鷹村さんの話は俺や涼にとって、勉強になったり、心が踊る話ばかりで、本当に楽しい時間だった。
そして数日後、彼は何処かへと旅に出た。黒木さん曰く、特定の居場所を作らず、色々な場所を転々としながら暮らしているのだとか。
いつか自分も、自分の足で色々な所に行き、色々な経験をしたいと思わずにはいられなかった。
この世にはきっと、俺の知らない強い奴等が沢山居る。そいつらに逢いに行きたい…。逢って戦い、強くなりたいと、そう思った。
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ある日の夜。月明かり照らす静かな浜辺で、木の枝を手に持ち、俺は砂に字を書いていた。
砂には『
「こうして自分の技を見ると『十分』に戦える事は分かる。だけど『足りない』んだよな…」
照が懸念している事…其れは覇堺流には『即殺級の威力を持った技が、一つも無い』事についてだった。覇堺流の理念である『衝撃を体内へと徹し、内側から破壊して相手を倒す』事は、基本技である釘擊で十二分に達成している。
しかしながら、覇堺流は『軈て』敵を倒す事は出来ても、『直ぐ』には敵を倒せない。今後、自分よりもずっと体躯に恵まれた相手や力を持った者が現れる。
そうなった時の為に、覇堺流の足りない『即殺級の威力を持った技』を作る必要が在るだろう。
「…………いや、違う。覇堺流の技は、俺の創った流派は。『対処方を知っていようと簡単には防げない』。だってそうだもの、釘擊は衝撃が生き物みたいに『生きて』、体内に浸透して中芯に到達するんだから。
なら、其の観点から考えるならば…覇堺流には『連鎖的な破壊技』に『即殺級の威力の技』が必要になる。
釘擊で当たった部位から、多数ヶ所を巻き込んで『破壊し続け』、最後は『五臓六腑と全身の骨全てを絶対に壊し尽くす』…そんな技が」
連鎖的な破壊と、即殺級の威力。
其れ等と比べる等━━━━━━
「照、どうした」
ふと耳に飛び込む、聞き慣れた声。顔を上げると、
「厳山さん。実は…」
俺は彼に、自身の流派・覇堺流に欠如している『即殺級の威力』と『連鎖的な破壊技』。そして自分が考えた『最強の技の形』を口頭で話ながら、時折筆代わりに木の枝で力の流れを描いていった。
手の内を明かすことになるが、そうでもしないと問題は解決出来ないと思考したからだ。
「照。こう言って良いのか分からないが、お前の技である釘擊━━━俺は『凄まじい』と思っている」
「釘擊が…凄まじい?でも、これは覇堺流の『基本の技』だよ?其れのどこが…」
師の言葉に疑問を投げ掛けると、「それだ」と、そう厳山さんは言って、こう言葉を紡ぐ。
「『体内で衝撃が炸裂する』…通常なら考えられない技だ。ただの打撃であるのに、心臓の在る部位に当たれば、臓器破裂も目ではない。
『浸透し、中芯に到達する』…其の衝撃の余波を生かせば、骨や筋肉の芯へ衝撃は流れて行き、時間は掛かるだろうが必ず到達する。
魔槍のように貫くことも無ければ、羅刹掌のような捻る行程を踏むこともない。ただ殴り付けたり、当てる『だけで良い』。此程に単純で、強力な技が『基本にある』時点で、相手の視点からすれば、一撃食らった時点で其れは『未知数の驚異』になる。
考えてみろ。武器も薬も使った訳でもないのに、お前が放った変哲もない一撃を貰っただけで、戦闘不能に追い込まれる。
照よ。…お前は既に『持っている』んだ。格上さえも倒すも、殺すも可能な『絶対の武器』を、な」
二虎さんも関心を示し、真似たり、初見殺しの技と言ったりはしたのだが、釘擊を此処まで評価されたのは初めてだった。
《そうか…改めて考え直せば、釘擊って相当恐ろしい技なんだよな》
防御も受ける事も不可能の打撃。其れが何時、どのタイミングで襲い掛かるか分からぬ恐怖。相手にとって、此程厄介な技は無い。
心に燻り、蔓延っていた迷いの霧が、厳山の言葉で晴れたような気分になった。
「厳山さん!ありがとうございます!俺、もっと頑張ります!」
深々と頭を下げ、照は頬を二度軽く叩き、拳を握って、身体中に力を込める。覇堺流はまだまだ強くなれる…そう実感しながら。
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鬼灯 照と氷室 涼。
二人の修行は日々を重ねる度に、互いが互いを高め合い、双方共に強くなってゆく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ある時は、海中での高速組手を連戦し。
またある時は、関節強化修行でどちらが長く続けられるか競い。
更にある時は山岳や森林を自由に駆け、目的地を目指して走ったり。
師の下で技を磨き、自らも模倣し、糧にする。
風に吹かれる日もあった。
雨に打たれる日もあった。
海に巻かれる日もあった。
沖縄が織り成す自然の中で、少年達は強く、そして逞しく育っていった。
そして、季節は巡って行く……━━━━━━━━。
一年と三ヶ月が過ぎし時、遂に『約束の日』が訪れる。