世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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敗北から得た物は、血肉となって自らの糧に成る

・三話に渡る組手の最終部、勝利を手にするのはどちらか?

・次々話で照と涼は、遂に『拳願仕合(けんがんしあい)』に接触します


第二十四話 剛烈(ごうれつ)

右手根骨内(みぎしゅこんこつない)船状骨(ふねじょうこつ)月状骨(つきじょうこつ)豆状骨(まめじょうこつ)三角骨(さんかくこつ)。及び上腕骨滑車(じょうわんこつかっしゃ)の以上、計五ヶ所の複合骨折(ふくごうこっせつ)

 

並びに右手首関節(みぎてくびかんせつ)右肘関節(みぎひじかんせつ)の二ヶ所複合脱臼(ふくごうだっきゅう)

 

 

氷室 涼、右腕を使用不能となる。

 

 

鋼打(はがねうち)の技の性質…涼の説明から『掌より上以降の筋肉は、操流の繊細な動作の為に脱力せざるを得ない』と考察を立てた照は、『敢えて』彼の攻撃を受けにいき、自分の予測が正しいかどうかを確かめていた。

 

結果として自分の立てた予測は大方当たり、裂傷多数・打撲傷多数・出血箇所多数の大ダメージを引き換えに、涼の右手首に二虎流(にこりゅう)操流ノ型(そうりゅうのかた) (がらみ)狐影流(こえいりゅう) 羅刹掌(らせつしょう)の回転エネルギーで発生した捻りを組み合わせ、覇堺流(はかいりゅう)の十八番とする衝撃伝導で右腕に其の威力を(とお)し、骨折と脱臼を同時に起こしたのである。

 

「ぐっ…ぁあ…ッッッ"ッ"ッ…!」

 

苦虫を噛み潰したような顔で、涼は照を見上げている。

 

《お前は何時もそうだった…!》

 

組手を重ね続け、敗北する度に見た鬼灯 照(ライバル)の顔。頭は冷静沈着に、しかし心は熱く滾る、一見矛盾した其れは、涼にとって『憧れ』であり、同時に『嫉妬』でもあった。

 

《だから負けたくねぇ…!》

 

どんなに苦しく、辛い状況に追い込まれても、絶体絶命の窮地に立たされようとも、決して失わず、揺らぐ事の無い、冷静な判断力に。

 

強さの深みに至る為に、どんな努力も惜しむこと無く出来る、不動の精神に。

 

強者との一期一会の闘争を、真に楽しめる心の有り様に。

 

同じ歳にも関わらず、既に其の技量は一流の域に足を踏み入れている事実に。

 

《負けられねぇんだよっ!!!!》

 

舌を噛みながら、意識を筋肉に集中。力業で無理矢理、関節を嵌め直しつつ、不壊の筋肉硬化で折れた手首関節と肘関節を固め、右脇腹をガードする。

動かせずとも、三日月蹴りを止める事くらいなら可能だ。

 

…最も、照の源流(バックボーン)である覇堺流には、衝撃伝導がある。焼け石に水で有るかもしれないが、無いよりはマシであろう。

 

《右腕は使えても、マシな打撃を放てない…だったら、どうやって『勝つのか』を考えろ…!》

 

歯を食い縛り、思考を回転させる。

 

鋼打は既に見切られた、それでも戦う為の手札は在る。

 

思考の末━━━━━涼が動く。

 

「…………!」

 

『歩いてきた』。其れも『散歩』でもするかのように。

必然、照の警戒は強まる━━『速攻』と『早期決着』を当たり前のように仕掛けてくる涼が、戦い方を変える事は殆ど『無い』。

 

『必要無い為』だ。大抵の場合、相手の体勢や攻めが始まる前に叩き、出だしや攻めを封じ、そして倒す。其れが氷室 涼という男の戦い方。

 

それがどうして、ゆったりと落ち着いているのか。

 

《決して悟られるな…俺には一度しか好機(チャンス)が残されてない》

 

暗殺者の如く、涼は静かに。照との距離を詰めて行く。

 

照が現状で防げなかった技は二つ。一つは自分の十八番である縦拳、そしてもう一つは自身の切札である流星(りゅうせい)

だが縦拳が攻略された今、涼に残されたのは、『最速』にして、『最強』の縦拳である流星のみ。

 

流星…涼が持つ此の技の射程距離はおよそ1~2m程度。そして通常の縦拳が時速15km/hであるのに対して、流星の最高時速は其の3倍強…時速50km/hに到達する。

 

武士が使う、居合(いあい)の要領で放たれる一撃は、風を。音を。光さえ置き去りにする速度で、対象を打ち抜き、相手は打たれた事にすら気付けず、倒される。

 

事実…涼が『初めて』照に組手で勝った際に、決まり手となったのも流星(此の技)だった。

 

《右腕は嵌め直しただろうが、本来の威力は出せないはず。なら涼は、確実性を求めて『左腕』で打ってくる。集中だ…》

 

一歩…一歩…また一歩。其の距離はとうとう、5mまで縮まった。

 

次の瞬間━━━━━━━━━

 

 

 

涼の体勢が崩れ、地面に上体が吸い込まれて行く。

 

だが、其れも一瞬…涼の身体が一気に加速した。

 

《此所で縮地(しゅくち)かッ…!》

 

二虎流(にこりゅう) 火天ノ型(かてんのかた) (きわみ)縮地(しゅくち)

 

照と涼が出会い、最初の組手となった戦いで照が繰り出した、仙術から名を頂いた『重力を利用する重心移動』。通常とは間合いが完全に異なる、特殊な移動であり、二虎流の移動等に関係する火天ノ型の『奥義(おうぎ)』。

 

十鬼蛇(ときた) 二虎(にこ)との組手を通じて、火天ノ型に適性が有ると彼から見込まれ、修行の合間を縫って、密かに練習し続けてきたのだ。

 

間合いの外からの縮地で、照の反応は完全に遅れた。

 

涼は流星を放つべく、左手で拳を作り、前に出す。

 

狙うは頸椎(けいつい)こと下顎(したあご)…脳と直結する、人体の共通して持つ弱点の一つ。どんなに頑丈な相手でも、臓器までは鍛える事は『絶対に不可能』。其れ故に当たり処によっては、文字通り『戦闘不能』に追い込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《…と、思ってるんだろう?》

 

照は涼の狙いに、数瞬早く気付いていた。故に左で放った流星を受けて、止まった所を掴まえ、先程と同じ渦喰(うずばみ)で肘と手首の両関節を同時に破壊する。

 

其れで━━━決着が付く。

 

《涼、お前は本当に強くなった。強く、そして俺の想像を超えて、進化し続け、此処まで来た。

 

お前と戦える時間が、俺は…何よりも好きだ》

 

目を見開き、流星の衝撃に備える。首筋を不壊で硬化・固定し、足を強く踏み締め、一撃を受け止める体勢を取った。

 

迫る、最速にして最強の縦拳…流星。

 

煌めく一閃が、照の顎へと狙いを済まして、白光と共に直撃する━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタリ………━━━━━━━━━━

 

其の筈だった。

 

涼は縦拳を、照の顎の寸での所で急停止させた。

 

「…はッ?!」

 

驚愕を隠せない照…其れもそうだ。今日だけで、今まで戦ってきた『氷室 涼』と言う少年の、様々な面を尽く覆され、全く予想だにしなかった考えや行動を、次々に見せられ、実行されたのだから。

 

そうして思考が一瞬…時間にして0.36秒、照の動きが完全に止まった。そう━━━『此の一瞬』を、涼は待って…否。『待ちわびていた』のである。

 

繰り出すのは、嵌め直した右腕。先程と同じ流星…然れど、其れは只の流星に非ず━━『右手中指が突き出た状態の流星』。

涼の右手の握り方は、空手の中高一本拳(なかたかいっぽんけん)の其れに酷似していた。違うのは其れが『正拳突き』では無く、彼の十八番である『縦拳』だろう。

 

照の思考が再び動き出す前の━━回避も防御も取れぬ、まさに無防備になった照の眉間に、速と重…二つの特性を折り合わせ、融合した渾身の縦拳が直撃。

 

同時にベキャリ…!!と。そんな卵の殻が割れたような、鈍く痛々しい音が響き、額から血がプシュッ!と噴出し、彼の鼻を、唇を赤い線を描き伝って、白い砂浜に赤の斑点を落とす。

 

完全に決まった。手応えもある。

 

照の反った身体がゆっくりと、背中から地面に傾いて行く。

 

《この組手…俺の勝ちだッ!照!!!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━いや…。まだだよ、涼ッ…!!」

 

グルン!と、倒れかけた筈の照の身体が一気に戻る。

 

何故だ?

 

確かに縦拳は直撃した。手応えも在った。

 

なのに何故、照は『倒れなかった』?

 

「効いたさ…思いっきり。…だけど、其の威力を『逃がして』…衝撃を、最小限に押さえたのさ…」

 

照の足元を見たとき、涼は彼の言った言葉の意味を理解する。

 

両足に出来た、一際大きな窪み…其の正体は当たった直後に照が使った、二虎流(にこりゅう)操流(そうりゅう)水天ノ型(すいてんのかた) 導水(どうすい)で出来た物。彼の縦拳による、絶大な威力と無類の衝撃を、頭→首→胴体→足の順に経由し、体外へと流していたのである。

 

無論、照自身も只では済まなかった。涼のフェイントに加え、中高一本拳で受けた衝撃は『完全』には流す事が出来ず、縦拳を受けた衝撃で脳が揺れ、平行感覚に深刻なダメージを負っていた。

 

だが━━━照の目には見えていた。自分が勝利へ向かう為の道筋が。

 

歯を食い縛り、照が吠えた。

 

涼も直ぐに防御体勢を取ろうとしたが、照が片足を差し込んで、其の体勢を直ぐ様崩す。腕を重ねるも、彼の右手刀が叩き、下に押し込まれる。

 

其の刹那━━━照の両拳が六回、涼の身体を一瞬の最中に撃ち抜いた。照が放ったのは、この沖縄に来て黒木(くろき) 玄斎(げんさい)と出会い、最初の組手で敗れた際の決まり手となった、正拳六連擊(せいけんろくれんげき)

 

敗北を糧とし、其の技の威力、強さを直に受けたからこそ、身に付ける事が出来たのである。

 

「ガッ…━━━━━!?」

 

鼻と口から血を吐き出し、膝から地面に崩れ落ちる涼。薄れて、消え行く意識の中で、彼が其の日の最後に見たのは、今にも自分と同じく意識を手放してしまいそうな瀬戸際で、食い止め、持ち堪える照の姿だった。

 

《……やっぱ、強ぇ…━━━━━━━》

 

ドサリ…と、砂浜に倒れて動かなくなる涼。

 

「…名を…釘撃(くぎうち)剛烈(ごうれつ)………だ━━━━━」

 

照もまた、意識を繋ぐ紐がブツリと切れて、砂浜へと落ちて倒れ伏す。

 

《やばい……攻撃を、受け…過ぎ、た…━━━━》

 

二人の少年の組手は、鬼灯 照に軍配が上がった。

 

其の数分後、彼等は様子を身に来た黒木に助けられ、屋敷にて手当てを受ける事になる。

 

そして目が覚めた時、二人は黒木に、こっぴどく叱られ、一週間の絶対安静並びに組手をするなら、必ず俺に相談してからやるようにと言われたのだった。

 

 




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