世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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・氷室 涼、二年間の修行の成果を此所に

・ケンガンアシュラのアニメ最終回お疲れ様でした!続き待ってます!


第三十二話 拳闘(けんとう)

「…………ふぅ、痛っててて…」

 

呉一族の男との死闘を終えた照は戦いの最中に蹴られ、ヒビが入ったであろう右太腿を擦りながら、男が被っていた布を破き、額と太腿に巻き付けつつ呼吸を調え、裏路地を後にした。

 

「反省も多い…修行しなくちゃだな」

 

十鬼蛇区のレベルの高さは半端なものではなかった。あの呉の男にせよ、この区域には此の位強い奴等がゴロゴロと、当たり前のように居るだろう。二年間の修行で強くなったと自覚していたが、其の予想を裏切るように、敵の強さもまた、己の思考の範疇を軽々と越えていた。

 

最強に至る為に、今よりずっと、更に強くならねばならない。まずは此の場所で、当たり前に勝てる程にならなければならない。

 

「照、大丈夫か?!」

 

裏路地から出た辺りで、涼と二虎さんと合流する。頭に巻いていた布が赤くなっているのを見て心配する涼と、対照的に不敵な笑みを浮かべていた二虎に、先程までの戦いと其の相手であった呉一族の事を話す。

 

「へぇ…呉の男を。そんで?ソイツは強かったか?」

 

話を聴き終えた二虎さんが、興味を示してきた。二虎さんは修行時代、何度か呉一族と戦った事があると数年前に聞いていた。其の強さを自身の身を以て知っているからこそ、問い掛けたのだろう。

 

「強かったどころじゃないですよ…。あの人、全く本気を出してませんでした。何と言うか…『遊ばれてた』、そんな感じです。

 

其のお陰で、突き入る隙を見つけられましたけど」

 

「…マジかよ」

 

共に修行を重ね、幾度と組手を行ってきた涼。照の力をよく理解していただけに、彼が遊ばれてたという事実が、にわかに信じ難った。

 

「ま、これが此の十鬼蛇区で生き残ってきた奴等の実力って事だ。二年間の修行で、少し強くなったつもりでいるんならァ…。

 

━━━お前等、間違いなく『死ぬぞ』?」

 

ドスの聞いた声で、二虎さんは改めて言ってきた。

 

涼に対しては『警告』を。

 

俺に対しては『精進』を。

 

各々、肝に命じるように。

 

「はい。二虎さん」

 

「分かった、気を付ける。」

 

「よし…んじゃ、涼。次はお前の番だ。

 

お前の眼で、戦う相手を見極めてみな」

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「おい、クソガキ。テメェは誰に、喧嘩吹っ掛けたか分かってんのか?オォ?」

 

十数分後、人気の無い暗がりにおいて、涼は薄い上着と青ジーパンを身に付け、耳にピアスを通した身長197cmはあろう、細身の男と対峙する。

 

男の左腕には、腕に巻き付くように竜を模した刺青が彫り込まれ、今にも此方を食い殺さんとばかりに大きな口を開けていた。

 

「へっ。弱いヤツ程、よく吠えるってさ。来いよノッポ」

 

男の脅迫に等しい其れを前に、涼も挑発を以て返す。同時にブチッと、男の中で何かが音を立てて吹っ切れる。

 

『クソガキがぁ!ブッ殺す!』

 

轟ッ!!と風が鳴り、男の巨体が迫り来る。

 

「やってみろ…!」

 

オーソドックスな構えを取りつつ、涼は小刻みに跳躍し、出方を見る。

 

「オラァ!」

 

男の初手は左のストレート。前傾姿勢で繰り出した其れは、涼の顔面を狙っている。

 

《…………見える!》

 

ストレートを右側に少し動いて回避。男が前に傾くのに合わせて、涼は左腕を自らの左手で掴んで、音も無く跳ねた。

 

身体を捻り、捻りにより産み出されたエネルギーを、伸縮されたバネが弾けるように、右脚に乗せて、回転蹴りとして打ち放━━━━━『ドゴッ!!』

 

「…ゴホッ!!??」

 

「テメェのやりそうなこった、オレにはお見通しなんだよ」

 

男の右フックが涼の腹部に突き刺さっていた。口から吐血し、地面に崩れ落ちてゆく身体。しかし、其の落下は止められる。右手で髪を掴まれ、宙ぶらりんにさせられたのだ。

 

「直ぐには殺さねぇ。たっぷりとオレの力を味あわせてやる」

 

《くそッ!…今の『何で避けられた』…!?初見で躱わせたヤツはそう居ない蹴りなのに…!》

 

髪をひっ掴まれた涼の顔面に、男の左ストレートが炸裂。不壊を掛けた右腕を差し込むも、ガードごと押し込まれ、其れによって髪が千切れて、地面を数回バウンド。

 

右腕は青く腫れ上がり、右頬にも少なからず痣が出来た涼。立ち上がるも、彼の意識は先の攻撃で混濁し、視界がぼやけていた。

もし、先のストレートをまともに受けていたなら、確実に終わっていただろう。だが男は涼を休ませまいと、再びコンパクトかつスピーディーなストレートを連発し始めた。

 

 

……此所で読者の皆様の中に、幾人か疑問を抱いた方が居ると思われる。何故『速撃を得意とし、更には初見ではそう防げない涼の跳躍回転蹴りを、男が躱わせたのか?』という疑問を。

 

其の答えは、男は三年前までミドル級の元プロボクサーであり、半年前まで拳願仕合で馳せていた闘技者であったからだ。

 

ボクサーとしての成績は53勝4敗。荒くれなバトルスタイルとは裏腹に、卓越した立ち回りで試合をコントロールし、相手を圧倒する姿は多くの観客を魅了。一時時期は『ミドル級統一王者も狙える逸材』とまで言われていたが、突然の引退宣言を発表。

表世界のボクシングでは満足出来なかった彼は、自分より強い奴と出会う為に裏世界の拳願仕合に足を踏み入れた。

 

拳願仕合では、ボクサーとして培った技量を生かし、相手の攻撃に合わせたカウンターを放ち、相手の顔面をタコ殴りにして倒すという、元々あった荒々しい戦い方がより目立つ闘技者となった。

相手を屠り、血が噴き出そうが殴る事を止めず、其の結果、自らの拳と顔を敵の血で真っ赤に染める姿から、彼は『紅蓮兎(スカーラビット)』と呼ばれるようになる。

 

だが半年前、ある仕合において彼は『(きば)』と呼ばれる最強格の闘技者を相手に完敗を決した。自身よりも圧倒的な速度と馬力に戦いの主導権を掌握され、殆ど何も出来ずに…否。

 

何もさせて貰えず、敗れ去ったのだ。

 

自分を見つめ直す為。

牙への復讐(リベンジ)を果たす為。

彼は予てより聞いていた無法地帯・中でも、一際危険度の高い十鬼蛇区へ赴き、一人戦ってきたのである。

 

『オラオラオラオラ!』

 

そんな過去を持つ男が繰り出すストレート。プロボクサーの放つ其れは、個々の才能やスタイルによって差は出るが、平均して時速40km/hとも言われている。

 

だが、男が放ってくるストレートの速度は、それよりも速い時速60km/h。実に1.5倍のスピードを誇る。更に対峙する者にとって、ボクサーの放つストレートは、涼が得意とする縦拳と同様に、体感以上の速度を相手に認知させるのだ。

 

《…速ぇッ━━━!!》

 

相手にペースを取られ、涼は敵の速拳を躱わすのに精一杯になる。自分よりもずっと速く、ずっと鋭く、格上の拳を持つ男。

 

《…………『不思議』だ》

 

焦る気持ちと裏腹に、涼の頭は今まで以上に冴えていた。この感覚を自分は良く知っている。

 

《照…お前は何時も、強敵と戦う時。こんな感情を抱いてたのか…》

 

『最強に至る為に、最強を目指す』…鬼灯 照がよく言っている言葉。最強に手を伸ばし続け、其の為なら敗北必至の格上相手にすら挑みにいく。

無謀で、真っ直ぐで、そんな姿が輝いて見えた。

 

《…照。俺も…》

 

お前と…『同じ』になりたいッ!!

 

 

 

『オラァ!』

 

男の左ストレートが飛来する。目を見開き、涼の身体が左に揺れた。

 

直後、ドスン!と一際大きく重い音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごっ!?」

 

男の首根に涼の右縦拳が突き刺さっていたのだ。

 

「こ、ゴイ…ヅ!」

 

「…照。俺は、お前と同じ…同じ『求道者(ぞんざい)』になる!」

 

右腕に力を込めて、沖縄で学び取った右瓜拳が、刺さった首根から顎部へと炸裂した。

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