冬木の郊外。そこにはコンテナが設置されており倉庫と呼ばれている。人気はここの倉庫にはなく、ある意味聖杯戦争のルールを元に戦いを行うのにはもってこいの場所であった。
夜の倉庫に立つ赤い外套を纏った人物。彼はただイタズラに魔力を垂れ流していた。まるでそれは、得物をおびき出すハニートラップのように見えた。
「まさか私がこんな事をする羽目になるとはな…。こんな事はアーチャーの本分ではないのだが…」
赤い外套を纏った人物、アーチャーはポツリと愚痴をこぼした。本来アーチャーは、後方にて矢を放ち勝利を狙うサーヴァント。だからこそこんな全方面に正面から喧嘩を吹っ掛けるようなことはアーチャーはしないはずである。
『あなたは例外でしょう』
別の場所に身を置いているイリアは念話にてツッコミを入れてくる。
「ククッ、そうだな」
アーチャーは楽しそうに笑いをこぼし言葉を返す。
「…さて。客人かな」
アーチャーの前に一人の人物が姿を現す。緑の鎧を身に着けた武人。鎧の傷でその武人は歴戦の猛者である事はアーチャーでも分かった。
「さて、赤のサーヴァント。この儂を呼び出したからには、まず名を名乗れ」
(マスター、ここはどうだろう?私は過去に存在しえないサーヴァントだ。真名を名乗っても問題ないと思うのだが?)
アーチャーはマスターに語りかける。アーチャーは自身の言う通り過去には存在しない。ある世界線の未来において存在した英雄だ。この聖杯戦争において真名を出すということは弱点を晒す事に他ならない。それは、過去の歴史においてどのように打倒されたか分かってしまうからである。
だが、アーチャーは違う。未来を生きた英雄なのだから。
『…そうね。見る限り相手は騎士のようだし…。もしかしたら名を返してくれるかもしれないわ』
視覚を共有していたイリアは客人を騎士と判断し、名を晒す事を考えた。ある意味、希望的観測だがアーチャーだからこそできる戦術だった。
「…私の名はエミヤシロウ。今回はアーチャーのクラスとして現界した」
一瞬の静寂。客人として現れた武人は言葉の意味を漸く理解し、言葉を紡ぐ。
「貴様は正気か?真名を晒すなぞ…。しかし…、その心意気気に入ったぞ!」
緑の鎧を着こむ騎士は驚きに目を剥く。当然だ。聖杯戦争というものはいかに弱点を晒さず戦っていくものだからである。しかしこの赤いサーヴァントはさも当然のように真名を告げて見せたのだ。
「(おいランサー!貴様もまさか真名を晒す気ではないだろうな!?)」
エイルマーが念話で割って入ってくる。エイルマーとて酔狂でこの戦争に参加したわけでは無い。勝つべくして参加したのだ。
「(無論そうだが?騎士たる礼儀を以て、名を預けられたのだから名を返すのは当然だ)」
英雄が生きた時代、それは騎士の時代と言えた。戦場に法と理念があり、戦果を挙げ、持ち帰る。そして更なる強き者と戦う、そのような者が多くいた時代であった。
「(…ちっ、どうせ止めても言うんだろう?…これよりマスターより
(御意)
自信に満ちた声が帰ってくる。騎士という人種は自身の負けを想定しない。常にいかようにして勝つか考える。それに例外はない。
「名を預けられたのだから返そうではないか!」
瞬間、一陣の風が吹く。そして武人の手には『槍』が握られていた。
「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!我こそは、かの三国の一角、蜀を治めた劉備殿の一が家臣!関羽雲長である!今回はランサーのクラスとして現界した!」
遠い昔、西暦が三桁だった頃。アジアの中央、中国にて国を三つに分けた長い争乱があった。三国時代、後の歴史家はこう記している。そしてその国の一角、蜀に関羽はいた。蜀の当主を初期から支えた軍神は、遂にサーヴァントとして蘇った。
「ほう…。あの名高き軍神か…。相手にとって不足はない」
アーチャーは目を見張る。目の前に、最強に名を連ねる英雄の一人に会えたのだから。
そして始まる。錬鉄の英雄と歴戦の軍神の決闘が。
「
アーチャーは己の得物を構える。それは長年苦楽を共にし、理想を共有した白と黒の夫婦剣、
「ほう、
「生憎、私には才能が無いのでね。一を極めるより全を修めたのさ」
得物を構えた両者は一気に間合いを詰めようと駆け出す。先制したのはランサー。リーチの長さからそれは当然と言えるが、アーチャーもそれに対応し夫婦剣で弾き返す。そしてアーチャーは間合いを詰めんと前に乗り出し、ランサーは最適な間合いを維持しようとし刃の応酬を繰り返す。
キィィン!
「ぐっ!」
アーチャーの持つ夫婦剣がランサーの少し後方に弾き飛ばされる。槍という物は厄介で、遠心力をうまく使えればとんでもない力を生み出せてしまう。その上相手は槍の達人である。
「チィッ!!」
アーチャーは即座に同じ夫婦剣を作り出し、目の前に突き出された槍を受け流す。そして地面を蹴り後方に飛び退く。
「ほぅ?そんな芸当もできるのか」
「…
「むっ!?」
「…
アーチャーがある呪文を言い終わる直前、夫婦剣をブーメランのようにランサーに投げつける。そして言葉を紡ぎ終わった直後、投げつけた夫婦剣と後方の夫婦剣が爆発した。
「ぐぅぅ!」
ランサーは前後に広がる爆風を致命傷を受けないように体を動かす。
「…中々味な真似をするじゃないか」
爆風によって飛ばされた石によって軽い傷を負ったランサーは目の前の男について考えていた。
「私はその手の達人に、正面から戦うような戦闘狂ではないのでね」
(弓兵と聞いて少し侮っていたが、中々にできる男ではないか…)
そして訪れる静寂。しかしその両者の間合いの間で、花火が散らされている。動けばやられる、そんな共通認識が両者にはあった。
瞬間、倉庫一帯に大きな二つの魔力で包まれる。それは空間を威圧に従えてしまうような、そんな魔力だった。
「…面白い魔力を感じ取ってみれば、楽しそうな宴を開催しているな」
そんな言葉と共に悠然と『馬』に乗り『剣』を携えたサーヴァントが空から下ってきた。誰が見てもそれはライダーと言えるような、そんな風貌だった。そして、ついでとばかりに自己主張を始めたもう一騎のサーヴァントがそこにいた。
「―――▲▲▲――▲▲!!」
理性を失った代わりに強大な力を得たサーヴァント、バーサーカー。彼を支配しているのは戦闘、心の躍るような闘争である。この決闘は、まさにバーサーカーが求めた闘争そのものだった。
「要らん客人が沸いたようだな...、ランサー。それも3騎も」
アーチャーがやれやれといった表情で肩を竦める。
「3騎?新しく来たのは…」
「いるじゃないか…、逃げ隠れしながら気づかれないように剣を揮うサーヴァントが。なぁ、じいさん?」
戦いの場所から離れた倉庫の端の一角。そこには倉庫を見渡せるような建物がそこにはあった。そしてそこに身をひそめる影が一つ。アサシンだった。
(ばれていたか…。魔力のぶつかり合いを感じたものだから見物していたが…)
その手にはスナイパーライフルを構えていた。無機物による殺気は離れていても感知されてしまうようだった。
「―――▲▲▲▲▲▲!」
それまで佇んでいるだけだったバーサーカーがもう待ちきれないとばかりに勝負を仕掛ける。やはり戦いに生きる戦士は、剣を揮うことでしか自己主張ができない。
「むっ!?」
勝負を仕掛けられたのはライダー。瞬間的に狙われた為にライダーはワンテンポ遅れて迎撃に入る。
「この勝負はお預けのようだの、アーチャー」
「そのようだ」
アーチャーとランサーは、短くやり取りを返すとバーサーカーに目を向けた。
鳴り響く金属音。それは先ほどのような誇りを賭けたやり取りではなかった。ただ勢いに任せたその音は、バーサーカーが剣を揮う度に発せられていた。
「えぇい!鬱陶しい!」
ライダーは手に持つ剣を握り直し、バーサーカーの剣を押し返しバーサーカーを吹き飛ばした。吹き飛ばされた先のコンテナは、、大きく凹んでいた。
「聖杯戦争とはこうもゴチャゴチャしているものだったのか…」
ライダーは、吹き飛ばされ動かなくなったバーサーカーを見ながらつぶやいた。少なくとも、この場にいるサーヴァントが、この時ほど心が通い合った事はないだろう。
《お前が言うな!!》
さて、とライダーは一息置いてランサーとアーチャー、そしてもう一人に向けて言葉を紡ぐ。
「余は世界が欲しい!だからこそ、また相まみえるだろう!コソコソ隠れているそこなサーヴァント!顔は知らぬが夜に紛れる貴様はいずれこの余が!成敗してくれる!さらば!」
ライダーはこう言い残して体が消えていく。霊体化、それはサーヴァントなら誰でもできる物であった。そしてほぼ同時にバーサーカーも消えていく。脱落ではなく、同じように霊体化だった。
「どうする?二人になったが…。観客が一人いる状態の決闘でもするか?」
「いや、やめておこう…。観客のいる決闘は時代柄慣れているがのう…。今回は勝手が違いすぎる…」
ランサーは苦笑しつつ、体を霊体化させていく。
「またの、そなたのような英傑は早々脱落はせんだろう」
「あぁ…」
こうしてランサーは完全に姿を消し、戦闘の残り香だけが残った。残ったのはアーチャー一人。そしてそこにいる『誰か』に話しかけるように口を動かす。
「じいさん…。やっぱりオレは…」
そしてゆっくりアーチャーは消えていく。胸にあの理想を再び掲げながら。今ここに、アーチャーことエミヤシロウはようやく聖杯戦争に参加を果たす。
「………」
理想の雛形、アサシンこと衛宮切嗣は倉庫一帯を見ながらたばこを吹かしている。まるで親が子の成長を見るような、そんな目で。
そして次の瞬間に、もうその場には煙草の副流煙と懐かしい匂いだけが残っていた。
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「この世は実にすばらしい!」
薄暗い部屋で白衣のような白い服を身に着け、本を読んでいる男が一人。そこには化学の実験で扱うような、そんな器具が揃っていた。
「我々が開発した技術がここまで発展するとは思いもしなかった!世界は、こんなにも発展欲求に満ちている!」
「おい、その辺にしとけよ?体に毒だぞ」
協力者と思わしき男はコーヒーをすすりながら語りかける。メガネに無精髯。現代の不摂生な研究者の典型と言えそうな、そんな男だった。
「毒?それなら解毒薬を作らなければ…」
「比喩だ鵜呑みするな。しかしこうしてみるとキャスターって柄じゃないよなぁ」
「私はあくまで研究者。知りたいことを突き詰めたらこうなったのですよ」
夜が更けていく中、この研究者たちキャスター陣営は人知れず世の神秘を解明していく。決闘はキャスターが召喚された時点で、世界の神秘を解き明かすことだった。
「さぁ、これから短いこの現世、どうせなら研究し尽くそうではないですか!」
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