔らかな『パン』なるものを食す。旨いことには旨いのだが、どうも噛む度に口の中の唾液を持っていかれるので相性が悪い。

 

「やはり麦飯のほうが良い。あとは焼いた小魚と卸した山芋と納豆、山菜の漬物が有れば尚良いのだが…贅沢だな」

 

そんな言葉をぼやきつつ、ぱんを三枚ほど食べ終え、水を一杯飲む。

 

床に腰を下ろし、禅を組んで目を綴じる。

 

覇堺流は『攻防の衝撃を相手の表面に与え、体内に浸透・沈殿させ、骨や筋を芯から破壊する』事を極意としている。

故に、力の流れや衝撃をより良く、より深く伝える事は実戦に於ては必須だ。

 

《呼吸…浸透…伝達…。呼吸…浸透…伝達…》

 

一拍の呼吸を通じ、一動の心の音を聞き、一通の伝達を知り、全身の力の流れを感じ取る。

 

人体も物質も同じ…其処に在る『芯』へ、表面から最も通る衝撃を浸透させ、内側まで徹し、壊して倒す。

 

どんなに硬い鎧を纏おうと、歳月を掛けた鍛練で間接や骨を鍛えようと、其処から『芯』を失えば、容易く崩れる事を鬼灯 照は知っている。

 

『最強となり、覇堺流を天下に轟かせる』…照の野望は唯一つ。野望成就の為、彼の戦いは始まったばかりだ。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

禅を終えた照は、腕に数個の銀筒を抱えて、建物の外に出る。閑散とした廃墟の街並みは、異様な静けさと腐敗臭が漂い、正常な思考を阻害する。

 

《……嫌な感じだ》

 

常在戦場…頭に浮かんだ言葉である。馴れたくは無い匂いに顔を叱め、辺りを見渡す。

 

《…何人か、近くにいる。敵意は無いが…味方でもない》

 

前世に修行の一環で高陵列なる高い峰に山籠りしたことがある。過酷な環境と気象の変化、腹を空かせた肉食の獣が闊歩する世界を生き抜く為に、全神経を研ぎ澄ました。其の感覚は今も根付いている。

 

「此処は『あの歩法』を使って移動しよう」

 

照は走る構えを取り、踏み出し、跳躍する。

 

着地の時は爪先から入り、踵を地に付けるのは『一瞬』のみ。

 

照の走る速度が段々と速く、跳躍距離もどんどん延びてゆく。

 

「よし…この感じ。感覚はちゃんと覚えているか」

 

覇堺流(はかいりゅう) 蝗跳(いなごとび)…山岳地帯を生き延びる為に身に付けた、覇堺流・運足歩法の一つ。

 

人間は走ったり、戦ったりすると、何らかの形で膝に負担が掛かる。

負担が掛かると、それを補い、動かすために体力を消耗し、結果的に動きが鈍くなってゆく。

ならば、膝に負担が掛からない走り方や、運足なんかをやれば良いじゃないか。

と、このような過程を踏んで生まれた跳躍歩法…其れが蝗跳である。幸い此の辺りは障害物も転がっており、この歩法を活かすには打ってつけの環境だった。

 

神経を研ぎ澄まし、人の気配が少ない道を跳ね走る。

通り過ぎる者達に当たらぬよう、跳躍距離や脚への力を入り抜きしつつ、巧みに身を躱わす。

 

何より俺は、この歩法をして跳ね回っている時間が、楽しくて、愉しくて仕方無いのだ。

 

「はははっ、本当に楽しい。こいつは」

 

更に速度を上げて、建物の壁を蹴り、三角跳びの要領で上へ上へと登る。屋上を走り、建物の間を跳ね、空を飛んだ。

 

「おおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!」

 

風を全身に浴びて、大の字に身体を限界まで伸ばす。廃墟の街並みと、行き交う者達を見下ろす景色は、在る意味で良い気分だった。

 

『この時までは』。

 

 

 

「…………………………………やらかした」

 

着地出来る手頃な建物や足場が一切無かった。跳ねるのに夢中で周りを見ていないという、馬鹿にも程がある失態。

 

「うわああああああああああああ!?!?落ちるううううううううう!!!?!!」

 

空中落下等、想定していない時点で対処するなど出来るはずが無い。

涙目で叫びながら、差し迫る地面に目を瞑った。

 

嗚呼、我が人生。呆気なし…

 

 

『なーにやってんだガキンチョ』

 

 

そんな声がして、落下が止まる。恐る恐る目を開けると、地面まであと三寸程度の所で宙吊りになっていた。だが、いきなり地面に接触。鼻っ柱に強烈な痛みが襲う。

 

「あでっ!?」

 

「随分元気に跳ね回ってんだな、お前」

 

声のする方を見る。其処には丸太木に腰掛け、ニタリと笑う男が一人。

 

男は使い込まれた布を防寒や砂塵から身を守るようにして纏い、無造作に伸びた長い黒髪を後ろに束ねている。見た目は、二十と三十の歳の間にあるような顔立ち。

 

だが、武道家として前世を生きた照には、別の驚きがあった。

 

僅かに覗く腕は鍛え抜かれ、まるで樹齢百年に至る大樹のような太さ。

薄手の服越しにも解る、複数に割れた腹筋は巌の如き隆起を成し。

長い時間を掛けて作られた脚は、どっしりと大地を踏み締め、男の存在をより強く、より大きく見せつけている。

 

一目で解る。この男は…『とんでもなく強い』。

 

「あ、オッサンは…?」

 

「おいおい、オッサンはねーだろ。オッサンは。おにーさんだガキンチョ。あと、名乗るなら自分から名乗んな。

 

…あいや、此処は『中』だし、お前にゃ名前なんて…」

 

「…鬼灯 照。俺の名前。名乗ったよ、オッサン」

 

一人ぶつぶつ何か言い始めたので、名乗ってやった。何か馬鹿にされたのが気に食わない。

そんな俺を見て、男は少し驚いた顔をしたが、直ぐに先程の顔に戻った。

 

「…ガキンチョのくせに一丁前に良い名前してるな。んじゃ俺も名乗ろう。

 

俺は『十鬼蛇(ときた) ニ虎(にこ)』。ニ虎さんとかニ虎にーさんと呼ぶと良い」

 

これが、俺とニ虎さんの出会い。

 

そしてこの出会いが、俺の『中』と呼ばれる世界で様々な人々との交わりと、俺の覇堺流が更なる進化を遂げてゆく、始まりでもあった。

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