果たしてこの出逢いが、彼等に何をもたらすのか…
*オメガは
煉獄二連勝で迎える第三戦、ユリウスに反撃の狼煙を挙げて欲しいが、ムドーが何か強いんじゃね?と直感気味に思っているのは私だけだろうか…
拝啓、黒木 玄斎殿。平良 厳山師匠。
如何御過ごしで御座いましょうか?
中の危険地帯、十鬼蛇区で実戦修行を開始してから早いもので三ヶ月が経過しました。私も涼も、十鬼蛇区に生きる者達の強さに毎回振り回されて、毎日ヘトヘト。
強敵との連戦で、私達はもう何回死に掛けているか分かりません。それでも負けません。一回一回の戦いを大事に、自らを成長させていきます。
………ところで、私は今どうしているかと言いますと。
「~~~~♪」
小さな少年に懐かれて、自分を追い掛けるように後ろを付いてきています。
どうしてこうなったのか?少し時間を戻して話をします。
* * * * * * * * * * * * * * *
八時間前、十鬼蛇区・某所……
『ええぇッ!?お金が底を着いた!?』
焼き魚と雑穀米、そして味噌汁が並ぶ食卓。朝御飯を食す前、二虎から唐突に「今日の飯で金が無くなっちまった」と告げられたのだ。
「いやーな、本当ならもうちっとばかし持つ筈だったんだが、思いの外無くなんのが早かったわ」
「なはは」と、何時ものちゃかし気味な口調で笑う二虎。其の右隣で「おかしい…何でこんなに早く金が無くなるんだ……?」と呟きながら、茶碗に山のようにこんもりと盛り込んだ雑穀米をモリモリ食している照。そんな彼に、涼と二虎の冷たい視線が向けられる。
……実はこの三人の中で最も食費を使っているのが、何を隠そう照本人なのだ。
元々燃費は其処まで良いとは言えなかった彼は、十鬼蛇区での強敵達との戦いの中で、自身の筋力と体力がまだまだ足らない事を痛感、食事を通し増強せんと画策。
結果として彼の作戦は成功し、沖縄での修行後よりも筋肉が育ち、衣服の下からでもくっきりと見える迄に育ったのである。
が、筋肉が成長した代償として彼は一回の戦闘で失った体力を取り戻したり、普段の生活で使用するエネルギーを補充するために、より多くの食事を取らねばならなくなり、其れが積み重なった結果、今回の出来事が起きたのである。
「…涼君涼君。今回の一件の犯人が何か言ってるな」
「二虎さん二虎さん。俺達の中で一番の大食らいが自分じゃないって顔してますね」
二人がヒソヒソ声で照を愚痴る。漸く彼はこの事態が自分によって起きたことを理解するに至った。
「……もしかして、俺が原因?」
『『正解だよ、馬鹿野郎』』
「何で同時!?」
「はい、そうゆう訳で」と二虎は両手を三度叩きつつ、照と涼に向けてこう言った。
「俺は暫く働き口を探しに行く。其の間、お前等にちょっとした『宿題』を出すぜ」
「宿題…」
「って何?」
「宿題ってのは、これを決められた時までにやっておかないといけないっう物、要するに課題だ」
左手で涼を、右手で照を、二虎は指差し告げたのである。
「明日から一ヶ月で、お前等二人には俺が言う十鬼蛇区内の猛者共を倒してこい。
手段は問わねぇ。不意討ち、武器使用、何だってありだ。泥臭くても良い、意地汚くても良い。最終的に勝ちゃ良い。
それじゃ言ってくぜ?━━━━……………」
* * * * * * * * * * * * * * *
二時間前…十鬼蛇区内・某所、裏路地━━━━━━━
「ハァッ…!ハァッ…!……ン、まだまだ…もっと強くならなくちゃな………」
血と汗が混じった液を自分の舌で舐め取り、己の左手を握っては開く。彼の後ろには、コンクリートの壁に大の字でめり込み、時折痙攣を起こす男が一人。顔はダラリと力無く俯き、ポタポタと血を滴り落としている。
この男は二虎が照と涼に、彼等が宿題として倒すべき相手として指定した人物であり、この近辺では指折りの実力者。
照も苦戦こそ強いられたが、あの呉一族の男の程の実力では無かった為、大怪我を負うことは無く勝利出来た。
《…少しずつだけど『分かってきた』。『強い奴』と『弱い奴』の区別って物が》
照には二虎流の奥義を習得した副産物として、あらゆる力の流れを『矢印』として見る事が出来るようになっている。涼や自分より格上の相手が繰り出す、自分の動体視力で追い切れない攻撃以外ならば、大抵の攻撃は見切り、躱わす事が可能だ。
そうして矢印を見続けるなかで、各々の身体から発せられる
小さな矢印を持つ者は自分が思っていたよりも弱い事が多く、逆に大きな矢印を持つ者は本当に強くて、倒すのに労を要した。
今回の相手からは、大きな矢印を身体から発していたので、挑発を仕掛けて戦ったところ、かなりの強さを持っていた。何度も攻撃を食らい、地面に叩き付けられながら、最後は自身の流派である
現在の状況となったのだ。
「ふぅ…別の場所に移動しながら、次の相手を探そう。………あ」
腕をグルングルン回しながら、何かを思い出したように倒した男に近寄り、懐を漁り出した。
「う~ん…何にもないなぁ…」
金目の物が見付からず、首を傾げつつも、心の何処で安心している自分がいる。
「…よし、次に行こう」
気持ちを切り替えた照は、裏路地を抜けて、小さな通りへ躍り出る。
其の時、照の周りをフワリ…と風が過り、何者かの影が走り抜けて行った。
「お?」
照は見た。自分より頭一つ小さな背丈で、獅子のようなボサボサの髪を揺らし、走って行く少年の姿を。
そして同時に彼の身体から発せられる矢印が、今まで見てきた者達の中でも、五指に入る大きさであることを。
「………戦いてぇ!」
全身の毛が逆立つ。強者との闘争を求める心が、彼を突き動かした。
直後、照の身体は少年を追い、駆け出したのである。
* * * * * * * * * * * * * * *
其の日は少年にとって、大切な日だった。
自分が予てより定めていた、ナワバリに幾人の人間達が進行、制圧しようとしてきた。
自分に断り無く、我が物顔でやって来た連中を少年は許しはしない。
数日間の見回りで敵の本拠地は割り出せた。
後は奴等に報復し、追い返すのみ。
後々、大多数で来るなら出向いて潰す手間が省けて済むだけの事だ。
何も問題はない━━━━━━━『筈だった』。
自分の後ろから、何かが。其れも縦横無尽に『飛び跳ねながら』、自分を追跡してきた。
絶妙な距離感と絶妙な高さを取り、まるで烏のように自分を観察している。
正体は気になるが、この機を逃せば次まで相応の時間が掛かる。故に気に掛けず、一気に目的地に向かった。
目的の廃棄された建物に到着し、壁に耳を当てると内側から複数人の声が響く。数は五人にも満たない、声調から油断しきっている。
腰のホルスターから二振りの使い馴れたナイフを引き抜き、逆手に持ちつつ構え、内部に突入した。
「ん?」
突入場所に一番近かった男の顔面へ、鋭利な縦一閃が
「な…」
すかさず近くの敵にナイフを投擲。掌に刺さり、痛みで脚が止まった所に飛び付き、ナイフを引き抜いて地面に蹴り倒す。
複数同時に相手をすれば、確実にやられる。各個撃破が一番だと自分は知っている。
「敵襲!敵襲!」
だが、この日。不運があるとするなら、自分が予想していたよりも、建物に居た敵の数が多かった事だろう。階段を下り、向こう側から次々に敵がやってきて、瞬く間に囲まれる。
「餓鬼が、家のもんに手出してタダで済むと思うたか?アァ!?」
耳障りな声が響く。状況が不味い。捕まったら待っているのは確実な死だけだ。
「お前等、コイツも次いでに
『うおわああああああああああ!!!?!!』
天井が割れて、何かが落ちてきた。砂埃が上がり、其の中からムクリと影が立ち上がる。
「あいててて…穴空くなんて聞いてないぞ、たく……………あ!」
キョロキョロと見渡したソイツを見て、自分は嘗て無い衝撃を受けた。
鍛えられた身体。
大人に負けない太い腕。
大地を踏む頑強そうな脚。
スッと伸びた背筋によって、筋肉質の体つきはより強調され。
そして何よりも。纏う闘気がそんじょそこらの奴等の比じゃない。
圧倒的…強者の姿。
「見付けた!君、俺と戦おう!」
そんな強者が、自分に視線を合わせて屈んで、突然訳がわからない事を言ってきた。何言ってんだコイツ。
「おい、お前。コイツらの保護者か兄弟か?」
「ん?アンタ等、誰?」
ブチッと何かが切れる音。同時に、敵の一人が手に持っていた斧を振り上げてくる。
『ブッ殺す!』
轟ッ!と風が吹く。下ろされた鉄の塊が強者の頭をカチわ『バギャ!!!!』………『れなかった』。
「…………は?」
「斧か。刃物を自分で割ったのは『初めて』…かな」
ヒビが走り、斧の刃先が砕け落ちた。両手の拳は硬く握られ、白い湯気が立っている。
一体何が起きればそうなるのか?
「さてと…『君達』はどうする?」
達?其の疑問を浮かべた時、ソイツは指先で後ろを指した。視線をやると、其処には痩せ細った全裸の、自分と同じ年程の『少年』が、今の状況に驚いた表情で此方を見ていた。
「こうして巻き込まれたのも何かの御縁だ。此所から脱出と洒落込むつもりだけど…君達はどうする?」
気に食わないしムカつくが、此所でこのまま死ぬのだけは御免だった。
「…………名前」
何時以来だろう。久しぶりに自分の口で、自分の言葉で話したのは。
「照。鬼灯 照だ」
「…ホオズキ テル、か」
カチャリとナイフを構え直す。
生きる為に、此所はコイツと共に戦う。
「よし。
じゃあ……行こうぜ!」
拳を握り締め、敵の群団に斬り込んでいった。
これが鬼灯 照にとって、後に『
そして同時に、もう一人の少年で照や涼、王馬達に比肩し得る存在として『