世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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照、釘擊を再認識する


第二十八話 流転(るてん)

倉穴(くらあな) 熊五郎拳(くまごろう)とパンク・アボットの拳願仕合を見届け、数日が過ぎた。鷹村さんは仕合を見た後、暫く黒木さんの屋敷で俺達と生活を共にする事になった。

 

鷹村さんの話は俺や涼にとって、勉強になったり、心が踊る話ばかりで、本当に楽しい時間だった。

そして数日後、彼は何処かへと旅に出た。黒木さん曰く、特定の居場所を作らず、色々な場所を転々としながら暮らしているのだとか。

 

いつか自分も、自分の足で色々な所に行き、色々な経験をしたいと思わずにはいられなかった。

この世にはきっと、俺の知らない強い奴等が沢山居る。そいつらに逢いに行きたい…。逢って戦い、強くなりたいと、そう思った。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

ある日の夜。月明かり照らす静かな浜辺で、木の枝を手に持ち、俺は砂に字を書いていた。

 

砂には『覇堺流(はかいりゅう)』と大きな円が書かれ、円内には基本技『釘擊(くぎうち)』や、跳躍歩行『蝗跳(いなごとび)』、防御技『反乗 (はんじょう)』、回転踵落とし『斧車(おのぐるま)』等々…前世で生み出した技と転生してから生まれた技を、自身の記憶の図書館から引き出してゆく。

 

「こうして自分の技を見ると『十分』に戦える事は分かる。だけど『足りない』んだよな…」

 

照が懸念している事…其れは覇堺流には『即殺級の威力を持った技が、一つも無い』事についてだった。覇堺流の理念である『衝撃を体内へと徹し、内側から破壊して相手を倒す』事は、基本技である釘擊で十二分に達成している。

 

しかしながら、覇堺流は『軈て』敵を倒す事は出来ても、『直ぐ』には敵を倒せない。今後、自分よりもずっと体躯に恵まれた相手や力を持った者が現れる。

 

そうなった時の為に、覇堺流の足りない『即殺級の威力を持った技』を作る必要が在るだろう。

 

「…………いや、違う。覇堺流の技は、俺の創った流派は。『対処方を知っていようと簡単には防げない』。だってそうだもの、釘擊は衝撃が生き物みたいに『生きて』、体内に浸透して中芯に到達するんだから。

 

なら、其の観点から考えるならば…覇堺流には『連鎖的な破壊技』に『即殺級の威力の技』が必要になる。

 

釘擊で当たった部位から、多数ヶ所を巻き込んで『破壊し続け』、最後は『五臓六腑と全身の骨全てを絶対に壊し尽くす』…そんな技が」

 

連鎖的な破壊と、即殺級の威力。

 

狐影流(こえいりゅう)には羅刹掌(らせつしょう)という捻り込んで体内を破壊する技が、怪腕流(かいわんりゅう)には即殺さえ可能な貫手たる魔槍(まそう)がある。

 

其れ等と比べる等━━━━━━

 

 

 

 

「照、どうした」

 

ふと耳に飛び込む、聞き慣れた声。顔を上げると、平良(たいら) 厳山(げんざん)さんの姿があった。

 

「厳山さん。実は…」

 

俺は彼に、自身の流派・覇堺流に欠如している『即殺級の威力』と『連鎖的な破壊技』。そして自分が考えた『最強の技の形』を口頭で話ながら、時折筆代わりに木の枝で力の流れを描いていった。

 

手の内を明かすことになるが、そうでもしないと問題は解決出来ないと思考したからだ。

 

「照。こう言って良いのか分からないが、お前の技である釘擊━━━俺は『凄まじい』と思っている」

 

「釘擊が…凄まじい?でも、これは覇堺流の『基本の技』だよ?其れのどこが…」

 

師の言葉に疑問を投げ掛けると、「それだ」と、そう厳山さんは言って、こう言葉を紡ぐ。

 

「『体内で衝撃が炸裂する』…通常なら考えられない技だ。ただの打撃であるのに、心臓の在る部位に当たれば、臓器破裂も目ではない。

 

『浸透し、中芯に到達する』…其の衝撃の余波を生かせば、骨や筋肉の芯へ衝撃は流れて行き、時間は掛かるだろうが必ず到達する。

 

魔槍のように貫くことも無ければ、羅刹掌のような捻る行程を踏むこともない。ただ殴り付けたり、当てる『だけで良い』。此程に単純で、強力な技が『基本にある』時点で、相手の視点からすれば、一撃食らった時点で其れは『未知数の驚異』になる。

 

考えてみろ。武器も薬も使った訳でもないのに、お前が放った変哲もない一撃を貰っただけで、戦闘不能に追い込まれる。

 

照よ。…お前は既に『持っている』んだ。格上さえも倒すも、殺すも可能な『絶対の武器』を、な」

 

二虎さんも関心を示し、真似たり、初見殺しの技と言ったりはしたのだが、釘擊を此処まで評価されたのは初めてだった。

 

《そうか…改めて考え直せば、釘擊って相当恐ろしい技なんだよな》

 

防御も受ける事も不可能の打撃。其れが何時、どのタイミングで襲い掛かるか分からぬ恐怖。相手にとって、此程厄介な技は無い。

 

心に燻り、蔓延っていた迷いの霧が、厳山の言葉で晴れたような気分になった。

 

「厳山さん!ありがとうございます!俺、もっと頑張ります!」

 

深々と頭を下げ、照は頬を二度軽く叩き、拳を握って、身体中に力を込める。覇堺流はまだまだ強くなれる…そう実感しながら。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

鬼灯 照と氷室 涼。

 

二人の修行は日々を重ねる度に、互いが互いを高め合い、双方共に強くなってゆく。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ある時は、海中での高速組手を連戦し。

 

またある時は、関節強化修行でどちらが長く続けられるか競い。

 

更にある時は山岳や森林を自由に駆け、目的地を目指して走ったり。

 

師の下で技を磨き、自らも模倣し、糧にする。

 

風に吹かれる日もあった。

 

雨に打たれる日もあった。

 

海に巻かれる日もあった。

 

沖縄が織り成す自然の中で、少年達は強く、そして逞しく育っていった。

 

そして、季節は巡って行く……━━━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年と三ヶ月が過ぎし時、遂に『約束の日』が訪れる。

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