英雄志望の白兎は財団に収容されたそうですよ? 作:くまもんち
「フレイヤ様、私です。リリルカ・アーデです」
「......開いてるわ」
扉が開く。
そこには恐ろしい程の美女、いや、美そのものがあった。
しかし、部屋に踏み込んだ少女はその男女問わず魅了する色気に全く動じることなく、女神に言葉をかける。
「進捗は?」
「微妙ね」
「微妙?」
訝しげに少女は首を傾げる。
「えぇ、ベルが少なくともこの世界にいない、ということは確かに分かったわ。でも、その世界に渡る術がないの」
「そんなの神の権能でどうにでもなるんじゃありませんか?」
「......別世界に渡る、という点においてはね。世界というのは無数のあみだくじのようなもの。ありとあらゆる『
喋り疲れたのか傍らの小さなサイドテーブルからワインの入ったグラスを取り、喉に傾ける。
全面ガラス張りの部屋は月の光を惜しみなく取り入れ、グラスと女神の存在感を押し上げる。
それも束の間、リリは口を開く。
「もちろん、諦めたわけではありませんよね」
「当然ね。私は美の女神であり、愛の女神。1度見初めたのなら、たとえどんな手を使うことになっても手に入れて見せるわ」
「それは重畳。では、次の満月の日に」
「待って」
真っ黒なコートを翻らせ、部屋を出ていこうとする彼女に声をかける。
「......Lv3達成おめでとう、リリルカ・アーデ。そして......
「えぇ、ありがとうございます。フレイヤ様。では、おやすみなさい」
ギィ、と軋むように扉が閉められる。
それと同時に部屋の隅から大男出てくる。2mを越そうかというその男は女神の傍に立つ。
「......フレイヤ様、よろしかったので?」
「えぇ、もちろん。ベルを取り戻すには彼女らと、組むのが最善策よ。何かと都合がいいわ。なにか気になることがあるの?オッタル」
「......あのリリルカとかいう者から少し......」
主人の問いかけに正直に応じる。
「......えぇ。彼女はベルがいなくなってから変わった。それも、
魂の色が変わる。それは事実上人格の書き換えに等しい。
輝きが強くなる、鈍くなる。
そんな変化は星の数ほど見てきた彼女だが、色が変わる、というのは初めてだった。
元々リリルカ・アーデというパルゥムの魂は元々確かにお世辞にも綺麗、と言えるものではなかったが、ベルと接触してからは次第にその淀みとも言えるものは消えていった。
―――今までは。
ベルがいなくなり、少し経った時、ふと眼下を眺めたフレイヤは見つけた。見つけてしまった。
深く、黒く、赤く染まる魂を。
まるで心臓のようなおぞましい魂を初めて見たフレイヤは失神した。
人間の悪感情と恋愛感情のポタージュとでも言おうか、濃密なほどに凝縮されたそれらは一種の暴力となって彼女の意識を穿ったのだ。
魂は、己の鏡。
ベルのように純真で気高い意思の持ち主であれば水晶のように透き通り、アイズのように鮮烈な光を放つ魂であれば同じく鮮烈な人生をそれぞれ人々の心に刻むことだろう。
あれは、なんだ。なんなのだ。
リリの魂を、見てから回復して、初めて思ったことだ。
かつてのどんな悪だってこんな色はしていない。
震えが止まらなかった。
思い出すだけでも歯が震え、涙が出そうになる。
しかし、仲間にするのならこれほど頼もしい者はいない。
よって震える体を叱咤して勧誘に行ったのだが思ったよりもあっさり手を組むことができた。
ただ、今でも会うと少し震えそうになる。意思の力で抑えてはいるが。
ただし、その際に設けられた制約が1つ。
『ベル・クラネルへのあらゆる干渉を禁ず』
という制約だ。
もしかしてシルバーバックの件もミノタウロスの件も知られていたのかもしれない。
「......でも、あの子がこの世界に戻って来るのなら」
「......はっ」
「ふふっ、顔に出てるわよ、オッタル」
「!......失礼しました」
「やっぱり、嫉妬してたのね。ふふっ、可愛いわ」
「......」
前にも、こんなやり取りがあった気がする。
まぁ、今は今だろう。
「最悪、リリルカは私の命を狙って来るかもしれないわ」
「......」
「そのときはオッタル......よろしくね?」
「......御意」
満月は既に空高く。
黒薔薇はしばし、この街にて咲き誇るだろう。
―――その時が来るまで。
あ、今更ですがオリ設定注意です。
フレイヤ様はある程度のアルカナムの行使を地上で行っています。
ウラノスへバレないようにたらしこんだ男神を使って隠蔽しつつ、ベルくんがこの世界にいるか的なサーチっぽいやつです。
世界が他にも色々あるというのは並行世界というやつです。
神と信仰が存在する世界線であれば観測ができます。