世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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・後に拳願四王と呼ばれる四人は集う

前回の続きになります

※大きな改変が行われる回であり、人によっては受け付けない方もいると思います。御注意ください



第三十八話 王馬(おうま)

「照さん、彼…」

「あぁ。間違いない…」

 

恥不知組が探している者の正体を知るべく、涼の知り合いからの情報を元に廃墟ビルへとやって来た、鬼灯 照・氷室 涼・桐生 刹那の三人。

 

其のビルの9階のフロアにて、独りで原始的な食事を摂っていた少年は、以前に刹那が捕らわれていた組織を襲撃し、照の介入も相まった結果、一時的に共闘戦線を張り、敵を打ち倒して危機を脱したのである。

 

「照、アイツ知ってるのか?」

「うん。刹那を助けた時にちょいと共闘したんだ」

「二人のおかげで、僕は助かったんです」

 

マジか…と呟いた時である。不意に涼へと飛来した物体を、照が二虎流・操流ノ方 流刃を使って、進行方向を変えたのだ。

 

「…いきなりだな、怖い怖い」

 

照が隠れていた階段から姿を見せ、流刃で弾いた物を横目で確認する。コンクリートの壁には、沖縄で見たフォークと呼ばれる銀色の三又の器具が突き刺さっていた。

 

「お前……ホオズキ テルか」

「名前、覚えていてくれたんだ」

 

相手が自分の名を片言のように呟いたのを聞き、照は少々驚きながら、刹那を背におんぶして普段の歩みで彼に近付き、其の後を涼が追う。

 

しかし此方を警戒してか、少年は空いた左手を後ろに回して、ホルスターから何時でもナイフを取り出せるようにしているのを、照は少年の体から流れる『力の矢印』を見て察したのだ。

 

「まぁ、待ってくれ。俺達はあくまで、君に情報を届けに来たんだ」

「え?お前さっき戦」

 

警戒を和らげようと恥不知組の事を伝えようとしたが、涼が指摘してきたので、照は直ぐに二虎流・金剛ノ型 鉄砕・蹴を彼の脛に叩き入れる。不意討ちに加え、照が最も得意とする二虎流の型の一撃により、涼は余りの痛みから口隠り、悶絶するに至った。

 

「君を探している恥不知組の連中が此所に来てる。既に出入口は封鎖されて、俺達は袋の鼠状態だ」

 

事実を淡々と話す照に、少年はある種の気味悪さを覚える。照の行動は、わざわざ自分の身を危険に晒す事に等しく、自身に対する見返りは皆無だ。

 

「お前、俺を仲間だとでも思ってんのか」

「うん。一度、君と一緒に戦った時から」

 

過去の事をまるで昨日の出来事の様に話す様に、少年の『苛立ち』が更に募る。

 

「………仲間なんざ」

 

不意に溢した言葉。照と涼、そして刹那が見つめる中で、彼は言った。

 

「仲間なんざ、居ねぇ。俺は端から一人だ(・・・・・・)

 

少年には『名前』が無い。

 

12年前、無法地帯・中でも取分危険な十鬼蛇区に捨てられた彼は、過酷で苛烈な環境を今日まで生き抜いてきた。

 

生きるため、彼はあらゆる手段を用いた。強盗、恐喝、実力行使。

 

少年にとっての『暴力』とは、自身が生きるための『手段』であり、少年にとっての『闘争』とは、己の『生存』を確立するための物だった。

 

「………………そうか」

「照、コイツは『誰も信じねぇ』感じだ。何となくだけど…分かる。自分の力だけで生きてきた…そんな感じ」

 

照も、そして涼も、昔の自分に少年が重なった。照は自身の前世の記憶を思い出さなければ、涼は照との出逢いが無ければ、きっと今の彼と同じようになっていた筈だ。

 

「俺に関わるなら、お前もブッ殺す」

 

恐喝を掛けて、照達を追っ払おうとした。

 

しかし━━━━━━━━

 

「断る」

 

照は其れを一言で一刀両断。そして続け様に少年へ言った。

 

「君が俺を信じようが、信じまいが、俺にはどうだって良い。だけど俺は、君と一緒に戦った時から、君の事を気に入ったんだ。だから助けに来た、理由は其れだけで十分」

「………は?」

 

気に入った?理由は其れだけ?

少年には鬼灯 照という男が、分からない存在になった。

 

其の時である。

 

「邪魔するでえ」とドスの効いた低い声と共に、先程まで三人の居た場所からぞろぞろと人が雪崩れ込んできた。

 

着ている服装は高級とまではいかないが、其れなりに値が張る物を纏っており、顔や手に生々しい傷や何針も縫った痕が在る。

 

そして、そんな男達の中でも声を発した顔に横一文字の切り傷と幾重の縫い痕を背負い、両手の親指以外に複数の指輪を付け、白いスーツを着ている男は、取分危険な臭いと強さを含む、黒木 玄斎や平良 厳山と同じ『裏稼業』に身を置く人間であることが、照と涼には分かった。

 

「恥不知組の『安藤(あんどう)』っちゅうモンや。話じゃ『一人』と聞いてたが、まさか『お仲間』が居たとはなぁ…。十鬼蛇区(ココ)の連中は仲間意識ってもんが皆無やと思っとったが、どやら例外があったらしいの」

 

クックック…♪と不気味に嗤う安藤という男に対し、涼は笑い方が気に入らないと渋い顔になり、少年は殺気と威嚇の表情のまま。刹那は安藤や大人達を前にし、照の背中に顔を(うず)めて様子を見、照は此の大人達の中で安藤という男が『一番強い奴』であることを見抜いた。

 

「まぁ何人居ようが、どの道お前等の(タマ)は取られる運命や。おとなしく諦めな♪」

 

まるで勝ち誇ったかのような言い方に、涼は更に顔をしかめて、安藤に流星を叩き込んでやろうとするが、照が彼の前に左手を出しつつ、縄をほどいて刹那を降ろしながら言った。

 

「えっと、安藤さん…でしたっけ?御忠告どうも。ただ、間違っている部分が『二つ』程有ります」

 

「あん?」と首を傾げた安藤に対し、照は一歩前に出るや右手を掲げて指を曲げていく。

 

「一つ。此の人数を相手に『俺一人』だったなら、勝つのは難しいという事。そしてもう一つは━━━━『貴方以外』ならば、俺一人でも『十分』だという事です」

 

照にとっての指摘(それ)は、ハッタリや去勢では無い。強者との出逢い、幾多の死線を越え、十鬼蛇区を中の環境を生きて得られた力が、彼の言葉に強さを与えたのである。

 

「……お前、面白い奴ちゃなぁ」

 

照の発言を落ち着き、余裕を以て返す安藤は冷静だった。下手な反論は自身の格を落とし、怒りは拳先を鈍らせる事を知っている。故に…

 

「だが、死ね♪」という一言で、男が二人、照に向けて突進を開始した。

 

「小手調べか…。刹那、そして少年。強くなるには先ずは『見る』事からだ」

 

今はまだ学びの浅い刹那と、強くとも暴力でしかない青年に、背中を見せて言葉を伝える照は、両手を握りて拳を作り、男共が迫り来る中で、自身の爪先に力を込める。

 

瞬間、其の身は火花のように一瞬で振り抜かれた拳が、男達の鳩尾を打ち抜き、己以上の体格差があるにも関わらず、ピンボール玉をバーが弾くように、殴り飛ばしたのだ。

 

「くべ…!?」

「ごふっ…!」

 

用いた技は二虎流 金剛・火天ノ型 瞬鉄・砕と、自身の流派 覇堺流 釘撃・迅。どちらも威力、破壊力は申し分無く、体格と体重が勝っていた男達は自身の突進力に、カウンターとして合わせた事により、倒しに来た二人は逆に倒される結果となる。

 

「!」

「す、すごい…」

「こんなふうに、どんなに大きな相手でも、どんなに強い相手でも。技や工夫をすれば、如何様にも戦う事が出来るんだ」

「オイオイ、俺も暴れたいんだが」

 

ステップを踏みつつ、安藤の次なる一手に備える照に、涼も忘れるなと主張しながら、見慣れた縦拳の構えを取って横に来る。

 

「さて、少年。このままじゃ安藤さんって人に此処で御陀仏にされるが、どうする?尤も、俺達は此処で死ぬつもりは無いけれど」

 

背中越しに照は少年へと問う。静寂の中、彼は立ち上がりホルスターに居れていたナイフを逆手に握り、ゆっくりと歩み寄る。

 

「死んだら俺は其の程度、其れだけの話だ」

「俺は君を気に入ったし、此処で死なせるつもりもない」

「……ホオズキ テル。お前、ソイツ等に変わってるとか言われるだろ」

「嗚呼、言われるな」

「照はお節介な所あるからなぁ、まぁ其れが良かったり悪かったりするんだけど」

 

やれやれ顔で言う涼に、ハハハ…と苦笑いを浮かべる照。少年にとって、同い年程の子供と話す事は無かったが、不思議と悪い気はしなかったのである。

 

「俺は刹那を守りながら、安藤さんの付き添いの連中を減らす」

「じゃあ俺はあの安藤って野郎を叩く、笑い方が気に入らねぇ」

「俺がアイツをぶっ殺す、お前は周り」

 

『『あ?』』と意見の食い違いから、一触即発の気配が涼と少年の間に流れ、照は「まぁまぁ」と間に割り行って止めに掛かる。

 

其の隙を安藤は見逃さない。彼等の意識が僅かに逸れた瞬間、残りの手勢を一挙にぶつけて来たのだ。

 

「照さん!涼君!」

 

状況が動いた事に真っ先に気付いた刹那が、大人達に対する恐れに抗い、何とか声を張り上げる。

 

直後、少年が逆手持ちのナイフと共に大人達を切り付け、涼は体勢が崩れた所を十八番の縦拳や腕や脚を利用した回し蹴りで倒し、照が彼等の意識を彼方へと飛ばすように釘撃で顎や頭へ打撃を放つ。

 

「取り敢えず、言い争いしてる場合じゃねぇ」

「少年、一先ず手を組むかい?」

「……好きにしろ」

 

事の状況を鑑みた結果、三人は共に戦う道を選ぶ。ある者は生きる為、ある者は守る為。少年達は、未来を勝ち取るべく挑んだのだ━━━━

 

「さぁ、暴れるぜ…!」

 

 

********************

 

 

廃ビル9階フロア……戦場と化した其処で今、数十人の大人vs僅か三人の少年達という、誰の目からも分かる戦力差の戦いが行われていた。

 

普通ならば(・・・・・)、子供が大人に真正面から勝てる道理は皆無であり、ただただ等しく蹂躙されて死ぬか、運良く逃げられたとしても一生追われ続けるという運命以外、道は何処にも在りはしない。

 

しかし、何時如何なる時も例外(イレギュラー)は存在する。

 

「覇ァッ!」

「シィッ!」

(こりゃ一体どういう事だ…!?)

 

安藤にとっての誤算…其れは鬼灯 照と氷室 涼の二人が少年と手を組んだ事と、其の二人が標的(ターゲット)とした少年以上に強かった事。

 

大の大人が子供を相手に、殴る蹴るという単純な攻撃で昏睡状態に追い込まれ、プロ顔負けの拳速と跳躍回し蹴りに倒され、刃物に対する一切の躊躇が無い一閃に切り裂かれる。

 

ありえない光景が、これまで様々な人間を壊し、始末してきた安藤の額に、嫌な脂汗を浮かばせる。

 

(標的の坊は俺一人でもやれるが、問題はあの褐色の涼ってのと、照っちゅう黒茶髪の坊主だ。裏家業(コッチ)の世界に入って随分経つが、あん二人は今まで始末した若者(わこうど)の中でも断トツの強さ…。

そして何よりも照の動き。まるで『百年近い修練積んだ達人』みたいな動きをしよる…一体何者だ、ありゃあ…!)

 

刹那を守りながら、攻めるべき時は攻めつつ、守るべき時には守りに徹する少年のキレある姿が、格闘経験を積んだ安藤の目には異質な存在として映る。

 

(この坊、もし此処で取り逃がしたなら確実に『化ける』…!其れも俺が足元にも及ばないレベルに!)

 

そうして安藤は静かに、心を研ぎ澄まして拳を握る。身体から湧く闘志を消し、気配を消して、唯一撃に込める。

 

破壊屋の通り名を持つ彼の十八番━━━ブロック塀を破壊する、殺人空手の正拳突き。事実、安藤は此の技で数多の敵を屠り、殺してきた。

 

狙うのは照。彼が刹那を守りながら戦い、ほんの一瞬…蜘蛛の糸の様に僅かに視線と意識が逸れた時を、まるで歴戦の狙撃兵士が狙い撃ちするが如く。

 

安藤の正拳突きが、照の左頬を音速で撃ち抜いた。

 

「あっ、照!」

「!!」

「照さぁぁぁん!」

 

(手応え有り!)

 

今まで味わってきた肉を潰す感覚に、安藤の口角は吊り上げた。そのまま此の子供を潰し、他の子供も順に血祭りに上げれば依頼は完了する……━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を真っ先に潰しに来てくれて、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後。

 

安藤の頭をトラックが正面衝突したに等しい衝撃が襲い。

 

自分の右頬と右顎骨、頭蓋骨がミギャリと砕ける音が鼓膜に聞こえ。

 

彼の数倍の重量は在る自分の身体が宙に浮き、飛ぶ感覚が襲って。

 

埃を被り、所々ヒビが走る窓ガラスに突っ込み、外に放り出されたのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

同時刻、廃ビル周辺……━━━━

 

「安徳達が突入して7分…そろそろ片が付いてるだろう。お前等、出入口はしっかり塞いでおけ!万が一にもガキを逃がすなよ!」

「「「「押忍ッ!!!」」」」

 

金と宝石の装飾に彩られた腕時計に目をやりつつ、部下の男達に指示を出す四十代くらいの、程々に恰幅の良い男性が声を張り上げた。

 

男の名は土師(はじ) 沙羅士(さらし)、彼こそが少年を始末するために十鬼蛇区へ赴くため、安藤と二虎を雇った恥不知組の組長である。

 

(…にしては『遅いんだよなァ』…)

 

そんな組長と部下の面々の会話を横耳に、年代物のキセルで煙を吹かし、廃ビルが聳え立つ空に息を放つ、顔と頭、肩を布で隠した男が一人居た。

 

彼は十鬼蛇 二虎。鬼灯 照、氷室 涼、桐生 刹那の三人の師であり、主に鬼灯 照によって潰された生活費を稼ぐべく、現在は恥不知組の用心棒になっている。

 

(たった一人の子供を排除するんなら、先に送り込んだ連中で十分なんだが……どうも『キナ臭ぇ』感じだ。)

 

二虎は知る由もない。恥不知組が排除しようとしている少年に、自分達の弟子が加勢して安藤率いる軍団と現在進行形で戦っている等と。

 

そんな恥不知組の面々の頭上で硝子の破砕音が轟き、廃ビルから『何か』が降ってくる。建物沿いの看板に当たって跳ね返り、合間を紡ぐ電線を断絶しながら、其れはビル横に在ったゴミ集積場に落ちて、煙と埃を巻き上げた。

 

「な、何だ!?」

「飛び降りか!?」

 

何が起きたと沙羅士を筆頭に恐る恐る近付いた面々は、其処に在った物に言葉を失った。ゴミ山の上に落ちてきたのは、数分前までピンピンしていた安藤であり、其の彼が頭から血を流し、顔面右側が形の解らぬ状態になり、顎骨は完全に砕けた状態になっていたのだから。

 

「あ、安藤…!」

 

用心棒として雇った男が、見るに堪えない姿に変わったのを沙羅士を含め、組の面々は警戒を厳重な物とし、各々が武器を手に取り、臨戦態勢に入る。

 

(あぁ…『そうゆうことか』、成程なぁ…)

 

そして唯一人、安藤の状態から彼を倒した『人間』を察した二虎は頭を抱え、持っていたキセルをバキリッと指先の力だけで減し折った。

 

数分後…━━━━━━━━

 

「いやぁ、本当に皆には助けられた」

「無茶すんなよ照、さっきのヤベェ打撃は効いただろ」

「君は…どうするの、これから…?」

「……知らねぇ」

 

廃ビルの内側から数人の声が聞こえ、出入口より四人の少年達が現れた。おんぶされた気弱そうな少年を除いて、少なからず身体に傷を負いながらも、五体満足で生還を果たしたのである。

 

即ち其れは先に入った軍団が、彼らにより全滅したことを意味していたのだ。

 

『動くなぁ、餓鬼共ォ!』

 

そんな彼等へ拳銃を握る沙羅士の怒号が廃墟に響き、組の面々は拳銃やドス等を構え、待ち構えていた。

 

「あれ誰だ?」

「見た感じ、彼奴等の頭目…と考えて良い」

「沢山…いますね、大人の人」

「…潰す」

 

戦闘は避けては通れないと、照と涼は拳を握り締め、少年は二振りのナイフを構える。と、そんな一触即発の空気の中、顔を隠した二虎は沙羅士の前に躍り出て言った。

 

「組長、悪いがアンタに殺らせる訳にはいかねぇ」

「は?二虎、何言っ」

 

直後、沙羅士の顔面に二虎の鉄砕が炸裂。鼻と眉間に拳がめり込み、前歯が砕けながら沙羅士は遠くへと吹っ飛んだ。

 

「ワリぃな、アイツ等は俺の弟子なんだ」

 

そう言った二虎は、沙羅士をやられた怒りに震える組の連中を相手に、一騎無双の大立ち回りを行い初めた。無論、自分の職を照に潰された怒りを込めながら。

 

「な、何が起きてるんだ…」

「仲間割れ…でしょうか」

「………アイツ、何者だ…!」

「凄いな、二虎さん…」

 

其の姿を四人は、思い想いの言葉を吐露し、見守って。そして十分も経たぬ内に、応援を含めた恥不知組の連中全員は、二虎の手により戦闘不能に追い込まれたのであった……。

 

 

*******************

 

 

十鬼蛇区と七王馬区の境界線………空はすっかり夕焼けに染まり、ちらほらと星の輝きが見え始めていた。

 

「オイ照、俺職失ったんだが?マジでどう説明してくれるんだコレ?」

「その節は本当に申し訳御座いませんでした」

 

額に青筋を浮かべる二虎に、少し頬が腫れた照は土下座を行い謝罪している。

 

「はぁ…これでまた仕事探しだ、かなり苦労したんだがなぁ?」

「本当に申し開きもありません…」

 

深く、大きな溜息を吐き、これから先の事を考える二虎。そんな折、涼と刹那の近くに居る少年が、彼の視界に映る。

 

「ん?其処に居る少年は?」

「照が以前から目を付けてた奴だよ、二虎さん。中でも其れなりに有名みたい」

「照さんと同じ、僕の命の恩人…なんです」

 

二人の発言を聞き、興味を持ってずいっと近付いた二虎に、少年は警戒しつつも、いざとなれば腰のホルスターに納めたナイフで切り裂けるようにしていた。

 

「………確かに、照が目を掛けた理由が分かった。こりゃあ才能がある」

 

「良いね、少年」とサムズアップする二虎に、少年は戸惑った。今まで見てきた人間と、何かが違う。ホオズキ テルや、此の男は。

 

「よし決めた。お前さん、俺の弟子になりな」

「は……?」

「それと名前はあるか?少年って呼ぶの、何か違う気がするんだが」

「話し聞けよ!」

 

突如、自分を弟子に取り、あまつさえ名を聞く二虎に、照が「二虎さん、彼には名前が無いんです」と告げるや、「お、そうなのか?」と辺りを見渡して、閃いた。

 

「此所は確か…『十鬼蛇区』と『七王馬区』の境界線、だったな。よし…━━━━━━」

 

 

今日からお前は『王馬(おうま)』、『十鬼蛇(ときた) 王馬(おうま)』だ

 

 

ポカンと、してしまう。名前が無い自分に、名前が与えられた事に。

 

 

「王馬………良い名前ですね、二虎さん」

「おうよ、我ながら良いセンスしてるだろう?」

「王…かっこいい」

「良いなぁ、俺もちょっと名前変えようかなぁ」

「いやいや涼君、今の名前の方がしっくりくるから、俺は変えないで欲しいんだが?」

 

ワイワイと騒いでいる中で少年……否、王馬は不思議な感覚を味わっていた。名前等、不必要だと思っていた。生きるためには、些細だと感じていた其れは、自分という存在を此程までにハッキリとさせる力が有る。

 

其れが何故か分からない、だが…身体の中から力が湧いてくる。

 

「あ…王馬が笑ってる!」

「………は?何言って…」

「お?名前を貰って嬉しいのか?」

「な…!?ちげぇし!ブッ殺すぞ!」

 

赤面で名付け親の二虎噛み付こうとした王馬だが、其処はあっさりと躱わされ、加減したヘッドロックで組付かれる。

 

「まぁまぁ、これからよろしくな?王馬ちゃん♪」

「ブッ殺すぞ、テメェ!」

「これはまた、楽しくなりそうだ」

 

新しい家族が加わり、照は強くなれそうだと微笑んでいた。

 

今、そして此の瞬間。

 

 

覇王(はおう)鬼灯(ほおずき) (てる)

氷帝(ひょうてい)氷室(ひむろ) (りょう)

美獣王(びじゅうおう)桐生(きりゅう) 刹那(せつな)

阿修羅(あしゅら)十鬼蛇(ときた) 王馬(おうま)

 

 

後の『拳願四王(けんがんしおう)』と呼ばれる、四人の闘技者が揃ったのだ。

 

 




彼等は往く、強さの深みに至る道を
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