世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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鬼灯(ほおずき) (てる) vs 十鬼蛇(ときた) ニ虎(にこ)


第三話 組手(くみて)

十鬼蛇 ニ虎…生まれ変わったこの世界で、俺が初めてまともに話した男の名前である。

 

「んでだ。照、お前は何で空から降ってきたんだ?」

 

「あ、実は…銀筒の開け方が解せなくて」

 

そう言って思い出したのは、自分が蝗跳で銀筒を放り出して、何処かへ落としてしまったこと。目的を忘れた自分を呪いたい。

 

「銀筒?…さっき、どっかから飛んできたこいつか?」

 

ニ虎が投げ渡したのは、自分が持っていた銀筒達。

 

「あ、ありがとう…ございます」

 

「因みにこいつは『缶詰め』っつう、食料品の一つだ。本来、こうゆう缶切り使って開けるのが当たり前なんだがな」

 

銀筒…改めて缶詰めを受け取り、早速あの方法で開けることにする。理由は『他にも』在るのだが…先ずは近くに転がっていた四角い石を持ってきて、缶詰めを上に乗せる。

 

「おい、照。何するつもりだ?」

 

「缶詰めを開けるんです」

 

「…いや、缶切りがあるんだが」

 

「えいっ」

 

「話聞けよ」

 

呆れた顔でニ虎は照の襟を掴みに掛かろうとした。其の刹那、爆弾が起爆したかのような轟音が響く。ほぼ同時に、それも反射的に、ニ虎は構えを取っていた。

 

視線の先には、先程まで置かれていた筈の缶詰めが、爆弾で吹き飛ばされたような、バラバラの残骸になって転がっていた。

 

まるで内側から爆破されたようなそれを、ニ虎は見る。

明らかに『異質な打撃』…必然、照に対する警戒が強くなる。

 

「…思った通り。ニ虎さんって『武』を使えますね?」

 

空気がヒリヒリと張り詰め、少年はぬるぅ…と。不気味な雰囲気と気質を纏い、立つ。

 

「何が狙いだ?…照」

 

「…『組手』。其の相手をしてくれますか?ニ虎さん」

 

「そりゃまた…何でだ?」

 

構えたままニ虎は警戒を弛めず、体幹と視線を常に照と対極になるように動かしている。

照もまた、ニ虎と同じように対極を維持しつつ、左手左足の構えを取り、向き合う。

 

そして質問に対する自分の答えを述べた。

 

 

 

『貴方のような、強い相手と戦いたい』

 

 

 

子供らしい、とても単純明快(シンプル)で。だが、とても清々しい回答に、ニ虎は思わず微笑を溢す。

 

「そっちが申し出たんだ、手加減は出来ねぇぞ?」

 

「えぇ。組手はどちらかの『戦闘不能』で終了で良いですか?」

 

「問題ないな」

 

二人の間を取り巻く空気が畝り出す。

静寂に支配された空間は、真剣を構えた侍同士の一騎打ちに似ていた。

 

刹那、突風が吹き荒れ、照が釘擊で壊した缶詰めの残骸が音を鳴らした瞬間。

 

両雄は。激突した。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

両雄激突。

 

鬼灯 照と十鬼蛇 ニ虎の戦いが始まった。

 

「ふっ!!」

 

先に仕掛けたのは照…接近してきたニ虎に対し、覇堺流の歩法である『蝗跳(いなごとび)』を使い、適切な距離感を測りながら、同時に撹乱を行う。

 

《俺とニ虎さんの体格は天地の差がある。まともに戦うと、地力は此方が圧倒的に不利。だからこそ…》

 

━━━━持てる全てを使うッ!

 

ニ虎は此方の動きを見ている。否、見ているのでは無い…『観ている』のだ。やはり、初めて見る運足だからだろうか。

 

「…成程な」

 

「!」

 

何か『解った』かのような発言で、ニンマリと悪い顔でニ虎は笑い、そして言った。

 

「照。お前の其の運足…『踵を一瞬しか地面に着けてないな』?見たところ…膝に負担を掛けず、地面を蹴った際に発生する運動エネルギーを利用して、跳躍や速度を向上させているみたいだ。

 

しかも『膝で力の入り抜き』を行うことで、飛ぶ距離や速さに変化を与えて、撹乱なんかも可能にしている。…お前、本当に子供か?」

 

「あんたは化物か?」と、言い返してやりたい。然し、見ただけで蝗跳の原理に気付いた当たり、ニ虎は相当数の実戦をこなしてきているのが分かる。

 

「ま、それは後で聞くとするか…な!」

 

刹那、ニ虎が動く。しかも其の動きは…。

 

「なっ…!?い、蝗跳!?」

 

『似ている』━━覇堺流 蝗跳(俺の運足歩法)に。不規則な足運びをしながら動き続け、いつの間にかニ虎が『複数人に分裂した』かのような幻影が、自分を囲むようにして包囲網を作っていたのだ。

 

「へぇ、蝗跳っうのか。其の運足の名前は。俺の『火走(ひばしり)』とは、ちょいと原理は違うが、似てはいるな」

 

「なら…攻めるだけ!」

 

動く。蝗跳の跳躍でニ虎の上を飛び越して、包囲網を脱出した。着地と同時に蝗跳で地面を蹴り、ニ虎に接近。

 

「ありゃ?思った以上に」

 

「…参る!」

 

肩から腕の筋肉を、弛緩から一気に緊張へ。

 

相手や物体の表面に打撃を叩き付け、内側に衝撃を浸透させる。放つは覇堺流の基礎たる技━━━━『覇堺流(はかいりゅう) 釘擊(くぎうち)』。

 

 

 

「あ、本気で殴んないほうが…」

 

ドゴッ!!!

 

「………………………い"~~っっっっっづ!?」

 

「…ありゃりゃ、遅かったか」

 

放った筈の右拳が『痛い』。皮膚が裂け、血が飛び散る。骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げている。

 

《何だ…!?今の…!!》

 

釘擊はニ虎の腹部へ確かに入った。だが直撃の瞬間、ニ虎の身体が『硬く』なったのだ。

思わぬ返し手(カウンター)で右拳にダメージを貰った照を見て、ニ虎は言った。

 

「今のは『不壊(ふえ)』っていう技だ。相手の打撃に対して、全身の筋肉を引き締めて、衝撃を通りにくくす」

 

ドスン━━━━!!

 

「ん、お…!?」

 

体勢が一瞬崩れる。照の打撃を受けた部分…其れも『内側』から響いてきた。

 

「あ、入ってた!」

 

「…すげぇ『打撃』だな。不壊の防御を通り抜けて、体内で炸裂する衝撃。…爆弾抱えるってのは、こうゆう感じなのか」

 

スッと体勢を立て直す両者。再び照は蝗跳を使い、ニ虎もまた火走で距離を詰めに掛かる。

 

「ハァッ!!」

 

「シィッ!!」

 

拳が激突。だが体格差で勝るニ虎に打ち負け、右拳から血を出しながら吹っ飛ばされて、地面を転がされる。

 

「くそっ!滅茶苦茶硬いし、物凄く痛い…!」

 

「『鉄砕(てっさい)』で殴ったが、やっぱり響くな其の打撃」

 

ニ虎が繰り出したのは、先程の不壊を拳に対して行い、殴る鉄砕(てっさい)と呼ばれる技。筋肉を引き締めることにより鋼鉄と化した拳は、岩を砕き、鉄に拳の型すら残す。

 

其の打撃を以てしても、照の技…釘擊(くぎうち)の衝撃を消し去れない。其れ所か、腕と腹部には今もダメージが『入り続けている』。

 

《相性が悪いな…長引けば確実に影響が出る》

 

故にニ虎は、早期決着を狙う。照もまた、同じ考えに行き着く。両者、三度の接近。

 

ニ虎が右拳を振り構え放った時、照はニ虎が鉄砕を放った瞬間に躱わし、釘擊を腕に叩き込んで破壊する算段を付けていた。

 

 

《さぁこい━━腕を、確実に貰う!》

 

 

これが。二人の最初の組手に於て、『決定打』となった。

 

「…まだまだ、だな。照」

 

「━━━━━━えっ」

 

受け止める瞬間、ニ虎が放った拳を『止めた』のだ。

其れだけならば、まだ対処は出来ていただろう。

 

其処から彼は、地面を滑るようにして照の横を通り過ぎ、両手で首の気管と静脈と動脈を掴み、背中に乗せる形で『絞め上げた』のである。

 

其れも僅か『1.2秒』という、目にも止まらぬ早業だった。

 

「『首断(しゅだん)』…チェックメイト」

 

「がっ…!?あ、ぐ…━━━━━━」

 

抵抗を試みるよりも早く、照の意識は真っ暗な闇の中に溶け落ちて行ったのだった…。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

「━━━━━━━━ん、うぅっ…はっ!?」

 

「よ。どうやら目が覚めたみたいだな?照」

 

覚醒した照を見下ろすように、ニ虎が丸太に座って焚き火を焚いていた。空は既に薄暗く、空の鴉がガァガァと鳴く声が響く。

 

「…………負け、たんですね…俺」

 

「あぁ。負けたな、お前は」

 

素直に現実を受け入れるしかない。

今の自分の力、そしてニ虎との実力の差を。

 

「…『50点』だ」

 

ふと、ニ虎がそう呟く。

 

「運足と瞬発力、力の入り抜き、技のキレ。

そして、防御不能の貫通と直撃箇所にダメージを与え続ける摩訶不思議な打撃。

 

この歳でこんだけの技術()が出来ている…ぶっちゃけ、お前は『強い』。

 

だが、技のキレや特殊な打撃が使えても、そいつが真に『身』に付いてねぇ。

 

解りやすく、簡単に言うとだ。自分の身体と感覚に『ズレ』がある。どんなに強くて、すんげぇ技術を持ってようと、其れが直らない限りは満足に力は出せないぜ」

 

ニ虎の言うことは最もな意見であり、前世の記憶が覚醒したとは言え、強くなった訳ではない。体格差のある相手には打ち負けるし、技の威力も本来ならもっと出る筈なのだ。

 

「ま、口で言っても理解するには時間も掛かる。そこでだ照。お前…俺の『弟子』になれ」

 

「━━━━━━━━━━━━━はい?」

 

唐突な命令に照は言葉を失う。

 

「お前の武術には興味がある。代わりに俺も教えてやる。

 

俺の武━━━━『ニ虎流(にこりゅう)』をな」

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