森を抜けるとそこは村があった。
人里のように賑わっている訳では無い。だが、そこに住む人達は皆笑顔でいて平和な雰囲気だった。
「ここはカトゥヌ村、辺境の村だけどとてもいいとこなんだよ!」
「そうね。村人の顔を見る限り、とても平和そう…。」
「すまんが、村の散策はまた個人的に頼む。今は親父の元に行こう。」
そう言ってリクアは村の入口近くの小屋に入る。続いて入るとすぐ目に付くのは大きな円卓机と…
「小鈴!?」
魔本が暴走した時、一緒にいた小鈴が机の奥に寝ていた。
私は走って彼女の元に駆け寄り、安否を確認する。目を覚まさないが呼吸はしている、生きていると分かりホッと胸を撫で下ろした。
「彼女も森で見つけてな。たまたま人手がいたからここまで連れてきたんだ。」
そう後ろから声をかけてきたのは、ガッシリした体格をした中年の男性だった。
「…貴方が、リクアのお父さんですか?」
「あぁ、ガルムという。ラシル傭兵団の団長だ。」
「助けてくれてありがとうございました。」
「いや、礼は息子に言ってくれ。見つけたのはあいつで知らせてきたのもあいつだからな。人が足りなくてここまで連れてこれなかったことはすまなかった。」
深々と頭を下げて謝罪をしたガルムを見て、見た目よりもとても優しい人だということは分かった。
「顔をあげてください。私を助けようとしてくれたことは分かりました、責めるつもりはありません。」
「そうか、いやありがとう。この辺じゃ見ない姿だが、どこから来たんだ?」
「えっと…それが。」
私はここに来たらしい経緯を話した。
「ゲンソウキョウ…すまんが知らない国だな。いや国というのか分からないが…」
「国家という意味であれば違うと思います。ですが今は。」
「そうだな、その妙な本によってここに迷い込んだ。」
そう言うと、ガルムは本を取り出す。
「それです、その本。」
「勝手ながら読ませてもらった。しかし、一文しか書かれていない。そういう意味でも妙な本だ。」
「一文…?私が見た時は一文字しかなかった気が…見せてくれますか?」
ガルムから本を受け取り、本を見る。
すると、『異』しか書かれていなかった本に文字が追加されていた。
「『異世界に迷い出た。』…これが追加された文章。」
異世界、まさに今異世界にいると言える。
「お前の言葉が正しいのなら、これはお前達の事を指しているのではないか?」
「そうですね…確かに私達はこの世界に迷い込んだ。とすれば、これは一種の日記帳のような役割がある…?」
「隊長。今いいですか?」
赤い髪をした男が小屋に入ってきた。
「ハングか、どうした。」
「野盗です、また懲りずにやってきたみたいだ。」
「そうか、では蹴散らすとしよう。阿求、そこで小鈴を見ていてくれ。」
「わかりました、お気をつけて。」
ガルムは頷くと、ずっと気になっていたが聞き出せなかった、右腕に取り付けてある剣を弄り小屋を出た。
私は小鈴の近くを座り、彼女を見る。
特に消耗してるわけでもなく気を失ってるだけのようだ。
座りながら魔本を見る。あれから一文字も追加されておらず言い様のない不気味さを感じる。
「やはり、その本が私達をここに連れて来たのかしらね。」
声がした方向に振り向く。すると、八雲紫がいた。
「貴女もいたのね。」
「えぇ、不本意ながら。ですが、この本の仕組みが何となく分かったわ。」
「仕組み…?」
「まだ確定ではないけれど…この本は貴女、稗田阿求が体験した事が綴られる。ここまではわかるかしら?」
「そうね、確かに私が体験したことが勝手に綴られている。でもそれが何故異世界に送る力を持っているの?」
「おそらく…それはこの本の役目のようなものでしょう。」
「役目…?」
「これは、『伝説』を綴る本。滅びゆく世界を救う勇者の偉業を書き留める魔本よ。」
「……は?」
読めない、この妖怪は何を言っているのか。
再び本を見る。すると、また新たな一文が綴られていた。