「来たれ!天秤の守り手よ!」
透き通るような若い声をアインツベルン城に響く。白い防寒服のような服を着た彼女はここ、アインツベルン城の城主、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンであった。
時は少し遡る。時代は第五次聖杯戦争の時。ほんの、ほんの10年前だった。イリヤことイリヤスフィールはこの戦いで敗北を喫する。かの大英雄ヘラクレスを以てしても勝利には届かない、そんな激戦であったためだ。
そして、彼女は体の中に聖杯を宿すという残酷な運命を背負っていた。それは現在でも変わりはない。聖杯を宿す
声が響き終わり、包んでいた光が収束する。陣の中心にはあの男が立っていた。かつて正義の味方を志し、その理想に心を摩耗し、時には裏切られ、そして最後には答えを得た、あの男が立っていた。
???side
眩しい…。そろそろ光は消えただろうか。ゆっくりと瞼を開いていく。
そこには、見慣れた風景と、かつて戦った風景が広がっていた。そして目の前の少女に絶句する。しかし、考えてみれば、記憶が正しければ彼女がここに立っていて当然なのだ。
「アー、チャー…?」
目の前の少女、いや、マスターか。
さて、そろそろ言わねばなるまい…。頭に焼き付いて離れない、あの言葉を。
「問おう。あなたが、私のマスターか」
イリヤside
「っ…」
眩しさに目がくらみ、思わず声を漏らしてしまう。そして、光が収束した後、見覚えのあるあの赤い礼装が目に入る。
「アー、チャー…?」
思わず口に出してしまった。そうなのだ。この礼装と顏には見覚えがある。忘れもしない、あの男。この私に敗北の前菜をプレゼントしてくれた男。そして、目の前の男が口を開く。
「問おう。あなたが、私のマスターか」
other side
「え、えぇそうね。『今回は』私がマスターになるわね」
イリヤは戸惑いながら言葉をひねり出す。目の前のサーヴァントは口元を上げ確認の応答をする。
「了解した。『今回も』アーチャーとして限界した」
クッと口元を上げながら言葉を返す。笑わないはずがない。なぜなら彼女は摩耗した記憶の中でも燦然と輝いていた人物でもあるからだ。
そしてこのコンビは些か異色と言える。なんせマスターとサーヴァント共々『聖杯戦争を経験している』のだから。この戦いにおいて、これほどのアドバンテージはない。経験した聖杯戦争から次の一手を考えられるこのコンビは一つ頭が抜けていると言えた。
「さてマスター。一応自己紹介と行こうじゃないか」
本当に懐かしいものを見るような、そんな顔で言葉を紡ぐ。アーチャー自身、聖杯戦争に参加するとは知っていても、イリヤがマスターになるとは思いもしなかったのだ。
「…。そうね。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。一応ここの城主になってるわ」
イリヤとしては些かいい気分ではない。あの聖杯戦争の敗因の一因が、目の前に立っているのだ。それ故に知っている。アーチャーの実力を。
「私は…。クラスは先ほど名乗ったから言わなくてもいいだろう。真名は…、言った方がいいかい?聡明なマスターなら感づいていると思うが」
「えぇ、そうね。確信は持てないままだったけど、形式に乗っ取る形でお願いするわ」
「それは重畳だ。私の名前は----」
---エミヤシロウだ---
エミヤシロウ。あの魔術師殺しの息子にして、その理想を受け継いだ
「でしょうね…」
イリヤは既に知っていたような、そんな声を上げる。彼女の知るエミヤシロウは二人いる。一人は髪は赤茶色で子供のような綺麗な理想主義者である衛宮士郎。そんな彼は誰よりも理想に生き、理想に燃えていたのである。
もう一人は目の前にいる男、アーチャーである。彼は衛宮切継の理想を借り受け、狂人を呼ばれながらも走り抜け果てに英雄という称号を得た男。
そして先の聖杯戦争で彼女は知ってしまった。衛宮士郎とアーチャーの共通点を。だからこそ聞かなくてはならない。
「アーチャー…。あなたの…、聖杯に賭ける願いは…?」
アーチャーと呼ばれる男は身じろぎもせずただ一言だけを述べる。
「救われない者の、救済だ」
こうして、
To be continued
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