英雄志望の白兎は財団に収容されたそうですよ?   作:くまもんち

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大変難産でした。

シャイン さん誤字報告ありがとうございました。


転換

「―――魔女ちゃんッ!!」

 

急いで駆け寄ると脈を測る。

 

「......熱っ!」

 

体は酷く熱を帯びていて、呼吸は荒い。

どう考えても尋常ではない。

 

『ベル君!どうした!?』

 

「魔女ちゃんの様子が......!」

 

そのまま彼女の容態を説明すると、思索を巡らすようなブライト博士の声が聞こえる。

 

『■ャ■ーノー■はダンジョンの免疫機構......母胎たるダンジョンから産み出される。しかし、この場合母胎と直接的に繋がっているのは魔女ちゃん......ベル君、質問いいかな?どのタイミングでヤツは現れた?』

 

「僕がやられそうになったときに......クレフ博士の腕を......」

 

『......そういう事か......!そうだとしたらかなりマズイね。急いで私も応援に行く!ベル君、まずは逃げてくれ!』

 

「で、でも!クレフ博士はまだ戦ってます!」

 

『......君の命の方が大切だ』

 

「―――ッ」

 

どうするかなんて決まっている。

このまま逃げればいい。

今戦っているのは敵同士だ。

それに、小さな魔女を助ける、という大義名分もある。

()()()とは違うのだ。

 

(あの時?)

 

胸の内がカッ、と熱くなる。

自分が初めてあの憧憬に出会ったこと、そして、無様を晒し、2度目の宿敵との邂逅でそれを打倒したこと。

 

恐らく、今回に限っては2度目は無い。

 

(どうする?)

 

ここで逃げれば僕は他人を見捨てて、あの怪物から逃げたということになるだろう。

それは、きっと自分を否定することになる

 

気づけば駆け出していた。

 

全部が全部ハッピーエンドで終わるなんて思ってもない。 それはただのエゴだろう。

 

それでも、僕は、ベル・クラネルは

 

―――ハッピーエンド以外は許せないんだっ!!!

 

――――――――――――――――――――

 

(くそっ......マズイな......)

 

もう数十合もしないうちに均衡は崩れるという予感が彼にはあった。

凄まじい勢いで迫る凶刃は容赦なく体幹を削り、隙を晒さんとしてくる。

対抗しようとすれど、元々の体の動体視力とこの体の性能が釣り合っていない。

 

(()()()()()()()()()()()()()......か)

 

元のクレフの体のレベルはレベル1上位ほど、しかし、そこからレベル5に迫る体を手に入れたのだから当然だろう。

そのズレは大きく、ベルとの戦闘は対人戦闘の経験値で誤魔化してきたが、異形との戦闘は慣れていない。

 

ギンッ、と甲高い金属音と共に黒色の大剣が手から吹き飛び、同時に『変身』も解除され、元の姿に戻る。

 

(ここまでか......)

 

疲労から怪物の前に膝をついてしまう。

当然、そんな隙を見逃す訳もなく、振り上げられた大鎌のような刃はクレフ博士の首を吹き飛ば―――

 

「ファイアボルトォ!!!」

 

――さなかった。

炎雷が炸裂する。

が、怪物はよろめきもせず、ギョロリと落窪んだ眼窩をベルに向ける。

「僕が相手だ......!」

 

――――――――――――――――――――

 

あんな啖呵を切ったにも関わらず、僕は今、魔女ちゃんを抱えながらダンジョンを疾走していた。

ただ、勿論無策で逃げてる訳じゃない。

 

(あった!そこ!)

 

壁の一部分からせり出すようにあるレバーを引くと防火シャッターのような物が僕と怪物の間を仕切る。

 

「対SCP用の緊急防壁......!」

 

正直ダンジョン化したこのサイトでどれだけ機能が残っているかは分からなかったから賭けだった。

どれだけ持つかは分からないけど、ある程度は......!

 

「キイィィィッ!!!」

 

「嘘ぉッ!?」

 

バリバリと甲高い鳴き声と共に無常にもシャッターは破られる。

 

(でも......!)

 

次々に防壁を閉めて行く。

勿論、ここではダンジョンのモンスターよりも危険なものを収容しているのだから、当然1枚程度なはずは無い。

次々と閉まっていく防壁に怪物は忌々しそうに目を細めた気がした。

 

最低でも五分は撒けるはず。

その猶予を無駄にせず、さらにスピードを上げてとあるSCPの収容室まで走る。

 

 

「ここっ!」

 

SCP‐914。別名、『ぜんまい仕掛け』。

 

とにかく大きな機械のような物が部屋の幅いっぱいに置かれていた。

 

1度だけ、このSCPの実験を担当したことがあった。

その時はveryfineの設定のみの実験だったけども、僕の想像を遥かに超える物凄いものばかりが出来た。

 

「なら、僕も......!」

 

人が入ったことがある、っていう記述はなかったけど今、魔女ちゃんを救うにはこうするしかない。

そっ、と傍に魔女ちゃんを寝かせ、コートをかける。

一刻を争う状態かもしれない。それに、怪物も迫って来ている。どちらにせよ時間はない。

 

覚悟を決めろ!ベル・クラネル!

 

パネルをveryfineにセット。

入力ブースに入る。

 

「あ、れ?」

 

ぐにゃり、と視界が歪む。

足先から分解されていく感覚。

途方もない不快感と喪失感が同時に襲ってきて頭がおかしくなりそうだ。

 

「あ、はは」

 

僕の意識は断絶した。

――――――――――――――――――――

「......様、ベル様!」

 

「......ぅえ?」

 

「もう、ベル様!どうしたんですか?ぼーっとして?」

 

「んあ......ごめん、リリ」

 

往来のど真ん中でぼーっとしていたらしい。

周りの人から怪訝な目を向けられる。

 

「ベル様ー......こんなので本当に今日のダンジョン探索大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、ちょっとぼーっとしちゃっただけだから!」

 

「もー......危なかっしいですね......ダンジョンではシャキッとしてくださいね?」

 

「もちろん!」

 

なんだかこんなやり取りも()()()()な気もする。訝しげにこちらを見るリリを見ながらそう思う。

 

久しぶり?久しぶりなわけがあるもんか。昨日だって会ったじゃないか。

本格的にまずいかもしれない。

あとで、ミアハ様に見てもらおう。

 

「それじゃ、行きましょうかベル様?」

 

影のない笑顔で彼女はそう言った。

 

――――――――――――――――――――

「......ル!おい、ベル!」

 

「へぁ?」

 

「なんだよ?へぁって?大丈夫かお前?ちゃんと寝れてないのか?」

 

「......最近眠れてないのかも」

 

「おいおい、冒険者は体が資本だぞ?ちゃんと寝ておけよ。大方また本でも読んでたんだろ?」

 

若干呆れ気味にこちらに苦笑する赤髪の鍛冶師。ヴェルフ。

 

かけがえのない頼れる存在となった彼はベルに取って兄のようなものだった。

そんなヴェルフのこちらを気遣う言葉に―――

 

「あれ?」

 

「お、おい!どうした?!」

「え、なんで」

一筋の涙が溢れる。それは静かに頬をつたい、鍛冶場の床に落ち、染みをつくる。

慌てて、ヴェルフは鍛冶師の魂たる金槌を取り落としながらも弟分に何事かと詰めよろうとする。

――――――――――――――――――――

「......ル君!ベールー君!」

 

「......」

 

「どうしちゃったんだい?そんな気の抜けたような顔をして」

 

沈みかける夕焼けを背景に。

見慣れない新たなホームの窓の傍に立つ少女。

 

目の前にいたのは己が主神であった。

 

 




一応、詳細な設定をば......。

ジャガーノート(魔女産)
・速度はほぼ原作と一緒
・サイズは大きめの虎くらい?
・魔法反射は出来ないが魔法99%カット
・脆さも原作
・鎌みたいな爪ではなく、三本の鉤爪に。同時に破壊力も少し減少。
・四足歩行

クレフ博士(アベルver)
・ステータスはLv5相当
・力に振り回されまくるせいで全力は発揮できず
・黒いブレードは本数、及びサイズはある程度自由がきく。不壊属性
・技量だけはオリジナルのアベルと同等

実はオリジナルのアベル君だったらジャガーノートを瞬殺していました。
不意打ち?避ければいいでしょ!
超スピード?見切ればいいでしょ!
魔法防御?物理で殴ればいいでしょ!
終了!って感じで。雑につよい。

SCP-914 http://scp-jp.wikidot.com/scp-914

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