世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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覇堺流とニ虎流の知識共有、及びニ虎流修行開始


第四話 共有(きょうゆう)

ニ虎との組手をし、唐突な弟子入り命令をされた日の夜が開けた。

 

「お、逃げずに来たな。照」

 

「自分の為にも、教授は受けたほうが良いと考えました。よろしくお願いします、ニ虎さん」

 

御辞儀し、相手に対する敬意を示す。昨日に彼から言われた、体感のズレ…先ずは此れを直すことから始めなければならない。

 

「じゃ、先ずは色々説明しなきゃならないな。照、こいつを見ろ」

 

ニ虎が小枝を片手に、地面に何かを書き始める。四角形を描き、それぞれの角に円を描くと、内側に『操流』・『火天』・『金剛』・『水天』の文字を記す。

 

「俺の武術、ニ虎流には『四つの系統+α』がある。昨日、お前との組手で見せたのは、火天(かてん)金剛(こんごう)、そして水天(すいてん)の三つ」

 

枝の先で火天、金剛、水天の部分を指すニ虎は、続けてそれぞれの系統の特徴を話してゆく。

 

「最初に説明するのは『金剛ノ型(こんごうのかた)』。こいつはニ虎流の中でも筋肉を硬化させる型で、攻防に大きく関わっている。

昨日、照の打撃を防いだ不壊(ふえ)と殴りに使った鉄砕(てっさい)は、この金剛ノ型の技だ。

 

次は『水天ノ型(すいてんのかた)』で、金剛が硬化なら水天は弛緩や脱力に関係する型。極めや絞め、関節技なんかも、水天の分類にある」

 

「じゃあ、昨日の決め手になった首断(しゅだん)は水天ノ型の中にある技の一つ…という事ですか」

 

「まぁ、そうゆうことだ。んじゃ、話を続けるぞ。

 

火天ノ型(かてんのかた)』は移動や運足に関係する型。攻撃性は持ち合わせては居ないが、他の型と合わせる事で真価を発揮する。

 

最後に『操流ノ型(そうりゅうのかた)』。読んで字のごとく、力の流れを掌握して支配する。ただし、操流ノ型は精密な動きを行うから、金剛ノ型と併用して使うことは出来ない。

 

あとは『無ノ型(むのかた)』って言うのがあるが、今回は保留にしておく。以上、これがニ虎流って訳だ」

 

説明を終えたニ虎。照は描かれた系統を見ながら、凄まじい武術だと心の中で思った。四つの系統は一つ一つの観点から見ても、実戦で十分に通用する。

 

もしも、これら全てを極める事が出来たのなら…?と、今は遠い未来を想像してしまう。

 

「じゃ、照。お前の武術を教えてくれ」

 

「分かりました」

 

ニ虎から小枝を受け取り、地面を紙に見立てて筆を走らせる。書いたのは、自分の流波にして、前世で創り上げた武術『覇堺流(はかいりゅう)』。

 

其れを大きく括るようにして、『釘擊(くぎうち)』・『槍擊(そうげき)』・『蝗跳(いなごとび)』・『蛇縫(へびぬい)』『反乗(はんじょう)』・『凱甲(がいこう)』と技を次々に書いていった。

 

「では、説明を。自分の武術『覇堺流』は『自分や相手の攻撃による衝撃を操作して征する事』を芯としており、攻撃・防御・運足の『三つ』の類を持っています。

 

釘擊(くぎうち)』は覇堺流の基本的な攻撃で、相手や物体の表面から衝撃を浸透させて、内側で炸裂させる技。一方の『槍擊(そうげき)』は釘擊とは異なり、衝撃を表面から体内、そして体外へ『貫通』させる技です。ただ、槍擊は釘擊と異なり最初からは『使えません』」

 

「質問だ。何で槍擊は最初から使えない?」

 

「はい。釘擊には浸透させる以外に『相手の肉質を調べる』役目があります。どんなに衝撃を操作出来るとしても、相手に(とお)る有効な衝撃が分からないと意味がないです。釘擊で肉質を知り、槍擊の衝撃で相手を貫く…覇堺流の攻撃面は此の二本柱になっています」

 

覇堺流の攻撃は特殊だ。衝撃を響かせ、貫き、敵を倒す。前世の子供時代に描いた武の形を、ニ虎さんに説いている。

 

「運足の『蝗跳(いなごとび)』はニ虎さんが言っていた通りなので置いておきます。もう一つの歩法『蛇縫(へびぬい)』は、『膝の入り抜きと摺り足』で移動を行います。主に蝗跳で回避出来ない程、接近された場合に蛇縫を使い、相手の攻撃を凌ぐためですね。

 

覇堺流の防御技『反乗(はんじょう)』は、敵の攻撃に合わせて筋肉を緊張・肥大させ、直撃時に衝撃を相手に返す技です。ただ、反乗は『一点の筋肉』しか肥大化出来ないので、相手の攻撃を見切る必要がある上、反乗を使っている間は他の筋肉が『弛緩』してしまう弱点があります。

 

凱甲(がいこう)』は反乗と違い、『全身』を緊張させることで、背面等を狙った奇襲を受け止めたり、敢えて攻撃を受けた後で硬めて、相手を捕まえたりします。

 

今はまだ六つしか技は在りませんが、色々な武術を取り入れ研鑽を重ねて、新しい『覇堺流』の体系を創っていくつもりです」

 

武術の共有は終わり、ニ虎は覇堺流の技を見、照に向けて伝授する事を言った。

 

「照の武術…覇堺流の衝撃浸透と貫通の特性、それと防御技から判断すると、ニ虎流では金剛ノ型と水天ノ型から教えていくべきか…。

 

既に力の入り抜きが出来ているし、不壊を覚えて精度と練度が上がれば、反乗の反撃力や凱甲の防御力、釘擊の威力も上がる事になる。

 

水天の脱力も有れば、相手から受けたダメージを身体で通しながら槍擊の貫通力を乗せて返す…そんな戦法も可能だ」

 

的確かつ明確な道筋を示すニ虎。どんなに研鑽を重ねても、どんなに才覚があろうとも、積み重ねた経験値は雲泥の差。

 

しかし、此処からなのだ。一年後や二年後…その時どうなっているかは誰にも分からない。

 

「…ま、お前はなんやかんや言って、結構素直な所があるし、武術に関する知識も持ってる。分からない事がありゃ、燻らずにどんどん質問しな。的確に答えられる自信はねーが、少しは力になれると思うぜ」

 

「そこは自信もってください…」

 

こうして、照のニ虎流修行は始まりを告げたのである。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

ニ虎流修行開始から、早くも十日が流れた。

 

現在、俺はニ虎流 金剛ノ型の基本技『不壊』と、指に不壊を掛ける『鉄指(てっし)』の修行をしている。

 

ニ虎さん曰く、「不壊は大樹のように足裏から根を伸ばして、がっちりと地面に身体を固定するイメージ」というらしい。

 

《足から根を…がっちりと地に…》

 

感覚を覚えれば大体何とかなると、ニ虎さんから言われたとはいえ、これがかなり難しい。不壊を全身に掛けつつ、鉄指も同時に使うのは少し無理が合っただろうか?

 

《……………ん?》

 

そんな時、照は気付いた。凱甲は全身の筋肉を筋肉させることで防御を行う技、反乗は一点だけを硬化させる技だ。

ならば…『全身の緊張後に、指先に力を伝導させたのなら?』

 

《よし…やってみよう》

 

大地に根を張り巡らせる想像を描く。全身を力ませ、筋肉を硬化。反乗を指先に発現させ。

 

そして━━━━━━━突く。

 

「…解ってきた。不壊で硬化して、鉄指で穿つ感覚が」

 

一度でも感覚を掴めれば、そこから詰将棋のように一つ一つ、足りないものを補って、完成に持っていくだけだ。

 

《まだだ…もっと。俺はもっと、強くなれる…》

 

前世で成せなかった覇堺流を天下に轟かせる野望は、気紛れな神によって今一度の好機を与えられた。

例え其の神が皮を被った妖魔の類だとしても、俺はその者に感謝する。

 

なればこそ、立ち止まる訳にはいかない。

一刻さえ、無駄にはしたくないのだから。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

不壊の感覚を掴んでから、更に四日が過ぎた。今日はニ虎さんと朝から組手をし、自分の技の熟達具合を見て貰っている。

 

「ハァアアア!!」

 

「うんうん。鉄指や鉄砕、不壊は良い具合に力めるようになったな、照」

 

自分が繰り出す鉄砕の連擊を、ニ虎は余裕で全て弾き、叩き落とす。実力差がある事は分かっているが、こうしてまざまざと見せ付けられると、嫌になる。

 

「んじゃ、俺もやるぞ」

 

そう言ってニ虎の鉄砕が飛んで来る。照も不壊を腕に掛けて受けるが、ニ虎は間髪入れずに、もう一撃放った。

対処が遅れ、不壊を掛けるも、肩に手痛いダメージを負う。

 

「まだまだァッ!」

 

蝗跳で一気に距離を詰めつつ鉄指を放つが、ニ虎も不壊を使っていた為にダメージが通らない。

 

 

…『普通ならば』。

 

 

「…………鉄砕の連擊の中に、釘擊を紛れ込ませてたか。普通の打撃と遜色無いから、見分けるのは困難を極める。ほんと厄介だな、覇堺流の打撃は」

 

嫌そうな顔をし、左手を振るニ虎。何度か負けた後で思い付いた事…『鉄砕に釘擊を付与した打撃』。

試してみたが、上手くいって良かった。

 

《『通用している』…俺の打撃は》

 

実力差は有れど、自身の武術は格上の相手でも通る。

組手を通じて、其の事実が明確になってゆく。

それが今の自分には、何よりも嬉しかった。

 

「ハッ!」

 

攻める…鉄砕と釘擊を合わせた打撃で。

 

攻める…不壊を纏った体当たりと蹴りで。

 

攻める…攻める…攻める!

 

「おーおー、張りきっちゃって。こわいこわい」

 

連擊に恐れる事無く、ニ虎は後ろに小刻み飛んで距離を取った。照は見逃さない…彼が着地した瞬間、釘擊の衝撃を叩き込む事を。

 

そして攻めた。まさに絶妙なタイミングでの突撃。

 

完全に取『甘いなぁ…照』

 

メギョリ━━と、これまでにないタイミングで胸にニ虎の肘打ちが入る。しかもただの肘打ちではない…『不壊を使った』肘打ち。

 

「ニ虎流。金剛・火天ノ型 『瞬鉄(しゅんてつ)(ばく)』」

 

胸骨がめり込み、口と鼻から盛大に血を吐いて、照の意識はブッツリと千切れ飛んだのだった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

「…うぅっ…」

 

「よぉ、随分眠ってたな。晩飯まで、もうちょい待ちな」

 

照が目覚めた時、空には星が瞬き、輝いていた。

ニ虎は焚き火を焚きながら、数匹の魚の木に刺し、焼いている。

 

情けない…それしか言い様が無い。一度ならず二度も返し手で負けた。あの時…ニ虎が距離を取った時点で、もっと警戒すべきだった。

 

鉄砕+釘擊の合わせ技が成功した事に気を取られ、次手に対する警戒を怠った結果、此の有り様である。

 

「くそ~!次は勝ちますからね、ニ虎さん!」

 

「頑張んな~。ほれ、魚が焼けたぞ」

 

今は負けても良い。生きていれば次がある。

 

照は悔しさと反省を共に、焼き魚へと噛り付いたのだった。

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