「マスター、情報を収集したい」
冬木の郊外、藤原裕の家の、電気が煌々と灯る小さな部屋でアサシンが口を開く。
「そうだな…。そろそろサーヴァントも揃ってきてるだろうし。動かないとヤバそうだ」
アサシン陣営において情報が剣になりえる。闇に紛れ、情報を収集し、悟られることなく敵を葬り去る。これほど衛宮切嗣に合った英雄像はないだろう。
「そういえば…」
アサシンが思い出したように口を開く。
「マスターから供給される魔力が少し少ないようだけど、理由を聞かせてくれるかい?」
これはアサシンが召喚された当初から疑問に感じていた事だった。聖杯戦争に参加する魔術師はどれも一級品の魔術師ばかり。少しの例外を除けば。
「俺は…クォーターの魔術師なんだ。だからそういったサポートは期待しないでくれ」
「そうか…」
裕の祖父は当時に相当の魔力を持っていたが、魔術師のクォーターとなった裕は一般人としては並み以上の魔力だが魔術師としては並み以下だった。そんな裕だからこそ言葉を紡ぐ。
「だからこそ、この戦争に参加したんだよ…」
魔術という物は、一般的に誰にもできない事を起こす事を指す。しかしそれは“魔法”の類だ。本来魔術という物は化学や科学でも再現できるものであり、人の知恵の範囲内の事象である。
裕の家系は錬金術に関わる魔術師だった。その関連で、裕は錬金術について強い興味を持っていた。しかし、自分の実力でも錬金術を起こすことができない。科学でもまだ確立していないというジレンマを抱えていた。
「…マスターの聖杯にかける願いは何だい?お互いの願望をしておこうと思うんだ」
「それはね、アサシン。科学による錬金術の確立だ」
「そうか…。僕はね…。」
―――――正義の味方の手助けをしたいんだ―――――
少し昔話をしよう。
20数年前の事だ。聖杯戦争に選ばれたある男が居た。その男はアインツベルン城に住まう女性と結ばれ、子を成した。そして、聖杯戦争にセイバー陣営として参加した。聖杯にかける願いはシンプルだった。
“戦争の根絶と恒久的平和”
その願いを持つ男は、願いとは別に戦場を生業としていた。「9を生かし1を殺す。天秤の傾かない軽い者から排除していく」そんな機械のような生き方をその男はしていた。
そして、聖杯戦争を最後まで勝ち抜いた。しかし、男は聖杯そのものに絶望し、サーヴァントにある“命令”を下す。
「聖杯を、破壊せよ」
そんな形で聖杯戦争は幕を下ろした。冬木の地に大災害を残しながら。その数年後、その男は生涯を終えた。災害から救い出した一人の子供に、成しえなかった願いを語りながら。
「マスターに伝えておきたいことがある」
次の言葉を考えあぐねている裕にアサシンが言葉を投げかける。
「あの聖杯は…、悪意の泥にまみれているよ…」
「なっ…!」
アサシンの言葉に裕は絶句する。願望を叶える聖杯は純白であるべき、という潜在意識が裕にはあった。それはどの魔術師も同じであろう。
「さてマスター。そろそろ僕の名前を明かそうと思う」
何を思ったか、アサシンは突然そう言葉を紡ぎ真名を言い放つ。
「詳しい人は知っているかもしれないけど僕は衛宮切嗣というんだ」
「申し訳ないけど俺は知らないな…」
アサシンこと切嗣は「まぁそうだろうね」と呟きながらコートを取り出す。
「どこに行くんだ?」
「僕は情報を集めてくるよ」
そう言い残してアサシンは消えていく。場に裕の苦々しい顔と重苦しい空気を残して。
「汚染された聖杯…。そんなこと今更…!」
裕は小さく吠える。やっと掴みかけた夢の端。それが崩れてしまった感覚。しかし裕は考える。なければ作ればいい。壊れているなら直せばいい。もとより錬金術はそのための魔術だ。それで願いが叶うのならやり遂げて見せよう。そう心に決めた裕は手のひらを握り締め、アサシンは銃を握り締める。
to be continued
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