世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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・前回に引き続き、照と王馬、そして刹那が敵対組織の包囲から脱出するために戦います

・現在、拳願絶命トーナメントの対戦組み合わせを思考中。原作とは異なるものになると思われますが、お楽しみに


第三十五話 刹那(せつな)

産まれた時から、僕は愛されていなかった。

 

物心付いた頃から、お母さんは僕を疫病神だと言い、罵り、毎日毎日ぶった。

 

最初は痛いと思っていた暴力も、其れが日常茶飯事になって、僕は其れを当たり前と考えるようなった。

 

そうして長く暴力を振るわれ続けた結果、僕は自分自身を罪深い人間だと考える。

 

罪を抱え、此の世に産まれた者は、生きている限り、其の罪から決して逃れる事が出来ない事。

其の罪は己の死を以て、初めて浄化される事。

そして其の死を与える者は己以外の人間でなければならない事。

 

そうして十一歳になったある日、見知らぬ大人達が僕とお母さんを誘拐して、中と呼ばれる無法地帯の一つ『四亀区(しきく)』にある、大人達が使っている廃墟に監禁した。

彼等に、拉致監禁を依頼したのは当時は分からなかった。

 

お母さんは昨日、彼等の手で殺された。そうして今日、僕は死ぬ筈だった。此の世に未練は無かったし、漸く死ねると思えば、自分の運命を受け入れる事も簡単だった。

 

 

「ーーーーー」

 

「…………」

 

 

解体が始まる。

これで僕は終わると。

そう思っていた。

 

 

「~~!」

 

「ーーーーー!?」

 

 

悲鳴。怒号。顔を上げれば、大人達が誰かと戦っている。其の光景の中心に居た存在に、僕は衝撃を受けた。

 

自分と同じくらいの少年が、二振りのナイフを握って、複数の大人を相手に立ち回っている。荒々しく、野生を解放した肉食獣の如き、渇きに満ちた視線を見た瞬間、僕は一つの確信を得た。

 

此の少年が…否、彼こそが。僕を裁き、殺してくれる神であると。

 

「どうした!!」

 

「敵だ!いけ、逃がすなよ!」

 

神を包囲するように、奴等は陣を組み、密集する。

神は数の多さに手を止めている。

 

そんな事、有り得てはいけない。

 

(きみ)は、どんな苦境にさえ屈する事はない。

(きみ)は、罪人(やつら)を残酷に殺せる筈だ。

 

(きみ)は…………!

 

『うわあぁああああああ!?』

 

突如、天井が割れて何かが落ちてきた。砂煙が上ぼる中、ムクリと地面から立ち上がった。

 

「いででで…まさか穴空くなんて聞いてないぞ…たく………………あ!

 

見付けた!君、俺と戦おう!」

 

(かれ)に話し掛ける、もう一人の人。

 

一目見て、僕は彼を理解した。

 

此の人は、(かれ)より『強い』事を。

 

大人達相手に怖じ気付く事なく、振るわれた斧を拳で叩き砕いた。圧倒的な力、だけど…彼から感じたのは『ふんわりとした優しい』物。

 

(かれ)が罪人を裁き、殺すのならば。

この人は罪人さえ赦し、救い上げる、優しい(かみ)

 

「さて……『君達』はどうする?

 

此所で出逢ったのも、何かの御縁だ。俺は此所から脱出と洒落込むつもりだけど………君達はどうする?」

 

君達…(かれ)と僕の事を言っている。

 

「…………名前、お前の名前」

 

「……照。鬼灯 照」

 

「ホオズキ テル……か」

 

神と神が。此の場所からの脱出の為に手を組み、敵を睨む。

此の光景を、僕は一生忘れる事はない。

 

「よし…。じゃあ、行こうぜ!」

 

敵の大群に二人が突貫していった。

 

殴り飛ばし、切り裂き、撃ち沈め、投擲し。

 

一人、また一人と倒して行く。

 

これが神の力だと、僕はただただ見つめるしか出来なかった…………。

其れ程に、強く……本当に強かった。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「おりゃあああああ!」

 

「ガキ三匹、さっさと解体すぞ!」

 

迫る男達を前に、少年二人は体勢を低くし駆け出す。

 

《此所だ!》

 

敵全体の動き、力の流れを見ながら、照は蝗跳(いなごとび)で宙に跳んだ。

 

《蝗跳…今までは回避や運足の為『だけ』に使っていた技。だけど、其れだけじゃ『駄目』だ。狭い場所、大多数の相手…本来の持ち味が活かせない場合だってある。

 

それなら、『こうする』!》

 

跳び跳ね、近く敵に狙いを定めた照は自身の爪先を、其の者の肩に乗せ。

 

踵で押し倒し、再び飛び上がったのである。

 

「なッ………ぶげぇ!?」

 

「あのガキ、跳んでやが…あべし!」

 

「ぬがぁ!?」

 

踏まれ、踏み付けられた男達は、次々と地面や壁にめり込み、激突してゆく。

そして立ち上がろうとした所に、もう一人の少年がナイフで腕や脚の腱を切り裂き、行動不能に陥れていく。

 

《…コイツ、俺のナイフが当たりやすい位置に『落として』やがる………!》

 

照自身、意図してやったのかは不明ではあるものの、蝗跳の新しい戦い方を身に付け、実行した。

そしてもう一人の少年は照の動きに合わされているかのように、敵を次々と制圧してゆく。

 

「くそが!ガキ二人に何モタついてやがる!」

 

「だ、だけどよぉ!コイツらつえぇぞ…!」

 

子供二人に頭数で勝っていた筈の状況が、一気に傾けられ、彼等は二人に対して恐怖を抱かずにはいられなかった。

 

ただの打撃を受けただけで、ぷっつりと糸を切られた人形のように気絶させられ、野生を剥き出しにした斬撃に裂かれて、赤に染まり地に落ちる。

 

自分達では歯が立たない。状況的不利を否応なしに理解し、逃げ出さんとする者が現れ始めた。

 

「あ、おい!待て!」

 

「てめっ、逃げるな!戦え!」

 

「うるせぇ!こんな所で死にたかねぇよ!」

 

先程までの威勢は何処ぞに消し飛び、みっともなく、彼等は子供のように騒ぎ立てる。

 

そして……。

 

「━━━━━━━━━━おい、アンタら」

 

「━━━━━━━まだ、やるかい?」

 

二人の戦鬼が。

 

獰猛な笑みと共に。

 

彼等を打ち倒していった。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

十数分後………

 

「ふぃ~…制圧完了だな」

 

脱出した者を除いて、倒した相手を外に放り出した後、制圧した此の組織が溜めていた金目になりそうな物を一ヶ所に集め、山積みにする。

 

「さてと…だ。君!」

 

「………ん?」

 

倒した敵の衣服で自分の武器たるナイフを拭く少年に対し、照は金山の八割を彼の前に押し出す。

 

「今回の山分けだけど、俺はこれ位で良い。元々君と戦いたかったが、あの状況下、一番負担が大きかったのは君であり、此方は共闘で巻き込んでしまった事もある。

 

其れを考慮した結果、此所に在った金目の物の八割を君に渡したい」

 

照の真っ直ぐな、何の算段も巡らせていない目を見て、少年は何を考えたのか、無言で立ち上がる。そして革製の袋に其れ等金品を詰め込み、『彼等』に背を向け、十鬼蛇区の裏路地に去っていった。

 

「…………あ、名前聞くの忘れてた。

 

…あああああああ!?名前!名前教えて!」

 

追い掛けようとしたが時既に遅く、少年が何処へと向かい、何処へ行ったのか分からなくなってしまった。

 

「あ~~………失敗した。ド畜生…取り敢えず帰るか………」

 

残された二割の金品等を照は袋に詰めて、肩に掛けるように持ち、自分の居場所…十鬼蛇区の小高い丘に在る家へ、帰路に付く。

 

が………

 

 

 

「あれ?此所って…………」

 

あの少年を追跡した結果、自分が何処に来たのか分からなくなってしまったのである。

 

「………どーしよ、この状況。せめて此所が何処なのか場所が分かれば、帰れなくもないのに……」

 

「四亀区…だよ」

 

「えっ、そうなのか?いや~助かっ…ん?」と後ろに視線を移すと、其処には全裸の少年が照を見上げるように立っている。腕や脚は細く、目も少し濁っており、まともに食事を摂っていないことが、照には分かる。

 

「君は…さっきの廃墟にいた子だな。此所は四亀区なのか」

 

ゆっくりと、片膝を付きながら、少年と視線を合わせて話を聞く。

 

「…うん」

 

「そうか。ありがとう、教えてくれて」

 

「よいしょ」と上着を脱ぎ、少年に頭から袖を通しつつ、袋から財布や金品を取り出して、彼の小さな手に握らせる。流石に全裸では何かと不便である以上、一糸纏い、金を持つだけでも状況は大きく違ってくる。

 

「気を付けてな」と笑顔を投げ掛け、十鬼蛇区へ向けて歩き始める。

 

が………━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「………」

 

後ろに気配を感じて、首を後ろに向けぬように目を向けて見た。

 

あの少年がトコトコと、自分の背中を追い掛けてくる。

 

「……どうした?」

 

立ち止まり、声を掛けると少年はこう言葉を返す。

 

「居場所……ない、から………」

 

居場所が無い。中の人間達の中、弱者にあたる其の殆どが抱えている物だ。ある者は身を売り、ある者は強者に例属(れいぞく)寄生(きせい)する事で生きている。

自分や氷室(ひむろ) (りょう)二虎(にこ)に、あの少年のような強者になれない者達の抱える物だ。

 

「……そうか。じゃあ……」

 

 

 

来るかい?俺の…俺達の居場所に。

 

 

 

「……………え━━━━━」

 

風が大きく吹き荒び、彼等の髪を揺らしてゆく。

 

「俺は其の場所で強くなれた。もし君が…、己の意思で強くなりたいと望むなら、俺達が君を強くしてやる。

 

空腹に苛まれないように、強者に踏み付けられぬように、自分自身を守れるように。

 

自分の中の、芯の通った強さを其の身に付けさせてやる」

 

御世辞等では無い。自分も嘗て…前世で踏みつけられ、空腹に苦しみ、色々な物を奪われてきた有象無象の弱者の一人だった。

 

この少年は自分とよく似ていたのだ。奪われ、失い、道が見えず、彷徨っているこの少年が。

 

「僕……僕は………………強く…………強く、なり…たい……ッ!

 

強くなって、あんな怖い思い!二度と……二度としたくないッ!」

 

安堵によって弛み、照から与えられた優しさで涙腺が壊れた。涙を溢し、鼻水を滴しながら。少年はこの日、自らの意思で、自らの言葉で、枯れた喉から声を振り絞って叫んだ。

 

「…………そっか。じゃあ行こうか、俺達の居場所に」

 

「ぐずっ…!……ばぃ!」

 

照の後ろを追うように、少年…桐生(きりゅう) 刹那(せつな)は歩き出す。

 

これは後に拳願仕合(けんがんしあい)において、美獣王(びじゅうおう)の通り名を持ち、鬼灯 照(覇皇)氷室 涼(氷帝)十鬼蛇 王馬(阿修羅)と合わせ、『拳願四王(けんがんしおう)』と謳われる事になった一人の闘技者の、今はまだ幼き日の出来事である………。

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