世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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少年は新たな強者を求めて、中を往く


第八話 遠征(えんせい)

山に籠り、六十一日。

 

奥義継承後も、残された時間を治療と軽い訓練に費やした二人。長く、充実した時間は流星のように過ぎ、ニ虎と照が山を下りる日がやって来た。

 

「忘れ物はねぇな?帰るぞ、俺達の居場所へ」

 

この日々を俺は忘れない。辛く苦しい時間でもあったが、同時に俺自身の大きな成長に繋がった。

 

「また…此処に来れますか?」

 

「分からん。だが、お前が一人立ちしたら此処に来れば良いさ。気に入ったんだろ?」

 

「…はい」

 

そうして師弟は山を下る。元在るべき場所へと帰る為に。

 

「…?」

 

ふと…照は立ち止まり、後ろへ振り返った。

 

後方には森林が広がり、滝から水が流れ落ちているだけで、何も無い。

 

「ん?どうした、照」

 

ニ虎が脚を止めた照を呼ぶと、彼はこう問う。

 

「ニ虎さん。この森って、俺達以外に『人』は居ましたっけ?」

 

「人?いや、居ねぇぞ?」

 

「……………そう、ですか。…分かりました、帰りましょう。中へ」

 

さらば、修行の地よ…振り返らず、二人は中を目指して歩みを始めたのだった。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

━━ほぉ。あの坊主、オレの気配に気付きやがった。

 

 

 

遠い遠い、暗き影の中。何かが照達を見て呟く。

 

 

 

━━『虎の器』、ヤツは期待出来そうだ。

 

 

 

猫の如き、細い瞳孔と悪意が、山を去り行く照へと注がれる。

 

 

 

━━十鬼蛇 ニ虎。お前の教えは全て無に還る。

 

 

 

暗き影から闇へ、其の者は姿を消した。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

中へと帰り着き、三日が過ぎた。

 

「おりぃやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ん~良い感じだ。が、まだまだ(おせ)ぇ」

 

水燕を放つ照を、柳で華麗に投げ飛ばすニ虎。

不壊を使い、衝撃を和らげるが、無防備の脇腹に蹴りが直撃した。

 

「ふげっ!?」

 

「はい、俺の勝ち~♪」

 

くの字にビク付き、延びる照。ニ虎は相変わらず、悪い笑みを浮かべ、熱くなった身体を冷やす為に水を飲む。

 

「はぁ~(うめ)ぇ。奥義を体得しても俺に勝てないんじゃ、最強は程遠いぜ?

 

八手目の鉄砕・穿は少し安直過ぎたし、十七手目で反乗(はんじょう)を使うのは、はっきり言って悪手だ。もう少しタイミングを見るべきだったな。

 

だがま、お前は大分駆け引きが上手くなった。

 

特に十一手目にやった、幽歩(ゆうほ)から蝗跳(いなごとび)に繋いで、瞬鉄・轟の流れは緩急もあって良い。

二十手目の正拳突きを直前に止めて、肘打ちに変えたのも、状況によって、どんな攻撃にするかが分かるようになってきている証拠。

 

ほんと、良い筋してるぜ。照は」

 

ズバズバと悪い所、良い所を言ってくれるのは寧ろありがたい。次の組手に反映し、更なる向上を促してくれる。

 

「さて、照。そろそろ俺以外の奴とも、実戦を積むべきだ。自分の見解が広がれば、其処からアイデアが生まれる。

 

そうすれば、お前のニ虎流と覇堺流は更に進化出来る。中は弱肉強食の世界…危機に追い込まれる事もあるだろうが、そいつを自力で乗り越えられりゃ、見える物も沢山有るのさ」

 

ニ虎にそう言われ、照は中の散策と自分自身の力を試すべく、行動を起こす事にした。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

翌日の朝方、照は蝗跳を使いながら廃墟の合間を縫い、走り続けていた。現在、彼が居るのはニ虎から少し離れた『五熊(ごゆう)』と呼ばれる地域。

 

《ニ虎さんは『十鬼蛇(ときた)には未だ入らない方が良い』と言っていたけど…強い奴等が居るのか、はたまた危険な場所だからなのか…うーん》

 

そんな思考を伴いながら、跳躍歩行中に周りを見渡す。やはりと言うか、身体に縫い傷や歯の欠けた者に、眼帯を着けている者。

 

柄の悪そうな連中が闊歩し、血生臭さが絶えない。

 

《嫌だな…こうゆうの》

 

と、余所見をしていた照。何かと衝突し、バランスを崩して転んでしまう。

 

「あ、ごめんなさ『なにしとくれとんじゃ、ガキィ!!!!』

 

謝罪が掻き消される怒号。見るからに悪の一文字で表現出来る男が五人。眼帯、傷痕、手の甲には何かの絵柄。

 

「兄貴!このガキンチョ、ウチラの服にわざと当てやがったんっすよ!」

 

「嘗めてますね!かーんぜんに嘗めてますね!ね!」

 

「おうよ、喧嘩吹っ掛けた事後悔させちょるか!」

 

男達が取り出したのは木の持ち柄に固定された短刀、よく分からない指に固定した金属の指輪といった、見た目だけで凶器だと断定出来る物ばかり。

 

売ったら金に替えられるか?と照は考えていた。

 

「おら、死に物晒せやァ!!」

 

脅迫を放って男が振りかざす短刀が、照の脳天へ迫った。

 

「五月蝿い、後遅い。身体の動かし方に無駄が多過ぎる」

 

左足を横にずらし、紙一重で回避。同時に右拳で瞬鉄・砕を『置くべき場所に置いて』、男を空へと吹っ飛ばした。

 

「あ、兄貴ぃぃぃぃぃ!?!?」

 

「やろぉ!!」

 

指輪を付けた奴が正拳突きを仕掛ける。見たところ構えも良い、武術を嗜んでいたのだろうか?

目線と拳の角度、そして『力の流れ』から、左肩を狙っているのが分かる。

 

「ふんっ」

 

直撃の瞬間、不壊+反乗の合体技で衝撃を完全に弾き返し、男の体勢を崩させた。転んだ男、起き上がる前に他の奴を倒す。一対一にすれば、後々楽になる。

 

照は覇堺流 蛇縫と釘擊、そしてニ虎流 鉄砕・穿を合わせながら、スルリと三人の間を切り抜けつつ、人体の急所の一つである鳩尾に地獄突きを叩き込んだ。

 

釘擊(くぎうち)蛇牙(じゃが)。…初めてだけど、上手くいったみたい」

 

痛烈な、そして時を隔てて襲う衝撃に、男三名は泡を口から噴き出し倒れる。

 

「は、は、…は!?」

 

目まぐるしい状況の変化は、残された男の思考を絡み付いた糸のように、こんがらせた。

自分の目の前には10にも満たない少年が立つだけだ。

 

しかし、纏う気質は強者のそれと同じ。最早、放っておけば自分が殺される未来しかない。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!死にやがれぇえええええええええええええ!!!」

 

懐から取り出した、黒い物。男が護身用にと持ち歩いていた、最強にして最後の『切り札』。

 

名前を拳銃(けんじゅう)。たった一度…一度引き金を弾くだけで、内部に込められた鉛玉は放たれ、其の最高到達速度は時速1600kmにもなる。

 

発泡されたなら回避は不可能。

 

人体を一撃で絶命に至らしめる威力。

 

それ故に切り札であ『ふん』

 

━━━━━━チュイン━━━━━━━

 

『━━━━━━━━━━━━━━は?』

 

「驚いた…『この時代にも』鉄砲なんて在ったんだな。でも包は異様に短いし、弾を籠めるのも何だか楽そうに見える…変化しているのか…或いは」

 

『弾丸が弾かれた』。ありえない事態に男の思考は更に混乱の一途を辿る。

 

では何故、照は無事だったのか?

 

ニ虎流操流ノ型 流刃(りゅうじん)と呼ばれる技がある。相手の打撃の入斜角を見極め、手の甲や手首の硬質の骨部分で押し当て、本来進むべき『軌道』を曲げる技。

 

ニ虎曰く、この技は経験上『弾丸』さえも弾く事が可能である。

 

「…出来ちゃった」

 

「あ、ああ…あ━━━━━━━━━━」

 

男は失禁と共に意識がぶっつりと切れてしまった。無理もない、小さな子供に切り札の拳銃が意味を成さないのだから仕方無いかも知れない。

 

「あ…終わり?」

 

辺りを見渡すと五人の男達が倒れ伏して動かない。

戦闘は終了した。

 

* * * * * * * * * * * * * * * *

 

「刀と鉄砲、何か固そうな金属の指輪…ふむ、後は財布…このくらいね。しかし…

 

どいつもこいつも、中々面白いじゃあない!」

 

戦いを終えた照は男達が持っていた物を物色し、使えそうな物を漁っていた。前世では見たことも、触れたことも無い物体に、少年の心は興味津々。

 

顔もニヤニヤと、若干気持ち悪くも見えてしまっている。人間というのはどんな生物よりも好奇心に溢れ、其れを元として強く、種族として逞しく進化を続けてきた。

 

「売ったら値が貼るだろうか?そうすれば魚以外の食べ物を手に入れられるだろうか?楽しみだな!」

 

仕分けた物品を抱え、蝗跳でその場を後にした照は売れる店を探し始める。

だが、新たなる会合が迫りつつあることを照本人はまだ知らない。

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