世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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・新たな家族に加わった桐生(きりゅう) 刹那(せつな)。其の者、後に美しき獣の王となる者

・おまたせしました、約二年振りの更新です





第三十六話 教授(きょうじゅ)

「照、誰だよソイツ」

 

いの一番というか、やはりというか、涼の一言が飛んでくる。修行に出て、見ず知らずの少年を拾ってきたのだから、そう言いたくなるのも無理は無い。

 

「この子は桐生 刹那。俺の見立てだが、かなり出来るよ。しっかり鍛えていけば、確実に俺達に比肩するくらいには強くなれる」

 

後ろに隠れた刹那の事を説明し、涼は彼を見る。師である十鬼蛇(ときた) 二虎(にこ)より、二虎流(にこりゅう)奥義(おうぎ)である鬼鏖(きおう)を会得した事で、照の目にはあらゆる力の流れを、矢印で感じ取る事が出来るようになっていた。

 

涼の体外へ流れる矢印も大きいが、刹那の持つ矢印(それ)も自分達に匹敵し得る程には大きい。鍛え上げ、戦う事で、きっと自分も涼も強くなる…そんな予想があったのだ。

 

「そうは見えねぇけどなぁ…」

「まぁまぁ、今はまだ戦闘のせの字すら知らないからさ。ゆくゆくを見据えた事だと思って。取り敢えずドラム缶風呂に入って、彼を綺麗にしたい」

「そうだな…汗も掻いたし、ニコさんはまだ帰って来ないし…飯はどうするよ?」

「…取り敢えず缶詰で宴にしよう」

「だな」

 

何気ない二人の会話を見て、刹那は少し羨ましく思った。同年代の友達が居なかった彼には、そんな光景すら輝いて見えていたのである………

 

 

********************

 

 

翌日……

 

「じゃあ照、行ってくるぜ!」

 

涼は二虎さんから託された宿題を進める為、『中』にある地域の一つ『八鷹(はちたか)』へと向け、覇堺流の歩法である『蝗跳(いなごとび)』を使用して、かっ跳んで行った。

 

「…よし、今日から稽古を始めるよ。準備は良いか、刹那?」

「はいっ!」

 

裸であるのは不味いと考えた照は、刹那の背丈に合わせて、中の戦いに勝利し剥ぎ取った衣服の裾や袖を、錆び付いた鋏で切り裂き、着せていた。

 

動きやすさや通気性も考えつつ、彼の雰囲気に合わせた黒で統一した色合いの服。刹那は気に入っているようだが、もう少し良い物に出来たかと彼は思う。

 

「先ず、基礎的な打撃の型を教える。基礎在ってこそ、武術は成り立つ」

「はいっ!」

 

腰を落とし、腕を脚を構え、そして打ち出す。覇堺流もだが、全ての武術には基本となる『型』が在る。二年間沖縄で…黒木(くろき) 玄齋(げんさい)より学んだ事だ。

 

一つ一つの型は、戦いに於いて一つの『手札(てふだ)』となり、同時に『引出(ひきだし)』となる。持てる物は多い方が良いとは言うが、時にたった一つの手札で全てが崩壊するとも言われている。

 

技の練度は何よりも大切だが、其れ以上に基礎的な訓練は己を偽らない。自分の打撃である『釘撃(くぎうち)』が、黒木に通用したのと同じように。

 

「こう、ですか?」

「そう。あとは膝を少し深く曲げて、脇をしっかり絞めて━━━━━打つ!…良いかい?」

「はいっ!」

 

刹那はこの日、空手の基本の型である『正拳突き』の構えを学び、照の其れを真似ながら、何度も何度も繰り返したのだった。

 

 

*******************

 

 

「せいっ、おりゃ!」

「ふっ━━しっ!」

 

刹那を家族に加えて、三日が経った。今日は朝から雨が降り、刹那が見守る中で、俺と涼は組手を行っている。

 

「相変わらず、お前の拳はかったいな!照!一発も貰えねぇ緊張感、全身がピリピリするぜ!」

「其の言葉、そっくりそのまま返すよ!涼!対処法は解っても、君は戦う中で其れを常に超えてくるッ!」

「やっぱ、お前は最高の相手だ!!!」

「全く、君は本当に凄いよ!」

 

互いに自分の持ち味を、得意とする距離での打ち合いを繰り返しつつ、自分の技の練度をぶつけ合う。

 

照が金剛と水天の緩急と、一撃必殺の覇堺流を付けた攻撃を叩き付け。

 

涼は操流と火天による足捌きと流体、そして己の十八番たる縦拳を刻み込む。

 

一進一退の攻防、其の身を血に汚し、数多の傷が付きながら。それでも自らの勝利を掴まんと、武を、技を、限界を越えて繰り出す。

 

そして━━━━━━━━━━

 

『ハアッ!』

『シィッ!』

 

照、涼、此の日最後の一手は軸足による跳躍からの、頭部を狙った爪先蹴り(サバット)であった。

 

其の蹴りは互いの爪先に激突。パキャッ!と爪が割れる音が雨中の音に混じって響き、軈ては双方の着地に掻き消され、静寂が訪れる。

 

「━━━………いっっっってぇぇ!?足の爪割れた!めっぢゃくっちゃいっでぇ!」

 

襲い掛かった激痛に、涼は片足でぴょんぴょんと跳ねる。どうやら、今回の組手は照に軍配が上がったようだ。

 

「ふぅっ……涼の運足と縦拳、沖縄の修行の時から更に速くなったんじゃないか?」

「まぁな。だけど、お前の不壊を突破するにはまだまだ足らねぇ。当面は金剛ノ型の強化が俺の課題だな」

「此方も今回の組手で、火天ノ型の練度を上げる必要が有ると感じたね。後は━━━━━━」

 

戦いを通じて思った事、感じた事を話し合う。そんな時だった、二人の戦いを見ていた刹那が此方に近付いてきて、服の裾を引っ張りながら言ったのだ。

 

「あ、あの……えっと………」

「ん?なんだ?」

「いえ…えっと………」

 

もじもじと身を捩り、指先をくるくる回して、刹那は口籠る。其れを見た照は、刹那の目線に合わせるように屈みながら言う。

 

「大丈夫。ゆっくり話してみて」

 

照の其の行動が正しかったのかは定かではない。しかし其の行動で、刹那の表情は少しだけ落ち着いた物になった。

 

「あ……えっと……照、さんの……足の動かし方。右に動く時……ほんのちょっと、えっと……『左』にズレてる……みたい。

 

あと……涼君、も……。拳を握る時に、お父さん指を…お母さん指に、乗せると……『もっと早く』……なる、かも…………」

 

刹那の指摘に少年達は顔を見合せ。其の指摘を下に、各々動きや拳を繰り出してみた。

すると、照は今までよりスムーズに火天の動きが出来、涼の縦拳は其れまでよりも0,3秒速くなった事を、実感したのだ。

 

「おおおおおお!刹那、お前すげぇな!俺の縦拳がめっちゃ速くなった!」

「凄いな、刹那。ありがとう」

 

涼は刹那の両手を掴んでブンブンと上下に振り、照は彼の頭を優しく撫でる。

 

「……え、へへ………♪」

 

今まで誰からも必要とされず、産まれた意味と価値を見出だせずに生きてきた少年は、初めて誰かに必要とされ、そして自身の存在を認められた事に歓喜した。

 

此の小さな幸せを、失くさないようになりたい。

二人の想いに応えられる、そんな存在になりたい。

 

少年時代の桐生 刹那の心は、少しずつ変わっていく。

其の変革が、軈て大きな流れとなって、照達の運命を変えていくのである。

 

 

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