世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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氷室 涼と鬼灯 照。

幾度と無く拳を交えた二人の組手は、新たな領域へと至る。

・今回は三話分の戦いになります。


第二十二話 回答(かいとう)

沖縄に来てから五ヶ月と三週間程の時間が流れた。

 

「覇ァッ!」

 

黒木さんの鍛練と平行して始めた、厳山さんの武術、狐影流・羅刹掌の修行は、新たな段階に至ろうとしている。

 

「覇ァッ!」

 

水で充たされた瓶の水面に、捻りを加えた掌が入る。

放たれた衝撃が渦を巻き、遂に瓶の中で螺旋が描かれたのだ。

 

「で…出来た…!やった!やっと出来た!厳山さん!出来ましたよ!第一段階の水に螺旋を描きました!」

 

「…ふむ。確かに水を回す螺旋が出来ている。だが、本来の威力とは程遠い。精進を怠るなよ、照」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

《修行を始めて二ヶ月…本来羅刹掌の習得には、一段階毎に最低でも『二年』、最短でも『八年』の月日を費やす。その上、『実戦で手札として使うとするなら』、確実性を求めて『十年』は必要だ。

 

黒木から聞いた『衝撃が時間差を以て襲い掛かる打撃』…察するに照は、『力の細かな調整』に関して、何らかの形が既に出来上がっていたのかも知れんな。

 

そうだとすれば、驚異的な速度で第一段階を突破した事にも合点が付く。まったく、末恐ろしい童だ》

 

嬉しさで拳を天に、高く力強く突き上げる少年の背中を見つめながら、厳山は心中でそう呟いた。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「照~。久しぶりに組手しないか?」

 

黒木邸の庭で稽古の最中、氷室(ひむろ) (りょう)が組手に照を誘う。普段なら照の方から涼を誘う事が殆どだが、こうして誘われるのには何かしらの理由が在るのだろう。

 

「珍しいな。俺は良いけど…何かあった?」

 

「ふっふっふ~…、其れは組手で戦うまで教えねぇよ!」

 

「ふぅーん…楽しみにしてるよ。じゃあ、組手は昼餉(ひるげ)の後、場所は何時もの浜辺でやるか?」

 

「応よッ!」と張り切る涼を見ながら、照もまた組手で繰り出す技を選別してゆく。

 

そして昼飯を食べ終えて、食休みを終えた後。

 

黒木邸から一番近い、二人の修行場に成りつつある浜辺で、両雄は準備運動を取る。

 

「形式は何時も通りで良い?」

 

「あぁ、相手が『戦闘不能になる』か『降参を言わせる』…だよな?」

 

「うん。じゃあ…始めようか。━━━━構えて」

 

照の言葉を聞き、涼は両拳を握り、両腕を肩程の辺りまで上げつつ、右足を前に小刻みにステップを踏む。

 

一方の照は、自身の左手左足を前に出し、どっしりとした構えで、迎え撃つ型を取った。

 

漣が響く中、二人の集中力は高められてゆく。

 

波の音が。

 

潮の香りが。

 

砂浜の熱さや感触が。

 

感じなくなるほどの集中状態に入り。

 

回りの色彩さえもが真っ白になった時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は静寂を破って激突した。

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

足先が砂を蹴り、裂く。

 

そうして砂浜に出来たのは、雨粒が水面に落ちては波紋を広げるかのような、着地後。

 

奇しくも二人が初手に繰り出した技は、照が前世で創設・形成し、転生し現代の他武術の特性と技術を吸収・発展させ、進化を続ける覇堺流(はかいりゅう)の運足歩法の一つである蝗跳(いなごとび)

 

脱兎の如く跳ね回り、互いが互いの出だしを警戒する。

━━━が、其れもまた一瞬。

 

『覇ァッ!』

 

先に動いたのは、照。

 

砂浜を縫うように。素早く、刹那の内に涼との間合いを潰す。

 

「来たッ!」

 

「せいっ!」

 

照の三手目は、涼の左足を狙って放つ踝への右爪先蹴り。

着地の瞬間に直撃するように、狙いを絞ってきた。

 

「しゃあ!」

 

空中で胴体を捻り、左足で後ろ回し蹴り。

照も気配を感じて、上体を重力に任せて倒れつつ、蹴り一閃を躱わし。

同時に出していた右足を引っ込め、地面を転がりながら距離を取る。

 

涼は其れを見逃がさない。着地と同時に二虎流(にこりゅう) 火天ノ型(かてんのかた)烈火(れっか)で間合いを取らせない。

 

《照は強い!だけど、俺の縦拳(たてけん)を捉えられた事は、今までの組手で『殆ど無い』!至近距離なら俺の連撃速度が上だ!》

 

涼は知っている。照が『力の流れ』という『矢印』が見えている事を。幾度と無く、厭きるほどに繰り返した戦いの中で、彼が其の境地に達している事を否応なしに重い知らされた。

 

だが同時に。照が見ている矢印は、『万能』と言う訳では無く。動体視力等や彼自身の感覚といった、様々な要因で『あまりにも速いモノ』に対する反応速度が『追い付いていない』事も知っている。

故に近距離下(ショートレンジ)での縦拳は、絶対的に優位。

 

『貰った!!』

 

繰り出すのは、自身の十八番たる縦拳。右拳が唸り、風を切り裂き、照の顔面へ向けて放つ。其の瞬間は、まるで雷が落ちて、白光の輝きと衝撃に包まれるかのようで。

 

涼の一撃は。照に直撃する━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も、何時までも受けっぱなしじゃあ…ないんだぜ。涼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━はずだった。

 

 

繰り出そうとした縦拳。其れは突き出す前に、照の左手によって『手首』をガッチリと押さえられ、『止められていた』のである。

 

「確かに今までは縦拳を繰り出されたら『耐えるしかなかった』。━━━だが、今は違う。

『耐えようとするから』叩かれる。だったら…『打たせる前に止めれば』良いんだ」

 

どんなに速くとも、繰り出せなければ、意味は無く。

どんなに強力な打撃だろうとも、出す前に止めてしまえば、脅威には成り得ない。

 

其れが鬼灯 照の。

 

氷室 涼の縦拳に対する『回答(かいとう)』だった。

 

「……やるじゃねぇか、照!」

 

「どうも!…んじゃ、喰らえ!」

 

涼からは見えない照の背筋が隆起し、其の力の流動が、肩から右腕へと連動。

 

狙うは涼の右肩、繰り出される照の十八番、覇堺流(はかいりゅう) 釘撃(くぎうち)

 

直撃すれば、筋肉や骨の中芯へと衝撃が浸透し、時間差を以て其の衝撃が爆ぜるという、荒唐無稽の必殺技(滅茶苦茶なわざ)。通常の打撃と遜色無いが故に、初見で釘撃か否かを見切る事は、ほぼ『不可能』である。

 

そして、其の動作の最中に彼は、腕を流れる血流の速度を加速させ、速度を大きく上げた。

放たれた技の名は、『釘撃(くぎうち)(じん)』。其の速さと衝撃の浸透力は、通常の釘撃よりも『速く』、進行途中でも瞬発的に『加速可能』。

 

ドゴッ!と音が響き、照の速く重い拳が涼の肩筋にめり込む。これで遅かれ早かれ、涼の肩は衝撃と言う名の爆弾が爆ぜる。そうなれば攻撃力は激減し、一気に有利となる━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「っはぁ!!……あぶねぇ、何とか間に合った!」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━はずだった。

 

 

照の打撃…釘撃・迅は確かに。涼に直撃し、衝撃は肩へと浸透した。しかし、彼の肩には直撃で出来た『小さな痣痕』しか在らず。代わりに左足が接地している砂浜には『クレーターの跡』が生まれていた。

 

「照の釘撃は正直、今の俺でも食らったら一堪りもない。でも、其の衝撃が来るのには『時間差』が在る。

 

だったら其の時間を利用して、操流ノ型(そうりゅうのかた)で『衝撃を流して、体外へ逃がせば』良い!」

 

其の衝撃が如何に強かろうとも、何れ程重かろうとも、そしてどんなに速かろうとも。衝撃が炸裂する前に、体外へと一片残らず流しきり、逃がしきる。

 

涼が導き出した『回答(こたえ)』は、端的に見れば荒業で。しかしこの上無く、とても単純明快(シンプル)な回答だった。

 

「そうか…辿り着いたんだな。釘撃の『攻略法』に」

 

「俺だって、照に負けっぱなしなんてゴメンだからな。俺なりに努力してきたんだ」

 

即座に照の右手首を左手で鷲掴み、組み合う両雄。どちらも二虎流(にこりゅう) 金剛ノ型(こんごうのかた)鉄指(てっし)で互いの間接を握り締め、圧迫し合う、我慢比べに入った。

 

 

 

 

 

 

 

「…フフフ!」

 

「…ハハハ!」

 

が、突如として笑い始める。

この瞬間、互いに理解したのだ。

 

『此処から』。

 

お互いの『最得手』を攻略した此の瞬間からが。

 

本当の意味で『対等』であり。

 

そして同時に『始まり』なのだと。

 

「良いな!こうゆうの!!」

 

「ああ、だからこそ!!」

 

『負けられねぇ!!!!!』

 

『負けたくねぇ!!!!!』

 

照が操流ノ型(そうりゅうのかた)(やなぎ)で、涼の足元を崩しつつ、握りが弛んだ一瞬の隙を突いて、拘束を逃れた。

 

だが涼も、素早く崩された体勢を立て直し、直ぐに攻撃へと転じる。

拳を弛く握りつつ、不規則にシャドージャブをしながら、照に猛スピードで突っ込んできた。

 

《拳の握り方が弛い…水燕(すいえん)が来るか━━━━!》

 

拳を弛く、軽く握り、脱力した状態で放たれる其の連打は、不規則な軌道を描きながら、敵に襲い掛かる。

涼の連打は速く、何より水燕の連撃は照から見ても、厄介極まりない。

 

 

 

 

 

が、しかし━━━━━

 

 

 

「いくぜ!」

 

 

大振りに振るわれた右腕。其の先の手が正面に集中し、疎かになっていた左脇腹に直撃する。

 

「ッッッッッッ~~~~~!?!?」

 

直撃の瞬間、突如として右手が『硬化』したのだ。

 

二虎流 金剛ノ型の基本、『不壊(ふえ)』の原理に等しい一撃に、照は思わず膝を付く。

 

「どうだ、スゲェだろ照!」

 

「…まさか、そう来るとは思わなかったぞ。…凄いな、涼」

 

金剛ノ型と操流ノ型。

 

『本来ならば』複合及び併用が『不可能』な筈の二つの型。

 

其れを、氷室 涼は『可能』にしていたのである。

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