十鬼蛇 ニ虎…生まれ変わったこの世界で、俺が初めてまともに話した男の名前である。
「んでだ。照、お前は何で空から降ってきたんだ?」
「あ、実は…銀筒の開け方が解せなくて」
そう言って思い出したのは、自分が蝗跳で銀筒を放り出して、何処かへ落としてしまったこと。目的を忘れた自分を呪いたい。
「銀筒?…さっき、どっかから飛んできたこいつか?」
ニ虎が投げ渡したのは、自分が持っていた銀筒達。
「あ、ありがとう…ございます」
「因みにこいつは『缶詰め』っつう、食料品の一つだ。本来、こうゆう缶切り使って開けるのが当たり前なんだがな」
銀筒…改めて缶詰めを受け取り、早速あの方法で開けることにする。理由は『他にも』在るのだが…先ずは近くに転がっていた四角い石を持ってきて、缶詰めを上に乗せる。
「おい、照。何するつもりだ?」
「缶詰めを開けるんです」
「…いや、缶切りがあるんだが」
「えいっ」
「話聞けよ」
呆れた顔でニ虎は照の襟を掴みに掛かろうとした。其の刹那、爆弾が起爆したかのような轟音が響く。ほぼ同時に、それも反射的に、ニ虎は構えを取っていた。
視線の先には、先程まで置かれていた筈の缶詰めが、爆弾で吹き飛ばされたような、バラバラの残骸になって転がっていた。
まるで内側から爆破されたようなそれを、ニ虎は見る。
明らかに『異質な打撃』…必然、照に対する警戒が強くなる。
「…思った通り。ニ虎さんって『武』を使えますね?」
空気がヒリヒリと張り詰め、少年はぬるぅ…と。不気味な雰囲気と気質を纏い、立つ。
「何が狙いだ?…照」
「…『組手』。其の相手をしてくれますか?ニ虎さん」
「そりゃまた…何でだ?」
構えたままニ虎は警戒を弛めず、体幹と視線を常に照と対極になるように動かしている。
照もまた、ニ虎と同じように対極を維持しつつ、左手左足の構えを取り、向き合う。
そして質問に対する自分の答えを述べた。
『貴方のような、強い相手と戦いたい』
子供らしい、とても
「そっちが申し出たんだ、手加減は出来ねぇぞ?」
「えぇ。組手はどちらかの『戦闘不能』で終了で良いですか?」
「問題ないな」
二人の間を取り巻く空気が畝り出す。
静寂に支配された空間は、真剣を構えた侍同士の一騎打ちに似ていた。
刹那、突風が吹き荒れ、照が釘擊で壊した缶詰めの残骸が音を鳴らした瞬間。
両雄は。激突した。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
両雄激突。
鬼灯 照と十鬼蛇 ニ虎の戦いが始まった。
「ふっ!!」
先に仕掛けたのは照…接近してきたニ虎に対し、覇堺流の歩法である『
《俺とニ虎さんの体格は天地の差がある。まともに戦うと、地力は此方が圧倒的に不利。だからこそ…》
━━━━持てる全てを使うッ!
ニ虎は此方の動きを見ている。否、見ているのでは無い…『観ている』のだ。やはり、初めて見る運足だからだろうか。
「…成程な」
「!」
何か『解った』かのような発言で、ニンマリと悪い顔でニ虎は笑い、そして言った。
「照。お前の其の運足…『踵を一瞬しか地面に着けてないな』?見たところ…膝に負担を掛けず、地面を蹴った際に発生する運動エネルギーを利用して、跳躍や速度を向上させているみたいだ。
しかも『膝で力の入り抜き』を行うことで、飛ぶ距離や速さに変化を与えて、撹乱なんかも可能にしている。…お前、本当に子供か?」
「あんたは化物か?」と、言い返してやりたい。然し、見ただけで蝗跳の原理に気付いた当たり、ニ虎は相当数の実戦をこなしてきているのが分かる。
「ま、それは後で聞くとするか…な!」
刹那、ニ虎が動く。しかも其の動きは…。
「なっ…!?い、蝗跳!?」
『似ている』━━
「へぇ、蝗跳っうのか。其の運足の名前は。俺の『
「なら…攻めるだけ!」
動く。蝗跳の跳躍でニ虎の上を飛び越して、包囲網を脱出した。着地と同時に蝗跳で地面を蹴り、ニ虎に接近。
「ありゃ?思った以上に」
「…参る!」
肩から腕の筋肉を、弛緩から一気に緊張へ。
相手や物体の表面に打撃を叩き付け、内側に衝撃を浸透させる。放つは覇堺流の基礎たる技━━━━『
「あ、本気で殴んないほうが…」
ドゴッ!!!
「………………………い"~~っっっっっづ!?」
「…ありゃりゃ、遅かったか」
放った筈の右拳が『痛い』。皮膚が裂け、血が飛び散る。骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げている。
《何だ…!?今の…!!》
釘擊はニ虎の腹部へ確かに入った。だが直撃の瞬間、ニ虎の身体が『硬く』なったのだ。
思わぬ
「今のは『
ドスン━━━━!!
「ん、お…!?」
体勢が一瞬崩れる。照の打撃を受けた部分…其れも『内側』から響いてきた。
「あ、入ってた!」
「…すげぇ『打撃』だな。不壊の防御を通り抜けて、体内で炸裂する衝撃。…爆弾抱えるってのは、こうゆう感じなのか」
スッと体勢を立て直す両者。再び照は蝗跳を使い、ニ虎もまた火走で距離を詰めに掛かる。
「ハァッ!!」
「シィッ!!」
拳が激突。だが体格差で勝るニ虎に打ち負け、右拳から血を出しながら吹っ飛ばされて、地面を転がされる。
「くそっ!滅茶苦茶硬いし、物凄く痛い…!」
「『
ニ虎が繰り出したのは、先程の不壊を拳に対して行い、殴る
其の打撃を以てしても、照の技…
《相性が悪いな…長引けば確実に影響が出る》
故にニ虎は、早期決着を狙う。照もまた、同じ考えに行き着く。両者、三度の接近。
ニ虎が右拳を振り構え放った時、照はニ虎が鉄砕を放った瞬間に躱わし、釘擊を腕に叩き込んで破壊する算段を付けていた。
《さぁこい━━腕を、確実に貰う!》
これが。二人の最初の組手に於て、『決定打』となった。
「…まだまだ、だな。照」
「━━━━━━えっ」
受け止める瞬間、ニ虎が放った拳を『止めた』のだ。
其れだけならば、まだ対処は出来ていただろう。
其処から彼は、地面を滑るようにして照の横を通り過ぎ、両手で首の気管と静脈と動脈を掴み、背中に乗せる形で『絞め上げた』のである。
其れも僅か『1.2秒』という、目にも止まらぬ早業だった。
「『
「がっ…!?あ、ぐ…━━━━━━」
抵抗を試みるよりも早く、照の意識は真っ暗な闇の中に溶け落ちて行ったのだった…。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「━━━━━━━━ん、うぅっ…はっ!?」
「よ。どうやら目が覚めたみたいだな?照」
覚醒した照を見下ろすように、ニ虎が丸太に座って焚き火を焚いていた。空は既に薄暗く、空の鴉がガァガァと鳴く声が響く。
「…………負け、たんですね…俺」
「あぁ。負けたな、お前は」
素直に現実を受け入れるしかない。
今の自分の力、そしてニ虎との実力の差を。
「…『50点』だ」
ふと、ニ虎がそう呟く。
「運足と瞬発力、力の入り抜き、技のキレ。
そして、防御不能の貫通と直撃箇所にダメージを与え続ける摩訶不思議な打撃。
この歳でこんだけの
だが、技のキレや特殊な打撃が使えても、そいつが真に『身』に付いてねぇ。
解りやすく、簡単に言うとだ。自分の身体と感覚に『ズレ』がある。どんなに強くて、すんげぇ技術を持ってようと、其れが直らない限りは満足に力は出せないぜ」
ニ虎の言うことは最もな意見であり、前世の記憶が覚醒したとは言え、強くなった訳ではない。体格差のある相手には打ち負けるし、技の威力も本来ならもっと出る筈なのだ。
「ま、口で言っても理解するには時間も掛かる。そこでだ照。お前…俺の『弟子』になれ」
「━━━━━━━━━━━━━はい?」
唐突な命令に照は言葉を失う。
「お前の武術には興味がある。代わりに俺も教えてやる。
俺の武━━━━『