世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

7 / 41
受け継がれた、ニ虎流奥義。

其の名は鬼鏖(きおう)


第七話 継承(けいしょう)

鬼鏖(きおう)は、お前自身が死の領域を超えた時、初めて手にする事が出来る。

 

掴み取れ、生を」

 

其の言葉を皮切りに、ニ虎が攻撃を仕掛ける。

『真っ直ぐ』、其れも『直線』で。だが、速度はとてつもなく『速い』。

 

《ニ虎流・火天ノ型 烈火(れっか)!》

 

照もニ虎の接近に、覇堺流(はかいりゅう) 蛇縫(へびぬい)で回り込む。照の行動には烈火の『性質』を知っているが故の『回答』でもある。

 

烈火は『逃走』や『接近』の為に『最短』を通る。故に回り込まれたり、急激な方向転換を苦手としている…それが『普通』なのだ。

 

だが、蛇縫を見たニ虎の移動がいきなり『左』へと『急激』に変更されたのである。

 

「んな!?」

 

技の名は『畝焔(うねりほむら)』。人間の体格の六割を占める上半身を移動中に傾ける事により、重心を大きく動かし、急激な方向転換を可能とする、火天ノ型の技。

 

無論、急激な重心移動は脚に負担を掛ける。しかしニ虎の表情は崩れない。積み重ね、積み上げてきた経験が、畝焔に耐えるだけの脚を作ったのだ。

 

路線変更に驚く照を他所に、襲い掛かるニ虎の瞬鉄・爆。返し手で本来の威力を発揮する瞬鉄だが、速度を乗せた状態で放てば、遜色無い破壊力へと昇華される、強力無類の一撃。

 

当たる。回避は間に合わない。

 

受け止める?そうすれば隙が生まれてしまう。

 

ならば━━━━━どうする?

 

「こうだッ━━!」

 

『直感的』に身体が動いていた。

 

 

 

 

ガッ!!!!

 

 

 

 

「…良い判断だ」

 

ニ虎の身体が照の横を通り過ぎていた。

走った跡は、三日月を描くように曲がっている。

 

「操流ノ型『(やなぎ)』で方向を曲げる。…『受け止める』為に導水を使っていたら、間違いなく『お前は死んでいた』だろうな」

 

「本当に殺す気ですねニ虎さん。導水の後に柳で崩して、水龍脈で首を折るつもりでしたか」

 

伊達に半年間以上、彼と組手を続けてきた訳ではない。

 

再び、ニ虎が攻める。

 

握る拳は弛く、両腕が不規則な軌道を描きながら、無数の礫となり、照を襲う。

 

「今度は『水燕(すいえん)』…!!」

 

操流・水天ノ型 水燕。不規則な軌道を描く連打は、攻撃を見切る事が非常に困難な技で、対処方法は幾つか在れど、至難を極める。

 

《速い!気を抜いたら確実に押し込まれて、殺される!!》

 

本能と直感が照に『回避』の選択を授け、彼も全神経を研ぎ澄まし、ニ虎の連打を捌く。

 

《そう。お前なら回避(そう)するだろう。だからこそ『手数を増やす』。そして同時に…》

 

 

━━━━アレを使う。

 

 

「はぁっ!!」

 

連打の速度は変わらない。しかし当てに来る打撃の『数』が一秒毎に上がっている。

 

必死に捌く照。だが、何かが違う。今までの打撃とは何かが。

 

━ズグン!!

 

「い"ッ"~~~~~~~!?!」

 

突如、捌き受けていた両腕に『内側から』鈍く、重い、痛みの感覚が走った。何より、自分はこの痛みの『正体』を知っている。

 

《ま、さか…この痛みは!!!!》

 

ニ虎の弛く握った筈の拳が『固く』なっていた。

見間違う事など有り得ない。

 

釘擊(くぎうち)…!!」

 

覇堺流の基本技、釘擊。ニ虎が使ったそれは、浸透性と鋭さこそ無いが、子供の腕を挙げられなくするには十分過ぎる威力だった。

 

「これで打撃を捌くのは困難になったぞ」

 

尚も拳速が上がってゆく。全身をバネのように使い、回転率を上昇させ、威力よりも手数を増やし続ける。

 

「う…ぉお、おおおおお!!!?!!」

 

水燕と釘擊。此程迄に相性が良い攻撃が有ったのかと照は思った。水燕で回避する隙が無い。かといって弾き、其れが釘擊なら体内に衝撃を負う。

 

照の脳は命の危険を全身へ警鐘を鳴らし、神経と感覚は回避の為に全てを注ぐ。

 

ニ虎もまた、更に回転率を上げる。只でさえ多い水燕はまるで夕立のように降り注ぐ。

照の皮膚を掠め、其の度に裂傷で出血が起こる。

 

《…紙一重。それでいい、照。

 

見極めろ。全神経と感覚を研ぎ澄まし、俺の攻撃から『打ち返すべき一撃』を》

 

嘗ての自分も同じ思いで奥義を継承した。

志同じくした同門の友の死も見てきた。

 

もっと効率良く、痛みを伴わない…そんな奥義継承の方法は探せば見付かるかもしれないと、いつも考えていた。

 

だが、自分は秀才ではない。

やり方も、この方法でしか継承出来ない。

 

血塗れに濡れる小さな少年へ、ニ虎は渾身の鉄砕を放つ。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

全身から血が流れる。

 

数えきれない打撃が襲う。

 

捌き、回避するのに精一杯。

 

腕は釘擊を貰った為に、傀儡を掛け続けなければ動かない。

 

照にとって現在の状況は、とても芳しくなかった。

 

だが何故だろうか?

 

今まで以上に、感覚が研ぎ澄まされている。

 

今まで以上に、動きが洗練されている。

 

今まで以上に、見えなかった物が見えている。

 

《これなのか…?ニ虎さんが言っていた、感覚って言うのは…》

 

限界に追い込まれた脳は、照が思う以上の集中力を発揮。身体は既に、思考で避けるのでは無く、反射で避けるという、ある種の答えを導いていた。

 

《…分かる。ニ虎さんの水燕が、何処を狙っているのか。どの打撃に釘擊が仕込まれているのかも…》

 

尋常成らざる状態の中で、感覚を研ぎ澄ます。

 

その時、照の脳内に想像で浮かんだ泉に一滴の雫が落ちる。刹那、照の視界が大きく変わった。

 

『あらゆる力の流れが矢印として、自身の視界に写ったのである』

 

《これか…!?感覚は!!!!》

 

連打の中、ニ虎の右腕が硬直し、筋肉が隆起する。

 

照は思う。右中段突きの鉄砕が飛んで来ると。

 

《やるなら…今しかない!!!!!!》

 

飛来する鉄砕。同時に照も動いていた。

 

左手でニ虎の鉄砕を受け止め、威力と衝撃の矢印を操流で操り。

 

平行して水天の脱力を用いて腕から肩、肩から胴体、腰へと流して、威力を加速させてゆく。

 

左足を前へ出し、足場と攻撃の届く間合いを確保し。

 

残された右足の前蹴りが、真刀の斬り上げのように放たれた。

 

衝撃はニ虎の左足を貫くと、鮫の背鰭のように地面を這い、池の水面を切り裂いて、滝を一瞬だったが真っ二つに割っていた。

 

だが、右足を大きく振り抜いた反動で、照は綺麗に転び、後頭部を強打。出血も相まって、照はそのまま気絶した。

 

「……………………………」

 

ニ虎は自分の左足を見る。ズボンはビリビリに千切れ飛んで、脛より上は前蹴り(攻撃)を食らった事により、内出血で真っ赤に腫れ上がっている。恐らく骨にもヒビが入っただろう。

 

「…『よくやった』、照」

 

血塗れで気絶し、動かぬ弟子を見下ろしながら。ニ虎は小さく、だが健闘を称えるように優しい声で言う。

 

 

 

 

 

 

 

「ニ虎流奥義・鬼鏖。今この瞬間、お前に『継承』された」

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

「………………う、うん……?」

 

「目、覚めたみてぇだな」

 

見慣れた光景だった。自分が組手で負け、気絶した時に、ニ虎さんが焚き火を焚く姿だ。

 

空は暗闇の帳を下ろし、火に照らされる身体には包帯が巻き付いている。

 

「…俺は、死んでるんですか?奥義体得に失敗して…」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ」

 

落ち込む照に空手チョップを頭に叩き入れ、ニ虎は包帯を巻き付けた左足大腿を照に見せる。

 

「俺の鉄砕に対し、威力を前蹴りで返して、一撃を入れた。つまり、お前は鬼鏖を継承出来たんだよ。照」

 

ニ虎の傷を見、鬼鏖の強さを改めて実感する。

 

形を持たず、威力を何倍にも引き上げ、敵へと打ち返す其の技は、ニ虎でさえも此処まで傷を負う事実と、使い所は見誤れば、自分がこうなるだろう戒めを孕み、照に突き付けられたのだ。

 

「ま…奥義継承しても戦闘面で生かせなきゃ、なーんも意味がねーからなー♪照は組手で、俺に勝った事も無いし~」

 

「むぅ…!だったら俺はニ虎さんを超えますよ!絶対に!!」

 

奥義継承後にも関わらず、其処には組手の後に見る、何時もの光景があった。

 

ニ虎流の奥義を継承した照。しかし、彼の大いなる野望への道はまだまだ険しく、果てしなく遠い…。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。