・三話に渡る組手の最終部、勝利を手にするのはどちらか?
・次々話で照と涼は、遂に『
並びに
氷室 涼、右腕を使用不能となる。
結果として自分の立てた予測は大方当たり、裂傷多数・打撲傷多数・出血箇所多数の大ダメージを引き換えに、涼の右手首に
「ぐっ…ぁあ…ッッッ"ッ"ッ…!」
苦虫を噛み潰したような顔で、涼は照を見上げている。
《お前は何時もそうだった…!》
組手を重ね続け、敗北する度に見た
《だから負けたくねぇ…!》
どんなに苦しく、辛い状況に追い込まれても、絶体絶命の窮地に立たされようとも、決して失わず、揺らぐ事の無い、冷静な判断力に。
強さの深みに至る為に、どんな努力も惜しむこと無く出来る、不動の精神に。
強者との一期一会の闘争を、真に楽しめる心の有り様に。
同じ歳にも関わらず、既に其の技量は一流の域に足を踏み入れている事実に。
《負けられねぇんだよっ!!!!》
舌を噛みながら、意識を筋肉に集中。力業で無理矢理、関節を嵌め直しつつ、不壊の筋肉硬化で折れた手首関節と肘関節を固め、右脇腹をガードする。
動かせずとも、三日月蹴りを止める事くらいなら可能だ。
…最も、照の
《右腕は使えても、マシな打撃を放てない…だったら、どうやって『勝つのか』を考えろ…!》
歯を食い縛り、思考を回転させる。
鋼打は既に見切られた、それでも戦う為の手札は在る。
思考の末━━━━━涼が動く。
「…………!」
『歩いてきた』。其れも『散歩』でもするかのように。
必然、照の警戒は強まる━━『速攻』と『早期決着』を当たり前のように仕掛けてくる涼が、戦い方を変える事は殆ど『無い』。
『必要無い為』だ。大抵の場合、相手の体勢や攻めが始まる前に叩き、出だしや攻めを封じ、そして倒す。其れが氷室 涼という男の戦い方。
それがどうして、ゆったりと落ち着いているのか。
《決して悟られるな…俺には一度しか
暗殺者の如く、涼は静かに。照との距離を詰めて行く。
照が現状で防げなかった技は二つ。一つは自分の十八番である縦拳、そしてもう一つは自身の切札である
だが縦拳が攻略された今、涼に残されたのは、『最速』にして、『最強』の縦拳である流星のみ。
流星…涼が持つ此の技の射程距離はおよそ1~2m程度。そして通常の縦拳が時速15km/hであるのに対して、流星の最高時速は其の3倍強…時速50km/hに到達する。
武士が使う、
事実…涼が『初めて』照に組手で勝った際に、決まり手となったのも
《右腕は嵌め直しただろうが、本来の威力は出せないはず。なら涼は、確実性を求めて『左腕』で打ってくる。集中だ…》
一歩…一歩…また一歩。其の距離はとうとう、5mまで縮まった。
次の瞬間━━━━━━━━━
涼の体勢が崩れ、地面に上体が吸い込まれて行く。
だが、其れも一瞬…涼の身体が一気に加速した。
《此所で
照と涼が出会い、最初の組手となった戦いで照が繰り出した、仙術から名を頂いた『重力を利用する重心移動』。通常とは間合いが完全に異なる、特殊な移動であり、二虎流の移動等に関係する火天ノ型の『
間合いの外からの縮地で、照の反応は完全に遅れた。
涼は流星を放つべく、左手で拳を作り、前に出す。
狙うは
《…と、思ってるんだろう?》
照は涼の狙いに、数瞬早く気付いていた。故に左で放った流星を受けて、止まった所を掴まえ、先程と同じ
其れで━━━決着が付く。
《涼、お前は本当に強くなった。強く、そして俺の想像を超えて、進化し続け、此処まで来た。
お前と戦える時間が、俺は…何よりも好きだ》
目を見開き、流星の衝撃に備える。首筋を不壊で硬化・固定し、足を強く踏み締め、一撃を受け止める体勢を取った。
迫る、最速にして最強の縦拳…流星。
煌めく一閃が、照の顎へと狙いを済まして、白光と共に直撃する━━━━━━━━━━━
ピタリ………━━━━━━━━━━
其の筈だった。
涼は縦拳を、照の顎の寸での所で急停止させた。
「…はッ?!」
驚愕を隠せない照…其れもそうだ。今日だけで、今まで戦ってきた『氷室 涼』と言う少年の、様々な面を尽く覆され、全く予想だにしなかった考えや行動を、次々に見せられ、実行されたのだから。
そうして思考が一瞬…時間にして0.36秒、照の動きが完全に止まった。そう━━━『此の一瞬』を、涼は待って…否。『待ちわびていた』のである。
繰り出すのは、嵌め直した右腕。先程と同じ流星…然れど、其れは只の流星に非ず━━『右手中指が突き出た状態の流星』。
涼の右手の握り方は、空手の
照の思考が再び動き出す前の━━回避も防御も取れぬ、まさに無防備になった照の眉間に、速と重…二つの特性を折り合わせ、融合した渾身の縦拳が直撃。
同時にベキャリ…!!と。そんな卵の殻が割れたような、鈍く痛々しい音が響き、額から血がプシュッ!と噴出し、彼の鼻を、唇を赤い線を描き伝って、白い砂浜に赤の斑点を落とす。
完全に決まった。手応えもある。
照の反った身体がゆっくりと、背中から地面に傾いて行く。
《この組手…俺の勝ちだッ!照!!!!!》
「━━━━━━━いや…。まだだよ、涼ッ…!!」
グルン!と、倒れかけた筈の照の身体が一気に戻る。
何故だ?
確かに縦拳は直撃した。手応えも在った。
なのに何故、照は『倒れなかった』?
「効いたさ…思いっきり。…だけど、其の威力を『逃がして』…衝撃を、最小限に押さえたのさ…」
照の足元を見たとき、涼は彼の言った言葉の意味を理解する。
両足に出来た、一際大きな窪み…其の正体は当たった直後に照が使った、
無論、照自身も只では済まなかった。涼のフェイントに加え、中高一本拳で受けた衝撃は『完全』には流す事が出来ず、縦拳を受けた衝撃で脳が揺れ、平行感覚に深刻なダメージを負っていた。
だが━━━照の目には見えていた。自分が勝利へ向かう為の道筋が。
歯を食い縛り、照が吠えた。
涼も直ぐに防御体勢を取ろうとしたが、照が片足を差し込んで、其の体勢を直ぐ様崩す。腕を重ねるも、彼の右手刀が叩き、下に押し込まれる。
其の刹那━━━照の両拳が六回、涼の身体を一瞬の最中に撃ち抜いた。照が放ったのは、この沖縄に来て
敗北を糧とし、其の技の威力、強さを直に受けたからこそ、身に付ける事が出来たのである。
「ガッ…━━━━━!?」
鼻と口から血を吐き出し、膝から地面に崩れ落ちる涼。薄れて、消え行く意識の中で、彼が其の日の最後に見たのは、今にも自分と同じく意識を手放してしまいそうな瀬戸際で、食い止め、持ち堪える照の姿だった。
《……やっぱ、強ぇ…━━━━━━━》
ドサリ…と、砂浜に倒れて動かなくなる涼。
「…名を…
照もまた、意識を繋ぐ紐がブツリと切れて、砂浜へと落ちて倒れ伏す。
《やばい……攻撃を、受け…過ぎ、た…━━━━》
二人の少年の組手は、鬼灯 照に軍配が上がった。
其の数分後、彼等は様子を身に来た黒木に助けられ、屋敷にて手当てを受ける事になる。
そして目が覚めた時、二人は黒木に、こっぴどく叱られ、一週間の絶対安静並びに組手をするなら、必ず俺に相談してからやるようにと言われたのだった。
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