世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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・一大戦の勝者、此処に決定。

ケンガンオメガの第50話が神回過ぎてヤバイ


第二十七話 勝者(しょうしゃ)

『始めええええああああっ!!!!!』

 

一声と共に、両雄が突進。

 

ほぼ同時に起こる、大歓声。

 

一大戦が今、始まった。

 

「おぉお!!」

 

穴熊の右腕がボコン!と筋肉が隆起し、大槌の如く拳が振り抜かれた。

 

「Shit!」

 

上体を屈ませ、豪腕を躱わし、パンクの右肘が穴熊の左腕に直撃する。

 

「ちぃ…やるじゃねぇの!ボウズ!」

 

手、手、手。パンクに連続で襲い掛かる━━━手。照は穴熊の繰り出す連手が、相撲で言うところの『張り手』に似ているように見えた。

 

「Ha! It slowly!」

 

張り手の乱打を掻い潜り、パンクの連打が穴熊を打ち抜く。

 

「…………にぃ!」

 

確かに手応えは在った。だが、其れ以上に━━━━━━

 

「効かねぇぜ!」

 

穴熊の耐久力は、パンクの予想を上回っていたのである。

 

「オラァ!」

 

御返しとばかりに、穴熊が繰り出した左フック。パンクも肝臓を防御するため、右腕を射し込んだ。

 

「━━━ッ!?」

 

バチィィィィィ!!!!!と一際大きな、肉を打ち付ける音が鳴り、パンクの体が宙を舞い、柱に大きく叩き付けられた。

 

「出たぁぁぁぁぁ!『熊の張り手(ベア・ブレイク)』だぁあ!」

 

「良い音で鳴った!」

 

「結構重いパンクを、吹き飛ばしやがったぞ!」

 

「穴熊ー!このまま一気に押し込めー!!」

 

観衆が騒ぎ立ち、穴熊の名を呼び始める。

 

「…………プッ」

 

ゆっくりと立ち上がり、負傷した右腕で口元と鼻の下を拭い、唾と共に口の中の血を吐き飛ばす。

 

パンクは冷静だった。

 

相手は拳願仕合で戦い、そして50勝も勝ってきた男。この程度でやられない事は覚悟していたし、自分もダメージを貰うことは想定済み。

 

寧ろ、ダメージを受けた事でエンジンが掛かった。眠気覚ましには、あの打撃が丁度良い。

 

《…どっちも『本気じゃない』。互いに相手から貰った事で、歯車が噛み合い始めた可能性が高い。勝負は此処からだ━━━!》

 

初手の突撃から変わり、ジリジリと互いに一定の距離を保ちながら、円を描くように両雄は歩く。真剣を構えし剣士の一騎打ちが如し、気迫に満ちた戦場へ、観客達の期待を孕んだ視線が注がれる。

 

其の中で、一番先に変化に気付いたのは黒木だった。

 

《…………動く!》

 

其の数瞬、パンクが状況を破り、穴熊へ仕掛けた。

 

真っ直ぐに突貫し、彼の目の前で急停止。熊五郎が振るう腕を下にすり抜け、鳩尾に一撃を叩き込む。

 

「おらぁ!」

 

ブンッ!と右腕が振るわれ、其の腕力『だけ』で空気が震えた。しかし、其の剛腕がパンクを捕らえる事はなかった。

 

「シッ!シッ!」

 

左脇腹、左膝に一撃づつ入る。

 

「ちぃっ!」

 

右足の中段蹴りを躱して、再び左膝に一撃。ズンッ!と重い衝撃が走り、熊五郎の表情が一瞬歪む。

 

「!」

 

弱点発見。パンクの動きと視点が変わる。顔を狙う右の正拳突きを首を傾けつつ回避し。左アッパーで体勢を崩して、右中段二回蹴りで膝と肝臓に打撃を叩き込みつつ、跳躍後回し蹴りで頭蓋を蹴り飛ばした。

 

「すげぇ…何だ今の連続攻撃…!」

 

「穴熊さんの…多分だけど『関節』と『肝臓』を『確実』に叩けるように。其の為にああゆう攻撃をしたんだと思うよ、涼君」

 

「其れを一瞬で見抜いてやったのかよ…!?」

 

「うん…」と二人の少年達は、両雄の戦いに再び視線を移す。

 

「Year!」

 

連打、連打、連打。

 

殴られ、蹴られ、打たれ、穴熊の体…特に左脇腹と顔面がみるみる赤く腫れ、血に染まってゆく。

 

「いけぇ!パンクぅ!」

 

「ブッ飛ばせ!」

 

「穴熊ぁ!何やってんだ!」

 

「怯むなぁ!攻めろ!」

 

「大金賭けてんだ、バカ野郎ー!」

 

観客達の各々が、パンクか穴熊に対する怒号が響き渡る。

 

《なんだこれ…『一方的』じゃねぇか━━━━》

 

この状況を見ている、氷室 涼が抱いた感想がこれだった。

 

攻撃を喰らい、ダメージを受け続け、彼は一切『反撃』しない。否、パンクの打撃に反撃する事が『出来ない』でいるのだろう……そうであるとしか考えられない。

 

《なんだろう…この気持ち悪い『違和感』━━━━━》

 

対する、鬼灯 照が抱いた感想がこれだった。

 

痣だらけになりながら、血塗れになりながら、表情に『余裕が満ちている』のだ。其れが照からすれば、あまりにも『不気味』で仕方ない。

 

「Finish move! Let's go!」

 

パンクが何か叫んだ、次の瞬間、傷だらけ穴熊の背後に回り込んで、自身の鍛えた剛腕で首を締め上げ始めた。

 

「パンクが決めにいったぞ!」

 

「おおおお!」

 

「やれぇ!締め落とせぇー!」

 

ギチギチと聞き慣れない音がする。硬い肉を縄で締めた時、こんな音がするのだと照と涼は学ぶ。

 

頸動脈洞反射(絞め技)による意識喪失迄の時間は『約七秒』と言われている。

 

この状況━━━あの男はどう凌ぐ》

 

腕を組み、黒木は心中でそう呟いた。体勢がパンクに有利であるからだ。

 

前から組み付く場合、相手も引き剥がさんと抵抗する。力比べになる場合、穴熊との体格差で不利なパンクは負ける可能性がある。

 

しかし後ろから組み付くの場合は、まるで違う。締める腕がダメージを負うだろうが、余程柔軟で無い限りは後ろへの攻撃は出来ない。裏拳を放つにしても、関節には可動域の限度という物が在り、迂闊に動かせば首を一気に締め付けられて、意識を失いかねない。

 

《この小僧!良い締め付けを仕掛けてくるなぁ…!》

 

頭が赤くなって行く。口からは泡が噴き出して、黒腕が首筋にめり込んでゆく。

 

《だが…悪くねえ!》

 

ニィィィィ…と。

 

この日、穴熊はこれまでの戦いの中で最高の笑みを浮かべ。

 

そして。

 

『おりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

渾身の力を足先に込めて体勢を建て直すと━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨体に似合わぬ跳躍で、パンクを抱えたまま宙に飛んだ。

 

「Whats!?」

 

まだ余力を残していたのか!━━━パンクは、穴熊の首を減し折るつもりで、腕の力を込めようとした。其の瞬間━━━━力を入れる僅か一瞬の弛みを狙い、穴熊が体を捻って首締めから脱出(エスケープ)したのだ。

 

「!?」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

顔面をパンクの胸に当て、両脇に自身の腕を通して、固め。二人は空中から真っ逆さまに地面に落ちてゆく。

 

「Waaaaaaaaa!?!」

 

「食らえぇえええええ!」

 

数瞬の後、ズドォン!!と一際大きな音が廃工場内に響き、空間が震え、砂埃が舞う。其れが晴れた時、彼等の視線の先には窪んだ地面に、頭で逆立ち、真っ直ぐに伸びた状態の両雄の姿が在った。

 

「ど、どっちが勝ったんだ!?」

 

観客達がざわめき、様子を見守る中…二人の体がぐらりと揺れ、同時に背中から地面にドスン…!と落ちた。

 

「倒れた!」

 

「って事は…どうなるんだ!?」

 

「どっちなんだ、審判!どっちが勝った!?」

 

審判の男が駆け足気味に二人へと近付く。状況を確認し、戦闘継続が可能かどうかを確かめる。

 

「ふぅぁっ!」

 

「うぉっ!?」

 

『『『『『『うわぁ!?』』』』』』

 

ムクリと唐突に、穴熊が審判の目の前で起き上がり、一部の観客達を除いて、すっとんきょうな声が出る。

 

「ふぅ…。小僧、中々良いパンチだったぜ」

 

彼が見下ろす先には、白眼を向いたまま動かないパンクの姿が在った。

 

審判は其れを見て、右手を高く掲げつつ、宣言した。

 

『勝負ありっ!!

 

勝者、倉穴 熊五郎ぅッ!!!!!』

 

審判の宣言、同時に響く大歓声。

 

ある者は大いに喜び、はしゃぎ。

 

ある者は、担架に運ばれるパンクに対し、声援を送り。

 

また、ある者は他の者との会話し。

 

さらに、ある者達は『穴っ熊ッ!穴っ熊ッ!』と連呼して騒いでいた。

 

 

「…すげぇ━━━━!!」

 

観客達の中、激戦を見届けた氷室 涼の口から、小さな言葉が漏れた。

 

やられっぱなしの状況から、鮮烈極まる逆転勝利を目の当たりにし、彼はある種の感動に震えた。

 

こんな戦い方がある。

 

こんな劇的な瞬間があると。

 

━━━━━━其れを知った時、彼は己の心の奥底から沸き上がる、熱い『何か』の存在に気付く。

 

 

「これが…拳願仕合━━━━━!」

 

純粋な力と力の激突。

 

自分の手札と交錯しあう思考。

 

一瞬の隙が勝敗を別つ危うさ。

 

其れ等が混じり、其の中で、最強を目指さんとする者達が割拠している事実。

 

この場所ならば、きっと━━━━━前世に成し遂げられなかった夢である、『覇堺流(はかいりゅう)こそが最強であると、現世に轟かせる』事が出来るかもしれない…そんな想いを照は抱いた。

 

 

《拳願仕合…か》

 

戦いを見終えた黒木もまた、静かな気持ちのなかで燻る、熱い衝動を感じ取る。

 

己の力が拳願仕合という名の戦場で、何処まで届くのかを試したいと、彼は滾っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に三人は、拳願会の今後を決めうる『大きな戦い』で、別々の会社の闘技者として戦う事となるが、其れはまた十数年先の話となる。

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