世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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無法地帯、中。二人の少年と一人の大人が、遂に最凶の地区に足を踏み入れる。

・ケンガンオメガも、いよいよ対抗戦に突入。拳願と煉獄、生き残るのはどっちだ!

・十鬼蛇 二虎役の藤原 啓治さん。ご冥福をお祈り致します


第壱章 集結篇
第三十話 新天(しんてん)


沖縄から船で横浜と呼ばれる場所に三日掛けて、其処から北へと移動して半日。十鬼蛇(ときた) 二虎(にこ)鬼灯(ほおずき) (てる)氷室(ひむろ) (りょう)は産まれ故郷の無法地帯、通称『中』の『ある区域』の入口へと辿り着く。

 

「さて…だ。二年前、お前達に約束していた場所に連れてきたぜ。この無法地帯、中でも、危険度は一・二を争う、飛びっきりヤベー場所。

 

名前は『十鬼蛇区(ときた)』…俺の生まれ育った(とこ)だ」

 

少年二人の目が、其の名前を聞いた瞬間、真剣味を帯び、闘気を纏う。これから向かう場所は今までのような生半可なレベルの敵は一人として居ない、弱肉強食の支配するような所である。

 

常に死の危険が憑き纏う…『以前ならば』入る事を躊躇ったかもしれない。

 

だが、二人の少年は二年。血の滲む努力と鍛練を重ね続け、培われた実力が、自分の背中を押していた。

此の危険な世界でも戦い、生き残れるだけの確かな自信が。

 

「二虎さん。俺は大丈夫です」

 

「俺もだぜ」

 

「…んじゃ、行こうか」

 

踏み出された一歩。三人の戦士は、暴力と混沌の世界に足を踏み入れたのだった。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

十鬼蛇区に入り、暫く歩くと人が行き交う大通りに出る。すれ違う男の顔や身体は生々しい傷が刻まれていたり、眼帯や片耳に指の数本が欠損していたりしていた。

 

無論五体満足な者、後ろに若者を引き連れ歩いてる者も居たが、やはり衝撃的だったのは、一糸纏わぬ全裸の女を這いつくばらせ、首輪と鎖で飼い犬の様に扱う恰幅の良い男達の大群で、涼はあまりの絵図等に目を丸くし、口をポカンと空けていた。

 

二虎さんが言っていた通り、此の十鬼蛇区は危険度合いが狼参(ろうざ)五熊(ごゆう)の比では無い。油断出来ない世界だと改めて思い知る。

 

負けた者に待つのは死か、人以下の扱いのみなのだと。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

十鬼蛇区の中心街より離れた、小高い丘の上にポツンと小さな一軒の小屋と中くらいの木が一本生えている。

 

小屋の前には円柱の筒が数本、三段の棚に色々な小物が乱雑に並べられ、小屋の上に登るための梯子が掛けられていた。

 

「今日から此処が俺達の拠点になる。生活に必要な物は最低限揃ってるからな。あ、因みに水はあんまり使いすぎるなよ?」

 

「すっげぇ~!なぁ、二虎!小屋の中、見て良いか!」

 

「おう、良いぞ」

 

「しゃあ!」と涼は喜んで、小屋の扉を開いて中へと入って行った。其の様子を見ていた照は二虎に向け、こう言った。

 

「拠点…何だか小さな御城みたいですね、二虎さん」

 

「城かぁ。ま、砦の方が正しいかな?コレの場合は」

 

「あ…そうですね」

 

「…照は相変わらず、変な考え方してるなぁ~。ソコんとこが中々可愛げがあるんだ」

 

「…女じゃないんですけど、俺」

 

「褒めてんだ、そうカッカすんなって」

 

二虎()とこうして、何気無い会話が出来る。

照にとって其の時間は、彼の人生で、かけがえのない物になったのだ…。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「よし、照。涼。今のお前等の実力がどんだけあんのか、組手で証明してもらうか」

 

小屋をある程度見終えて、缶詰で昼食を取ろうとした時、二虎さんがいきなりそう告げてきた。

 

「へへっ…俺達、けっこー強くなったぜ?」

 

「うん。…もしかしたら、倒しちゃうかも」

 

「…ほぉーん。自信満々じゃねーの、おちびちゃん達。

 

…良いぜ、二人まとめて相手してやるよ」

 

ニンマリと、其れは其れは獰猛な笑みを浮かべ、バキン!ゴキン!と拳を鳴らす二虎さん。

 

そして其の数分後……━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、強い………」

 

「今まで、本気じゃなかった………のか………」

 

「たりめーだ、腕白なガキンチョ相手に手加減しながら戦うの、そーとームズいんだよ。ま、今回の組手のおかげで、今後手を抜く必要が無くなったのは嬉しい誤算だったがな」

 

俺と涼君は、本気を出した二虎さん相手にギッタンギッタンのボッコボコ、ボロ雑巾の如く惨敗を決して地面でべったりと溶けていた。

 

無論、二人を相手どった二虎さん自身も無傷とはいかず、あちこちに打撲傷や切傷が出来ている。

 

「んじゃ…お前等。明日から此の十鬼蛇区で『実戦訓練』を始めるぜ」

 

「…実戦……」

 

「……訓、練………?」

 

「おうよ」

 

そう言い、二虎さんは訓練の説明に入った。

 

「文字通りの実戦、フィールドは此の十鬼蛇区内に居る武道に精通してる奴等『全員』が相手だ。先ずは自分の目でソイツが強いかどうかを『見極めろ』。

 

狙いを定めたら何らかの方法で突っつけ、大抵の奴等は『確実に乗ってくる』。そしたら後は『戦うだけ』。

 

因みに二人同時に見るのは、俺でも無理がある。お前等の体力や疲労も考慮して、先ずは一日に付き『一人二戦まで』だ」

 

いよいよ本格的に戦う。勝者は生き残り、敗者は死ぬ。中の…本当の意味での闘争が始まるのだと、そんな期待と不安を抱きながら、一日が明ける事になった………。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

中の大通り…昨日も通った其の道を歩きながら、照は今日戦う相手を探していた。

 

《強い人…強い人…》

 

彼の後ろでは涼と二虎が遠目に様子を窺いながら、其の様子を静かに見守っている。

 

《強い人…強い人………あ》

 

前方に一人、布を被りながら歩く者を発見。見失わぬ様に、人混みの中を蛇縫(へびぬい)の運足を使いつつ追跡・接近する。

 

背中を捉え、もう少し…。そう思った矢先、いきなり相手が加速する。例えるなら、天敵を相手に尻尾を切り落とし、一目散に逃げる蜥蜴の様な速さで。

 

「あっ!待て!」

 

逃がすわけにはいかない。人混みを裂き、其の背中を追い掛ける。

 

《くっ…速い!》

 

追えど追えども其の差が中々縮まらず、照は少し焦りを覚える。自慢では無いが、沖縄での二年に渡る修行で体力や速度はかなり鍛えられたと自負している。

 

其の速さに張り合えるとなると、奴は涼並の足の速さを持ちながら、自分以上の体力を持つ存在だと理解出来る。かなりの強敵…いきなり当たりを引いたか、はたまた大凶を引いたか。

 

だが突如、何を思ったのか前を走っていた奴が方向を変えるや、建物の間へと入って行く。

 

「何…?」

 

誘い込むつもりなのか?いきなりキナ臭くなったが、逃がすつもりは毛頭無い。

相手が罠を張って待ち構えていようが、必ず追い付き戦う。十鬼蛇区での初実戦、やはり強い相手と戦い、此の区域の実力を確りと知りたいのだ。

 

建物の合間を抜けた先、照は裏路地の開けた場所に辿り着く。其処には彼が追い掛けて来た、布を被り、顔を隠した奴が背を向けて立っていた。

 

『さっきからオレん事、ウロチョロ嗅ぎ回ってたみてぇだな、テメェ』

 

随分とぶっきらぼうな話し方をする奴だ。それでもコイツから感じる殺気は、並大抵の人間のそれでは無い。

 

「ああ、お前と戦う為にな。俺は鬼灯(ほおずき) (てる)、最強に至るために最強を目指している」

 

『最強…?』

 

其のワードに反応した奴が被っていた布を取り、顔を顕にした。黒く針山の様に刺々しい黒短髪に整った顔立ちは男であり、自分よりも幾つか年上だと分かる。

 

だが、其の男の『瞳』…本来の人間の光彩は『茶か黒』であり、周りは『白』である筈だ。

其れが『真逆』になっている…常人では考えられない筈の状況に、混乱必至の筈。

 

なのに何故か、照には其の瞳を持つ者の事を『知っている』様な気がした。

 

「最強…最強…『一族』の奴ん中にも、そんな奴が居たかァ…」

 

一族…其の言葉を『前世』で見聞きした覚えがある。

 

「一族…黒い目………」

 

まさか━━━言葉を発しようとした瞬間、いきなり男が殴り掛かってきた。当たりそうな所で後ろに飛んで、素早く体勢を立て直し、冷静に心と頭を切り替える。

 

「知ってるようだな。オレの…いや。オレ達の事を…」

 

殺気が先程より何十倍にも膨れ上がり、此方を威圧してくる。全身の毛という毛が逆立ち、照は無意識の内に左手左足左構えを取っていた。

 

「ほォ…最強目指してるとか言うだけあって、一丁前に構えてやがる。

 

良いぜ…来な」

 

舌を出し、挑発を仕掛けてくる。嘗めている…とは思えないが、嘗められている気がしなくもない、何とも言えぬ気味悪さを抱えながら、彼は男と激突した。

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