BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「そ……それは、正真正銘、実際に起きたこと…っすか??」
麻弥が妙に悪い顔色のまま、フレームを新しくしたとか言う眼鏡をクイとずらす。
「……うななぁん。事件の香りですなぁ。」
青葉も同様に、神妙そうな雰囲気を装いつつ俺の太腿に乗せた頭をグリグリと押し付ける。
「別に……生きてりゃ一度や二度くらい、あるもんだろ。」
「や、○○さんに限ってそれは……嵐の予感とか、するでしょう?」
「しねえ。」
「うなー。せんぱいはかわりもの…。」
「お前に言われたかぁない。」
「うなぁん。」
青葉の顎下をごろごろやりながら考える。
……愛の告白とやらを、この俺がされるとは。
**
「で?」
すっかり見慣れてしまったこの光景。俺の部屋に居座る同級生と後輩。
中でも人見知り全開だった当初と比べ、慣れっぷりが異常な麻弥は勉強机備え付けのキャスター付きチェアに背凭れを抱き込む様に座り、何とも雑な質問を飛ばしてくる。
「「で?」じゃないが。」
「気になるっすよ。一体どこの酔狂な女に目を付けられたんすか?」
「口悪ぃなオイ…。」
相手は隣のクラスの妙にギャルギャルしい女生徒だった。毎日ちゃんとメイクをして、さりげないヘアアレンジで気分を表現して。
合同授業の時にやたら話しかけられると思ったらついに今日……そう言う事になったってワケだ。
「ふむ……ふむふむ。隣のクラスでギャルっていうと…」
「……知ってんのか?」
「リサさんっすよね。
「ああ。確かそんな苗字だった。」
「どうして告白してきた相手の名前すらあやふやなんすか…?」
仕方ない。名前しか聞いていなかったし、その告白の際に初めてフルネームの様な物を名乗ったのだから。
正直何の感情も抱いていない相手だったために、こうして返答を持ち帰ってしまったのだ。
にしても麻弥、食いつきが異常だぞ。
「まあ色々あんだよ。」
「リサさんっていうとー、スタイルもいいし面倒見もいいしー……。せんぱいには勿体ないくらいのモテさんだよねぇー。」
「お前も知ってんのか。」
「うなー。アルバイトが一緒なのー。」
「……アルバイト、してたのか。」
どうにもまだまだ知らないことだらけな後輩だ。どうやらアルバイトをしているらしい青葉の話によると、リサは学校近くのコンビニで働いているとか。
選ぶお菓子のセンスが良いとかいうどうでもいい情報は聞き流しつつ、こうなってしまった原因を探る。
「そもそも、○○さんの何処が良かったんすかねぇ?」
「奇遇だな。俺も同じこと考えてたよ。」
「○○さんって、口も悪いし人相も悪いし、おまけに空気も読めなくて最悪じゃ無いっすか。ないない尽くしでデフレスパイラルっすよ。」
「てめぇ、口縫い付けてやろうか。」
「そういうところっす。」
「こういうところか。」
麻弥の疑問も尤もで、友人の一人もできない辺り俺の人間性というのは地に近い所にあるらしい。特にこれといって何かをやらかした経歴は無いのだが、一番近くで毎日過ごしている彼女が言うのだから…多分そういう事なんだろう。
はて、ではそんな人間の何処に惹かれたというのか、あの女生徒は。
「せんぱぁい。」
「?」
「せんぱいはぁ、リサさんのこと好きぃ?」
「いや。」
「振っちゃうのぉ?」
「んー…。」
好きか嫌いかと言われたら嫌いではない。では好きかと訊かれたら…。
兎に角接点が碌に無いのだ。好感度の気配さえ見えていなかったというのに。
「どうしようか。」
「うなぁ。ゆーじゅーふだん…。」
「この手の問題は先延ばしにしても誰も幸せになれないって言うしな。……いっそ一思いに振ってしまうか、或いは――」
知らないのなら、知ってみてから考えればいい。
まずは友人として。そして次第に深まった関係を次の段階と呼称するかどうか……そこで再度迷えばいい。そうも思った。が。
「「だめ!!」」
「っ!?」
声を揃えて制止の様を見せる二人。やはり半端な気持ちのまま容易に関係を持つべきでは無いという事か。
言い終えてから「しまった」というような顔をする二人。確かにこれは、俺自身が判断しなければいけない問題。
初めて直面する選択肢とて、乗り越えず背を向けるのはあまりに無様すぎる。
「ちょ、「だめ」ってなんすか、青葉さん。」
「麻弥せんぱいも言ったくせにぃ。」
「あれは……だ、だって、考えてもみてくださいよ!○○さんが、リサさんとっすよ!?」
「うな。つりあわにゃい。」
「ですよね!!だからその……そ、そう!○○さんが笑いものにならないように、先手を打ってあげないと……」
「うなうなぁ。せんぱいは地味地味のジミーさんですからなぁ。」
「そっすよ!私服の一つも自分で買ったことないなんて、今時ダメダメっす!!」
「うなぁ。ちなみに今着てる部屋着は、前にモカちゃんがぷれぜんとしたやつです。」
「んな…ッ!?」
論点がずれすぎちゃいないだろうか。
いやいや、確かに釣り合わないとは俺も思う。ドッキリか罰ゲームかとも思ったくらいだ。だがあの表情、あの挙動不審っぷりは、たまに授業で見掛ける彼女とは確かに違っていたし。
「ぷ、ぷれ、ぷれぜんと……??」
「うなぁ。誕生日プレゼントにぃ、何が欲しいですかーって訊いてぇ…。」
「……答えたんすか!?○○さんがぁ!?」
「うみゅ……その時モカちゃんが着てた服、肌触りがいいねって言われてー。」
「……お、え、あ、まさか??」
「にひ。おそろっち。」
「ぬぁあああ!!」
騒がしい二人を放り、スマホを取り出す。確か電話番号も渡されていた筈だ。
一先ず何も分かっちゃいないが、告白の真偽だけでも確かめてみよう……そう思った。
数コールの後、声が聞こえてくる。
『もしもーし。今井ですー。』
「……ああ、ええと……○○、だけど。」
『……………。』
「………。」
『……エェッ、アィッ、○○くん!?』
「ああ……。その、大丈夫…か?」
数秒の間の後、ドスンバタンと暴れる様な音共に裏返り気味の声が聞こえる。忙しかっただろうか。せめてこれから電話を掛ける旨だけでも伝えられたらよかった。
『……ご、ごめんね?今ちょっと、ばたばたしてて…』
「忙しいなら、後でまたかけ直すが…」
『い、いいの!全然大丈夫だからさっ!!』
「…………昼間のこと、だが…」
大丈夫だというのだから続けてしまおう。
「本気、なのか?……その、俺を好きだとか、付き合って欲しいとかいう――」
『……あ、あははー…急に、迷惑だった…よね?』
「迷惑…いや迷惑とかではないが。……関りも殆どないだろ?俺達。」
『うん……でもその、色んな話、モカからも聞いててさ。……遠目で見てる分には、格好いいし…』
「……青葉が?」
つい訊き返してしまったが。
名前を呼ばれたと思ったのだろうか。ベッドの上でキャットファイトを繰り広げていた二人がピタリと手を止め、ことに青葉の方が首を伸ばしてこちらを窺っていた。
別に呼んじゃいねえ。
「うな、せんぱい、お電話中??」
「……ああ。リサに――」
言うや否や。
「にゃああああ!!!!ま、麻弥せんぱい!!とめないと!!」
「そ、そっすね!!うぉぉおお!!!!」
跳ね起きる青葉と猛進する麻弥。ラガーマンよろしく突っ込んできた麻弥の勢いのままに、さして抵抗するでもなく押し倒されるようにスマホを奪われてしまった。
この間ほんの二秒。常人なら何が起きたかも認識できないだろうね。
「おいこら、何する…っ!?」
「だ、だめっす!!だめだめ!!!通話終了っすぅ!!!」
「お、おい馬鹿…!」
手際よく通話終了の赤いボタンをタップし、沈黙した愛機は青葉の元に投げられる。
「ふぅ~、ききいっぱつですなぁ。」
「何が何だか……」
「と、とにかくだめっすよ!!そんな……そう!これは、女の子にとってとってもナイーブな問題なんすから、○○さんみたいな糞朴念仁が無策で電話かけるなんてあっちゃいけないことっす!!」
「うなぁ。麻弥せんぱいのいうとおり~。」
「何だってんだ……」
……リサと仲良くなると都合でも悪いってのか?
いやまあ、仲良くなるかどうかも分からんが。
特に意味はない…?
<今回の設定更新>
○○:いいところがまるでないと有名。
が、二人の懐き様もまた校内では有名である。
麻弥:最近容赦がなくなってきた。
モカ:うななぁ。
リサ:物好き。