世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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・羅刹掌の破壊力を形成する、最大の要因。

…其れは『回転(かいてん)


第二十一話 回転(かいてん)

「今日より修行を始める。玄斎(げんさい)との稽古も平行して行うが、覚悟は良いな?…照」

 

「はい!よろしく、お願い致します!!」

 

平良 厳山との組手兼試験を終え、正式な弟子入りを決めた鬼灯 照は今、三つの水が入った龜の前に立っている。

 

「まず始めに、言っておく事がある。我が流派・狐影流(こえいりゅう)には『二つ』しか技がない」

 

「二つだけ?それって…『一瞬で視界から消えた移動』と『回転しながら衝撃が捻り込む掌底』…ですか?」

 

「うむ。正式名称は『狐影流(こえいりゅう)(またたき)』と『狐影流(こえいりゅう)羅刹掌(らせつしょう)』という。

 

瞬は、相手の瞬き…つまり瞼を一瞬閉じた瞬間に、相手の視界の死角と呼ばれる領域へと移動する歩法だ。

音もなく、気配を殺し、一瞬で、迷い無く、其の場所へと移動する。恰も、其の場から消えたようにな。

 

羅刹掌は背から肩へ。肩から腕へと。力を伝導させて、腕の回転で伝導した力を増幅し、相手の身体へ回転した打撃を繰り出す。

 

瞬は組手を通じて教えてゆくが、羅刹掌はそうはいかん。まずはこれから始めてゆく」

 

厳山はそう言って、水の入った龜と向き合う。右腕を構え、足腰の重心を調整しつつ、腕を捻り…そして放つ。

 

「………『回ってる』ッ!」

 

龜の中身を満たす水が、彼の羅刹掌の擊を受けて、渦を巻いて回っているのだ。

 

「羅刹掌が完成へ至るには四つの段階がある。

 

先ずは水から始まり、次に砂、さらに砂利、最後に動物の肉へと段階を重ねる。まずは水に衝撃を捻り込む感覚を身に付ける事だ。

 

出来るまで、何回も果てしなく続けてゆく。例え其れが、修行で掌が痛みの感覚を失おうとも」

 

努力無くして、体得成らず。

 

こうして俺は、羅刹掌体得の為に水の入った龜へ向き直り、修行を開始した。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

《………わからん》

 

羅刹掌の修行を始めて、黒木 玄斎の修行も行いながら過ごす日々も、早いもので一ヶ月が過ぎた。

 

しかし現在、照はある問題に直面していたのである。

其れが『捩じ込む感覚が分からない』事。

 

釘擊と力の伝導の工程が『同じ』であるにも関わらず、釘擊とは根本から『違う』衝撃の浸透方法に、四苦八苦を余儀無くされていた。

 

水を突く度に波紋は生まれども、渦を巻く事はない。

それでも何度も、何回でも、衝撃を水へと流し込む。

 

《何か『切欠(きっかけ)』が有れば良いんだがなぁ…》

 

二虎流・操流ノ型を利用してみたりと、彼の思考錯誤の時間は続く。

そんな悪戦苦闘を続けている、照の様子を見ていた厳山は、近くに歩み寄り、こう言った。

 

「照。羅刹掌の『回転』は腕で行う…そう言った。ならば、其の回転は『何を以て』成すのか。

 

其れを考えてみろ」━━━━━と。

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「『回転は何を以て成す』…なぁ……━━━━━」

 

「━━━━━る。━━━━━━おい、━━━━照!どうしたよ!さっきからぼぉっとして!」

 

羅刹掌の修行中、厳山に回転の事を言われてから二週間が過ぎた、ある日の昼過ぎ頃。海岸で呆けたように空を見上げながら、言われた言葉の意味を思考し、没頭し続けていたところ、どうやら話を聞き逃してしまっていたようだ。

 

横に視線を向けると、彼の親友にして好敵手の氷室 涼が頬を膨らませ、怒った表情で立っている。

 

「ふえっ?あ…涼。で、何だっけ?」

 

「はぁ!?何も聞いてねぇのかよ!!縦拳がまた速くなったって言って、組手しようぜって言ったんだよ!」

 

「あ、あぁ…それか。うん…━━━━」

 

「…何かあったのか?」

 

「実は…」

 

照は、厳山との羅刹掌の修行で言われた事を、涼に対して説明する。

 

「回転って言ったらアレだろ?ぐるんぐるんって回って、ぐるぐるぐるぐるしてるヤツだろ?」

 

「成る程、分からん」

 

「いや、分かるだろ…あ、じゃあさ!回ってみようぜ!」

 

涼の提案に、どうしてそうなると疑問が浮かんだが、其れを言うのは野暮と思い、頷きつつ立ち上がる。

 

「勝負は全力で、どっちが長い時間回り続けられるかだ照!」

 

「…分かった、受けて立つ!」

 

勝負となれば、手を抜く訳にはいかない。覚悟を決めて、両者は視線を白い砂浜を踏む、軸足へと落とした。

 

「………始め!」

 

照の一声。ほぼ同時に両者、其の場で軸足を使い、全力で回る、回る、回る。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「うりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

回転し続ける視界…脳が景色の変化に対する処理速度に追い付けず、身体の感覚がおかしくなり始めた。

 

《やばい…目が回ってきた…倒れ━━ん?》

 

照は『何か』に気付く。回転する中で、唯一動いて居ない場所…『軸足』の接地面が、砂浜に少しずつ『埋まって』いっている事に。

 

《そうかッッッッッッ━━━━!!そうゆう事だったんだ!!厳山さんが言っていた言葉の意味はッ…!!》

 

ビタッ!と急停止したが、それまでに蓄積した回転による反動で、照は砂浜に横向きで、釣り上げられ全長を測られる太刀魚のように、真っ直ぐに伸びて倒れる。

 

「おっしゃ、勝った!!照に勝った、ぞぉ~………」

 

涼は照に勝ち、歓喜の叫びを挙げたものの、此方も同じく反動が襲い掛かり、背中から大の字に倒れてしまう。

 

《……『軸』だった。回転しても、絶対にぶれない場所…。

 

『腕骨』を『軸』にして、『筋肉』を『捻る』事。これが…羅刹掌の『力の伝導方法』だったんだ…》

 

答えに、辿り着いた瞬間だった。

 

《…力の『矢印』を『真っ直ぐ』に撃ち込む『釘擊』。…其の技術を元にするなら、肘より先から矢印を『大きく』、腕に『巻き付くように』コントロールしてみよう…。

 

そうすれば…きっと━━━━━》

 

照は目を閉じる。羅刹掌の体得への切欠は手に入れた。

 

果たして、彼は新たな技術を元に、狐影流の羅刹掌を。そして、覇堺流の新しい進化を見出だせるか。

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