ニ虎との組手をし、唐突な弟子入り命令をされた日の夜が開けた。
「お、逃げずに来たな。照」
「自分の為にも、教授は受けたほうが良いと考えました。よろしくお願いします、ニ虎さん」
御辞儀し、相手に対する敬意を示す。昨日に彼から言われた、体感のズレ…先ずは此れを直すことから始めなければならない。
「じゃ、先ずは色々説明しなきゃならないな。照、こいつを見ろ」
ニ虎が小枝を片手に、地面に何かを書き始める。四角形を描き、それぞれの角に円を描くと、内側に『操流』・『火天』・『金剛』・『水天』の文字を記す。
「俺の武術、ニ虎流には『四つの系統+α』がある。昨日、お前との組手で見せたのは、
枝の先で火天、金剛、水天の部分を指すニ虎は、続けてそれぞれの系統の特徴を話してゆく。
「最初に説明するのは『
昨日、照の打撃を防いだ
次は『
「じゃあ、昨日の決め手になった
「まぁ、そうゆうことだ。んじゃ、話を続けるぞ。
『
最後に『
あとは『
説明を終えたニ虎。照は描かれた系統を見ながら、凄まじい武術だと心の中で思った。四つの系統は一つ一つの観点から見ても、実戦で十分に通用する。
もしも、これら全てを極める事が出来たのなら…?と、今は遠い未来を想像してしまう。
「じゃ、照。お前の武術を教えてくれ」
「分かりました」
ニ虎から小枝を受け取り、地面を紙に見立てて筆を走らせる。書いたのは、自分の流波にして、前世で創り上げた武術『
其れを大きく括るようにして、『
「では、説明を。自分の武術『覇堺流』は『自分や相手の攻撃による衝撃を操作して征する事』を芯としており、攻撃・防御・運足の『三つ』の類を持っています。
『
「質問だ。何で槍擊は最初から使えない?」
「はい。釘擊には浸透させる以外に『相手の肉質を調べる』役目があります。どんなに衝撃を操作出来るとしても、相手に
覇堺流の攻撃は特殊だ。衝撃を響かせ、貫き、敵を倒す。前世の子供時代に描いた武の形を、ニ虎さんに説いている。
「運足の『
覇堺流の防御技『
『
今はまだ六つしか技は在りませんが、色々な武術を取り入れ研鑽を重ねて、新しい『覇堺流』の体系を創っていくつもりです」
武術の共有は終わり、ニ虎は覇堺流の技を見、照に向けて伝授する事を言った。
「照の武術…覇堺流の衝撃浸透と貫通の特性、それと防御技から判断すると、ニ虎流では金剛ノ型と水天ノ型から教えていくべきか…。
既に力の入り抜きが出来ているし、不壊を覚えて精度と練度が上がれば、反乗の反撃力や凱甲の防御力、釘擊の威力も上がる事になる。
水天の脱力も有れば、相手から受けたダメージを身体で通しながら槍擊の貫通力を乗せて返す…そんな戦法も可能だ」
的確かつ明確な道筋を示すニ虎。どんなに研鑽を重ねても、どんなに才覚があろうとも、積み重ねた経験値は雲泥の差。
しかし、此処からなのだ。一年後や二年後…その時どうなっているかは誰にも分からない。
「…ま、お前はなんやかんや言って、結構素直な所があるし、武術に関する知識も持ってる。分からない事がありゃ、燻らずにどんどん質問しな。的確に答えられる自信はねーが、少しは力になれると思うぜ」
「そこは自信もってください…」
こうして、照のニ虎流修行は始まりを告げたのである。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
ニ虎流修行開始から、早くも十日が流れた。
現在、俺はニ虎流 金剛ノ型の基本技『不壊』と、指に不壊を掛ける『
ニ虎さん曰く、「不壊は大樹のように足裏から根を伸ばして、がっちりと地面に身体を固定するイメージ」というらしい。
《足から根を…がっちりと地に…》
感覚を覚えれば大体何とかなると、ニ虎さんから言われたとはいえ、これがかなり難しい。不壊を全身に掛けつつ、鉄指も同時に使うのは少し無理が合っただろうか?
《……………ん?》
そんな時、照は気付いた。凱甲は全身の筋肉を筋肉させることで防御を行う技、反乗は一点だけを硬化させる技だ。
ならば…『全身の緊張後に、指先に力を伝導させたのなら?』
《よし…やってみよう》
大地に根を張り巡らせる想像を描く。全身を力ませ、筋肉を硬化。反乗を指先に発現させ。
そして━━━━━━━突く。
「…解ってきた。不壊で硬化して、鉄指で穿つ感覚が」
一度でも感覚を掴めれば、そこから詰将棋のように一つ一つ、足りないものを補って、完成に持っていくだけだ。
《まだだ…もっと。俺はもっと、強くなれる…》
前世で成せなかった覇堺流を天下に轟かせる野望は、気紛れな神によって今一度の好機を与えられた。
例え其の神が皮を被った妖魔の類だとしても、俺はその者に感謝する。
なればこそ、立ち止まる訳にはいかない。
一刻さえ、無駄にはしたくないのだから。
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不壊の感覚を掴んでから、更に四日が過ぎた。今日はニ虎さんと朝から組手をし、自分の技の熟達具合を見て貰っている。
「ハァアアア!!」
「うんうん。鉄指や鉄砕、不壊は良い具合に力めるようになったな、照」
自分が繰り出す鉄砕の連擊を、ニ虎は余裕で全て弾き、叩き落とす。実力差がある事は分かっているが、こうしてまざまざと見せ付けられると、嫌になる。
「んじゃ、俺もやるぞ」
そう言ってニ虎の鉄砕が飛んで来る。照も不壊を腕に掛けて受けるが、ニ虎は間髪入れずに、もう一撃放った。
対処が遅れ、不壊を掛けるも、肩に手痛いダメージを負う。
「まだまだァッ!」
蝗跳で一気に距離を詰めつつ鉄指を放つが、ニ虎も不壊を使っていた為にダメージが通らない。
…『普通ならば』。
「…………鉄砕の連擊の中に、釘擊を紛れ込ませてたか。普通の打撃と遜色無いから、見分けるのは困難を極める。ほんと厄介だな、覇堺流の打撃は」
嫌そうな顔をし、左手を振るニ虎。何度か負けた後で思い付いた事…『鉄砕に釘擊を付与した打撃』。
試してみたが、上手くいって良かった。
《『通用している』…俺の打撃は》
実力差は有れど、自身の武術は格上の相手でも通る。
組手を通じて、其の事実が明確になってゆく。
それが今の自分には、何よりも嬉しかった。
「ハッ!」
攻める…鉄砕と釘擊を合わせた打撃で。
攻める…不壊を纏った体当たりと蹴りで。
攻める…攻める…攻める!
「おーおー、張りきっちゃって。こわいこわい」
連擊に恐れる事無く、ニ虎は後ろに小刻み飛んで距離を取った。照は見逃さない…彼が着地した瞬間、釘擊の衝撃を叩き込む事を。
そして攻めた。まさに絶妙なタイミングでの突撃。
完全に取『甘いなぁ…照』
メギョリ━━と、これまでにないタイミングで胸にニ虎の肘打ちが入る。しかもただの肘打ちではない…『不壊を使った』肘打ち。
「ニ虎流。金剛・火天ノ型 『
胸骨がめり込み、口と鼻から盛大に血を吐いて、照の意識はブッツリと千切れ飛んだのだった。
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「…うぅっ…」
「よぉ、随分眠ってたな。晩飯まで、もうちょい待ちな」
照が目覚めた時、空には星が瞬き、輝いていた。
ニ虎は焚き火を焚きながら、数匹の魚の木に刺し、焼いている。
情けない…それしか言い様が無い。一度ならず二度も返し手で負けた。あの時…ニ虎が距離を取った時点で、もっと警戒すべきだった。
鉄砕+釘擊の合わせ技が成功した事に気を取られ、次手に対する警戒を怠った結果、此の有り様である。
「くそ~!次は勝ちますからね、ニ虎さん!」
「頑張んな~。ほれ、魚が焼けたぞ」
今は負けても良い。生きていれば次がある。
照は悔しさと反省を共に、焼き魚へと噛り付いたのだった。