・おまたせしました、約二年振りの更新です
「照、誰だよソイツ」
いの一番というか、やはりというか、涼の一言が飛んでくる。修行に出て、見ず知らずの少年を拾ってきたのだから、そう言いたくなるのも無理は無い。
「この子は桐生 刹那。俺の見立てだが、かなり出来るよ。しっかり鍛えていけば、確実に俺達に比肩するくらいには強くなれる」
後ろに隠れた刹那の事を説明し、涼は彼を見る。師である
涼の体外へ流れる矢印も大きいが、刹那の持つ
「そうは見えねぇけどなぁ…」
「まぁまぁ、今はまだ戦闘のせの字すら知らないからさ。ゆくゆくを見据えた事だと思って。取り敢えずドラム缶風呂に入って、彼を綺麗にしたい」
「そうだな…汗も掻いたし、ニコさんはまだ帰って来ないし…飯はどうするよ?」
「…取り敢えず缶詰で宴にしよう」
「だな」
何気ない二人の会話を見て、刹那は少し羨ましく思った。同年代の友達が居なかった彼には、そんな光景すら輝いて見えていたのである………
********************
翌日……
「じゃあ照、行ってくるぜ!」
涼は二虎さんから託された宿題を進める為、『中』にある地域の一つ『
「…よし、今日から稽古を始めるよ。準備は良いか、刹那?」
「はいっ!」
裸であるのは不味いと考えた照は、刹那の背丈に合わせて、中の戦いに勝利し剥ぎ取った衣服の裾や袖を、錆び付いた鋏で切り裂き、着せていた。
動きやすさや通気性も考えつつ、彼の雰囲気に合わせた黒で統一した色合いの服。刹那は気に入っているようだが、もう少し良い物に出来たかと彼は思う。
「先ず、基礎的な打撃の型を教える。基礎在ってこそ、武術は成り立つ」
「はいっ!」
腰を落とし、腕を脚を構え、そして打ち出す。覇堺流もだが、全ての武術には基本となる『型』が在る。二年間沖縄で…
一つ一つの型は、戦いに於いて一つの『
技の練度は何よりも大切だが、其れ以上に基礎的な訓練は己を偽らない。自分の打撃である『
「こう、ですか?」
「そう。あとは膝を少し深く曲げて、脇をしっかり絞めて━━━━━打つ!…良いかい?」
「はいっ!」
刹那はこの日、空手の基本の型である『正拳突き』の構えを学び、照の其れを真似ながら、何度も何度も繰り返したのだった。
*******************
「せいっ、おりゃ!」
「ふっ━━しっ!」
刹那を家族に加えて、三日が経った。今日は朝から雨が降り、刹那が見守る中で、俺と涼は組手を行っている。
「相変わらず、お前の拳はかったいな!照!一発も貰えねぇ緊張感、全身がピリピリするぜ!」
「其の言葉、そっくりそのまま返すよ!涼!対処法は解っても、君は戦う中で其れを常に超えてくるッ!」
「やっぱ、お前は最高の相手だ!!!」
「全く、君は本当に凄いよ!」
互いに自分の持ち味を、得意とする距離での打ち合いを繰り返しつつ、自分の技の練度をぶつけ合う。
照が金剛と水天の緩急と、一撃必殺の覇堺流を付けた攻撃を叩き付け。
涼は操流と火天による足捌きと流体、そして己の十八番たる縦拳を刻み込む。
一進一退の攻防、其の身を血に汚し、数多の傷が付きながら。それでも自らの勝利を掴まんと、武を、技を、限界を越えて繰り出す。
そして━━━━━━━━━━
『ハアッ!』
『シィッ!』
照、涼、此の日最後の一手は軸足による跳躍からの、頭部を狙った
其の蹴りは互いの爪先に激突。パキャッ!と爪が割れる音が雨中の音に混じって響き、軈ては双方の着地に掻き消され、静寂が訪れる。
「━━━………いっっっってぇぇ!?足の爪割れた!めっぢゃくっちゃいっでぇ!」
襲い掛かった激痛に、涼は片足でぴょんぴょんと跳ねる。どうやら、今回の組手は照に軍配が上がったようだ。
「ふぅっ……涼の運足と縦拳、沖縄の修行の時から更に速くなったんじゃないか?」
「まぁな。だけど、お前の不壊を突破するにはまだまだ足らねぇ。当面は金剛ノ型の強化が俺の課題だな」
「此方も今回の組手で、火天ノ型の練度を上げる必要が有ると感じたね。後は━━━━━━」
戦いを通じて思った事、感じた事を話し合う。そんな時だった、二人の戦いを見ていた刹那が此方に近付いてきて、服の裾を引っ張りながら言ったのだ。
「あ、あの……えっと………」
「ん?なんだ?」
「いえ…えっと………」
もじもじと身を捩り、指先をくるくる回して、刹那は口籠る。其れを見た照は、刹那の目線に合わせるように屈みながら言う。
「大丈夫。ゆっくり話してみて」
照の其の行動が正しかったのかは定かではない。しかし其の行動で、刹那の表情は少しだけ落ち着いた物になった。
「あ……えっと……照、さんの……足の動かし方。右に動く時……ほんのちょっと、えっと……『左』にズレてる……みたい。
あと……涼君、も……。拳を握る時に、お父さん指を…お母さん指に、乗せると……『もっと早く』……なる、かも…………」
刹那の指摘に少年達は顔を見合せ。其の指摘を下に、各々動きや拳を繰り出してみた。
すると、照は今までよりスムーズに火天の動きが出来、涼の縦拳は其れまでよりも0,3秒速くなった事を、実感したのだ。
「おおおおおお!刹那、お前すげぇな!俺の縦拳がめっちゃ速くなった!」
「凄いな、刹那。ありがとう」
涼は刹那の両手を掴んでブンブンと上下に振り、照は彼の頭を優しく撫でる。
「……え、へへ………♪」
今まで誰からも必要とされず、産まれた意味と価値を見出だせずに生きてきた少年は、初めて誰かに必要とされ、そして自身の存在を認められた事に歓喜した。
此の小さな幸せを、失くさないようになりたい。
二人の想いに応えられる、そんな存在になりたい。
少年時代の桐生 刹那の心は、少しずつ変わっていく。
其の変革が、軈て大きな流れとなって、照達の運命を変えていくのである。