英雄志望の白兎は財団に収容されたそうですよ?   作:くまもんち

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コロナ期間中ノースティリスで冒険者をやっていましてエーテル病により、6箇所ぐらい装備枠が埋められました。




分岐する未来 その六

「ぷはっ!」

 

妙に聞き覚えのある謎の効果音と共に何故か土管から出てくるベル。

 

「ここは......?」

 

恐る恐る土管から出てきたベルが見たのはこじんまりとしていてみすぼらしい部屋だった。

しかし、妙に豪華な絨毯や鹿の頭の剥製、部屋のサイズに見合って居ないような大きな食卓などもあり部屋の雰囲気と全くマッチしておらず不格好であった。

 

(でも......何故か既視感がある......?)

 

その時、背中からてってってっという足音がした。

その音はこちらも妙に聞き覚えがあって――

 

「神様!って、あっそうか!ここは僕と神様のホームだ!」

 

その足音からヘスティアを連想し、ベルはこの部屋に感じる既視感の理由を突き止めた。

ここまで家具の違いだけで雰囲気が変わるものなのかと苦笑いする。

 

「そう、ここはベルの記憶から作った場所なのー!それで、私が家具とか置いたの!」

 

納得していたベルに背中から声がかかる。どうやら先程の足音の主だろう。とはいえここまで非現実的なことが起こったのと声から推測は出来た。

 

「『小さな魔女』ちゃん......」

 

「そうなの!」

 

そこには自慢げに胸をはる少女がいた。

 

「なんでこのサイトをダンジョンにしたの?」

 

「だって、だいまどうしクレフが私を殺しに来てるんでしょ?だったら身を守るための魔法を使わなくちゃって思ったから」

 

「......」

 

彼女は間違ってない。自分を害そうとするものが現れたならそれに対抗するのは正しい行為だ。......彼女の年齢にしては多少バイオレンスな所があるのはブライト博士の影響だろうか?そんなことを考えていたベルに声がかかる。

 

「でも―――これで安心なの」

 

「えっ?」

 

「だって、私を守ってくれる王子様が来てくれたから!」

 

ちりりと頭の中でノイズが走る。

彼女と初めて会った時と同じだがその時とは比較にならないほどそのノイズ音は大きい。

だが、その音も少しずつ弱くなっていき、最後には消えた。

 

「えーっと......王子様って僕のこと?」

 

「そうなの!」

 

ニコニコとベルに対して満面の笑みを見せる少女。否定も肯定もしがたいそれにどうしようかとベルはかなり悩むことになった。

 

――――――――――――――――――――

 

時は変わり、修羅場。

2人の女?と女がもはや可視化できるほどの火花を散らせている。

そこに黒人ブライトとクレフ博士の姿は既になし。脱兎の如く黒人ブライトがクレフ博士を抱えて逃げていったからだ。

 

「貴様......ベルを『自分のモノ』と言ったな?」

 

「はい、そうですよ。彼は私の物です。財団の理念に法るなら彼を今すぐにでも確保、収容、保護したい所ですが......」

 

ガシャ、と白衣の袖から大量の銃器凶器を覗かせ―――

「死ね」

 

廊下全体に濃密な弾幕をが張られた。この圧倒的物量は防ぎようがないが―――

 

「ああ......やっぱりか」

 

「ええ......凄いですね『神の加護』って」

 

先程まで遮蔽物など何もなかった廊下に分厚い氷の壁が出現している。

アイスヴァインはその後ろから悠々と出てくる。

 

「いつから気づいてました?迫真の演技だったとおもうんですが」

 

「......」

 

答える義理はないと言わんばかりに今度は手榴弾を投げつける。

緩やかな軌道を描いてアイスヴァインの丁度足元へと転がる。

 

「【凍てつき、凍れ】......質問に答えて下さいよ」

 

アイスヴァインは手榴弾を氷で包み込み、爆発と破片の勢いを殺す。

 

「ちっ......なら」

苦虫を噛み潰したような顔で憎々しげに舌を打ち、腰からナイフを引き抜き接近戦を挑む。

 

「へぇ......」

 

対するアイスヴァインも氷の剣を作り出し、構える。

切る弾く切る弾く切る弾く切る弾く切る弾く切る弾く切る。アイスヴァインが防戦一方に思えるその戦いはブライト博士がバックステップで距離をとったことにより一旦休止される。

 

「さんざん大口叩くだけあって多少は技量が感じられますね」

 

「そうかい!死ね!」

 

「いいえ、死ぬのはあなたです」

 

「ッ!!!」

 

アイスヴァインは1歩踏み込みブライト博士に斬撃を叩き込む。

ブライト博士は何とか防ぐも鍔迫り合いになってしまう。こうなると必然的に―――

 

「ハッ!」

 

「ぐうッ!?」

 

筋力値の高い方が競り勝つ。そしてその隙を見逃さずにアイスヴァインの蹴りがブライト博士の脇腹に入る。

ブライト博士は廊下の奥まで吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。カラン、とナイフが手から転がり落ちる音がした。

 

「やはり素晴らしい......この力さえあればベルも......」

 

「ゲホッ......自惚れるなカス。ステイタスを得た程度でベルくんがどうにかなるとでも?」

 

「銃器でしか攻撃出来ないような人に言われたくありませんね。私のスキル『永久凍土』は短文詠唱の魔法―――ってあなたに自慢しても意味ありませんね。ベルに褒めて貰いましょう」

 

ブライト博士の前を悠々と通って『小さな魔女』の収容室に向かう。

もう、大した距離では無い。さっさと済ませてしまおうと1歩踏み出した瞬間―――

 

「―――ッ!?」

 

脳が全力で警鐘を鳴らした。

 

(これは......間違いなくブライト博士!氷の壁......間に合わない!なら......!)

 

「ぐううううううううっ!!!!!」

 

左手に分厚く氷を纏い、防御する。

それでも半ば腕を断たれたが、腕を1本飛ばすよりはマシだ。

 

 

アイスヴァインが背後を見ると先程まで吹き飛ばされていたブライト博士は吹き飛ばされた際に手からこぼれ落ちたナイフの代わりに引き抜いたマチェットを振り抜き、ここ一番の輝くような笑顔で言った。

 

「どうだった?私の迫真の演技は」

 

 

 

 

 




コロナ収束に向かいつつありますね。良かったです。(小学生並感)

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