BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【氷川紗夜・奥沢美咲】クレル
2020/01/22 どうしよっか


 

 

 

「俺さ、見ちゃったんだよ。」

 

「……はぁ、またその話ですか。」

 

「そんなに何度も話してないだろ。」

 

「いいえ、今週に入ってもう四度目です。」

 

「いいじゃねえか四回くらい。」

 

「…そのうち三度は今日でしょう?私にはこれ以上何も言えないですし。」

 

「………冷てぇな、紗夜(さよ)ちゃんは。」

 

 

 

放課後、同じ制服を着た生徒たちが群れたりそうでなかったり、形態こそ様々であれ同じ方向…学校から離れるように歩いている時間。

…要は下校時間である。自宅へと歩くのは俺達とて例外ではなく、隣を歩く美人さんはこの学校の風紀委員を務める幼馴染だ。

 

 

 

「…何ですかその珍妙な呼び名は。」

 

「気分を変えてみたんだ。…どうよ?」

 

「うまく言語化できないですが…虫唾が走るとはこんな感じでしょうか。」

 

「辛辣ゥ!」

 

 

 

決して表情を変える事無く淡々と罵倒してくるが別に機嫌が悪い訳では無い。昔からこんな感じ、敢えて言うならクールか。

…まぁ、俺に対しては当たりが強い気もしなくはないが。

 

 

 

「…で、良かったんですか?」

 

「良かったとは。」

 

「その、見ちゃった彼女さんと一緒に帰らなくて。」

 

「っあー…。」

 

 

 

そうだった。その話がしたかったんだ。

俺が見ちゃったと言うのは、今付き合っている彼女…が正体不明の連中と一緒に居るところに行き会ってしまったということで。その重大性をいくら主張したところでこの幼馴染は面倒臭がる一方なのだ。

 

 

 

「…あいつ、今日もさっさと帰っちまってさ。ほら、お前放課後何かと忙しいからさ、待ってると時間合わないんだよな。」

 

「待って欲しいなどと頼んだ覚えはありませんが?」

 

「紗夜くらいしか相談出来る奴がいねえんだ、そこは分かってくれや。」

 

「はぁ……そんな話ならいっそ日菜(ひな)にしてあげたら?あの子なら喜んで飛びつく…」

 

「それだけはダメだ。」

 

 

 

紗夜には双子の妹がいる。訳あって違う学校に通っているが、顔面だけはそこそこ似ている二人だ。

あいつは少し…いやだいぶ変な奴で、面白そうな話(誰かが真剣に悩んでいても)には喜んで飛びつく。野次馬みたいな奴だし、知られて騒がれても面倒だ。

 

 

 

「……そうですか。」

 

「ほんと勘弁してくれな。」

 

「告げ口するつもりはありませんが…そんなに気になるなら本人に訊くべきでは?」

 

「それが訊けるならお前に相談してないんだよなぁ。」

 

「はぁ……相変わらず意気地なしね。」

 

「うっせ。」

 

 

 

人類皆が紗夜みたいにズバズバ斬り込んで行けると思ったら大間違いだ。それなりに深い仲だからこそ、言い出せない事も踏み込めない領域もあるのだと、俺は思っている。

…まぁ、そこが噛み合わなくて紗夜とは上手くいかなかったんだけどさ。

 

 

 

「…あれ、家そっちじゃないだろ。」

 

「今日は練習があるんです。言ってませんでしたか?」

 

「初耳。…ギター持ってねえじゃん。」

 

「今修理中なので。」

 

「ほーん。やんちゃしたのか?珍しい。」

 

「違いますっ!…そ、その、運んでいる最中に…転んでしまって。」

 

「どうせ壊れてないのに気になって出したんだろ、修理。」

 

「分かった風な口を利きますね。」

 

「前にもそんなことがあったろ。…で?正解だったか?」

 

「……何かあってからでは遅いので。」

 

 

 

こいつも相変わらずだ。

紗夜は歳の近い連中とバンドを組んでいる。バンド名は…なんつったか覚えちゃいないが、何とも美人揃いのグループだった。あと何かちっこいガキも居た。

インパクトだけなら十分だろうと思っていたが、大して印象に残っていない辺りその程度だったのかもしれないな。

「それでは」と静かに残し横断歩道で別れる。紗夜が通うスタジオはここから右折し真っ直ぐ行った…少し町はずれの辺りにあるらしく、練習がある時はいつもここでサヨナラだった。

ぼんやりと幼馴染の背中を見送っているうちにこちらも青信号になったようだ。肝心の恋人に何と訊いたものかと頭を悩ませつつ一人帰路を辿るのだった。

 

 

 

**

 

 

 

結局何も動き出せないまま夜を迎え、気を紛らわせる為にと今日の授業の復習を始めた。

もうすぐ期末の試験もあるし、勉学だって気を抜けない。…何せ大変頭の良い幼馴染二人が目を光らせているんだ、万が一中の上くらいの成績を取ろうものならどう糾弾されるか分かったもんじゃない。

 

 

 

「あいつら、どんな頭してやがんだ…」

 

 

 

…と一人愚痴ったところで、件の幼馴染から着信が。サイレントマナーにしていたために少し画面が明るくなっただけのスマホを操作する。都合のいい事に音楽を聴いていたタイミングだったのでハンズフリーでの通話が可能だ。

画面に表示されたアカウント名は「氷川(ひかわ)紗夜」。無料のトークアプリだというのに、あいつらしくもフルネームの本名なんだよな。

 

 

 

「……もしー。」

 

『もしもし、紗夜ですが。』

 

「名乗らんでもわかる。…どした?」

 

『…今、何かしていましたか?』

 

「いんや特には。」

 

『そうですか。』

 

 

 

紗夜が見切り発車で通話を掛けて来るとは珍しい。大概、チャットで都合を窺ってから掛けて来るんだが。

 

 

 

「…何か用か?」

 

『いえ……その…結局、訊けたのですか?』

 

「あー……何もしてない。」

 

『それでいいのですか?貴方は。』

 

「よかねえけどさ…。怖ぇじゃん。」

 

『…私にも分かる感覚で話してください。』

 

 

 

紗夜にも分かる感覚…と言われても、こいつ基本的に怖いもの知らずだからなぁ…。"自分の恋人が謎の黒服軍団と親し気に話していた"のを見てしまった時の気持ちなんか、どう伝えりゃいいんだよ。

 

 

 

「つまりはアレだ。自分の親しい人間がとんでもねえ非現実の中に居たっつーか…。」

 

『…今時黒い服を着た人間なんてそこら中に居るでしょうに。スーツだったのでしょう?』

 

「でもグラサンだぞ?大勢だし。」

 

『要人の警護でもしていたのでは?』

 

「要人の警護中に一般人と駄弁るかねぇ…。」

 

『…………やはりここは、直接訊いてみましょう。』

 

 

 

絶対言うと思った。つか、実際そうしないと事が前に進まないってのも俺自身気づいているんだよな。

ただ、それがきっかけで嫌われたりしないか…そこがちょっと引っ掛かっているだけで。

 

 

 

『…私の、せいですか?』

 

「…んぁ?」

 

『踏み込めないというか、一歩引いてしまっているような気がします。今の貴方は。』

 

「んー……まぁ、紗夜のせいって訳じゃないさ。俺がまだちょっとビビりなだけだ。」

 

『……本当にすみません。』

 

「謝んなよ。終わったことだ。」

 

『いえ、でも…今では日菜との仲も修復できましたし、貴方には感謝しているのですが…やはりあの件についてはまだ整理が追い付ていないというか。』

 

「いーっての。」

 

『いつかきっと、素直に謝罪出来たら、撤回出来たら…そう思っていたのですが。』

 

「……あー、うん、俺ってば不思議とモテちゃうからなぁ。」

 

『直ぐでしたもんね…お付き合いしだしたの。』

 

「節操ないとか思ってるだろ?」

 

『………。』

 

「何とか言ってくれよ…。」

 

『無言は肯定…って言うじゃありませんか。』

 

「はいはい、すまんかったよ。」

 

 

 

そんなに手が早い訳では無いのだが。…不思議と恋人が切れないんだよなぁ。

 

 

 

『ふふっ……貴方は魅力的だから、多少は目を瞑ってあげます。』

 

「そりゃどーも。」

 

『でも、時には勇気を出すことも必要ですよ?』

 

「……。」

 

『大丈夫。もしまた嫌われたら、今度は私が慰めてあげますから。』

 

「言うじゃん。」

 

『…幼馴染、ですから。』

 

 

 

機嫌よさそうな声で話してはいるが、きっと電話の向こうではスンとした表情なんだろう。…ま、もしもの場合の保険も掛かってそうだし、腹を括ってみるかな。

電話口で感謝を告げて、そのまま通話を終了する。この気持ちが折れないうちに行動を起こしてしまわねば。

…夜も遅いしチャットでいいか。

 

 

 

「…「君、俺に隠してること無いかい?」…っと。…このスタンプも使っちまおう。」

 

 

 

ピンクのクマが首を傾げているスタンプもつけておいた。おちょくっている様に映るだろうか。一歳とは言え年下は未だによく分からないからな。

どうやらこのキャラクター、俺が良く行く商店街の非公式マスコットキャラクターらしいが…スタンプも発売されていたり、飽く迄"非公式"と強調されていたり謎の多い存在だったりする。

 

 

 

「…さて、どう返って来るかな。」

 

 

 

君は一体、どんな秘密を抱えているっていうんだ。美咲(みさき)

 

 

 




新シリーズ、紗夜・美咲編になります。




<今回の設定>

○○:高校二年生。まーモテる方。
   氷川姉妹とは幼馴染にあたり、通う学校の関係もあり紗夜と仲が良い。
   モテる癖に異性があまり得意じゃなく、男友達も少ない。
   それなりに真面目だが、あまり人に関わろうとしない。

紗夜:高校二年生。風紀委員を務めるクールなお姉さん。
   Roselia結成済みで、基本的には暇さえあれば練習に打ち込んでいる。
   日菜とはいざこざがあったが主人公の仲裁もあり解決。
   今ではすっかり妹に甘えられるお姉ちゃんになった。
   モテる方だが持ち前の鉄仮面で全てをバリア。
   花粉症持ち。

美咲:高校一年生。
   まだ登場していないが主人公の恋人。
   何やら謎の黒服連中と交流があるようだが…?
   同性異性問わずそこそこの人脈の中に居るが、不思議と主人公に
   惹かれ交際を申し込んだ。謎が多い。

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