BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/04/30 カリの日

 

 

 

「――それで、あの日以来青葉さんは…」

 

「特に変わりはねぇよ。ただやっぱ何つーか、少し()()()になった感はある。」

 

 

 

すっかりフリーパスのように我が家に出入りする様になった麻弥と件の後輩の件について話し合いながらゲームに勤しむ。…今日の俺は狩人だ。

著しく猫化…若しくは雌猫化を見せたあの夜以降、何処となく様子がおかしくなってしまった青葉についてという議題だったが、如何せん狩りの最中というのは集中力が別の方向に向いているもので。

 

 

 

「あ"ッ!?」

 

「…フヘヘッ、そんな所でお肉食べちゃダメっすよ。」

 

「うっせい、間違えて押しちまったんだ。」

 

「もー…集中しないと狩り友達さんに悪いじゃないっすかぁ…。」

 

「…じゃあ話しかけんじゃねえよ。」

 

 

 

大した趣味も無く毎日無駄な時間を過ごすだけだった俺。それを見兼ねてか、麻弥が半ば強引にプレイさせたのがこのゲームだった。

今では共にco-opプレイに没頭できる知り合いも出来た訳で、一応曲がりなりにも感謝はしているのだが…ハマり過ぎているのもそれはそれで気にくわないようである。意味の分からない女だ。

 

 

 

「…お、狩り失敗っすかぁ。いやぁ残念、残念!」

 

「嬉しそうだな。」

 

「ま、折角訪ねて来たんで。どうせなら構って欲しいじゃないっすか。」

 

「素直ーぅ。」

 

「……そろそろ恥ずかしがってる場合じゃないっすからね。」

 

「…あん??」

 

「な、なんでもないっすぅ!…あっ、ほ、ほら!チャットが来てるっすよ!」

 

 

 

何かを盛大にはぐらかされた気分だが、麻弥の指差す先を見ればオンラインで繋がった狩り仲間――沙綾から"今日は終わりにしよう"といった旨のチャットを受信していた。

時計を見れば午後十五時を回ったところ。成程これから混雑の時間でも迎えるのだろう。パン屋の娘というのも大変だ。

 

 

 

「……ん~~~~っ!…ふぅ。」

 

 

 

電源を落とし、気付かず猫背に固まっていた背中を思い切り伸ばせばまだ明るい外の景色が視界に入ると共に凝り固まっていた肩甲骨がゴキゴキと鈍い音を鳴らす。

その様子にフヘフヘと笑いを零す麻弥には特に触れずに、学習机備え付け回転イスを回し彼女と向き合う形になる。

 

 

 

「…で、青葉の話をしに来たわけじゃないんだろ?」

 

「あー………実は、一つお願いがあって。」

 

 

 

今日の昼間。用事を終わらせた俺がいつも通りにチャットを交わしていたらいきなり食いついたようで。そんな予定も無かったというのに突撃取材の様にウチを訪れたのが昼頃だ。

何が狙いかは聞いていなかったが、急に訪問の予定を入れてくるところはこいつも青葉も似たようなもんだ。

 

 

 

「なんだよ。」

 

「……頭、撫でていいっす…か?」

 

「……………頭湧いてんのか。」

 

「ひっ、酷すぎるっすよぉ!そんな言い方ないじゃ無いっすかぁ!」

 

「だってよぉ……。」

 

 

 

撫でて欲しい、ではなく撫でさせて欲しい、なのか。

生憎と俺はそういったプレイに興味を抱くタイプではないのだが、何処か倒錯しておかしくなってしまったのだろうか。

もし逆の頼みなら喜んで聞いてやれるのだが…。

 

 

 

「…俺がお前を、じゃなくてお前が俺を?」

 

「はい…っす。」

 

「………変わってんなぁ。」

 

「や、今の○○さんなら誰でも撫でたいって思う筈っす。」

 

「やめろよ気持ち悪ぃ。」

 

 

 

元々真面目そうとか波長が合いそうとか思っていた麻弥も、実は隠れ変態だったのかもしれないな。もっと早く踏み絵でもして炙り出しておくんだった。

だがその為だけに態々家まで押しかけてくる根性ないし執念は買おう。…それにまあ、撫でられるだけなら俺が頑張ることも何もなさそうだし、日頃何かと騒がしくしてしまっている(主に青葉が)詫びも兼ねて聞いてやるとするか。

 

 

 

「……だめ……っすかぁ?」

 

「……………マジ、なのか。」

 

「マジもマジ、大マジっす。」

 

「………はあぁぁ。……好きにしろ。」

 

「ま、マジっすかっ!?うわぁい!天使っすぅ!!」

 

 

 

再度椅子を回し背中を向けるや否や、ベッドに降ろしていた腰を勢いよく持ち上げて飛び掛からんばかりに距離を詰める麻弥。狂ってやがる。

…そのまま幾秒か待つが触れてくる気配はなく。…代わりに耳に届いてくるのはゴクリと唾を嚥下する音。

 

 

 

「……おい、何緊張してんだ。」

 

「そ、そりゃぁ!……するっすよ。○○さんに、これから、触れるんすから。」

 

「?…今更だろ?」

 

 

 

言って考えてみるが彼女とこうして直接的なスキンシップを図るのはそう多くないことかもしれない。青葉のせいで感覚が麻痺してしまっているが、通常俺達くらいの年頃の男女はそうそうボディタッチにも走らないだろうし…いやまぁ、俺がその辺全く気にしないからどうでもいいんだけどさ。

その辺彼女はある程度の世の常を反映しているのか、妙に呼吸の荒い彼女は何か重大な決心でもするかのように固まっている。

訪れる静寂。漂う緊張感。やがて――

 

 

 

「え、ええい!!」

 

「っ!!」

 

 

 

ショリ…と、刈りたての後頭部を撫で上げる感触。続けて聞こえる恍惚の声…。

 

 

 

「ほ、ほわぁぁあ……。これは…魔性っす……。」

 

「…………。」

 

「うふふぇへへぇ……チクチクでザラザラっすぅ…。」

 

「…………。」

 

 

 

部屋で二人きり、同級生の異性に髪を撫でられるだけの時間。情景だけならばときめいてしまうようなシーンかも知れないが相手はあの麻弥だ。

今更何を意識することがあろうか。

 

 

 

「……ふ、ふへへへへへぇ……」

 

「満足したか?」

 

「…うぅ、ずっと触って居たい気分ですが…。」

 

「やめろ、禿げる。」

 

「でも、やっぱこの感触は最高っす。○○さんの髪、マジ神っすよ。」

 

「え?」

 

「……何でも無いっす。」

 

「無理があるだろう…。」

 

 

 

散髪したての短い毛。ヤツの狙いはそこにあったらしい。

だから美容室から帰ってきた時のあのチャットに食いついたのか。柄でもなく短く刈り上げたことにより酷くワルさを増した俺の人相を格好いいと言ってのける様なおかしな感性を持つ麻弥だ。"短い髪を触る"ことに興奮を覚える様な特殊性癖だとしても今更驚くまい。

 

 

 

「でもホント、これだけは癖になっちゃってるっす。」

 

「…何ならクラスの男連中の連絡先でも教えてやろうか?運動部の奴等なんて覿面…」

 

「え、エンリョしとくっす!」

 

「……触り放題だぞ?」

 

「ちがっ……そうじゃなくって…そうじゃないんすよぉ…。」

 

「髪質…とかか?」

 

「んぅ……○○さんには一生理解できないだろうからいいっすもん…。」

 

「…そりゃまぁ…。」

 

 

 

俺は変態じゃないし。

 

 

 

「じ、ジブンだって変態じゃないっすぅ!」

 

「はいはい。」

 

「○○さんのじゃないと意味が無いんです…。○○さんの、刈りたての短髪じゃないと嫌なんすよぅ…。」

 

「…んじゃ、俺は常にこの髪型キープしといたほうがいいのか?」

 

「………そういうことじゃ、ないんすよぉ…。」

 

 

 

普段はどちらかといえば長い部類に入る髪型の俺だ。今のような状態はスースーと風が通り抜ける感覚が落ち着かず好ましくは無いが、麻弥がそうして欲しいと言うなら考えなくもない。

それだけ拘りも無いしな。

 

 

 

「…どんな髪型でも、○○さんが好きっす。フヘヘヘ……。」

 

 

 

笑う麻弥。

………ううむ。

 

 

 

「………やっぱ変態なんじゃねえのお前。」

 

「むぅ…!一筋縄じゃ行かないにも程があるっすよ…!?」

 

 

 

また次も刈り上げてやろうか。

 

 

 




ううむ時間が取れない




<今回の設定更新>

○○:普段は後ろで余った髪を結ぶような浪人ヘア。
   愛用の武器は大剣とヘビィなボウガン…らしい。

麻弥:少し焦りを感じているようだが口下手が災いしている。
   刈り上げたての髪の触り心地は確かに良い。分かります。

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