世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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物語が大きく動きます

*此のタイトルは原作読破勢ならば、解る筈……多くは語りません。刮目せよ




第三十七話 少年(しょうねん)

刹那が照達の家族に加わって、およそ一週間の時が流れた。

 

「照、今日だな」

「あぁ。遂に今日が来たんだ」

 

今日━━━━其れは二人の師、十鬼蛇(ときた) 二虎(にこ)が、彼等に一ヶ月前に出した宿題、つまり二虎の言った強者を倒したかを確認する為に、一度此方に帰ってくる日である。

 

「照さん…涼…二虎さんって、優しいの…かな?」

「あ、そうか…刹那は二虎に会った事が無いんだっけか」

 

コクリ…と頷いた刹那に、照は「大丈夫」と微笑みながら、頭を撫でて安心させる。

 

「二虎さんはちょっと教え方が下手で、口下手な所も有るし、酒や女の人にちょっと甘かったりするし」

 

「だけど」と、照は其の後の言葉を紡ぐ。

 

「そんな二虎さんは、俺達よりもずっと強くて。そして俺が、師匠として尊敬する人なんだ」

 

と、此所まで語った照が気付く。彼の前に居る涼の顔が青ざめており、刹那の顔はポカーンとしている事に。

 

「だーれが、教え方と口下手で酒と女の子に甘いだって?」

 

其の瞬間、彼は自身の後ろに立つ存在が捉えきれない程の、戦いで感じる物とは別種の殺気に感付き、錆び付いたカラクリ玩具の様に、ギギギ…と首を後ろに向けた。

 

「あ………お帰り、なさい…二虎さん。あの……もしかして、ですけど。全部……聞いて、まし……た?」

「あぁ。全部聞いてたぞ、コノヤロウ♪」

 

青筋を額に満たし、二虎は金剛ノ型・鉄指(てっし)で固めた怒りのアイアンクローを照の頭に叩き付けたのである。

 

「いだだだだだだだだだ?!?」

「さてだ…涼、其処のチビ助は誰だ?」

 

二虎が刹那の存在を涼に問い掛けた。元々は照が拾ってきた少年を、どうにかして説明しようにも、口籠ってしまう。

 

と━━━━━━

 

「二虎さん、その子は桐生 刹那って言います!」

 

クローを食らいながら、照が声を上げる。

 

「俺が修行の最中、四亀区を訪れた時に発見しました!今はまだ幼いですが、鍛えていけば俺や涼に匹敵する実力者に成れると踏んで、保護したんです!

あとこのままだと、頭が割れそうなのでそろそろ離してくれません!?」

「へぇ、お前がねぇ…?」

 

照をクローしながら、二虎は刹那の顔や体格等を見る。

死地を掻い潜り、数多の修羅場を越えてきた男の目には、刹那という存在は『まだ』小兵に過ぎない。

 

(……まァ、コイツは『良い』な)

 

が、しかし。二虎の目に映る刹那は、内側に宝石の原石に似た、確かな輝きを宿しているのが見えた。

 

「よし、刹那だっけな。お前も俺の弟子になれ♪」

「え、良い…の?」

「おぅ。照はいっちょまえに、人を見る目はあるかんな」

「あの~!二虎さん、そろそろ頭が割れそうなので離してお願いします!?」

「あ、わりぃわりぃ」

 

おちゃらけていた二虎は、拘束していた照をパッと離した。解放され、軋む頭を押さえて擦る照に、刹那が駆け寄る。

 

「照さん…あの、よろしく…です」

「……あぁ。よろしく、刹那」

 

差し出された拳に、今はまだ小さな拳が重なった。こうして桐生 刹那は無事、十鬼蛇 二虎の弟子の一人となったのである。

 

「あ、そういやニコさん、仕事探すとか言ってたけど見つかったの?」

「見つかったぜ。名前が確か『恥不知組(はじしらず組)』とかいう、ちょいと有名なヤクザの所の用心棒にな。何でも十鬼蛇区で『探したいヤツ』がいるんだとさ」

 

ヤクザかぁ…と涼は思い、照は誰を探しているんだろうと考えた。しかし照と刹那は、其の人物と既に一度『逢っている』のだが…此の時の彼等はまだ知る由も無かったのである。

 

 

*********************

 

 

二虎が戻ってきて約3日が過ぎた。どうやら今日、二虎さんを雇った恥不知組は、探し人を見付けに行くらしい。

 

其の為に朝から二虎は外出していき、三人は修行をするようにと言われていた。

 

「なぁ、照」

「ん~、どうした涼」

「何か企んでるだろ」

 

照が刹那に、黒木から教わった正拳突きの型稽古を教える最中、涼がそう言ったのだ。

 

「何でそう思ったの?」

「照さん、顔が嬉しそう」

「お前が上機嫌な時って、大抵何か面白い事考えてるんだよな」

 

長い時間一緒に過ごした涼なら未だしも、顔色で変化を見抜いた刹那に少し驚きつつも、照は「ばれたか…」と言って二人に話す。

 

「恥不知組が探してる奴が、ちょっと気になって。どんな人なのかなって…二虎さんを雇うって事は相当強いのは間違い無い」

「…もしかしてソイツと戦う━━━なんて言うんだろ」

 

「うん」と即答した照に、涼はハァ…と大きな溜め息を溢す。強さに対し、底無しとも言える貪欲さ。自分よりも、強い奴との戦いを求める求道者。其れが鬼灯 照なのだ。

 

「だけど、俺も興味有るんだよな。二虎さんを必要とするくらい、ソイツは強いのかなって」

「わかる?」

「あぁ、何となく…だけど」

 

そうして二人は僅かな沈黙の後に、ほぼ同時に『探すか』という結論に至った。

 

「あ、でもよ。刹那はどうするよ?」

「俺がおんぶする。涼は十鬼蛇区に話が通じる人は居る?」

「数人だけど、俺自身が信用出来るヤツは居る」

「よし…じゃあやろう」

「おぅ」

 

ニタニタと黒い笑みで笑う青年達に、何となく察した刹那は身を少し震わせたのであった……

 

 

*********************

 

 

約2時間後、十鬼蛇区内・某所━━━━━━━━

 

「わああああああ~~!?」

「刹那、これが蝗跳(いなごとび)!何れ君も身に付ける事になる技だよ!」

 

廃墟の街並みをかっ跳び、縦横無尽に駆け回る照と涼、そして照に縄で巻き付けられ、赤子の如く固定された刹那が駆けている。

 

現在三人は涼の信用出来る者達の元へと走り、恥不知組が何処に向かったかの情報を、此迄の戦いで獲得した金品との交換で買い。そして彼等は先程、組の連中が『とある廃ビル』に向かっていると知り、其処へ全力で跳ね飛んでいる。

 

「照、見えた!彼処だ!」

 

涼が指差す先、見えてきたのはおよそ10階はありそうな高いビル。外観からして何かの複合施設であったような形に見える。

 

「あれか…ん?涼、あっちを見て」

 

照が何かに気付き、一旦止まって指を指す。其の先には数十から百人程度の柄の悪い男達が、少し恰幅の良い男性を護衛するように、廃ビルの方向へとやって来ている。

 

「…恥不知組か」

「多分…だとすると、あの人数でビルを包囲するかも知れない」

「早い内に突入したほうが良いか」

 

決断した後、照は背中におんぶした刹那を見る。彼は少しグロッキーな表情をしていたが、二人の顔を見てニコッと何とか微笑を作った。

 

「ごめん、刹那。少し速度を落として移動するように、心掛けるから」

 

緩みそうな縄を改めて、刹那が苦しくない程度に絞め直す。そうして照と涼は、自分達が恥不知組にビル中へ、入った事を気付かれないように迂回し。

 

裏口と思われる場所から建物内部に侵入したのだった……。

 

 

*********************

 

 

廃ビルの中へと侵入した三人の前には、鉄屑や空瓶に空の缶詰、破かれた布や透明な袋に詰め込まれたモノ等が、彼方此方に散会していた。

 

「此の中の何処かに、恥不知組が探してる奴が居るのか」

「みたいだね。しかし…10階くらいありそうだ」

 

照が見上げる視線の先、吹き抜けの穴と螺旋状に巻いた階段があり、真上には空が見えている。

 

「……あれ?何か聞こえる」

 

そんな時だ、刹那が何かを感じ取ったのは。

 

「刹那、どうした?」

「照さん、涼さん。何か聞こえませんか?」

 

彼の言葉に、二人は耳を凝らして廃ビルの中の音を聞く。すると微かにではあるが、何かを『咀嚼する』微細な音が聞こえてきたのである。

 

「あ…本当だ」

「何か…『食べてる』、のか?」

「多分9階…に、居る……」

 

恥不知組の到着も迫る中、三人は段跳ばしを行い、急ぎ螺旋階段を全速で登っていく。

 

そして━━━━━━━━━

 

「……あ、照。彼処に『誰か』居るぞ」

 

9階から10階に向かう階段の、丁度中間に当たるエリアに辿り着いた時、先んじて前を行く涼が『何か』を発見。階段を盾に、恐る恐る顔を覗かせた時、照と刹那に衝撃が襲い掛かる。

 

其処には一人、小さな『少年』が居た。背丈や体格、見た目からするに、刹那と『同い年』か『年下』。

しかし其の目は鋭く、まるで肉食獣に等しき、獲物を見定め狩り取る眼である。

 

ふさふさの黒髪は、沖縄の海の中で見たことがある、ワカメという海藻によく似ており、髪の長さも相まって其の姿は正に『子獅子』。

 

袖無しの上着と、必要最低限の長さのズボンにベルトを巻き、後ろにはナイフ入れとおぼしきホルスターが二つ、其の手にはフォークを逆手に焼いた肉と赤々と実った林檎を囓る、原始的な食事の様。

 

嘗て、中の組織を相手に一時とはいえ共闘戦線を張り、刹那を副次的に救うこととなった『あの時の少年』が、恥不知組が探していた人物だったのだ。

 

 




・其の者は今は獣、後の阿修羅
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