世界を征する覇堺の拳   作:ガリアムス

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其の少年、後に『氷帝』と呼ばれる者也


第九話 褐色(かっしょく)

俺の名前は、鬼灯 照。

 

現在、俺は━━━━━━五熊で暴れています。

 

『何だテメェは!?』

 

『やっちまえやぁ!!』

 

「俺は敵じゃないって言ってるでしょうが!話を聞けぇ!!!!!」

 

『ぎゃぁあああああ!?』

 

『こいつ、強ぇぞ!?』

 

近くの建物で休もうとしたら、何処かの組織か組合の拠点だった。自分は間違って入っただけなのに、どっかの組織の連中とか疑われて、攻撃を受けました。

しかし、どうしてこう…人の話を聞かない連中ばかりなのか。おかげで黙らせる為に倒すという強行手段ばかりが上手くなってゆく自分が嫌だ。

 

そうこうしてるうちに制圧完了。全員気絶させ、服を縄代わりに両手両足を縛り上げ、取り敢えず事を済ませる。

 

「えっと…何か使えたり、食べられたりするものは…」

 

棚やニ虎さんから教わった冷蔵庫なるものの中身を調べたり、食べ物を毒味したり、自分の見解と視野を広げてゆく。今の時代、どれが食べられ、どれが食べられないかを知ることは、傷を癒し体力の回復に欠かせない。

 

「…これは食える。これも、こいつも…。こいつは駄目な奴、これは良い…」

 

食べられないと判断された食べ物は、鼠が囓られた口後のようになり、床に散開。食べられるものは、一片たりとも残さず食って胃袋に納めた。

 

 

━━━━━━たぞ━━━━!

 

━━━━━奴だ━━━━━ろ━うわ━━━━━ぁ!!

 

 

不意に外で響く、人の声と悲鳴。

 

気になり、窓から下の様子を見るため頭を外へ乗り出すと、数十人の大人が誰かと戦っていた。目を凝らすと、大人達の合間を駆け抜け、腕や脚を利用して鋭い蹴りを顎や頭に叩き込む、少年の姿があった。

 

少年は自分と同じ程の年齢ながら、髪は白く肌色は土のような茶色、目付きの鋭さや座り具合から自分以上に修羅場を潜り抜けてきた事が伺えた。

 

《あの子…強いな》

 

唾が喉をごくりと鳴らした。

 

生き残る事だけに全てを注いだ戦い方。野生を剥き出しにした獣のような擊。

 

戦いたい。あの少年と。

 

そう思った瞬間、自分の身体は動いていた。部屋を飛び出し、階段を駆け下り、烈火と蝗跳を使い分けながら、少年の後を追い掛けた。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

付けられている━━彼がそう思ったのは、生きるために大人達を倒してから少し経った後の事。

 

それもかなりの速度で自分に接近してきている。以前倒した奴等の仲間か?それとも別の連中か?何はともあれ、逃げなければ。

 

決めた後は早かった。自慢では無いが脚力には自信がある。そうそう追い付かれる事はな『見付けたぁ!!!!!』

 

『はっ!?』

 

目の前に誰かが下りてきた。立ち上がったのは自分と同じくらいの歳の少年。

だが、其の体つきは少年とするには体格が良過ぎる。必然、彼に対する警戒心が高まり、強くなっていった。

 

「さっき大人達と戦っていたのは君?」

 

戦いを見ていた━━其のワードだけで、コイツを潰す理由は出来上がった。存在を知った以上、潰すしかない。刹那の内に走り出し、渾身の回し蹴りを放つ。狙いは顎部。

 

奴は余りの速さに動けない。確実に取った…そう思っていた。

 

『おっと』

 

軽く。まるで油断しきった昆虫を捕まえるように。回し蹴りに腕を差し込んで、直撃を防いでいたのだ。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

正直に言おう、滅茶苦茶速い。

繰り返します、無茶苦茶速い。

 

この歳で、なんちゅう速度で跳躍上段回し蹴りを放つんだ、この少年。

 

幸い、不壊と反乗で止めたは良いが、速過ぎた為に筋肉の引き締めが甘く、腕にダメージを貰った。

 

「…今の防ぐのか」

 

後ろに下がり、トントンと小さく。軽く跳躍しつつ、少年が此方の様子を伺いながら呟いた。

 

「いや、本当に驚いた。あんなに速い回し蹴りは初めて見たよ。何より鋭くて重い。相手を『確実に倒す事』に重きを置いた蹴り…凄まじいな」

 

本心から相手を称え、左手左構えの体勢を取る。

 

「一つ、手合わせを頼めるかい?俺が負けたら、君には金輪際関わらないと、命に掛けて誓おう」

 

「…本当か?」

 

「二言はない。俺が勝ったら、其処に置いてある物を売れる店を紹介して欲しい。

 

何分土地勘が掴めなくて困っているんだ」

 

「…分かった」

 

了承は得られた。後は…全力で戦うだけ。

 

緊迫の空気の中、先に仕掛けたのは━━━━褐色肌の少年だった。

 

《速い!》

 

直線的、だが速い。純粋に速い。

 

「シィッ!」

 

足首狙いの間接蹴り。照も蝗跳の跳躍で上を取る。

 

「ハァッ!」

 

「チェヤァ!」

 

空中の蹴りに、手を地面に付けた状態で上段へ蹴りを放って、威力を往なした少年。蹴りの技術は此方よりも上。まともに食らえば、やられる可能性が高い。

 

《だったらこうだ!》

 

烈火を使い、少年へと突っ込みながら鉄砕・穿を放つ。だが少年は、直撃ギリギリの所で体勢を屈め、照の(くるぶし)へ小さく脚を付けたのだ。

 

《な!?》

 

高速で移動する烈火。移動に重きを置く為に、相手が視界外へ滑り込めば、姿を見失うのは必然。

勢いのまま倒れる照、其の無防備になった腹部に少年の拳擊が放たれる。

 

━━━━はずだった。

 

「!?」

 

当たった。そう確信した時、自分の体が空を舞っていた。確かに撃ち抜いた筈だった。なのに何故、自分が投げられているのか。

 

「危なかった…烈火の速度を踝蹴りで止める。思わぬ弱点を突かれた。だが、おかげで良い具合に勢いを付けられたよ、少年」

 

見ていた空の景色が急速で移動し、数瞬で背中と後頭部に強い衝撃が襲い掛かる。投げられ、地面に叩き付けられたのだ。

 

肺から息が零れ、背骨と背筋が締め付けられる。

 

覇堺流(はかいりゅう) 振子投(ふりこな)げ。相手に投げられる、もしくは崩される威力を利用して『返す技』だ」

 

振子投げ…照がニ虎との組手の中で編み出した、覇堺流の新たなる体系・返し投げの技術である。相手の崩し技や投げ技に発生する力を逆に利用し、崩し返したり、投げ返したりする此の技。

 

合気道に近いのだが、此の技は崩しや投げの『精度』が高ければ高いほど、比例して威力が強く、鋭くなる異質な特性を備えている。ニ虎曰く、振子投げは釘擊に並ぶ『初見殺しの技』と謂わしめた程。

 

照は追撃の鉄砕を放とうとした。が、腹部に鋭い爪先蹴りが入り後ろに飛ばされる。

照は決めようとした。だが、この少年は其の瞬間に最も無防備になる腹部を蹴る事で追撃を阻止し。且、蹴りの反動で後ろに転がり、距離を取った。

 

戦い馴れている━━━照はそう思った。

 

機転の利かせ方も、自分とは全く異なる。

見るものが違うだけで、鍛え方が違うだけで、此程迄に戦術が変わるのか。

 

《…ありがとう、ニ虎さん》

 

心から感謝していた。彼との組手だけでは見えなかった世界が見えた。考えていなかった戦い方を知れた。

 

「やるじゃないか、少年」

 

照の発言に少年の表情が不機嫌なものに変わり、彼は一言呟く。

 

「……涼」

 

「?」

 

「少年じゃねぇ。…『氷室(ひむろ) (りょう)』。自分で決めた名前だ」

 

「氷室 涼…涼君か。良い名前だ、俺は鬼灯 照」

 

 

 

強さの深み(最強)へ至る為、最強を目指している

 

 

 

背筋が締まり、あらゆる毛が逆立った。自分と同じくらい、もしくは一つか二つ歳は上だろう。コイツは自分と見ている景色が違う。

 

生きるために、時に殺人さえもやった。

生きるために、自分の力をぶつけてきた。

 

だがコイツは、果てしない最強()を目指し、自分の()をモノにしている。

 

『試したい』…自分の力がコイツにどれだけ通用するのか。

 

氷室の身体は、脳が命令するよりも早く。

そして普段の疾走と同じように、自然と動いた。

 

「そうだ…そうこなくてはな!」

 

照もまた吠える。さっきと同じ高速の移動、踝蹴りか前蹴りで止める。

 

「よっと!」

 

照が跳んだ。蹴られる前に自分の頭上を飛び越えられた。

 

《だけど距離がある。此処からなら、まだ蹴りの『間合い』に在る!近付けさせねぇ!》

 

構える。掴まえるつもりなら回し蹴りを、殴ってくるなら腕を手取って首や顎に前蹴りで倒す。

 

だが、取っていたはずの間合いが、照のグンッとした移動で、一気に『潰された』。

 

「ハッ!?」

 

縮地(しゅくち)。蹴りの間合いは潰した…ちょっと痛いよ?俺の一撃は」

 

飛んできた左拳の横フック。腕で脇腹を防ぐ。

ガードはギリギリ間に合った。だが━━━

 

《重ッ!?》

 

これまでにない威力。大人(ヤクザ)が振るう重いだけの打撃とは違う。体を突き刺し、内側を抉る鋭い打撃。

 

一撃を受けた腕の皮膚が、筋肉(にく)が、骨が。今まで受けたことの無い衝撃で軋み、悲鳴を上げる。

 

釘擊(くぎうち)。さ、見極められるかな?」

 

風を切り、速擊が頬を捉える。

先程より威力は無い。しかし問題は其処じゃない。

 

多い━━━━手数を優先した打撃。その上、拳と腕の軌道が不規則にブレを起こつつ、迫ってくる。

 

見極めるのは難しい…ならば!

 

「ッッッッ!?」

 

照の体がぐらついた。顔面、其れも鼻先に鋭いカウンターを貰った為だ。だが照が驚いたのは、水燕(すいえん)の連打を掻い潜ってカウンターを叩き込まれた事ではなく…

 

 

「…涼君、其の『拳』。一体なんだい?それは━━━」

 

 

氷室少年が『縦拳(たてけん)』を放っていた事だった。

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